episode12〜打ち合わせにて〜
初連載の続きです。なんとか毎日投稿出来てます。ゆるく読んでいただければと思います。
先日の騒ぎが、まるで嘘だったかのような、心地の良い天気だ。
澄み渡った空。
(あーーよく寝た!)
あれから三日が経ち、今日は王宮へとウィルに会いに行く日だ。
そう、デビュタントの打ち合わせである。
準備を終えたところで、門の方から声がした。
(迎えにしてはまだ時間が早くないか?)
そう思いながら、窓の外を見る。
すると二人の人影と、一人の小さな人影が見えた。
(あれは!)
カヌアはすぐに階段をかけ降りた。
玄関には、あの火事の当事者であるロザリーと、その家族がいたのだ。
「おねぇちゃん!!」
ロザリーは眩しい笑顔で、駆け寄ってきた。
可愛い可愛いちびっ子が!
(おぅふ! くるしゅうないくるしゅうない)
「こら! ロザリー! いきなり失礼でしょ!? 挨拶なさい! 申し訳ございません、カヌアーリ様」
母親が、ロザリーをカヌアから引き離そうとしながら、失礼を詫びた。
カヌアはこんなに可愛いものを引き剥がされるものか! っとその力に逆らって、身体にくっつけた。
「ごきげんよう。大丈夫ですよ」
ロザリーの家族を応接間へと案内し、使用人にお茶を用意させた。
「カヌアーリ様、改めて、この度は娘ロザリーを火事の中から助け出して下さり、誠にありがとうございました。本当になんとお礼を申して良いのか、尽くせないほどです。あの時一緒に助け出してくれたお方にも、ご挨拶をしたいのですけれど… 」
(あれ? 王子の正体は知らせてないのかな?)
横でお母様が目配せしている。
それに倣って、ロザリーも礼を言った。
「カヌア様、助けてくれてありがとうございました」
(天使を助けられて良かったです)
ニコッと笑うカヌア。
「カヌアーリ様は、とても勇敢な方ですね。火の中に飛び込むなんて、中々できる事じゃありません。あの場にいた誰もが諦めかけてたと思います。それを一瞬にして、希望に変えて下さりました」
(あの後、家族にはこっぴどく叱られたけどな… それにしても、この人達は皆、素直にそう思ってくれてるんだ。うふふふ照れるなぁ)
カヌアには、フラフィーがそれを物語っているのがわかった。
それから、カヌア達はロザリーの体調の程度や、お菓子屋さんを営んでいた事、これからの事など話しながら、それはそれは楽しい時間を過ごした。
途中カヌアは、王宮へと行く時間になってしまったため、名残り惜しくもその場を後にした。
(帰り際にロザリーと、今度、馬に乗る約束もしたし)
馬車の中で、ニヤニヤがまだ残る余韻を楽しみながら、王宮へと向かう。
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王宮に着くと、すぐに応接間へと案内された。
中に入ると、既にウィルが椅子に座っていた。
振り向いて、立ち上がるウィルを見て思った。
(やはり… 見逃してたわけじゃなかった。王子には、フラフィーが付いていない。こんな事初めてだ。でも何で?)
「ウィルテンダー殿下、ごきげんよう。先日はその、色々とありがとうございました。この度の殿下からのお誘い、非常に嬉しく存じます。本日はよろしくお願いします」
「あぁ、体調はどうだ? もしまだ良くないなら他の日… にでも… 」
少し照れながらも、気にかけるように優しい言葉をかけてくれた。
すると、彼の側近であるカブラが話に入って来た。
「何を仰ってるのですか殿下。この日をとても楽しっ… !」
口を塞がれている。
カヌアはその様に、思わず笑ってしまった。
「でも、あれからまだ三日程しか経っておりませんので、無理はなさらずに、何でも仰って下さいね、カヌア様」
カブラが、優しい言葉を添えてくれる。
「ふふふふふ。お気遣い痛み入ります。大丈夫ですよ。身体だけは丈夫なので」
「ふっ、そのセリフ、前にも同じような事言ってたな?」
「あら? そうでした? ふふ」
(全く覚えてない)
そう、それは三年前の池ボチャ事件の際、ウィルの見舞いをした時の事だ。
その時のカヌアは風邪を引かなかった覚えはあるが、発言自体は覚えていない。
「早速だが、デビュタントは女性にとって、一世一代の披露目の場となる。それで、やはり要なのは、陛下への挨拶だな? 少しはできるのか?」
「はい。上手くできているのかわかりませんが、以前から練習だけはしております」
「よし。まぁ三ヶ月も前に招待状は届いているのだから当然か。ではやってみよう」
(ん? 何でそんな前から招待状が届いてるの知ってるんだ?)
カヌアは、練習してきた通りやってみた。
しかしながら、本番ではもっと裾の長いドレスなので不安である。
何回か繰り返しやってみせるカヌア。
(ん? そういえば、正式なデビュタントの招待状って、王族からもらわないとなんだよな? てことは、送ってくれたのはもしかして、ウィ… )
「うわっと!」
思わず、前世版の叫び声をあげてしまった。
考え事をしていたせいで、転びそうになったのだ。
それをウィルが支えてくれていた。
「おい、大丈夫か?」
そんなウィルの心配をよそに、ある事が気になった。
ウィルの額にある傷… いや、火傷の跡が見えたのだ。
ふとカヌアは、左手でその傷に触れていた。
「殿下、これ… もしかして、この前の火事の時に?」
ウィルは目をまん丸くしたと思ったら、顔が真っ赤になった。
バッと視線を逸らす。
「特に問題ない」
(こんな些細なことで毎回反応してたら、心臓が持たない。慣れねば)
王子がそう思ったのも束の間、すぐさまカヌアが再び手を伸ばしてきた。
「ダメです! ちゃんと見せて下さい」
無理矢理顔を向かせて、覗く。
「やっぱり。傷が新しいですね! お薬塗ってます? 後々傷が残ってはいけませんからね! 巻き込んだ私が言うのもなんですけど… 殿下? 聞いておられます?」
そう言いながら、更に顔を近づけると、殿下は唇を噛んで耐えていた。
(え? どした? 大丈夫か? ほんと)
「あの… 何か傷に塗るお薬を、持って来て頂けないでしょうか? 多分火傷も伴ってますので、その有無を侍医に伝えて下さい」
カヌアはカブラの方を向いて、そう言った。
今の一部始終を記憶しながら見ていたカブラが、かしこまりましたと一礼をし、部屋を後にした。
「あの… 改めて先日は炎の中、助けて頂きありがとうございました。それで一つ、お聞きしたい事がございます」
少し顔の赤みが残っているが、平常心を装ってウィルは頷いた。
「殿下は、何度か私に瞳の事について、尋ねられましたよね? あれは一体どう言う事でしょうか?」
ウィルはその言葉に少し考えた後、口を開いた。
「俺達が最初に出会った日を覚えているか?」
(あれは、一発目のやらかし事件だ)
「はい、えと、五年ほど前に木の上から落ちた私の下敷きに殿下が… 」
罰が悪そうに答えるアルネ。
(本当は受け止めようと助けに行ったんだが)
「その時のお前の瞳は青く見えた、いや、青かった。とても鮮やかな青だ」
(え?? 瞳が青かった? 何を言ってるの?)
「そして三年前のあの茶会でも、参加してる時のカヌ、お前の瞳も青かった。なのに、池に落ちた時は茶色だった」
(ん? いつもその茶色ですけど?)
「そして、見舞いに来てくれた時は青く、先日の火事の時には茶色だった。だがカヌ、お前が目覚めた時の瞳がまた青くなって… 」
(おいおいおいおい! ちょっと待てよ? めっちゃ見てるじゃん瞳! しかもあの状況で、良く覚えてらっしゃる事! え? 何マニア?)
「えと、殿下? お言葉を返すようですが、私の瞳は常に茶色です。なぜ青く見えたかは、わかりませんが… 」
その時薬を手に持って、カブラが戻って来た。
「おっと、まだ戻って来ない方がよろしかったでしょうか?」
至近距離でしゃがみ込んでいる二人を見て、ニタニタとカブラが言う。
「遅かったな。薬はもらえたのか?」
立ち上がると、ウィルが近づいて手を出す。
「はい。この通り」
手に持った薬は王子をスルーし、カヌアの手に渡った。
(ん?)
「更に、 ‘万能薬’ にするためにです」
さぁ、という感じに促された。
(塗れって事か)
「ウィル殿下、失礼します。少し触れますね」
カヌアは薬を適量取り、髪を少し掻き分けて傷に塗る。
(ん? 傷はわかるけど、火傷のとこがどこまでかわかりにくいな)
それもそうである。
火傷の赤みがわからないほど、ウィルの顔は真っ赤になっていたのだ。
しかし、それには気が付きもしないカヌア。
その光景に、笑いを堪えながら満足そうに記憶するカブラ。
そして… デビュタント本番まであと一ヶ月を切る。
カヌアの帰宅後、カブラは問いかけた。
「ところでウィル様? 本日の目標は達成されました?」
「それは…… また今度」
ここまで読んで頂きありがとうございました!
突っ走って書いているので、何かお気づきの点があればコメントの方よろしくお願いします。