episode109〜出口の行方〜
初連載の続きです。なんとか毎日投稿出来てます。ゆるく読んでいただければと思います。
先程、地下から帰還したカヌア達。
時は既に真夜中だった。
一同がどうやって地上へと戻って来たのかとお思いでしょう。
それはそれは行きとは段違いの過酷さであった。
カヌア達は地下街の長老であるタラゼドから話を聞いた後、お礼を言って家を出た。
そして、地上への道までの案内をノゥリアにお願いしていた。
目の前には無数の階段の道があった。
あらゆるところにあると思われる、地上への階段だろう。
しかし、それを見たカヌア達は、ちょっとした絶望感に見舞われた。
いや、すぐに多大なる絶望へと変わった。
(え?階段!?あの滑り台でも結構降りたよね…一体これを何段登ればいいんだろ?)
そうカヌアは思いながらもノゥリアと別れを惜しみ、地上までの階段を登った。
行きはよいよい帰りは辛い…
そして、足の感覚がなくなるのではないかというくらい登り詰めると、ある出口へと出た。
その扉を開けると、藁のような物が降ってきた。
(少し狭いな…ん?何だ?臭う…)
カヌアはその出口へと身を入れた。
「ここは…」
カヌアがそう呟きながら思い出す。
(そうか、国中のいろんなところに、出入り口があるって言ってたよね…にしても…にしてもだぞ?いいのか?)
周りの皆は言葉にはしなかったものの、表情やフラフィー達に思う存分現れていた。
(なぜ…ここが出入り口?それにこんな所にあったなんて…全然気が付かなかった。でも、本当にいいの?いいのかな?私は助かるけど…運が悪ければ…ウンが…ね…ウィル様すんごい嫌な気持ちに…いや、だからこそ誰も入ろうとしないのか。あぁ…でもなぁ…)
カヌアが色んな事を気にしながら悶々と考えている中、ウィルもあることを思っていた。
(次からはここじゃないところにしてもらおう)
気持ちは同じだった。
そう思うのも無理はない。
そこは、リヴール家の厩であったのだ。
しかも馬達の体内から出る固形のアレが、ピンポイントで落ちる場所。
汗だくと厩の場所だったということもあり、臭いがかなりまとわりついてしまっている。
このまま王宮に行かせるわけには行かないと思い、カヌアはある提案をした。
「あの、ウィル様?よろしければ本日は既に夜が深いですし、私の屋敷にお泊まりになられてはいかがでしょうか?」
ウィルはその言葉にもちろん即答した。
屋敷へと入ると、寝巻き姿のエミリアが出て来た。
慌てて羽織りものをかけたのか裏表が逆だ。
「カヌアお嬢様!?一体こんな時間にどう致しました!?何か問題でも起こ…ハッ!!これは!!ウィルテンダー殿下!!急いで旦那様をお呼びして参ります!」
彼女は慌てて二階へと駆け上がった。
「あ!エミリ…ア…夜中だし、起こさなくても…すいませんウィル様。お疲れですよね…先に湯浴みへとご案内しますね」
カヌアはウィルをすぐに浴室へと案内した。
その間に、まだ起きていた三男レイルと次男フーリの部屋に行って寝巻きなどを何着か借りた。
ひと浴びしてサッパリしたウィルが応接間へと行くと、長男ロイド以外のリヴール家の全員が集まっていた。
「すまない…こんな夜中に突然来てしまい。しかも寝所を用意してもらうことになるとは…明日も早いだろう。挨拶は簡単にして皆は休んでくれ」
そう言うウィルのお言葉に甘えたリヴール家の人達。
なぜこのような事になったのかは、ウィルが湯浴みをしている間にカヌアが説明していた。
もちろん地下の事は話さずに、ケーフ山脈へと乗馬しに行っている間に迷子になったとでも適当に言ったのだ。
ワイムはキーフ山脈に置いてきた馬達と従者を呼び戻すために、一度戻ったらしい。
(ワイムっていつ寝てるんだろ?色々大変だな…今度労ってやろう)
とカヌアは哀れみの意を込めた。
そしてカヌアはウィルと入れ替わって、只今湯浴み中であった。
サッパリしたカヌアは、応接間へ行くとそこには既にウィルとカブラしか残っていなかった。
「あれ?皆は…?」
カヌアがそう言うと、カブラが先程の事を説明してくれた。
それに対し、カヌアはウィルにお礼を言った。
「お気遣いありがとうございます。カブラ様も湯浴みの方よろしかったらどうぞ。着替えはこちらをお使い下さい。ご案内致し…」
「あ、いえ。場所は先程エミリアさんから、教えていただいてますので。わたくしまでお世話になってしまいすいません。それより、ウィル様を寝室へとお願いしてもよろしいでしょうか?」
カブラは主人であるウィルを優先させた。
「はい、もちろんです。ウィル様もお疲れでしょう。こちらへ」
そう言うと、カヌアは来客用の寝室へと案内した。
「すいません。長い間来客で泊まる方なんていらっしゃらなかったもので…少し埃っぽいかもしれないです…う〜ん免疫反応とか大丈夫かな…」
カヌアはその部屋を確認しながら呟いた。
すると、ウィルはいたずらに笑って言った。
「そうだな。俺は少しそういうところが苦手でな。申し訳ないができれば別の部屋に…」
ちょっとした期待を胸に試しに言ってみたウィル。
「あら!いやぁ、そうですよね!こんな所に殿下でもあろう方を寝かせようなんて…間違ってました。それでしたら、私の部屋はいかがで…」
カヌアはそう言いかけて、何かマズイと思ったのか気まずい顔をした。
しかし、その言葉を待っていたかのように、ウィルはニヤっと笑って言った。
「そうか、そのカヌアの部屋なら大丈夫なんだな?是非案内してもらおう」
カヌアは自分が言った言葉に責任を持ち、自分の部屋へと案内した。
ウィルがカヌアの部屋に入るのは二回目だ。
大好きな人の匂いを堪能できるということもあり、その疲れているはずの足取りは非常に軽かった。
部屋に入ると、嬉しそうにウィルは言った。
「うむ、ここなら快適に眠れるな!」
(くぅ…口が滑った…)
そしてカヌアは部屋を出ようと挨拶をした。
「では、ゆっくりお休み下さいませ。わたくしは先程のお部屋で…」
と言いかけたカヌアの腕を優しく引いて、ウィルはそれを制した。
「ここはカヌアの部屋だろう…本人が自身のベッドで寝ないのはおかしい」
(いや!全っ然おかしくないですけど!?)
と思いつつもカヌアは半ば強引に、ベッドへと引きづり込まれた。
「あ、あのウィル様…本気ですか?え、と…大丈夫でしょうか…?婚約もしていないような仲なのに…このような…」
「大丈夫じゃない…限界だ」
ウィルはカヌアに顔を近づけて言った。
(えっ?何が?)
ウィルから顔を離すカヌア。
疲労と眠気と恥ずかしさで、頭が回らなくなっていた。
「それに何回も言っている…本当になってみるか…と」
ウィルはいつも肝心なところでその先へと行けない。
しかしカヌアもそれを堰き止めるように言う。
「…………困ります…」
「ふふ、そうか。それは俺も困ったな…もう俺たちは何回も一緒に寝てる仲だろう?」
ウィルの頑張りは止まらない。
(言い方ぁー!同じベッドで眠りについた仲、ね…あぁ家族が近くにいるのに…見られたら終わる…勘違いマックスで終わるぅ…)
カヌアは本当に困っていた。
頑張って言葉を選んだ。
「あの、ウィル様?いつもと広さが…ベッドの広さが全然違います…よね?」
「そうだな。とても近くに感じる…カヌアを…」
「ま、待てっ…ですからね!ウィル様!」
「待て?」
「時が…時が解決してくれるまで待てです!いいですか?待てっ…ですからね!」
その選べていない言葉を念に変えた。
ウィルは犬のような顔で、悲しみを全面に押し出していた。
(それにしてもほんと…ち、近いよぉ〜めっちゃ近くない?あ…でも…この寝巻き、フーリお兄様の匂い…落ち着く…)
と思いながらウィルの匂いを近くで嗅ぐ。
するとそれが功を奏したのか、カヌアはすぐに眠りに落ちることができた。
しかし、こんな状況で匂いを嗅がれているウィルはたまったものじゃなかった。
(今度こそヤバい…これで身体が疲れていなかったら俺はもう…理性が持たん…)
と思いながらも、ウィルも身体と脳が疲れ果てていたので、意外と早く眠りにつくことができた。
その頃湯浴みを終えたカブラは、他の来客用の寝室で身体を休めていた。
(今夜こそ既成事実でも何でも作って下さい、ウィル様…まぁ…無理でしょうけど…)
と思いながら眠りについた。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
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