episode116〜愛し〜
初連載の続きです。なんとか毎日投稿出来てます。ゆるく読んでいただければと思います。
ザジロス・ラ・トラストルの悪行を暴き、更には隔離されていたアリーを救出した。
その騒動が終わり、ウィル一行は馬に乗って王宮へと戻ろうとしていた。
するとカヌアの腕がウィルを引き止めた。
レグに報告しに、トゥバンの丘へ行きたいと願い申したのだ。
ウィルはもちろんと頷き、これから共に行くことになった。
カヌアはウィルと共に、彼の愛馬アルに跨った。
一応カブラもついて来てはいたが、丘の入り口に差し掛かると、ここからは二人で行きたいとウィルが言ったため、待つこととなった。
空が段々と夕暮れをさす。
太陽の橙色と夜の深い青色が混ざり合って、美しい情景を成す。
カヌア達は、レグの眠るその墓石に手を合わせた。
(レグと私を引き離した奴は…捕まえたからね。レグ…会いたいよ)
カヌアは目に涙を浮かべて、心の中でそう話しかけた。
そんなカヌアを見つめるその目は、いつも以上に優しかった。
そして二人が帰ろうとした時には、既に辺りは真っ暗であった。
すると突然、ウィルの背中に力強くも幸せな衝撃が走った。
その後ろを歩いていたカヌアが、後ろから抱きついたのだ。
「ウィル様!ご無礼をお許し下さい。少しだけこのまま…聞いて下さいますか?この度は本当に、ありがとうございました!アリーの事もですが…レグの件も…レグはもう帰ってはきませんが…あの子もこれで報われます。本当に…なんとお礼を言っていいか」
カヌアは感極まって涙を流していた。
そんなカヌアに、ウィルは背を向けたまま言った。
「礼か…そうだな…」
すると振り向き、ウィルはカヌアに口づけをした。
「これで…」
と言うウィルの顔が赤く染まる。
「え…?」
カヌアは驚き、更に涙が溢れた。
様々な気持ちが、涙として溢れ出ていた。
「ウィル様…こんな…こんなことされたらもう…私は勘違いしてしまいます…勘違いまっしぐらですよ!?」
そんなカヌアを見て、ウィルは言う。
「何が勘違いなんだ?」
更に顔を近づけるウィル。
「ウィル様が…私を…でもそんな…」
カヌアの言葉に甘い唇が重なる。
そしてウィルは、その涙を流している目を優しく見つめた。
「今のはお礼じゃない。俺がしたいからしている。なぜかわかるか?」
ウィルはそう言うと、またキスをした。
「言うまでやめない。もう…気づいているはずだ」
そしてまたその唇を奪う。
「ウィル様は…」
「何だ?言ってみろ」
「ウィル様は…こんな私でいいんですか?」
カヌアがそう言うと、求めている答えではないと言うふうに、更に接吻を交わす。
「私のことをその…好いてくださるのですか?」
カヌアはついにその言葉を口にした。
「そうだ…だから勘違いなんかじゃないんだ。愛してる、カヌア。ずっとお前だけを」
ウィルはカヌアの涙を拭いながら、笑って言う。
カヌアとウィルが照れたように見つめ合った。
カヌアは嬉しさと恥ずかしさで更に涙を流した。
「だからもう泣くな。カヌアからも聞きたい」
と言って力強くカヌアを抱きしめる。
「私は…私…は」
「カヌア、自分の気持ちをそのまま言えばいい。何故他人の心は視えるのに、自分の心は視えないフリをしているんだ?」
「ウィル様…私もなんです…私も愛しちゃってるんです…でも本当にいいんでしょうか…?そのこんな…」
カヌアの告白に、嬉しそうな笑みを溢すウィル。
「そうか…いいも何も…その気持ちを全て受け入れるまでだ。その……なんだっけ?」
と意地悪そうにウィルが聞く。
「愛…しちゃってます」
カヌアが恥ずかしそうにそう応えるのを、全身に受け止めながらウィルが言う。
「そう…愛しちゃってるその気持ちを全てだ」
二人の間に心地良い風が吹く。
まるでフラフィーが舞っているかのように。
レグへの報告から戻った二人の様子が、明らかにおかしいことにカブラはいち早く気が付いていた。
(ついに…やっと…とうとう…言い表せないほど長かったですね。本当におめでとうございます…ウィル様)
帰り道、泣き止んだカヌアは、ウィルとアルに跨りながら、ふと思った。
(何か行きより近い気がする…密着度が…それにしても…ずっと私だけをか…ん?)
「え!?ずっと!?っていつからですか!?」
カヌアが急に声を上げたので、ウィルは身体をビクッとさせた。
「そうだな…俺が十…三くらいの時からだとは思うが…」
ウィルが応えると、カヌアは何やら思い出すように言った。
「六年程ですね…長い…私はてっきり…」
「てっきりなんだ?」
「てっきりお兄様達のような人がタイプなのかと…」
カヌアのその言葉に、驚きと落胆な表情を浮かべたウィル。
「はぁ…何故そうなる?どこをどう見てそう思ってたんだ?」
「え?色々要素はありましたよ?そうれはもう…ふふふ」
カヌアは少し揶揄うようにウィルに言う。
「…もっと早く伝えれば良かった」
ウィルはそう言いながら、後ろからそっとカヌアの肩に顔を寄せた。
「ウィル様……あの、大好きです。へへへ」
少し照れくさそうに、歯に噛んで言うカヌア。
(大好き…大好きなのか…俺のこと…)
ウィルはその言葉を大事に耳に残しながら、とても嬉しそうに笑った。
二人は笑って手を繋ぐ。
アルに揺られるその手は、離れることはなかった。
そして、そんな夢のような出来事から一夜開け、今ウィルとカブラは地下牢へと足を運んでいた。
そこには、昨日捕らえられたザジロス・ラ・トラストルがいた。
そしてある重要事項の尋問を行っていた。
「ザジロス、これに見覚えはないか?」
そう言うカブラの手には、例の黄色い飴があった。
しかしザジロスは反応しない。
カブラは構わず続けて言う。
「まぁ、お前は恐らく ‘ない‘ と答えるだろうが…これがケーフ山脈のある場所から見つかっている。そして、最近起こっている民達の不可解な行動、これにも深く関わっているな?この黄色い飴は水に晒しても溶けない。しかし、これを口に含むと何故か溶け始め…そしてその瞬間舐めた者の意識が飛ぶようだな。その結果、人に危害を加えたり、不可解な行動に及ぶ。この飴を何故人々に渡した?何故舐めたことによって溶けると知っている?誰の指示だ!?言えっ!」
カブラが声を少し荒げた。
すると先程まで、不貞腐れてだんまりしていたザジロスであったが、急に力が抜けたように口を開いた。
「…か…らない…わからない…ワカラ…ナイ」
「ん?何だ?ザジ…ロス?」
そうカブラが声を漏らす。
ザジロスのその表情は虚無状態で、本当にわからないようだった。
(何なんだ?フラフィーの様子がおかしい。それに言動もまるで…ザジロスの意思ではないのか?)
ウィルはそう思うと、訳がわからないというような目でカブラを見た。
地下牢を出た二人は。考えながら公務室へと戻った。
「一体どうなっている?まるで、本当に覚えていないような口ぶりだったな?」
ウィルがそう言うと、カブラも険しい顔をしながら応えた。
「そうですね…裏で誰かが…いや、何かがかもしれませんが、何か起こしている…そのように感じました。もう少し調べてみましょう」
「あぁ、早急に頼む。それと、サラの件は?」
「はい。正式に確定致しました」
「そうか…それは…きっと喜ぶぞ。早くその顔が見たいな」
ここまで読んで頂きありがとうございました!
突っ走って書いているので、何かお気づきの点があればコメントの方よろしくお願いします。
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