episode110〜新たなる被害〜
初連載の続きです。なんとか毎日投稿出来てます。ゆるく読んでいただければと思います。
翌日、まだ暗い中、ウィルが眠っているのを確認してから部屋を出たカヌア。
そして自分のある違和感に気が付いた。
全身に及ぶ、筋肉痛に見舞われていたのだ。
(う〜ん、この感覚久しぶり…)
そうカヌアは思いながらも、朝の支度を別室で終えた。
昨日地下へと向かった一行は、帰りの階段のせいで身体中が痛過ぎて動きが変になっていた。
ただその中でもある一名は、違う意味で動きが変だった。
主人公のカヌアだ。
カヌアは鋭い痛みは嫌いだが、筋肉痛の痛みだけは大好物であった。
(あぁなんて心地よい痛み…)
そう思いながら、固くなっている筋肉達をいじめていた。
カヌア達は昼には王宮へと戻っていたので、その頃には朝よりも筋肉の痛みが増していた。
(誰かにココ押してもらいたいなー)
すると部屋へと来た、王宮侍女のリリィをターゲットにしたカヌア。
「ねぇリリィ、ここ押してくれない?」
と不審な笑みを不思議に思いながらも、純粋なリリィはカヌアの言われるがままに、指で優しく押してあげた。
「え、と、こう、ですか?」
「うん!あぁいいねいいね気持ちいい…う〜ん。最高〜」
リリィの表情は、若干引いてきていた。
しかし、カヌアの頼みなので断ることもなく、その筋肉達をピンポイントで押してあげる。
「あ、もう少し強くてもいいよ。次ここねぇ。そうそう…上手、気持ちぃ…いいよいいよぉ」
カヌアの奇妙な声が部屋中に響き渡る。
すると、突然息を切らしたウィルが、勢いよく部屋に入って来た。
「カヌアっ!!一体な、にを…え?リリィか?ん?」
その言葉に驚いたカヌアは、動揺して言った。
「ど、どうしたのですか?ウィル様!何か事件でも??」
後ろでカブラが笑いを堪えているのがわかる。
その隣のフラフィーが笑い転げている。
「いや、何だか、紛らわしい声が聞こえた、ような…」
ウィルも勘違いと認識したのか、気まずい声で言う。
「ん?えぇと、昨日のおかげで筋肉痛になれたので、今リリィにそこを押してもらってたんですよ。気持ちくてつい…へへ」
そんな気も知らないカヌアは、呑気にそう応えた。
(おかげで?気持ちいいのか?カヌアはこれが?いいのか?それにしても良かった…ほんと)
そう思うウィルに、更なる困惑が舞い込む。
「あ!ウィル様の方が力があるかも!」
と言いながらおもむろにウィルへと近づいたカヌア。
ウィルは不思議な顔をして、カヌアを見つめていた。
「ウィル様、ここ押してみてください。ここです、ここ」
と言ってカヌアが指差したのは、大腿の裏であった。
ウィルは手を伸ばそうとした。
しかしすかさずカブラが止めに入ったのだ。
「カヌア様…一応…この国の殿下であらせられますので…そこは我慢を…」
(あ…調子に乗りすぎた)
カヌアは押してもらいたい欲望が漏れすぎて、立場を忘れていた。
「ももももも申し訳ございませんっ!殿下にこのようなこと…」
カヌアは必死に謝罪をした。
「いや、俺は別にむしろ、全然かまわ…」
キャーーーーッ!
すると外から突然、女性の叫び声が聞こえた。
何事かと思いながら、カヌア達はバルコニーへと急いで出た。
そこには女性の腕を掴んでいる男の姿があった。
(あれは…)
カヌアはその女性に気が付いた。
「ニーナ様っ!」
そうカブラが叫んだと同時に、カヌアが飛び降りた。
「なっ!!ここは二階だぞ!?」
ウィルが驚いて言った。
「カヌアッ!無茶はっ…!」
するに決まっている。
ウィルもそこから飛び降りようとしたが、カブラがそれを制した。
「チッ!急ぐぞカブラッ」
と言って、ウィルは正規のルートで下の中庭へと向かった。
ウィル達が現場に到着した時には、既に事が済んでいた。
というのは、その男はカヌアの手によって撃沈していたからだ。
そしてワイムがその男の身柄を拘束していた。
「カヌア!ニーナ!大事ないか!?」
「お兄様っ!!」
泣きながらニーナは、カヌアにしがみついていた。
「ニーナ様はご無事です。しかし、強く手首を握られたようで、少々赤くなっております」
カヌアはその痛々しい手首を見ながら言った。
「カブラ…ニーナを…」
その言葉に、カブラはそっとニーナを連れて、王宮の中へと入って行った。
ウィルがその男の方へと近寄る。
「この者は…?衛兵か?しかし、何だか様子が変だな」
ウィルがそう聞くと、カヌアが応えた。
「はい…この者から虚無感を感じますね…何だかあの時と同じような…」
(民達が穴を塞いでた時か…)
ウィルも感じていた。
あの日と同じ様な男の異様な表情を。
そして、その男のフラフィーが黒くなっているのにも気が付いていた。
「それに…この男…」
カヌアが言いかけると、拘束されている身体を解こうと大きく抵抗し始めた。
しかし変なことに無言だ。
「クッ…」
ワイムが声を漏らす。
(なんて力だ…)
その状態を感じたカヌアは、おもむろにその男にまたがった。
そして一発、頬に拳をお見舞いしてやった。
(うわぁ…)
そう思ったのはワイムであった。
しかし、ウィルは違った。
(なんてことだ…カヌアにまたがられている…)
非常に羨ましがっていた。
こんな状況でもウィルの脳内メーカーは、九割以上がカヌアであった。
するとその男の口から何やら出てきた。
その瞬間、男の意識が戻った。
「何だお前は…っ!?う…身体が痛い…え?殿下?わ…たしは…」
(フラフィーが白く戻ってる…)
そう言う衛兵の男に、ウィルは言った。
「もう大丈夫だ。離してやれワイム」
ワイムはその言葉通りその手を緩めて、男の拘束を外した。
カヌアは、その男の口から出た物を拾った。
(ん?何か出たな…?飴か?え?これって…)
カヌアはそれを持つと、空にかざした。
(やっぱり!でもなんかベトベトする…おぇ)
カヌアは何かに気が付いたのだが、若干嫌な気分になった。
「カヌア!どうした?」
そうウィルが聞くと、カヌアはつまんでいたそれを見せた。
「ウィル様、この男の口からこんな物が…」
「これは、ケーフ山脈にあったあの黄色い鉱石?なぜこいつの口から?」
やはり見た目だけですぐにわかったのか、ウィルはカヌアと同じことを言った。
カヌアはその黄色い石の匂いを、意を決して嗅いでみた。
(…甘い香り?あの時はそんな香りしなかったような…おぇ)
「ウィル様、おそらくですが…これは鉱石ではなさそうです」
そうカヌアが感じたことを言うと、ウィルは困惑したように聞き返す。
「ん?どう言うことだ?」
「触るとわかりますが、ベタつきがあります。それに匂いも…甘い香りのような…?」
「何!?それは誠か?」
と言って触ろうとするウィル。
しかし咄嗟にカヌアがその手をかわした。
「汚いので何かで突いたほうが…」
そう言うとカヌアは、その辺の草を摘みウィルに渡した。
「確かに…ベタつてるな。甘い香りもほのかにする」
ウィルはその奇妙な物に、更なる謎が深まっていた。
(ロキはもしかしてこの匂いを嗅いでたのかな?)
カヌアはそう思い、衛兵の男に聞いた。
「なぜこの黄色の物質を口に含んでいた?」
「それは…確か。都の商人から買い付けをした時に、疲れているならこれを口に含むと良いと…言われてもらった物です。先程それを口に含んだ途端に…そこから記憶がございません…」
(うーん、嘘はついてなさそうだなぁ)
カヌアはフラフィーの様子を見ながら思う。
そして衛兵のその言葉に、ウィルがすぐに反応した。
「それは、トラストル家の商人ではなかったか?」
「はい、おっしゃる通りです。あぁ私は…私はなんてことを…」
衛兵の男は嘆く。
(これはもう…潮時だな、踏み込むか)
ウィルはある決意をした。
そして衛兵の男を庇護するように言う。
「大丈夫だ。お前の意思でないことはわかっている。だが一応形として、処分は下るだろう。まぁ大したことはない、軽い物だから安心しろ」
その言葉にホッとする衛兵の男。
それを見てカヌアも安心して、思い立ったように言う。
「ウィル様、これから私の屋敷に行きましょう!ロキに話を…聞きに行くために」
「あぁそうだな…しかしその前に少し確認したいことがある。それが終わるまで待っていてくれるか?」
その言葉にカヌアが頷くと、ウィルは王宮へと入っていった。
ウィルを見送ったカヌアは、ゆっくりとワイムへと近づきその服をそっと掴んだ。
(?)
カヌアはニコッと笑いながらその手を離すと、自室へと戻った。
ワイムは何だったんだと思いながら、その部分を見た。
(んなっ!?やられた…)
そう思った時には既に遅かった。
掴んでいたその部分は…いや、拭っていたその部分は、ベトついて太陽の光で輝いていた。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
突っ走って書いているので、何かお気づきの点があればコメントの方よろしくお願いします。
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