episode115〜救出劇〜
初連載の続きです。なんとか毎日投稿出来てます。ゆるく読んでいただければと思います。
カヌアは今、トラストル家の家中の扉という扉を開けていた。
「アリー!!どこ!?」
二階の扉を手当たり次第開けていく。
「こっちの部屋にはいない!」
そう言うのは、カヌアを追いかけて来たサラだった。
カヌアはこの時、サラがついて来たことを初めて知った。
「えっ!?サラ!?何でここに…!?」
「話は後よ!カヌア!まずはアリーを!」
サラのその言葉に、カヌアは深く頷いた。
そして、二階までの全ての部屋を探したがアリーの姿はなかった。
この屋敷は三階まである。
二人は次に三階へと移動し、また全ての扉を開いた。
それでもアリーの姿はどこにもなかった。
変に思ったカヌアは、息を整えながら一旦考えた。
(おかしい…どこにもいない…鍵がかかってる扉は無かったしな……待って…あれは…二階にしては少し高いところに…ハッ!まさか…二階と三階の間!?)
そして、もう一度、三階の全ての扉を開けた。
今度は部屋の床という床を見ながら。
「ここだ…!」
その部屋の床には、ハッチらしき取っ手があった。
カヌアはその扉を開ける。
すると中は薄暗く、しかし飛び降りるには深い場所があった。
そして、上を見上げる変わり果てたアリーの姿があった。
「アリー!アリーッ!?大丈夫!?いや!大丈夫なはずないっ!今出してあげるからね!」
とカヌアが叫んで、降りようとした。
しかし、本来ハッチにはついてるはずのハシゴのが見当たらなかったのだ。
「サラ!私、中に入るから、何かハシゴのような物を持って来てくれないっ!?」
カヌアがそう言うと、サラは頷いてすぐに探しに行った。
ハッチの中にいたアリーに少し避けてもらい、カヌアは中へと飛び降りた。
「あぁ…アリーなんて…なんてこんな酷いこと…」
カヌアは嘆き、ひどく悲しんだ。
薄暗くてもわかるそのアリーの身体には、アザが無数に見えたのだ。
そして、優しくぎゅうっとアリーを抱きしめる。
「カヌア…助けて…っく…くれて…ありっ」
そうアリーが泣きながら言う姿を見て、カヌアは胸が死ぬほど苦しくなった。
「大丈夫…もう…大丈夫だから…怖かったよね…」
すると、上からガタッという音と共に、サラが顔を出した。
ハシゴをかけてくれたのだ。
「カヌア!アリー!あったよ!ゆっくり登って!」
サラがそう言うと、アリーから先に登らせた。
サラの優しく伸びた手に、アリーは必死に掴まる。
カヌアもすぐ様上に登ると、明るいその部屋ではハッキリと見えた。
「アリー…そのアザ…なんて酷い…」
その姿を目の当たりにしたサラが、アリーの顔を優しく撫でながら言う。
咽び泣くアリー。
いつもの明るいアリーとは違うその姿に、カヌア達は悲痛の思いが隠しきれなかった。
怒りと悲しみ。
何ともいえないこの感情を抑えることは出来なかった。
二人はアリーのその痛々しい傷ついた身体を、心ごと優しく抱きしめた。
「あり…がとう…」
アリーがその泣き声から、小さく声を絞り出した。
(許せない。絶対に…女の子の身体を…アリーの身体を…こんなにして…あの男に地獄を見せてやる)
カヌアはそう思うと、少し落ち着いたアリーに言った。
「燃やす?とりあえずこの家を燃やしちゃう?」
カヌアのその突拍子もない言葉に、少し笑ってアリーは言った。
「ふ…やめてねカヌア。家に罪はないよ?家具にも洋服にもね」
「確かに…物に罪はないよね。その職人さんが一生懸命作っ…」
とカヌアが大人気ない言い方をしたなと反省しようとしたら、アリーがすかさず被せて言った。
「大丈夫…全て売って金にするから」
「あ…うん、頼もしいね!」
カヌアがそう言うと、三人はフッと笑う。
「それにしてもほんと無事で良かった!いや、完全に無事ではないんだけども…」
サラがそう言うと、三人は再び抱き合った。
今度は力一杯。
それぞれの存在を確かめ合うように。
そして、アリーの身体を労わりながら外に出るカヌア達。
カヌアはトラストル家の屋敷主人である、ザジロスの顔を見た瞬間、一気に怒りが舞い戻った。
アリーをサラにお願いし、勢いよくザジロスの前に立ちはだかるカヌア。
「お前に一生分の地獄を味わわせてやる!いや、ここで今すぐあの世に逝ってもいいんだぞ?」
ザジロスの胸ぐらを掴み、今にも殴り倒しそうな勢いで言った。
それを見ていたウィルは、色んな意味でヤバいと思いそれを制した。
「カ、カヌア…それは、今はやめとけ。これから全ての悪行の照らし合わせもする。それに例の事も確認したいしな。だが安心しろ。その代わり俺が地獄を見せてやる。カヌアにここであの世に逝かせて貰えばよかったと後悔するほどにな」
ウィルは悪魔のような笑い方をして言った。
そんな二人の姿を見てザジロスは思った。
(何を…言っているんだ?)
そして、そんな二人を見てカブラは言った。
「お二人共落ち着いて下さい。まだ話は終わっておりません」
二人は少し冷静を取り戻しつつ、ザジロスから離れた。
目は睨んだままだったが。
そして、ウィルが思い出すように言った。
悪魔の口調のままで。
「それにしても愉快だったな。お前が子爵から急に伯爵へと上がった時のあの顔。実に愉快だった。そんなのどう考えたって、泳がせていたに決まっているだろう?」
(口調が…悪人みたい…横暴ウィル様だ…良いかも…)
カヌアがそう思う中、慌て出して言うザジロス。
「なっ!だからなんだと言うんだ!?実際に実力で上に上がったのはこの私だ!さっきも言ったようにこの国の貿易は…」
すると更に後ろの方から、美しい髪を帯びた人物が現れた。
「え?リュカ様…?」
カヌアがそう呟くと、リュカは男とは思えぬその美しい顔で微笑んだ。
「私が全ておさえておりますので。安心して檻に入っていただいてかまいませんよ?ザジロス殿。ふふふ」
リュカがそう言うと、不適な笑みを浮かべた。
(え!?リュカ様が!?いつの間に…商人の当主に?確かにこの美貌なら…しかし、客層が分かれそうだな…いや、両方イケるか)
カヌアは驚いてはいたが、妙に納得していた。
「そういうことだザジロス。お役ごめんだな?」
そうウィルが言うと、ザジロスは肩を盛大に落とした。
そして、ザジロスは抵抗もなく取り押さえられた。
トラストル家に仕えていた全ての護衛、使用人もだ。
ザジロスの悪行の他に、アリーの件も含め事情聴取をするためだ。
全員黒だった事は後に判明した。
王宮へと戻ろうと、愛馬に乗ろうとしたウィルを引き止めてカヌアは言った。
「あのッ!ウィル様!?アリーはアリーはどうなるのでしょうか!?この家の者は全て追放になるんでしょうか…?」
「そうだな。爵位は剥奪されるだろうな…」
正直に言うウィル。
それを聞いてカヌアは俯く。
「……」
「ふ…案ずるな。アリーは元々この家の血縁者ではない。なんならこの家の被害者でもあるからな。彼女はこの家の繁栄のために半ば強引に養子に入れられたんだ。それにトラストル家の行為には一切手を染めてないこともちゃんと調べがついている」
そう言うウィルの言葉を、未だ掴めていないカヌアは首を傾げていた。
そんなカヌアを見て、優しく言う。
「アリー・ラ・トラストルの真の名はアリー・マジェンタ・プルグスだ。爵位は剥奪されるが、それだけだ」
「アリーの本当の名…マジェンタ・プルグスか…ん?えっ!?それ…だけ?」
カヌアは驚いた。
「あぁ、それだけだ。だから安心しろ」
ウィルのその言葉を聞いてカヌアは涙を浮かべた。
「あの!ありがとうございますっ!」
カヌアがそう言うと、微笑むウィル。
「あとは本人がこれからどうするかだが…」
しかし、ウィルのその言葉を待たずとして、カヌアは既にアリーの元に走って行ってしまっていた。
ウィルは遠くから、三人が抱き合い泣いているのを微笑みながら見ていた。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
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