episode125〜星たち〜
初連載の続きです。毎日投稿してます。ゆるく読んでいただければと思います。よろしくお願いします。
最近カヌアは切羽詰まっている中の緊張と、連日の疲れで食事をとる気が起きなかった。
先程、トゥバンの遺跡で北のシンボルの話を聞いたカヌア。
その後王宮へと戻って来てからは、自室で少し休んでいた。
カヌアがベッドで横になっていると、部屋に誰かが入ってきた。
気配に気づき振り向くとそこにはウィルがいた。
『すまない…扉を叩いたんだが、返事がなくて…』
『あ…ウィル様、申し訳ございません…気がつかなくて…』
カヌアは身体を起こしながら言い、そしてウィルはベッドに腰をかけた。
『いやそれはいいんだ、それより…大丈夫…じゃ、ないな…約束の物を持ってきた』
ウィルは先程、丘で約束した事をさせるために、軽い食事を持ってきたのだ。
その約束というのは、‘きちんと食事をとること‘であった。
『サンドイッチ…ですね…約束ですもんね』
と言ってカヌアは一口それを食べた。
やはり食が進まないと言う感じだった。
『先程も食事をあまりとらなかったと聞いた…やはりこれもあまり進まないか?』
カヌアはニコッと力なく笑った。
『では…あまり良くはないが…これなら食べれるかと思い持って来たんだが…』
その手には色とりどりのチョコレートがあった。
毎日毎日捜索に身体と脳を注いでいるカヌアのために持ってきてくれたのだ。
本当はちゃんとした食事をとって欲しいウィルだったが、何でもいいから口にしてもらうための作戦である。
『ウィル様…ありがとうございます…でもあまり食欲がないんです…』
そう言うカヌア。
それに対し、ウィルは強行手段に出た。
『そうか…それは残念だ…では俺が頂こう』
と言って、そのチョコを自分の口に咥えそのまま食した。
カヌアは、あ…と思ったが言った手前やはり食べたいとは言えなくなっていた。
そしてウィルはもう一つ口に咥えた。
そしてまたひとつと食べていく。
カヌアは見ないように向こうを見始めた。
すると突然ウィルはカヌアの顎に手を当て顔を向かせた。
そのままカヌアの唇に自分のを重ねた。
(え!?甘っ!ん!?)
ウィルが咥えたチョコをカヌアの口に押し込んだのだ。
『どうだ?美味いか?』
と笑ってウィルは言う。
カヌアはチョコレートとウィルの気持ちを口いっぱいに味わいながら、何度も頷いた。
カヌアは久しぶりにドキドキを頂いてしまい顔が真っ赤になった。
マグマのように熱くなったその身体を冷やすべく、バルコニーへと飛び出した。
(っかぁーー!こわいわぁ!!あの笑顔こっわ!ウィル様こっわ!ぜーんぶ持ってかれちまうよ!)
と思いながら、胸元をぎゅーっと両手で掴むカヌア。
そして、涼しい夜風を全身に浴びる。
夜空には満天の星が瞬いていた。
ゆっくりとカヌアに近づくウィル。
カヌアは気づかずに、少し熱くなったその心を落ち着かせて夜空を見上げた。
(あぁ…ほんっとこの国の星ってすんごい綺麗!前世みたいに街の光が少ないからかな?あ!あれは!この世界にも北斗七星とかオリオン座とか見えるんだ!てことは星の並びは一緒?懐かしいな…星座とか全然わからないけど有名どころならわかるぞ!北極星ね!うんうん!北極星はっと………)
『………んぁっ!!!!』
カヌアが突然奇声をあげて夜空を指差した事に驚いて、抱きしめようとしていたその手が止まったウィル。
『なっなんだ!?一体どうした!?』
ウィルがその行き場のない手を下ろして聞いた。
カヌアはまだ天高く指を突き出している。
そして、何かなぞるような動きをしていた。
『ウィル様…私、わかっちゃったかもです…あ、でもいや…まだわからないかもです…』
『え?あ、どっちだ?』
ウィルは首を傾げながら言った。
(星に全然興味ないから知識が小学生止まりなのよ…いや、それ以下かも…)
そう思いながらも、カヌアは今閃いた事をウィルに話そうと思った。
『叔父様の小屋にあったテーブルです。そこに何かをひたすらなぞったような跡。あれは…あ、でもいや、確証が…あのっ!王宮の書庫室に星に関するような本はありますか?』
『あ、あぁ星に関する本ならおそらくこの国では一番多いんじゃないかってくらいあるぞ?しかし量が膨大でカヌアが求めている情報が手に入るか…』
ウィルの応えにカヌアは単刀直入に聞いた。
そしてその応えはすぐに返ってきた。
『多分、初歩的な事なのですぐ見つかるかと…あの、ウィル様?北斗七星って聞いたことありますか?』
『あぁ、知ってるも何もアルデリア王国はそれそのものだからな』
『ん?そのもの?』
首を傾げるカヌア。
『えぇと、民は知ってることだと思うが…グランシャリオは北斗七星という意味だから…』
(えっ!!!?)
カヌアは顔に出さないように驚いた。
(あれ?私、幼い時に習っ…たよね?あの般若のような家庭教師から…ん?教わって…ない!えっ!?なんで!?すごい重要な事だよね!?てか基本中のきっほっんっ!)
そんなカヌアはウィルが自分のフラフィーが見えてなくて良かったと心の底から思った。
『……?まぁこれも知ってるとは思うが…王都グランシャリオの周りにある7つの街は、その北斗七星のそれぞれの星を意味している…のは…まぁ…知ってるとは思うが…』
(えぇ!!!?)
カヌアは首から下の汗が尋常じゃなかった。
『アハ、エヘヘ、ウフフフフフフフ。もちろん‘シッテマス‘ともウィル様!』
と言って歪んだ笑顔をニンマリと作り上げた。
『あ、では、これも一応念の為の確認ですけど、道に迷った時に北を示す北極星の見つけ方は確か…』
とチラッとカヌアはウィルの方を見た。
『あ、あぁ、それは北斗七星に位置するメラク星とドゥべー星を結んで、その5倍先にある星が北極星だな。それとカシオペア座の飛び出た頂点の2箇所の星が作る線をそれぞれ伸ばした交点と、カシオペア座の真ん中にある星との距離を5倍先にある星が北極星だ。それがどうかしたのか?』
(物知りすぎて歩く辞書みたいだな。本当に頭が良いのね。ウィル様いれば書庫室に行く必要ないんじゃないか?)
それはそうである。
この国を担う王子。
このくらいの知識は当たり前である。
と言うか、民のほとんども知っていることなのだが…
(てか!なんっで!あの鬼教師!教えてくれなかったのよっ!!)
カヌアの顔の方が鬼になる寸前であった。
『先程遺跡のところで話しただろ?龍が以前の北極星だったと…』
ウィルのその言葉に驚いてカヌアは、その腕を掴んで言った。
『えっ!?北のシンボルって…北極星のことだったんですか!?』
『ん?そう…だが…この国の者はあまり北極星とは言わないからな。北のシンボルと皆言っ…カヌア?』
ウィルはカヌアの様子が少しおかしいことに気がついた。
(あぁ…なんだろ?龍といい、北のシンボルといい…この国の言い回しと前世の記憶がマッチしない…もどかしすぎる!とりあえず、わかった事がひとつある。それに賭ける!)
カヌアは目つきが変わっていた。
『ウィル様!答えは星たちが導いてくれます!急ぎご用意していただきたいものがあるのですが…』
カヌアから願い受けたその物をカブラへと伝え、公務室に持って来るよう言った。
しかし、カヌアが部屋から公務室にそのまま行こうとしたのをウィルが引き止めた。
『カヌア!その前にちゃんと約束を果たしてもらう!』
『それは…』
カヌアが何か言おうとしたその前に、ウィルが覆って言った。
『それとも先程のように俺からの直々のチョコレートの方がいいか?』
『あ…いえっ!食べます!ちゃんと自分の手でっ!ウィル様のお口を煩わせるわけにはいきませんからっ』
そう言いカヌアは急に食欲が出てきたのか、意地なのかはわからないが、持ってきてもらったサンドイッチを食べ始めた。
それを見ていたウィルはちょっぴり複雑な気持ちになった。
(ん…?そんなに嫌だったのか?)
ここまで読んで頂きありがとうございました!
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