episode120〜3つの色〜
初連載の続きです。なんとか毎日投稿出来てます。ゆるく読んでいただければと思います。
クーロスが残したという手がかりを確認するため、カヌア達はアルデリア国の北西に位置するアルカスの森へと来ていた。
その森の近くにはサラの家がある。
クーロスの家と思われていたその小屋は、家ではないことがカヌアによって判明した。
カヌアも以前来たことがあるようではあったが、幼かったこともあって記憶が曖昧だった。
小屋の前には数人の護衛がいて、厳重に見張りを立てていた。
彼らはウィルの姿を見るとすぐに中へ通してくれた。
『持ち帰って保存した物以外はそのままの状態で残っている。何か見覚えのあるような物があれば教えて欲しい』
ウィルがそう言うとカヌアは神妙に頷いた。
中に入ると、手作りなのか木で出来た歪なテーブルがあった。
そこに、ウィルが回収した物をそのテーブルの上に並べ始めた。
それをひとつずつ口にして説明した。
『歪な剣、トゥバンの遺跡の本…そして、サルミニアの旧コインが数枚とケーフ山脈にあった黄色い飴…キルラの首にかかっていた王家の証の金具の部分だ』
『………確かに…今までの不可解な事件と…繋がりがある物達ですね…』
カヌアは声を詰まらせながら言った。
『回収した証拠品は以上だが、ここに怪しい跡があるんだ。何やら意味があるように思える。地図の上を何度も線で繋げたような…』
ここまでウィルが言うと、じっくりその証拠品を見ていたカヌアが口を開いた。
『このキルラ様の首にかかっていた金具の部分というのはなぜそうだとわかったんですか?』
それにウィルが応える。
『この証は、実は色以外は他の国と造りが同じなんだ。ほら、二重螺旋ででき…』
『二重螺旋っ…の…?』
夢で見た本の二重螺旋の本。
2人はその瞬間同じことを思った。
『え?まさかあの本の表紙に描かれていた二重螺旋は、この金具部分のことだったんですか?そしてその二重螺旋、つまり金具の先にあるのは…王家の証…?』
カヌアはそう言うとウィルと顔を合わせ、お互いが何かを考えるように数分間止まっていた。
そして、思い出したようにカヌアが口を開く。
『ウィル様…あの時もです…よね?武道大会の開会式に見た光の道。各国の王子達がそれぞれの証を重ねて誓いを立てたその時に…』
『あぁ、俺も今それを考えていた。しかし、あの時、キルラの証は盗まれたままで持ち合わせていなかったよな?』
ウィルがそう言うとカヌアはもうひとつの疑問にぶち当たった。
『確かに…ん?えっ?あれ?ちょっと待って下さい?でも、ノゥリアとアリーは王族ではないですよね!?』
『あぁ、そこはきちんと調べがついているから王族と関わりがないと言い切れるな。ノゥリアはタラゼドとは血の繋がりはないが、王族ではないと聞いている。王家に仕えていた彼が言うのだから間違いない。トラストル家の一件でアリーのことも調べたが、彼女も王族ではなかった。そうすると攫われた理由が益々わからなくなるな。その2人の繋がりがよくわからな…』
ウィルが言い終わる前にカヌアは何かに気が付いたようだった。
『名前…アリーの名前がミドルネーム以下が書き直されてたんですよね?その名前が書かれていた紙!見せて下さい!』
そう言うカヌアにウィルはすかさず紙を見せた。
そして、カヌアは呪文を唱えるように言葉を繰り返した。
(確かに…叔父様の字だわ…この名前のミドルネーム以下…ミドルネーム以下…ミドルネー…)
『シアン、マジェンタ?ん?プリンター?』
『プリンター?』
カヌアの謎の呪文にウィルは首を傾げた。
それはそうに決まっている。
これは前世のカヌアの記憶から来た言葉だからだ。
それでもお構いなしにカヌアの呪文は続いていた。
『シアン…青?マジェンタ…ピンク?赤?』
カヌアは頭の中で考えに考えた。
(ジョーヌ?ジョーヌって何よ!)
するとカヌアは本人達の顔を思い浮かべながらさらに呟いた。
『シアン青ノゥリア…マジェンタピンクアリー…ジョーヌ…キルラ様??』
すると、訳がわからないと思いながらもウィルがふとある事を口にした。
『そういえば関係あるかわからないが、アリーの髪の色はピンクっぽいような赤っぽいような色だな。それにノゥリアも普段は赤だが、暗くなると…』
『ハッ!!それです!髪の色!!本来の色はノゥリアも青!アリーは濃いピンク!そして、キルラ様は…黄色!!』
カヌアはウィルのその言葉で閃いたのだ。
(えっ!?待って待って待って!この3つの色ってまさか…)
『三原色…』
『三原色?』
カヌアが最終的に辿り着いたその言葉もウィルには呪文に聞こえた。
(あれ?物知りウィル様でも知らないのかな?)
と不思議に思いながらもカヌアは説明するように言った。
『三原色…この世の色はある3つの色で成り立つ。つまり、その三色があれば全ての色を再現することができるんです。でもこれは色の方ですね…この3つを混ぜると黒くなる…人間の視覚の方…』
しかし、ウィルはあまりしっくり来なかったようでさらに混乱が生まれていた。
(カヌアが何を言っているのかさっぱりだ…そんな事初めて知ったぞ?その知識は一体どこから?)
もちろん前世の記憶である。
この世界には三原色の概念がないようだった。
いや、まだないのだけかもしれないが…
カヌアが自分の中の知識をフル稼働して引き出しから引っ張り出す。
(待てよ?三原色にはもうひとつ…)
『光の三原色…ん?光…あの、武道大会でいらしたキルラ様以外の各国の殿下のお名前教えてもらってもよろしいですか?』
カヌアの突然の要求にウィルは疑問に思いながらも、素早くクーロスが書き記した紙の裏に名前を書き始めた。
そして、それをカヌアに見せるとみるみるうちに顔色が変わった。
『やっぱり!!この御三方のミドルネームにも色が入ってますね!
ルヒト・ブルー・スプルミア
レアス、リアス・ルージュ・サルミニア
エダリヤ・ヴェール・オメオクス
ルヒト様はブルーで青。
レアス様、リアス様はルージュで、赤。
あぁ…でもエダリヤ様のヴェール…は…三原色で言うと緑なんですが…本当かどうかの確信が…』
カヌアはまた情報不足で壁にぶち当たった。
『ひとついいか?この3人は全員髪の色が黒だよな?』
ウィルのその言葉にカヌアは考えに耽った。
(確かに…でも何か見たんだよな…見た…何かを…)
カヌアが下を向いたまま思い悩んでいると、ウィルが顔を覗かせてカヌアを見つめてきた。
(ちかっ!近いよ!そんなに見つめな…いで……あ!)
そして、カヌアはそのウィルの顔を両手で覆い間近でその瞳を見ながら言った。
『瞳!ウィル様瞳です!彼らの瞳の色がその名と同じです!ルヒト様は綺麗な青い瞳。レアス様リアス様のお2人はルビーのような赤。そして、エダリヤ様は…寝ぼけていた状態でしたが、確かに緑でした!』
(寝ぼけた状態…?っ!あの時か!!エダリヤめ…次やったら許さない…それにしてもカヌアは各国の殿下達とそんな近くで見つめあっていたのか…?)
いつどんな時でも嫉妬してしまうウィル。
しかし、カヌアがいつも困っているときに、助けになってくれているのは他でもないウィルであった。
本人達は自覚がないようだが…
『確かにそう言われればそんなような色の瞳だったような…』
ウィルが曖昧に返事をしようとしたら、カヌアは自信があるように応えた。
『絶対そうです!間違いありません!私全員を間近で見ましたから』
『間近で…』
ウィルは複雑な顔をしている。
『その光の三原色の3つの色は、重ねて明るいところにかざすと白く見えるんです。恐らく開会式のあの光の道は各殿下達の持っていた王家の証が重なり合った事で、光となり道ができたのかと!でもその道が何を示してたのか…ん?』
カヌアは押収した物の中から、その本が何故か気になった。
『トゥバンの遺跡の本?』
そしてそれを指差すと、思い出したかのようにウィルが言った。
『確か、あの時の光の道は東のトゥバンの丘の方に向
かってるって話したよな?』
『はい…そしてその後一度2人で行きましたよね?その…皆様の前で私が婚約者だと嘘をつかれて…丘に逃亡した時ですよね?』
苦い思い出が2人に蘇る。
しかしすぐにウィルの顔は微笑みに変わって言った。
『だが、その時の嘘が本当にその通りになったな?いやそもそも嘘にするつもりはなかったのだが…』
今度は2人の顔が赤くなっていった。
(なんか…話が逸れてる気が…)
と側で聞いていたカブラは2人を見ながら思った。
『そうですね、そこで何が起こったんでしたっけ?』
カブラは覚えてはいたが話を戻すために訊ねた。
それに対しカヌアは気を取り直して応えた。
『遺跡の隙間から光が漏れてて開けようと思っても開け方がわからず、色々試していたりしたら突然倒れて…その後…あの地下の夢を…見て…本当に地下はあって…そこに前に夢で見た二重螺旋の本が…あれ?なんか…引っかかりますね…なんでこんなに繋がってるんでしょう?まるでそうなるように…誰かが…?』
カヌアは少し怖くなってきて不安そうにした。
ウィルはカヌアの肩を摩りながら言った。
『誰かが俺達を導いている…ということか…確かにすべてがその通りになっている。誰が何のために?』
2人が少し行き詰まるようにしていたので、少し機転を利かせたカブラがある物を指差した。
『では、この本は?クーロス殿が遺跡を調べるために?』
『トゥバンの遺跡の本…ん?そこに3人はいるんじゃ!?』
カヌアがそう言ったが、ウィルは既に行動を起こしていたようで首を横に振った。
『いや、俺もそう思ってすぐに調べさせに行かせたが誰もいなかった。それに遺跡にも特に異変はなかったと報告を受けている』
『そうですか…でも何かしら関係がありますよね?…トゥバンの遺跡についての本…なんてあったんですね…ものすんごく薄いですけど…この本、既にお読みになりました?』
とカヌアはウィルに聞いた。
『あぁ、ひと通り目を通したが、この薄さだ。特に参考になる事は書いてなかったな』
カヌアはこの薄さならすぐ読めると思い、その本を開いてみた。
しかし、カヌアは秒でその本を閉じた。
ウィルとカブラは首を傾げながらその様子を見ていた。
カヌアは2人の顔を見てニコッとする。
『………』
そして何故か遠くを見た。
視点が合っていない。
(??え?何語?なんて書いてあるのか全っ然わからない…あれ?この世界って言語全部一緒なんじゃないの?え?何語??ウィル様これ読んだって言ってたよね?ん?この国の人は読めるのかな?読めないと怪しまれたりするかな?)
そんな様子のおかしいカヌアを見て、ウィルは心配して声を掛けた。
『カヌアどうした?』
『あ、えぇと…その、ここはちょっと暗くて目によろしくないので、あか、明るい所で読みたいのですが…少しお借りしても?』
カヌアはとりあえずこの場を凌ごうと思った。
『…?あぁもちろん構わないが…その本に書いてあるのは…』
ウィルが何やら言おうとしたが、カヌアは少し焦っていたので、すぐ様お礼を言ってその本を閉まった。
『あっありがとうございますっ!部屋に戻ったらじっくり読みますね!』
(じっくり読む程の内容ではないのだが…まぁカヌアがそう言うんなら…)
とウィルは思い、話を戻した。
『その開会式での話だが、本来はキルラもかざすはずだった王家の証…しかし、その証が奪われた事によって、開会式では重ねることができなかった。いや、できないようにしたんじゃないか?キルラは大会の前に何者かに王家の証を奪われている…それは開会式の誓いの際に3色にする必要があったからじゃないのか…?それによって光の道を出すことができた。‘光‘の三原色によってな。そして‘何か‘を示した。その‘何か‘がトゥバンの遺跡だとは思うのだが、確証がないのが現状だ…そして違う方の‘色‘の三原色では一体何をしようとしてるんだ?』
『光の道を示すために…キルラ様の証を先に奪った…確かに、誓いの際にそれがなければ必然的に‘光‘の方の3色だけが重なり合う事になりますね。でも、‘色‘の方の3色はもし重なったとしたら何が起こるのか…わかりませんが…何かものすごく嫌な予感がします。あのウィル様!タラゼドさんからお借りした二重螺旋の本をもう一度見たいです!結局こっちに戻ってきてからバタバタしてて一度も見れていないですよね。できれば一緒に…見たいです…』
(というか、本の事すっかり忘れてたんだけど…しかも1人で読んでもわけわからないし、解説付きで是非お願いしたい…)
そう思いながらカヌアはウィルにお願いをした。
『あぁもちろんだ。それなら王宮に戻って共に見よう!あと何点か気になっているものがあるんだが、これは一体何を示しているかわかるか?』
ウィルはそう言うと、テーブルに何度も掘られた溝を指差した。
『なんでしょう?カクカクしてますね?文字とかではなさそうですし…なんでしょう?同じ長さの線で色々な方向に伸びてる…?ここなんて何度も何度もなぞられてますね…この深い溝はここまでは同じで…でも途中からバラバラの方向に…途中までは何かを囲んでる?あぁ〜わかりませんね!』
カヌアはもう頭がパンクしそうで潔く諦めたくなった。
『よし!紙に書き写して帰って考えましょう!』
『そうだな…』
ウィルがカヌアを思って同意してくれた。
『ではカヌア様この剣は?見覚えとかありませんか?これにも何か意味があるのでしょうか?』
とカブラが袋に入った剣を取り出して質問を投げる。
カヌアはそれを見ても何もピンと来なかった。
『んー、古い剣ですね?手入れはしてあるようですけど、刃こぼれもしてますし、剣としての意味をもうなさなさそうですね…でもなんだかすごく大切にされてるように見えます』
カヌアのその答えに、やはり見覚えがないと感じたウィル達は、王宮へと戻る準備をした。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
突っ走って書いているので、何かお気づきの点があればコメントの方よろしくお願いします。
大変恐縮ですが、評価を頂けると今後の励みになります。