表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

122/134

episode121〜読解力〜

初連載の続きです。毎日投稿してます。ゆるく読んでいただければと思います。よろしくお願いします。



クーロスの小屋から、いくつかの手掛かりが見つかった。

それが何を意味しているのか、少しずつ紐解いてきてはいた。

しかし肝心なクーロス本人と、一緒にいるだろうと思われるアリーとノゥリアがまだ見つかっていなかった。


そして、小屋のテーブルにあった何かを掘ったような跡。

これも未だその謎が解けていない。


そしてカヌア達は今、トゥバンの丘へと来ていた。

クーロスの小屋にあったトゥバンの遺跡の本。

それを手掛かりにここへと赴いてみたのだが。


そんな中、カヌアはドキドキしていた。

それはトキメキの方の鼓動ではない。

彼女は意外にも小心者のハートの持ち主である。

例の事をどう切り出そうかの考えで頭の中が埋め尽くされていた。

そのため、いつ心臓が口から出てきてもおかしくなかった。


そう、カヌアは未だトゥバンの遺跡の本を読んでいなかった。

いや、読めなかったのだ。

言葉がわからなかった。


(小屋から戻った後、遺跡の本もう一回開いて見たのよ?もしかしたら逆さだったんじゃないかと思って見たのよ?違うページに訳が書いてあるのかとも思って見たのよ?…知ってる文字が…1文字もなかった…しかもその後、辞書を引こうと書庫室にも行ったけど、閉まってるなんて…え?王宮の書庫室って24時間開いてるもんじゃないの!?夜中に陛下が調べたくなったりしたらどうするのよ!?)


カヌアの考えは書庫室の八つ当たりへとなっていた。

そして陛下が調べ物をしたい時がきたら、もちろん開けるに決まっている。

王族なら特別だから。

カヌアは書庫室をコンビニか何かと勘違いをしているようだが、24時間開いているわけがない。

カヌアは王宮内を見回っていた衛兵に不審な目で見られて終わったのである。


(ウィル様なら大丈夫…優しいからきっと普通に教えてくれる…)


その通りである。

カヌアは何をそんなに怯えているのか?


それは数分前に遡る。


『カヌア様!いいお天気で良かったですね!こんな所で会うなんて嬉しいです!皆様も気分転換にお散歩ですか?』


そうニコニコ笑顔で子犬のように言うのは、リヴール家に仕えているロキであった。

その隣には天使ちゃんもいる。

ミザールの菓子屋の看板娘ロザリーだ。


2人はこの丘で偶然ピクニックを楽しんでるところだった。

そこにカヌア達が現れたので、声を掛けてきたのだ。そして、カヌアが遺跡の本を持っているのに気が付いたロザリーは天使の笑顔で食いついてきた。

読ませて欲しいと。

カヌアがウィルに確認すると、大した内容は記載されてないからと許しをもらった。


目をキラキラさせながらロザリー達はその本を見る。そしてあっという間に読み終わったのだ。


(まさか…読めてる?)


カヌアはそう思う、まさにその通りだった。


『カヌア様、この本すごく薄いけど内容がちゃんとまとまってますね!』


『え…あ、うん。ほんとそうだね。読め…るの?』


カヌアは煮え切らない返事をした。

それに対し、ロザリーは少し変だなとは思いながらも、フラフィーと共にニコニコしていた。


『…?はい!もちろんです!』


(もちろん?もちろんなの?)


カヌアはさらに混乱した。


『ロザリーは本が大好きなんですよ!いつも本に囲まれて暮らしたいって言ってるくらいですよ!』


そう言うロキにカヌアは微笑んだ。


『だからいろんな国の言葉も勉強中なんですけど、中々本って手に入らなくて…』


ロザリーは少し残念そうにそう言う。

カヌアの眉も下がり、悲しみの顔を浮かべる。

しかし、その表情はほぼ今のカヌアの心境を表していた。


そうである。

カヌアが中々言い出せなくなってしまったのはこの2人のせいでもあった。


(ロキとロザリーがわかっている…!?子供でも読めるなんて…あぁやはりこの国では…この世界では読めて当たり前なんだわ!どうしよう…今更よ…今更‘コノモジヨメマセンデシタ、アハハ‘なんて言えない)


ただ単にカヌア自身のプライドの問題であったのだ。


『……ヌア様?カヌア様聞いてます?』


そう言うロザリーの声で我に返ったカヌア。


『あぁ、うん、どうしたの?』


『でもこれを書いた人は遺跡の中を見れなかったんでしょうか?』


ロザリーのその質問にカヌアは言葉を選んだ。


『え?なん…で、何で見れなかったんだろうねぇ?ソレワタシモオモッテタァ〜アハハ』


カヌアは嘘をついた。

目がヤバい方向を向いている。

しかし、ロザリーは本に夢中で見ていなかった。

そして自分の意見を言った。


『簡単な歴史とか石の構造的な事しか書かれてませんよね。それに何だか表面からしか見てないような…』


『さっさすが〜鋭いねぇロザリーは!すごいすごい!読解力が素晴らしいね!』


(えっ!?そうなの!?遺跡の中のこととか書いてないの?)


カヌアはもう頭の中がぐしゃぐしゃであった。

ロザリーはというと、少し照れたように頬を赤く染めている。

逆にカヌアの顔色は悪くなっていった。

心配になったウィルが声を掛けてきた。


『カヌア…大丈夫だ。わかっているから…後で話そう』


(え?何をわかってらっしゃるのかしら?)


その意味は飲み込めてはいなかったが、その優しい声にカヌアは安心して頷いた。

そしてウィルは紳士的に、ロキ達にも声を掛けた。


『2人共、邪魔して悪かったな。この後も楽しんで。そうだ、ロザリー。本が読みたければいつでも王宮の書庫室に来るといい。もちろんロキも。話は通しておくから』

と言って、あまり見せない王子スマイルを見せた。


その言葉に2人はとびきりの笑顔でお礼を言った。


『えっ!?ありがとうございますっ!ウィルテンダー殿下!』


『僕もよろしいんですかっ!?わぁ!感謝いたしますっ!』


後ろで2人がとても喜んでいる声が聞こえる。


カヌアはそんなウィルを見て嬉しく思った。


『ふふふ、素敵ですねウィル様。私、ウィル様のそういうところ、大…好…です』


カヌアは途中から何だか恥ずかしくなって、言い切れなかった。

しかし、すかさずウィルはカヌアの顔を覗いて言った。


『ん?聞こえなかったな。ちゃんと聞きたい。その可愛い口から』


『かっかっ…可愛くなんかないです…』


カヌアの顔色が急に良くなった。


『可愛い…可愛いよ?教えてくれないか?なんて言ったのかな?ん?』


ウィルが攻める。

それに対しカヌアは頑張って言葉を絞り出す。


『そんなウィル様が…大好き…です』


『ふふふ、そうか。それはそれは光栄です』

と言ってウィルは満足そうに笑った。


そしてそんなウィルを見て、やはりちゃんと言わなければと思い、意を決してカヌアは口を開いた。


『あのウィル様…ずっと言わなければと思っっていたのですが…その遺跡の本の事で…私…この本の文字が…』


『ふふ、読めなかったんだろ?この本の文字が』


ウィルは本当にわかっていたのだ。

それに対しカヌアは驚く。


『えっ!?何でわかっ…』


『わかるに決まっている。カヌアのことだ。わかるんだ。カヌアは俺の半分だからな』

と言って、カヌアの指にキスをする。


カヌアは顔がみるみるうちに真っ赤になった。

この娘も青くなったり赤くなったり、顔色を調節できずに大変である。


(ウィル様…さっきからなんか…前からこんなに恥ずかし気もなく言う人だっけ?)

と思いながらもカヌアは聞いた。


『この文字は読める者と読めない者がいる。教養のある大人なら読めるが、子供はほぼ読めないはずなんだ。だからあの2人が普通に読めていて正直驚いた』

とウィルは言うが、カヌアは少し複雑な気持ちだった。

(教養のある大人…教養のある…大人…)


『お、大人でもこの言語は特殊で文字がわかったとしてもそれを文章として読める者はそう多くない。だから…』


ウィルがフォローをしようとしたが、カヌアはどこかに焦点が持って行かれていて戻ってこない。


(ん?ロザリーは本の虫…でもロキは?ここに来て数ヶ月は経つけど、ロザリーに教えてもらうほどそんなに長くは一緒にいないし…うちの家族の誰かに教えてもらったのかな?)

とある疑問が湧き出た。

しかし、先に本の内容の方が気になったので、ウィルに訊ねてみた。


『その…遺跡の本にはなんて書いてあるんですか?やはりロザリーが言うように、遺跡の中の様子は書いてないんでしょうか?』


『あぁそうだ。中のことはもちろんのこと、外のことも俺たちでも知っているような事しか書かれていない。重要なことは何ひとつ記載されていないんだ。だが、ひとつだけ気になることがある』


そうウィルが言うと、遺跡の本を開いてある文章を指さした。


‘遺跡の周りに7つの石が置かれている。

その石にそれぞれ描かれている蛇には、羽のようなものが見えた‘


『これを今から確認しに行こうと思っているんだ』

とウィルがそう言う。


『羽?ですか…羽?蛇に羽?ドラゴンかなんかですかね?』


カヌアはその言葉を何も考えずに口にしてしまった。


『え?ドラ…ゴン?とはなんだ?』


しかし、ウィルは首を傾げてカヌアにそう問いかけた。


『え……?』


(えぇぇえっ!?マジかっ!?マズイッ!マズイぞ!!この世界にはドラゴンの認知がないのか!?ああぁどうしよう…)


カヌアの冷や汗は止まらなくなった。


『わた…しが…幼い頃、空想で考えた…蛇の天使です…あの…よ、良かったら、今度書いてプレゼント致しましょうか?ドラゴンちゃん…を』


カヌアはものすごい苦し紛れの事を言い出した。

しかし、そこはウィルである。

カヌアのプレゼントするという言葉に反応したのである。


『本当かっ!それは是非欲しいな!そのドラゴンとやらを』


本当に欲しいのか?

カヌアの描いた絵と呼べるのかわからないそれを?

本当に?


『それより、ほら、見えてきましたよ!さぁ急ぎましょうっウィル様!』

と言ってカヌアはウィルの腕でを引っ張って、遺跡の前に向かった。

ここまで読んで頂きありがとうございました!

突っ走って書いているので、何かお気づきの点があればコメントの方よろしくお願いします。

大変恐縮ですが、評価を頂けると今後の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ