episode112〜暗闇の中の〜
初連載の続きです。なんとか毎日投稿出来てます。ゆるく読んでいただければと思います。
翌日になり、午前中はウィルが急ぎの公務が入ったために、午後一番で地下へ行くこととなった。
昼食後、ランプを手に持つカブラを先頭にその場所へ行くと、ウィルが言っていた地下への扉らしき壁があった。
「これですね。取っ手がない扉というのは…これが本当にただの壁で、近くに本物の入り口があるとしたら…」
カヌアは辺りを見渡しながら言う。
しかしそれらしきものは見当たらなかった。
「見当たらないな…どれがそうなのか見当もつかない…何か目印でもあれば良いんだが…」
そうウィルが言うと、更に三人は手当たりしだい、周辺を触ったり叩いたり擦ったりと、ありとあらゆることを試してみた。
しかし、やはり何も手掛かりは得られなかった。
「ダメだな…一度上へ戻って、考えよう」
ウィルが肩を落としながらそう言うと、皆は頷いた。
「そうですね。それに書庫室にもしかしたら、何か手がかりになるような資料があるかもしれないですし…戻ったら少し調べてみます」
カブラがそう言うと、カヌアは目を輝かせた。
「書庫室!私も一緒に行って調べますね!」
そして、地下から出て王宮内に戻る。
しかし何かが変だ。
カヌアは、周りの様子がおかしい事に気が付いた。
(え……?何でこんなに真っ暗なの?地下に行ってからそんなに時間が経ってないはず…てかまだ真っ昼間だよ!?)
カヌアは思いながら、ウィル達の方を向いて言った。
「ウィル様…っ!?えっ!?ウィル様!?カブラ様っ!?どこにいらっしゃいますか!?返事をして下さい!」
あろうことか先程まで近くにいたはずの、二人の姿が見えなくなっていたのだ。
見えないどころではない。
気配すらしない。
王宮内のどこにも人の…生きてるもの全ての気配が全くしないのだ。
カヌアは超絶不安の中、真っ暗闇の王宮内を恐る恐る徘徊した。
(コワイコワイコワイ…何なのぉ…怖いよぅ…とりあえず部屋に戻ればリリィがいるはず…)
すると左の方から、小さな光がチカチカとしているのが見えた。
(ん?誰かいるのかな?あっちは…庭園…クロノスの塔の方…)
カヌアはその点滅する光の方へと、震える足を進めた。
(やっぱり、クロノスの塔の下の部分が点滅してる…一体誰が…)
と思いながらも更に近づくカヌア。
カヌアはその点滅している場所を見て驚いた。
そこには ‘誰が‘ ではなく、‘蛇‘ がいたのである。
その蛇はチカチカとする光を口に咥え、上半身を高く起こしながらこちらを見ていた。
(え?蛇!?噛まれるかな?)
と思いながらも話し相手がいないので、カヌアはその蛇に声をかけた。
「こぉんにちわぁ…えへへ、元気?こんな所でどうしたのかなぁ?一人?何持ってるの?お姉さんに見せてごらん?」
とその怪しすぎる誘拐犯みたいな喋り方で、会話を試みた。
すると、その蛇はわかっているのか偶然なのか、その口に咥えていたものをゆっくりとカヌアの足元に置いた。
カヌアはそれを受け取るとソレを観察した。
「何だ?これ?初めて見るような…いや…どこかで見たことあるような……思い出せない…何だろ?何でっしゃろ?これは一体…?」
カヌアはそう言いながら、視線を戻すとそこには既に蛇の姿はなかった。
そして周りにあったはずの庭園の花や草木、クロノスの塔までも無くなっていた。
辺りは本当に真っ暗闇になっていたのだ。
カヌアは鼓動が止まったとさえ感じた。
その瞬間、カブラの声が大きくはっきりと聞こえた。
「カヌア様っ!!」
その声と共に目が覚めるカヌア。
目を大きく見開いて起き上がる。
そこは先程までいた地下だった。
目の前には例の扉がある。
(あれ…?庭にいたはずじゃ…)
カヌアは状況が飲み込めずにいた。
「カヌア様!ご無事ですか!?体調は!?」
カブラが非常に慌てているのがわかる。
それと同じタイミングで、ウィルも起き上がったようだった。
カブラが同じように声をかけている。
ウィルもカヌアと同様に、その場に倒れていたらしい。
「お二人共!急に倒れられたのですよ…一体何があったんですか!?どこか痛みなどはありませんか!?」
カブラが焦ったように問いかける。
しかし二人は茫然としたままだ。
記憶がはっきりし過ぎていて、どこから現実ではなかったのか、把握できずにいた。
「また、何か夢でも…?」
カブラのその言葉を聞いて、二人はハッとした。
そうである。
以前もトゥバンの丘の遺跡で同じ様なことがあり、二人は同時に似た夢を見ていたのである。
その時も倒れた二人を発見したのは、カブラであった。
すると、ウィルは何やら自分の手に違和感があるのに気が付いた。
その手を開いて見る。
ウィルがその持っていたモノに、カヌアは気が付き声を上げた。
「ウィル様!?もしかしてクロノスの塔で何か受け取りました?その…蛇から」
ウィルは驚いた顔をして深く頷いた。
そしてカヌアは自身の右手も、恐る恐る見てみた。
ウィルと同じようなモノを握っていたのだ。
「あれは夢…だったんですよね…なのに何故…?私も…これを?」
と言ってウィルに見せる。
「あれは…何だったんだ…あまりにもはっきりしていて…」
ウィルがそう言うと、二人はその二つのモノを見比べてみた。
「これ、全く同じ形ではないですね…歪過ぎてよくわからないですが…何だかパズルみたい…」
とカヌアは言うと、その様子が気になっていたカブラが強く二人を促した。
「お二人共、その夢が気になるのはわかりますが、とりあえず上に戻って休みましょう!さぁ!ウィル様も!カヌア様も!ゆっくりでいいので急いで部屋へと行きましょう!」
(え?どっち?どっち?ゆっくりでいいの?早くしなきゃなの?とにかく上へ戻るか)
カヌアはそう思い、さっきも登ったような気がする、その地下の階段に足をかけた。
そうしてウィルの自室へと戻った三人は、カブラと侍医の確認のもと、怪我などの異常がないか一通り診てもらった。
カブラ以外の従者が全員部屋から出ると、ウィルが深呼吸をしてから口を開いた。
「カヌア、落ち着いたらでいい。何を見たのか、お互い確認をしよう」
(この夢には必ず意味がある。以前夢で見た光景が地下に実際にあったように…それに起きた時に手にしていたモノが…何なのかも気になる)
ウィルが神妙な面持ちでいると、カヌアが少し微笑んで言った。
「私なら大丈夫です。記憶が新しいうちに確認しましょう」
そして二人は、お互いの見た夢なのかもわからない、その不思議な出来事を確認しあった。
今回は以前の様な、微妙に違うところがある夢ではなかった。
全く同じだったのだ。
「全て同じだな…」
ウィルがそう言うと、カヌアも頷いた。
「はい…そう…ですね」
「ん?他に何かあったのか?」
カヌアの煮え切らない返事に、ウィルは問いかけた。
それに対しカヌアは、ゆっくり息を吐きながら言う。
「いえ…えと…話した内容は驚くほど同じでした。しかし…」
段々と震えが出て来たその手を、ウィルはゆっくりと優しく包んでくれた。
カヌアは今度は大きく深呼吸をして、口を開いた。
「あの夢の中はとても暗く…そこには生きているモノが感じられませんでした。怖くて怖くて…ウィル様もカブラ様もいらっしゃらなくて…あんな所に一人でいたくなかった。でもとりあえず前に進まなきゃと思い…その蛇と出会って…でも不思議と恐怖は感じず、なんだか知っているような雰囲気で…少し安心してしまいました。でもアレを蛇から受け取った後に…急に景色さえもなくなって、本当の…本物の闇に入ってしまったようで…」
ここまで言うと、カヌアはぎゅうと唇を噛んだ。
そんなカヌアを見て居た堪れなくなったウィルは、力強くその震える身体を抱きしめた。
同じ体験をしたウィルは一番の理解者であろう。
カブラがゆっくりとその場から離れる。
どのくらいの時が過ぎたのか。
カヌアは落ち着くと、ゆっくり口を開いた。
「あの…私は…ウィル様の半分なんですよね?」
「あぁ、そうみたいだな、いや、そうだ」
ウィルはそれに応える。
「それなら…私にもウィル様の半分を下さい」
カヌアは自分でも何を言っているのか分からなかった。
しかし、それが今の気持ちであった。
「え?」
ウィルが少しその意図が読めないような声を漏らした。
しかしカヌアは続ける。
カヌアは涙目になりながら、真剣な顔をして言った。
「そして…私の半分をもらって下さい。今のように同じ景色を見たら分かり合えましたよね。本当に繋がっているんじゃないかと…そう感じました。半分同士にすることができれば、悲しみも痛みも半分になります。喜びなら分かち合えます。今のこの辛さを…半分もらって頂けますか?もちろんウィル様がお辛い時は…」
「あぁ。もちろんだ」
ウィルはその言葉を受け止め、全てを捧げると胸に誓った
。
そして力強く、そして優しく抱きしめたその身体を、絶対に離さないと…
ここまで読んで頂きありがとうございました!
突っ走って書いているので、何かお気づきの点があればコメントの方よろしくお願いします。
大変恐縮ですが、評価を頂けると今後の励みになります。