episode13〜晴れ舞台へ〜
初連載の続きです。なんとか毎日投稿出来てます。ゆるく読んでいただければと思います。
その長い髪をまとめ、髪飾りにはレースの装飾があしらわれた純白のドレス。
「カヌア様、お迎えが参りました」
使用人のエミリアがそう言うと、カヌアは長い裾を持ち上げた。
「ありがとうエミリア。お母様行ってまいります」
「えぇカヌア、とても綺麗よ。おめでとう。楽しんでらっしゃいね」
そう見送られると、待っていたのは我がアルデリア王国のウィル殿下であった。
そして彼は、カヌアの本日のパートナーでもある。
カヌアは彼の好意に気が付くこともなく、同性愛者であるという勘違いをしたまま、今日に至っていた。
頑張れ殿下。
「殿下、お出迎えありがとうございます。本日はよろしくお願いします」
カヌアはそう礼を述べると、ウィルのエスコートを受け、馬車に乗り込んだ。
(ついに! ついに来たのだ! 本日、カヌアーリ・ヴァ・リヴールは、少女を引退します! そして大人の道へと… 華やかしいデビュタントにしてみせます!)
カヌアは心の中で、意気込んでいた。
この日のために、毎日と言って良いほど王宮に通い、拝謁作法やダンスを練習した。
そして、気合いの入った本日の装いは、エミリアが念入りに仕立ててくれたのだ。
そう… それもこの日まで。
明日からはまた、趣味まっしぐらの生活が戻ってくる。
(頑張った今日までの自分、早く会いたい明日からの私。この一ヶ月間、苦手なダンスを合わせるために、毎日王子と練習してきた。大丈夫。本番はうまくいく)
とカヌア。
(この一ヶ月、カヌアに毎日アピールしてきた。ついでに言うと、たくさん触れられて幸せだった。大丈夫だ)
とウィル。
お互い思うことは違うが、この日のために全力を尽くしたことに変わりはない。
あれから、ウィルとは眼の話ができていない。
カブラという従順な家来が、側から離れずにずっとカヌア達を観察していたからだ。
何か言いたそうだったウィルも、彼の前では何故かその話をしてこなかった。
先程から、ずっと視線を飛ばしていたのに気づかれないウィル。
かわいそうに。
すると、やっと口を開いた。
「あ、カ… ヌァ」
「はい、殿下?」
「その… とてもキ、レイだ。すごく。ずっと見ていたいくらいに… 」
「え?」
(ヤバい! 何? ちょっと今の! 冗談でも嬉しいじゃん! 心臓… 落ち着けぇ)
「あ、あり、がとう… ございます。殿下もとても素敵です」
いつもなら得意の愛想笑いを炸裂してるのに、今はそれができない。
「これを… 」
殿下はカヌアの首に手を回し、何やら光る物をつけた。
真珠のネックレスだ。
「殿下… え!? こんな高い物私には… !」
「つけてくれないか? 今日のために選んだ… んだが」
「はい、では喜んで… 大事にします」
(照れ臭すぎて死ぬ。何この甘い青春的状況。私には縁がないはず)
「今更ですが殿下、なぜ急に私をパートナーに誘って下さったのです? あの時は本当に驚きました。でもとても嬉しかったです」
(あの時の私は、パートナー問題で切羽詰まってたからな)
「ん? 急ではないぞ。招待状が送られた後に、花が届いていただろう毎日… あ… 」
「え? あれは殿下が贈って下さってたのですか? そうとは知らず、お礼を言えてませんでした。申し訳ござ… 」
「あぁ… いや、すまない。俺が名を伏せてたんだった」
「え? なぜです?」
「それは… 」
口籠もると、照れ屋さんのウィルは顔を赤らめた。
(ん? 何かあまり周りに知られたくない理由が?)
「それより、そろそろ… 名で呼んでくれないか? 殿下って言うのは、あまり近しい気がしなくてな… その… 」
(近しい? 遠くもないと思うけど。殿下は殿下ですし… んーまぁでも)
「はい。ではウィル… 様とお呼びしてもよろしいのですか?」
「許す…… カ、ヌア」
(嬉し過ぎる… )
ウィルの顔が、マグマのように赤くなった。
だが、薄暗い馬車の中では、カヌアには見える由もなかった。
そんな照れ臭い空間の中、あっという間に王宮に着いてしまった。
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ウィルのエスコートの手を取り、馬車から降りるカヌア。
会場の中にはごく僅かだが、同じような純白のドレスを着た女性達がいた。
そして、フラフィーの量が尋常じゃない。
一日だけの我慢だ。
会場に入り、フロアに行くための階段を降りていると、周りの人達が騒めいた。
皆、カヌアとウィルを交互に見ている。
レディー達の視線と共に、フラフィーも睨みを利かせている気がした。
(そうだよね。ウィル殿下だもんね、王子だもんね。すいませんね、私なんかで。今日だけなので、すぐにお返ししますから)
カヌアが横をチラリと見ると、ウィルが嬉しそうに微笑んでこちらを見ていた。
見ていた。
じっと見つめていた。
ずっと見つめ…
(いや!! 見過ぎでしょ! 前見て前!)
すると、会場内に一層輝く顔面達が集まっているのが見えた。
出席している乙女達の中には、頬を染めながら視線を送る子も少なくない。
その中心にいるのが、リヴール家の四兄弟である。
今は四人とも成人しているので、王宮内に仕えている。
なので、今日は仕事で来ているのだ。
女性を虜にするために、来ているわけではない… はず。
(お兄様達、めっちゃ目立ってるよぅ。主役達を差し置いて、目立っちゃダメでしょ)
その兄達がアルネの方を向いた。
すると、案の定とびっきりの笑顔で四男ミルサが、カヌア達の元へと近寄って来た。
「カヌア! とっても綺麗だよ!! 今日は素敵な夜にしてね!」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
(えへへへぇ)
「ウィル殿下、本日はカヌアーリの付き添い、誠にありがとうございます。不慣れな面もあると思うので、サポートのほどよろしくお願いします」
そう礼を告げたのは、長男のロイドである。
(カヌア、転びそうで怖いんだよなー)
フラフィーが不安がっているのがわかる。
「心得ておく」
兄達が頑張れの意を込めて、順にカヌアの肩に軽くタッチする。
そして職務へと戻った。
すると今度は父ラスファがカヌア達を見つけ、ミルサ同様満面の笑みで近寄ってきた。
「おぉ! とても美しいよカヌアーリ! まるで十一年前のアメリを見ているようだ」
(お母様の年齢バレちゃうよ?)
「ありがとうございます。ここまで育ててくださり感謝申し上げますお父さ… ま」
(え… 感極まって泣きそ… いや、泣いてるじゃん)
「お父様、泣くのはまだ早いですよ。まだお嫁にだって… 」
そう言おうと思った途端、もっと泣き始めてしまったラスファ。
(あぁぁぁあ、今からお仕事ちゃんと務まるのかしら?)
「あ、ほら、お父様、部下の方がお呼びですよ? 今夜はデビュタントの護衛頑張って下さいね!」
「ウィルテンダー殿下、娘カヌアーリをよろしくお願いします」
涙を拭きながら一礼し、仕事へと戻った。
父ラスファは、この国の近衛隊長として王宮に仕えているのだ。
こう見えて、とてもお強い。
いつか一度手合わせ願えないかと、目論んでいるカヌアであった。
そんなラスファは今夜、このパーティーの護衛にあたっているのだ… というのは名目であり、カヌアの晴れ舞台を見るためだという。
陛下の粋な計らいで、リヴール家全員を会場内の配置にしてくれたそうな。
さあ!
いよいよである。
(この日を立派に努めて、ギャフンと言わせてやる!!)
誰にとは言えない。
特に喧嘩をふっかけるような相手がいないのだから。
それでもカヌアは気合い十分で、戦場に行くかのように決意した。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
突っ走って書いているので、何かお気づきの点があればコメントの方よろしくお願いします。