episode17〜乗馬〜
初連載の続きです。なんとか毎日投稿出来てます。ゆるく読んでいただければと思います。
そして、その日がやって来た。
朝食を食べ終わると、カヌアは馬小屋に向かった。
今日の愛馬のコンディションを見るためである。
「う〜ん、かわい子ちゃんかわい子ちゃ〜ん」
カヌアは、馬の前だと若干気持ち悪くなる。
「今日はよろしくねぇ。たくさんお友達が来るのよ〜。あ、かわい子ちゃんにかわい子ちゃんを乗せて〜」
よだれが出ている。
「おはようございます。カヌア様。本日はとても天気が良く乗馬にはピッ… よだれを召してますよ?」
君、教えてくれてありがとう。
カヌアはえ? という顔をして拭き取る。
「おはようログ。今日はヴェガの調子が良さそうね!」
そこに入って来たのは、厩番のログであった。
「はい。食欲もあり、毛並みも良いですね!」
そう話しながら、訪問者を待っていた。
すると、何処からともなく、可愛らしい声が聞こえてきた。
カヌアが門の方を見に、姿を現す。
「カヌアさまぁぁぁー」
(ギャーーーーー天使ーーーーーっ!)
ロザリーだ。
カヌアが受け身体勢に入ろうと手を開いたその時、勢い余ったのかロザリーが盛大に転んだ。
「うっ… いっ、痛っ、ぅぅうわぁぁぁぁぁぁん!」
「ロザリィ! 」
カヌアが駆け寄ろうとしたその時、その後ろから麗しい男性がヒョイっとロザリーを持ち上げ抱っこした。
特に顔はスマイルしてはいなかったが、彼を見た世の女性達は皆頬を赤く染めるであろう。
助けてもらったロザリーが、目をキラキラさせて言う。
「王子様みたい… 」
バリバリの王子である。
だがロザリーは、この事実を未だ知らない。
両親は火事の後、使いの者から聞かされ、大いに驚いていたという。
そう、カヌアの身辺調査をしていた彼の従者から。
「ウィルテンダー様! 娘がすみません! お召し物が!」
「構わん。怪我はないか?」
(意外と子供に優しいんだな)
「はい… その、ありがとうございます」
頬をほんのり赤らめて、お礼を言っている小さな姫。
(王子は女性には興味がないのに… 幼女ならいけるのか?)
カヌアには、危ない考えが浮かんでいた。
すると今度は彼らの後ろから、本物のお姫様ことニーナ王女がやっ…
ゴンッ!
鈍い音で盛大に転んだ。
(デジャヴ… )
泣きはしないものの、恥ずかしすぎて起き上がれないご様子。
すると今度は、すぐ後ろに控えていた銀髪の美しき従者が王女の両脇を持ち、軽々しく起こしてあげた。
(デジャヴだ)
するとニーナ王女は、更に顔が真っ赤になっていた。
「姫様? お怪我はございませんか?」
「はい……… 大丈夫です。ありがとう」
(んん?)
キャーーというような様子で、カヌアの方に素早く駆け寄ってきたニーナ。
そして両手で顔を覆い、その胸に飛び込んできた。
(おっと? これはもしかしてひょっとすると? え? 何? そうなの? そういうこと?)
カヌアは胸を躍らせた。
するとそれを見ていた小さな姫も、駆け寄って飛び込んできた。
(あぁぁ、至福〜両手に華やぁ〜)
それを見つめるウィル。
(俺も… )
「一緒に飛び込みたい。羨ましい。彼女を先に見つけたのはこの俺なのに。絶対に… 痛っ… 」
「おい… 勝手に言葉をあてるな」
ウィルの耳元でアテレコしていたカブラの足が、御身の靴の下敷きになっていた。
「ウィル様の心情が一番わかっているのは、この私でござ… 痛い… 」
足に更に重力がかかった。
そんなウィルの気も知らずに、カヌアはやっと彼に近づいた。
「ウィル様、ごきげんよう。本日はお日柄もよく、最っ高の乗馬日和ですねっ!」
本人が思ってる以上に、とびきりのキラキラ笑顔をウィルに見せてしまっていたカヌア。
姫達の行動が、彼女をそうさせたのである。
そんな笑顔を見て、胸が高鳴るのを抑えるのは難しかった。
(あぁこの笑顔のためなら死ねる)
ウィルの愛は重かった。
今にでも抱きしめたい気持ちを自制した。
「そうだな。では、行くか。あの丘までで良いか?」
「はい! トゥバンの丘まで参りましょう!」
そう言うと、馬に乗り始める準備をした。
カヌアは前にニーナを乗せ、ウィルはロザリーを前に乗せて出発した。
馬に乗っている途中で、カヌアは少しコソコソ話をしてみた。
女子トークだ。
「あぁ、カヌア様とっても気持ちがいいですね! だけどお馬さん、二人も乗せて重たくないかしら?」
(心が綺麗すぎるよぅ。フラフィーもそう思っているし、世界中の皆がそうだったら良いのに)
「ニーナ様、ご心配ありがとうございます。でもこの子、とっても丈夫なんですよ! ヴェガって言うんですけど、人が大好きなんです。だから今も喜んでますよ」
それを聞いたニーナは、太陽のような顔でとても楽しそうに笑う。
「ところでニーナ様、先程少し気になったのですが… カブラ様とは… 」
カヌアはいつからのお知り合いかを、聞こうと思っただけなのだが、異常に反応したニーナが、動揺して馬から落ちそうになったのでやめた。
(この話は、もう少し落ち着いたところでしよう)
そう誓った。
この三年で二人はだいぶ距離が縮まり、カヌア様と愛称で呼ぶようになっていた。
ふと前にいるウィル達を見ると、あちらはあちらで楽しそうだ。
ウィルの愛馬は、艶のいい黒い毛並みをしていた。
その上には、一人の王子と一人の乙女が乗っていた。
それはもう、キラキラの目をした八歳の乙女だ。
ウィルはというと、無表情で手綱を引いていた。
「アル、少しスピードを落としてくれないか?」
そう愛馬に言うと、頭が良いのか素直に言う事を聞いた。
「ロザリー、辛くないか?」
ツンデレ王子炸裂だ。
カヌア以外には、幼女だろうがあまり笑顔は見せない。
丘に着くと、見晴らしのいい場所まで移動した。
馬達は少し休ませるために、自由にしていた。
遠くの方に海が見える。
カヌアは大きく息を吸い込むと深呼吸をした。
心地よい風がカヌアの髪をなびく。
太陽の光が照らす横顔を見て、ウィルは言った。
「素晴らしい景色だ」
ウィルの見ているその景色とは、丘二割、カヌア八割であった。
「えぇ、本当に。ここに来ると、いつも心が落ち着いて、胸が晴れます。夜は夜でまたとても素晴らしいんですよ! 空一面に無数の星が… 」
そう言いながら、カヌアは空を仰いだ。
ウィルも一緒に空を見る。
「そうか。それは是非見たいものだな。そうだな、今度は二人で… 」
いない。
既にカヌアは愛でるために、ロザリーの方へ走っていた。
(クッ、目を離すんじゃなかった!)
彼は、一瞬でも空を見た自分を責めた。
そんな不器用なウィルを哀れに、見つめる妹と従者がいた。
いつか二人きりで夜空を眺める、そんなロマンティックな状況がくることを願う。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
突っ走って書いているので、何かお気づきの点があればコメントの方よろしくお願いします。