episode2〜これはお茶会?〜
初めて続きの投稿です。どうか寛大なお心で読んで下さい。
こうして、月日はあっという間に過ぎた。
前世の記憶を思い出してから早二年。
カヌアは十三歳となり、少しずつレディーへの階段を華麗にステップアップしていた。
(こんなの聞いてないっ… )
…… そう、嘘である。
決して華麗とは言えぬその道は、過酷そのものであった。
そして今、彼女はある広場で、優雅に見えるように頑張っていた。
その震える手を堪えながら、紅茶を嗜んでいるフリをしていた。
その周りでは令嬢達の上品な笑い声や、紳士達との話し声が、会場に花を咲かせている。
「あぁ。今日はなんて良い天気なのでしょう。皆さんとこうして美味しい紅茶を飲みながら、お話できてとても光栄ですわ」
これも嘘である。
カヌアはその顔面に嘘だらけの笑顔を貼り付け、王室主催のお茶会に参加していた。
(私は今… 何故ここにいる? そうね、そうでもない限り、このフリッフリのウサギでも飼ってるんか? って思う程のブリブリオレンジ色のドレスを纏って、紅茶は飲んでいない。きっと明日の朝には、全顔面の筋肉が悲鳴をあげているんだわ。あぁ、既に顔面の痙攣が起き始めてる気がする… )
カヌアは悶々と、今の自身の状況を読み取っていた。
これでも一応、令嬢ではあるカヌア。
何度かお茶会には、出席したことはあった。
ただ、今回だけは違った。
世間でいう御令嬢同士数人でのお茶会ではなく、殿方含む大所帯のお茶会であったのだ。
むしろパーティーになるのではないか?
はたまた合コンとも呼べるのでは?
そして奥の方には、王族らしき高貴なお方も見えた。
(あぁ、だからエミリアが早朝からあんなに… )
カヌアは、今朝の事を思い出した。
今朝、使用人の一人であるエミリアが、気合い十分にカヌアを仕上げてくれたのだ。
カヌア自身にとっては、それはそれは血反吐を吐く思いであった。
何故ならカヌアが、フリフリドレスを着るのをとてつもなく嫌がったためである。
イヤイヤ期の幼児くらい嫌がった。
(あぁ、あの紳士様達みたいな格好めっちゃしたい… 楽だろうな… 馬にも乗りやすそうだし)
そう思っていると、つい口にしてしまっていた。
「お馬に乗りたいな… 」
「え? 乗馬をお嗜みに?」
隣にいた令嬢が、その言葉に反応した。
綿毛が驚いている。
「え? あ、いえ、その、もし乗れたらこんな良い天気の日は、きっと気持ちいいだろうな? と。うふふふふふふ」
彼女は動揺すると、笑い方が独特になる傾向があった。
誤魔化せていると本人は思っている。
(ヤバ、口から漏れてた)
御令嬢… というか、この世界の女子はあまり馬には乗ることはないらしい。
殿方と相馬ならともかく、一人で足を広げて乗る行為はあまり好まれない。
(隠してたのに… ほんとは乗馬得意です… とは口が耳と繋がっても言えないわ)
カヌアは、自分の本心をひた隠しにしている。
反応してきた御令嬢はまさしく、ザ・お嬢様だ。
彼女の綿毛ちゃんも、ほわほわにこにこで可愛い。
(お茶会に集中しなきゃ!)
すると、ほんわか令嬢ちゃんが、そっと耳元に顔を近づけてきた。
「わたくし先程小耳に挟んだのですが、このお茶会の本来の目的は、殿下の将来の花嫁を探すというものらしいですよ」
「ほほほぅ」
思わず爺さんみたいな言葉が漏れるカヌア。
(なるほど、だからこんなに皆様の気合いが違うのか。私の格好も然りだが… )
カヌアはこの二年、これでもか! ってくらい勉学に励んだ。
そう、ガリ勉カヌアとして。
国の歴史を学び、地理を学び、経済学も学んだ。
それこそ本当に、血を吐く思いで。
この国はアルデリア王国という、周りに四つの国を従えているとてつもなく大きな国である。
そしてこのアルデリア王国に、王子は一人しかいない。
そんな国の王子の嫁、つまり将来の王太子妃候補に選ばれる可能性がある茶会。
(そんな事になるのなら必死になるのもわかる。いや、わからないな。大変だろうというのはわかる。私には到底無理だ)
カヌアは、端からそんな気はない。
何故ならカヌアはこの二年、通常教育のそれに加え、御令嬢としての礼儀作法、ダンス、身のこなしなどの教育でさえ、手がいっぱい、頭がいっぱいリミッター爆発状態であったのだから。
しかし、これでも足りないぐらいだ。
そして、これが本当に地獄であった。
(んもうっ! 家庭教師の先生が般若!! 悪魔! 魔王! 厳しくて怖くて… でも… 家族は皆優しいし、イケメンだし、ご飯も美味いんだよなぁ)
余計な事をも考え始めた。
そして、分かったことがもう一つ。
あの綿毛妖精は、カヌアにしか視えていないという。
というか、他にも視えてる人には会ったことないというだけなのだが。
人が抱いてるその場の感情が連携して、カヌアには視えているようなのである。
そして更に、衝撃的な事実が発覚した。
この綿毛ちゃん、いや、実際には綿毛ですらなかったのだ。
よーく見ると、もふもふの毛糸のパンツを履いた…
小さい爺さんだったのだ。
そう、綿毛ではなかった。
しかもよく冬のある特定の日に、トナカイと共にやって来る赤帽子のあの爺さんに似ていた。
白髭と白髪も相まって、更に綿毛に視えたのだろう。
しかもとっても恥ずかしがり屋らしく、後ろ向きで姿を現してくるというなんとも不思議な妖精である。
カヌアはそんな彼に、愛情満載な名を付けた。
‘フラフィー’ と。
(可愛い… あぁ情が湧いちまう)
でも、普段は綿毛に視えるフラフィーも、たまにそっと爺さんの顔を覗かす。
彼女はまだ笑いを堪えるのに必死なので、早く慣れなければならなかった。
ただ、カヌアにはフラフィーが視えてしまう能力のせいで困ったことがあった。
そう、今日の様な大人数が集まる場所である。
人数が多い分、それ以上にフラフィーもわんさか視える。
そして、人の入り混じったあらゆる感情で酔ってしまうのだ。
(これも慣れなんだろうな… とりあえず、今日のお茶会、何事もない様に穏和に過ごして、こなして、私めは早々に帰宅したい所存でございます)
カヌアはそう思いながら、遠くの水辺を見つめた。
ここまで読んでくださってありがとうございました!
引き継ぎ書いていきます。何かお気づきの点があればコメントよろしくお願いします。