episode108〜地下の真実〜
初連載の続きです。なんとか毎日投稿出来てます。ゆるく読んでいただければと思います。
カヌア達一行は、長老の自宅でありノゥリアの自宅でもあるその家に入れてもらった。
大きなテーブルがある椅子に腰をかける。
(この眼鏡、かけたまま話すのかな?)
するとまたそれを察したのか、長老であるタラゼドが気を遣ってくれた。
「少し明かりを灯しましょう。これなら眼鏡がなくとも見えやすいでしょう」
そして、ノゥリアの祖父こと長老が、ランプに明かりを灯した。
やっと周りの景色が照らされた。
その瞬間、カヌア達の目の前に一面真っ赤な壁が現れた。
カヌアは驚いて言う。
「本当に壁が赤い…!」
(すごい色…こんなのずっと見てたら頭おかしくなるよ)
カヌアはそう思いながら、周りを見渡した。
そして、更にあることに気が付き驚く。
「ノゥリア…その髪…」
そうカヌアは言うと、ノゥリアは応えた。
「ん?あぁ、この髪ですよね?今は少し明るいから、その中間に見えるんじゃないですか?若干紫っぽいかと…私、暗闇だと髪の色が青く見えるんです」
ノゥリアは普段は赤い髪が特徴であるが、少し暗い所になるとその髪の色は青い色になるようだ。
「確かにこう見ると別人に見えるねぇ」
カヌアは微笑んではいたが、心の中ではあることに気が付いていた。
(でもそれってこの壁の特徴と同じ?何で?)
すると、ウィルがその疑問を聞いてくれた。
「タラゼド殿、なぜ明暗によって色が違く見えるのですか?」
「はい。簡単にご説明致しますね。かつての王は残虐なお方で、都に降りては民を傷つけておったようです。それはもう見るに耐えないような光景で。そして、そんな行ないを民はもちろん、従者達の誰も止める術がなく困り果てておったとのこと。そのため、少しでもその民達の心を保つために、壁全体を赤く染めたそうな…それはどんなに壁に血が飛び散っても…その色をわからなくするために…」
辛そうに語るタラゼドの言葉を聞いて、その場にいた人達が顔を歪めていた。
カヌアは思わず口を開いた。
「その…ウィル様の家系ってって、そんなに残虐だったん…ですか?」
「いえ、それよりもっと前の王です」
その言葉を聞いて一同はホッとした。
そして、タラゼドが続けて言う。
「その残酷な王を絶命させるために、立ち上がったのが光の女神を宿したルネ・アルデリア家のプレヌリュヌ様です。彼女は後に新しくこのアルデリア王国を創り上げ、初代女王として生涯を全う致しました。そして、この残酷な時代の都は意図的なのか偶然なのかは分かりかねますが、地盤沈下によって沈みゆきました。その壁に使われた塗料は何か特殊な物だったらしく、地下へと沈んだ際に暗くなると青く変色するようになりました。殿下、ルネとは光という意味を持つのはご存知ですかな?」
「あぁ、知っている」
ウィルはそう言うと、タラゼドは頷いた。
「そして、その初代女王になったお方に賛同したのが、ある種族。その種族はこの地下街を棲家として生きて参りました。しかし、いまやその種族も滅びゆく運命…」
「え!?ということは長老がその生き残りなんですか?」
カヌアはその新事実に驚いて聞いた。
「いや、わしは…その初代女王に仕えてた騎士ですわ」
(騎士!?じいさん騎士やったんか!?)
更なる新事実に驚くカヌア。
そして、何かを察したようにタラゼドは言う。
「カヌアーリ嬢…先程から何やら探しているように見えますな。その仕草どこかで…」
(え…?何を…言ってるの?え?フラフィーの事を言っているのかな?)
カヌアはその鋭い言葉にドキッとしたが、話を逸らした。
「そ、れにしてもノゥリアの髪の色はなぜ…」
「…それは…またの機会にでもお話し致しましょう。それよりこの地下を探していた理由を、そろそろお聞かせ願いますかな?何かをずっと探していたとか?」
「それは…」
(う〜ん、夢の話をどう説明すればいいのか…信じてくれるとも限らないし…)
カヌアが困惑してると、ウィルが口を開いてくれた。
「タラゼド殿、最近この国の民達が不可解な行動をしてるのに、気が付いておりましたか?」
それだ!と思うカヌアはスルッと会話に入った。
「そうなんです。何だか、穴という穴…あ、街の至る所に空いてる穴をとにかく埋めようとしていたような…」
カヌアはカブラをチラッと見ながら言った。
だが、本人は気が付いていないようだ。
彼のように誤解を生まないための言い方をしたのだ。
あの時に勘違いしたのは、カヌアただ一人であったが…
一体何の誤解だか…
「そうですな。知っておりましたとも。恐らくですが、この地下の出入り口を塞ごうとしてたんじゃないですかな?」
そうタラゼドはカヌア達の欲しい答えを、そのまま言ってくれた。
「やっぱり!でも何で急に?だってこの地下街は、何百年も前からあるんですよね?」
「恐らくですが、先日の大きな地震のせいではないでしょうか?覚えてますでしょうか?あの時に一瞬、地下の扉が全て開いてしまったのです。しかしすぐに閉める作業を致しました。それでも一週間くらいはかかってしまい…それからです。怪しい族がこの辺をうろつき始めたのは…」
タラゼドは少し苦い顔をして言った。
「大きな地震…確かにありましたね。この国では珍しいから何事かと思ってたんですが…そんな事が起きてたとは…」
カヌアは地震の時を思い出しながら口にした。
(ん?この国では?)
その言葉にウィルは反応してるようだった。
(うーん…誰かが意図的に地震を起こしたのかな?でもそんな事ができる人物なんて…この世にいるの?神でもない限りは…)
カヌアがありえないだろうと思いながらも、そう考えてしまっていた。
そんな中ウィルが口を開いた。
「他の誰かが地下に行かせない…もしくは出させないために民達を操って穴を塞ごうとしたのか?」
(地震を起こして入口を開けた人物と、それを塞ごうと民を操った人物…きっと同じ人物ではないだろうな?はぁ…訳がわからなさすぎる意味不明。ん?待てよ?てことはこの地下街は…)
カヌアは悶々と考えに耽っていた。
「はい。その通りかと。そして、その塞がれそうになった穴という穴から繋がって、グランシャリオの都全体の地下が全て街になっているのです」
(その言葉…封印して欲しい…)
カヌアはまだ引きずっていた。
そして、タラゼドはこの後衝撃的な事を口にした。
「恐らくですが、地震を起こしたのは白の女神。そして、民を操り不可解な行動によって、地下への道を塞ごうとしたのは黒の女王かと…」
「待って待って待って!おじいちゃん!!」
(えっ!?おじいちゃん!?)
(え?おじいちゃんって言ったよな?)
(言いましたね…確かにおじいちゃんと)
(おじいちゃん…いい響きだ、悪くない)
その場にいた他の者は驚いた。
そう言ったのは、他でもないカヌアであったからだ。
「その、白とか黒とかの女神様って何ですか!?さっぱり意味が…」
「これは失礼致しました。そうですね…ここからは長くなりそうな話でありまして…申し訳ないのですが、ここからは殿下とカヌアーリ嬢との三人で、お話しさせて頂いてもよろしいですかな?」
とタラゼドが真剣な表情で言った。
(え?何で?聞かれちゃまずいの?そしたら、ウィル様だけでもいいんじゃ?)
と思ったカヌアだが、ウィルが二つ返事で承諾したため、二人は別室へと移動することとなった。
長老がカヌアとウィルを別室の椅子へと案内し、話し始めた。
「先程少し耳にしたのですが、御二方は、この場所を夢で見たのですかな?」
突如本題に切り込んできたタラゼド。
(聞こえてたんかい…やはり、耳が敏感なんだな…)
「…はい。同じ日のほぼ同じ時間に。夢で見た場所は同じようなのですが、ただ内容が違いました。私は薄暗い中に壁一面が青色で…」
カヌアが夢の話をし始めると、続けてウィルも応える。
「俺の場合は明るい中で、壁一面が赤色だった。あれは…今思い出してもとても奇妙な光景だったな」
「…なるほど…他にも同じようなこと夢を見たことは?」
タラゼドは核心を突いたような質問をしてきた。
「あ、はい。あります。それは同じ時期ではなかったですが…夢の中でたくさんの本が並んでる書庫室みたいな場所で…そこに並んでたある本を手に取りました。その本の表紙には二重螺旋の模様が描かれていました」
そうカヌアが言うと、長老が普段はあまり開けない目を見開いて言った。
「左様…ですか…ふむ…そう言う事ならば…やはり…御二方それでは今からまたご移動を願いますかな?」
(び、びっくりした…今一瞬じいさんの心臓止まったのかと思ったわ…それにしても初代女王の時の騎士って…このじいさん、一体いくつなんだ?)
カヌアは変な所が気になっていた。
そして移動した先は一面、本の香りがした。
「こ、ここは…ウィル様!!私この場所知ってます!あの夢の書庫室です!」
カヌアは驚きのあまり、ウィルの袖を掴んで言った。
「あぁ、俺も知っている。あの時の夢の中と同じ光景だ」
ウィルは深く頷きながら応えた。
「やはり…お二人は誰かに…何かに導かれている…そのように感じます」
神妙な面持ちでタラゼドはそう言う。
「ここにあの本が…二重螺旋模様の本が絶対あるはずです!探しましょう!あ、少し見て回ってもいいですか?タラゼドさん」
カヌアは許可取りをしようとしたが、タラゼドは優しく言った。
「探す必要はございません。既に場所はわかっておりますので。こちらです」
三人は更に足を進めた。
そこで夢で見た例の本を見つけた。
表紙にはあの二重螺旋の模様、そして二人の人物が描かれていた。
一人は空に何かをかざし、もう一人は地に何かを置いている。
「まさにこれですね…」
カヌアは少し手が震えながら言う。
ウィルもそれに応えた。
『あぁ、本当に実在してたとは…」
「開きますよ?開きますよ?」
更に手が震えるカヌア。
二人は長老が灯す光の中、その本に顔を近づけて見た。
その二重螺旋の本には、こう書かれていた。
太陽とはこの世を創り上げた偉大なる創造主
太陽の神 ハルス
月の女神 セレネ
この二方無くしてこれはない
この世を治め 見守る月の女神セレネ
またの名をルネ
全知全能の神
封印されし黒の女神
この二神には特別な物語があった
それはこの世の終わりのはじまり
かつて黒の女神と光の女神とは友であった
いつしか黒の女神が全知全能の神と恋に落ち、新しい命が芽生えた
しかしその息子、優秀すぎる故に母である黒の女神は息子と認めずに他の地へと追いやった
それに怒りをあらわにした息子は戒めにと母へ贈り物をした
それはなんとも見事な鉄の座り物であった
息子は特別な贈り物と偽って贈ったのだ
それを受け取った黒の女神
何も疑わずに見事なその椅子に腰を据えた
そして黒の女神は呪いにかかり
二度と椅子からその身を離すことができなくなってしまった
父である全知全能の神は黒の女神を解放しようとするが…
ここで本のページが途切れている
「あれ?ページが途切れてる…」
カヌアはそう呟いた。
「タラゼド殿…この続きは一体…」
ウィルも困ったような様子で言った。
「おろ?おかしいですな?何年か前に見た時には、確かページは破られておらず綺麗なままでした。しかし、一体いつ…?誰がこんな不届なことを…」
タラゼドも今知ったかのように言った。
「うーむ、その先がないなら今は致し方ない…タラゼド殿…この本を借りても良いか?」
ウィルがそう言うと、タラゼドは快く返事をしてくれた。
「もちろん、構いませんよ」
「礼を言う。あと一つ聞いてもいいか?」
ウィルがそう質問すると、タラゼドは快く返事をしてくれた。
「何ですかな?わたくしめが分かる範囲でしたら何なりと」
「ここに出てくるハルス…という名を耳にしたことは?もしくはラジェット、スラーでも構わないのだが…」
ウィルが物知りじいさんに、期待を込めてそう質問した。
「そうですね、微かな記憶ではありますが、ハルスというのは初代女王が一度呟いてたのを記憶しております。そのハルスとやらが何か?」
とさすがにそこまでは、知らなかったらしい。
少し肩を落としたウィルが応えた。
「いや、その名は内密に頼む…」
「御意。わしにもっと記憶力があればよかったのですが…」
自分を卑下するように言うタラゼド。
それを聞いてカヌアは思った。
(いや、歳の割には十分記憶力ある方だよ…一体何十年前のこと、覚えてるんだよ。いや何百年前か?それにしてもまた訳のわからない内容文が出て来たな…あとでウィル様に解説を頼もう)
そしてウィルも同じことを思っていたのか、タラゼドに感謝の意を伝えた。
「いや十分なくらいだ…色々と世話になったな。礼を言う。それと身体は大事にしろ」
「なんともったいなきお言葉。良い冥土の土産ができましたわい」
と笑って言うタラゼド。
(じいさん冗談なのか?縁起でもないな)
カヌアは顔が本気だった。
そうして、一行は一度地上へと戻ることにした。
帰り際に、いつでもあの木の滑り台で遊びに来て、とノゥリアに言われてカヌアは嬉しく思った。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
突っ走って書いているので、何かお気づきの点があればコメントの方よろしくお願いします。
大変恐縮ですが、評価を頂けると今後の励みになります。