episode127〜無事を祈って〜
初連載の続きです。毎日投稿してます。ゆるく読んでいただければと思います。よろしくお願いします。
薄い月明かりの光で目が覚める。
カヌアは今自分が、何故ここに1人でいるのかがわからなかった。
頭が朦朧とする…しかし、すぐに視界がはっきりとした。
『えっ!?ベッドの上!?何で!?眠ってたの!?私!』
するとその寝巻きのまま部屋を飛び出たカヌア。
扉の前にいた護衛が驚いた。
少し目を逸らしながら、礼をする。
『あの!ウィル様達、知りませんかっ!?』
『あ、えぇとウィルテンダー殿下は今…』
するとそこに聞き覚えのある声がすぐ側で聞こえた。
『カヌア様、一度部屋にお戻りください。その格好のまま外には出られません。お支度を…』
そう言うのはウィルの従者ワイムだった。
カヌアは自分のその格好を見て我に返った。
すぐに部屋に戻ると速攻で武道用の服に着替えた。
もちろん剣も持っている。
戦闘態勢であった。
しかしそのままカヌアを部屋へと押し込むワイム。
『ワイムっ!ウィル様達は!?サラの家でしょ!今すぐ行くから!止めても無駄!絶対行く!』
カヌアは断固たる決意で部屋から出ようとした。
『カヌア様、止めはしませんよ』
そう言いながらもワイムは扉の前から動かない。
『え?じゃ、じゃあすぐに…』
カヌアがそう言いかけると、ワイムは被せて応えた。
『しかし、ウィル様達は既にこちらへと…今お戻りになられている途中です。ノゥリア様とアリー様をお連れになって』
『えっ!!?見つかったの!?ふ、2人は無事!?』
カヌアはワイムの両腕を掴みながら言った。
するとワイムはいつもは笑わないその顔をニコッとさせて言った。
『はい。お2人とも疲れていらっしゃるようですが、怪我もなくご無事です』
その言葉を聞いてカヌアはその場で崩れ落ちた。
咽び泣く姿をワイムは見つめる。
すると、ワイムはしゃがみこむとカヌアの頭をそっと撫でて言った。
『当分の間、お2人はこちらの王宮でお過ごしになられます。保護するという形になるかと。それと、クーロス…さんのことですが…』
その名を聞いてカヌアはそのぐしゃぐしゃになった顔を勢いよくあげた。
『叔父様が…叔父様がどうしたの!?2人と一緒にいたんじゃないの!?』
『…それが、その場にはお2人しかおりませんでした』
そうワイムは言いながら、どこまで説明していいのか分からずにいた。
『ワイムもその場にいたの!?ねぇっ何を見たの!?』
『それは…』
『それは、俺が説明しよう』
ワイムが言うのを制するように言いながら部屋の扉を開けるのは、ウィルとカブラであった。
すぐさま横に捌けるワイム。
カヌアはウィルの腕にしがみついた。
『ウィル様っ!2人が見つかったって!?無事だって聞きましたけど、本当に…』
『あぁ、本当だ。2人ともとても元気だ』
ニコッと笑って言うウィル。
安堵するカヌアの顔に涙が再び溢れた。
ウィルはそんなカヌアをゆっくりとベッドの端へ座らせる。
ウィルが渡したハンカチでその顔を拭うと、深呼吸をした。
少し落ち着いたカヌアにウィルが口を開く。
『順を追って説明する。カヌアが言っていた通り、やはりサラの家の側には2体の熊の置物があった。そのうちの1体、小熊の方が少しズレていたんだ。サラの家族も気づかないほどのズレだ。そのズレていた場所には蛇の…いや、あれは龍か?その龍の模様の扉があった。そこは既に開いた後で、中に入ると長い階段があった。降りたところは薄暗かったが、そこには地下室みたいな部屋があったんだ。そこに2人はいた。2人だけしかいなかった。2人は無傷で、食事もきちんと与えられていたようだった。しかし、ある物が切り取られていたんだ…』
カヌアの顔が青ざめるのがわかった。
『ま、まさか…それって三原色に必要な…物。ですよね?切り離せないから2人を…連れ去った…それって…』
『あぁ、爪だ』
ウィルがそう応えると、カヌアは最悪な状況が頭に浮かんだ。
『爪…っま、まさか…はが…された?いっ!いやっ!嘘っ!?そんなっ!』
カヌアの肩を優しく支えながらウィルは言った。
『カヌア…落ち着け、なぜこんなに長い時間攫っていたのか考えてみろ?冷酷なやつで爪が欲しいだけなら、既にその場ですぐさま剥がしているはず。クーロスは…そんなことはしないかった…伸びるまで待っていたんだ。だからこんなに時間がかかった』
『伸びるまで…待っていた…そっ…か、よか、良かった…確かに…ワイムが言ってました…2人には怪我はなかったって…』
カヌアがウィルの言葉に安心すると、ウィルは強く頷いた。
『2人が言うには、クーロスはその爪を持ってどこかに急いで行ったらしい。一緒にいた時は常に部屋を明るくしていたが、その姿をくらますときだけ部屋を真っ暗にしたらしい。しかし…』
『その場には…ノゥリアがいた…暗闇に特化している彼女なら、行き先が見えていたんじゃないですか!?』
カヌアがノゥリアの特性を思い出しながらそう言うと、ウィルはまた頷いて言う。
『あぁその通りだ。クーロスは2人は見えていないと思ってたみたいだったから、警戒せずにある扉を開けてその奥へと入って行ったらしい…俺たちが到着した時にすぐさまその扉を教えてくれたんだが…その扉には取っ手がなかった』
(またかっ!また取っ手のない扉か…)
『ではどうやって?』
カヌアが質問すると、ウィルも腕を組んで行き詰まるように言った。
『それがわからないままだ…とりあえず2人を早く王宮で侍医に見せたかったからな…それで切り上げて戻ってきたところだ』
『なら私も明日行きます!』
そう言うカヌアに気まずそうに応えるウィル。
『…そうだな…今日は…行けなかったからな……』
ウィルは少し暗い顔をしながらさらに言葉を出した。
『その…カヌア…言わなければならないことが…』
すると、カヌアはウィルの唇を指で優しく抑えて制した。
『ウィル様…私を思ってのことでしたら、言わなくても大丈夫です。大丈夫。私はウィル様の行動やその言葉に何度も救われてきました。なのでどうかご自分を責めないで…私はあなたの全てを受け入れ、理解します…あぁ、でも頭の出来が違うので理解できるように努力します…へへへ』
するとその言葉を聞いたウィルはカヌアを力一杯抱きしめた。
そして、熱い口付けを交わす。
愛に満ちた口付けを。
『えと、ウィ、ウィル様、皆が見ております…』
カヌアが赤くなって言う。
『構わない。こんなに…こんな風に想ってくれてるなんて…俺は既にカヌアでいっぱいだ。早くカヌアの中も俺でいっぱいにしたい』
その言葉にカヌアの顔はさらに紅潮した。
『えぇっ!?な、何を言い出すんですか!?そんな、だ、大それた事を!しかも皆の前で!』
(やっぱり覚えてないのか…)
『ふふ、カヌアもそう思っているのは確かなはずなんだが?』
ウィルはカヌアの頬に手を当て見つめながら言う。
『え?私がですか!?』
『ふっ、そうだ』
と言いながら、そのまま頬を優しくつねる。
『い、いはいでふ…』
そんなカヌアをウィルは嬉しそうに見つめている。
(ウィル様…どうしちゃったのかしら…?)
とカヌアは困惑しながらも嬉しく思っていた。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
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