episode16〜殿下改め〜
初連載の続きです。なんとか毎日投稿出来てます。ゆるく読んでいただければと思います。
「んーーーーーーっ! あーっ! ふぃー」
丘の上で独特な発声をしながら、背伸びをしている人物。
そう我らが、主人公カヌアである。
「気ぃー持ちぃぃー」
久しぶりの遠出の乗馬を、朝早く満喫していたのだ。
しかし、ふと昨日の事を思い出す。
(陛下への挨拶はやらかしたけど、ダンスも上手くいったし。うん! 楽しかった! すごい経験したなぁ)
「………… 」
そして、更に思い出す。
(昨日のウィル様、やっぱおかしかった… あ! もしかして酔ってたのか! は〜ん、だからかぁ)
お決まりの勘違いを放っていた。
あの後ソファーに座ったまま、気まずい気分で迎えが来るのを待ったカヌア。
帰りもウィルにエスコートしてもらい、馬車へと向かった。
… のは良かったが、馬車の中でも手を握られたままだった。
(まだ感触が… )
そう思いまがら、自分の手をジーと見つめた。
屋敷に着いた際に、咄嗟にその手を離してしまったカヌア。
(あの時のウィル様の表情は… なんだったんだ?)
「う〜ん、まっでもそれも昨日までで、終ーわり! ありがとうウィル様ー! お疲れ私ー!」
「どういたしまして」
終わらなかった。
顔のパーツ全てをその場に置いてきてしまう勢いで、首をグルンと回し振り向いたカヌア。
目の前には、麗しの王子が立っていた。
(えっ!? やだっストーカー???)
「あ! えっと、ウィル様? おはようございます。… なぜこちらに?」
「おはよう。少しばかり朝の散歩をと思い、馬を走らせてたら、 ’偶然’ 其方を見かけてな」
ウィルは、笑みが溢れ出ている。
(ここまで、だいぶ距離ありますけど?)
そう、今いるこのトゥバンの丘は、ミザールから更に東に位置している。
よって、ここに来るには城から広い王都を抜け、更にミザールの街を越えなければならない。
なかなかの距離である。
「 ’少しばかり’ の散歩にしては随分遠出なさるのですね?」
「そうか? 馬と一緒ならこんなもんであろう?」
カヌアがいれば、どこまでも状態のウィルである。
(この人フラフィーが付いていないから、本音がわからないんだよな… )
そして、もちろん偶然ではない。
必然である。
最近の彼の従者達は、忙しかった。
カヌアの身辺調査などの行動を調べているからだ。
今日も早朝からカヌアの行動を把握していた。
そう、ウィルはまさにストーカーへの道に足を踏み入れていたのである。
従者としては、仕事が増えたので困ったものだ。
先程から様子を見ていた側近カブラも、少し困惑気味である。
(ウィル様、気持ちを解放してからかっ飛ばしてるな。しかし、肝心な人にちゃんと届いてなければ意味ありませんよ? だが彼女には逆にやり過ぎるくらいが、ちょうどいいのか? いやでも引かれたら… )
悶々と考えを巡らせていた。
昨夜、ウィルは迎えを待ちながらカヌアと寄り添い、ソファーに座っていた。
そのことがとても幸せだったので、つい延長し屋敷に着くまで手を離さなかったのだ。
もちろん酔ってなどはいなかった。
そして今朝、いや早朝… もっと言うと、一睡もできなかったので、夜中の間中ずっと考えていた。
夜が明けたら会いに行こうと。
そして… 今に至る。
「カヌアならわかってくれるな?」
(ワカリマセン)
カヌアは少しずつ冷たく… いや、少しずつ素が出てきていた。
「うふ、ふふふふふふふふふ」
目が笑っていないことに、ウィルは気づきもしない。
そして、本来の目的である話題を振った。
「そうそう! 例の火事で救ったロザリーと言う幼子がいたろう? 今度乗馬を嗜むようだな?」
(なぜそれを?)
「そういえば、ニーナもカヌアと乗馬をやりたがっていてな。だが二人ともほぼ初心者であろう? 二人を教えるのは大変だし、俺もニーナの付き添いとしてその… 一緒に行った方がいいんじゃないかと… 」
少し視線を逸らすウィル。
遠回りな言い方である。
側で見ていたカブラは思う。
(素直に言えばいいのに、あれじゃ… )
「はい! そうですね! 皆様と乗った方が絶対楽しいですものね!」
(あ、すんなり承諾しましたね)
カヌアは、何にも気にならなかった。
それより、久しぶりのニーナにロザリーという愛らしい子猫ちゃん達に会えると思い、話に飛びついていた。
ウィルはというと、言わずもがなとても明るい表情をしていた。
「そうか! それは良かった。それでは後日、日時を決めてまた連絡する」
ウィルは満足そうに言うと、馬の方に向かおうと踵を返した。
すると、腕をグィッと引かれる感触があった。
その瞬間、心地よい声がウィルの耳元で囁かれた。
「あの、今の私の瞳は何色ですか?」
カヌアが不意を突いて、聞いて来たのだ。
これにはウィルも驚いたようで顔が真っ赤に、それはもう真っ赤っかに。
「あぁ、綺麗な瞳をしている… 」
「え? あ、そうではなく… 色を… 」
「……… 」
ぼぉ〜っとして反応がなかった為、カヌアは諦めた。
(もう気にならないのかな?)
すると、カブラの呼ぶ声でウィルは我に返った。
「カヌア… 」
そう呟くウィルが名残惜しそうに見つめてくるが、カヌアは気にしない。
「はい。では後日」
さっぱりと見送った。
馬に乗ると、こちらを向いて手を振っている。
カヌアがそれに応えて手を振り返すと、嬉しそうに馬を走らせ去って行った。
(そういえば、本当についでだったのかな?)
そう思いながらも、ウィルを見送ると朝食をとりに屋敷へ戻った。
それにしても、カヌア情報を把握しているウィル。
これはもうウィルテンダー殿下改めストー…… いや、もう少し様子を見ることにしよう。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
突っ走って書いているので、何かお気づきの点があればコメントの方よろしくお願いします。