episode107〜地下の街〜
初連載の続きです。なんとか毎日投稿出来てます。ゆるく読んでいただければと思います。
ノゥリアとやっと出会えたことによって、地下へと入ることできたカヌア達。
カヌアは今、その入り口からの滑り台なるものを楽しんでいた。
その滑り心地はとても良く、辺りも真っ暗であったため、まさに夢見心地状態であった。
そんな中、長い間滑っていたために、カヌアは目的さえも忘れそうになっていた。
すると突然、身体が宙に浮いた感覚に襲われた。
いや実際浮いていたのだ。
自分の身体が滑り台から離れ、着地点へと向かっていたのだ。
そして、ボフッと心地よいビーズクッションのような場所に、身体が埋もれた。
(ビックリ!でもすんごぉく気持ちいい!このまま寝…)
とカヌアが呑気なことを思っていると、近くで待っていてくれたノゥリアが叫んだ。
「カヌアさんっ!すぐ次の方が来ます!こちらへ!左側へ移動して下さい!」
カヌアはその暗闇では、声を頼りにするしかなかった。
その声に従って、身体を急いで左側へと移動した。
すると、間もなくして次に誰かが落ちて来たようだった。
ノゥリアはその人物にも同じように言って、誘導をした。
(真っ暗で何にも見えないから、誰が降りて来たのか全然わからん…でもこの匂いは…ワイムか?)
正解である。
そして、次々と同じように全員が降ってきた。
「ふぅ…これは一体…こんなの初めてだ…」
到着したばかりのウィルが、少し驚いたかのように声を漏らす。
「ほんと!とっても楽しかったですね!もう一回やりたいです」
(え?楽しかった…?そしてもう一回やりたいのか?…これを?)
ウィルはやはり、カヌアの乙女じゃないその心がわからなかった。
「それにしても…真っ暗で何も見えないですね…」
カブラが少し警戒して言った。
「確かに、私達住民は慣れてるから周りが見えるんですけど、外から来た人達にはほとんど見えないかもしれないです」
ノゥリアがそう言うと、何やら全員降りて来たのを確認していた。
(モグラ的な?)
カヌアはある妄想をしていた。
「とりあえずおじいちゃんの所へ案内します!この地下を探してたのは、何か理由があるんですよね?直接おじいちゃんに話を聞くのが一番早いと思います。ここの長老なので」
ノゥリアはそう言うと、ゆっくりと歩み始めた。
彼女一人なら、走ってでも行けるこの地下であるが、暗闇に慣れていないカヌア達が一緒なので、ゆっくりと先へ進む。
カヌアは前が見えなくて不安だったため、誰かの服の袖を掴みながら進んだ。
カヌアはノゥリアの服だと思っている。
「ねぇねぇ、じゃあいつも眼鏡をしてたのはやっぱり…外が眩しいからだったからなの?少し色とか付いてるのかな?」
そうカヌアが言うと、驚いたようにノゥリアが声と出した。
「御名答!その通りです!よくわかりましたね?」
「あ、うん。ちょっと知り合いで、似たように眼鏡をしてる子が眩しいって言ってたから」
カヌアはロキの話をした。
「え?その子ってもしかして……あっ!おじいちゃんだ!」
そうノゥリアが言いかけた時、祖父を見つけたようで声をあげた。
そこは広場みたいな所のようだった。
「ん?何か…空気が…もしかしてここ、広くなってる?何かの広場とか?」
カヌアはその空気感で、感じたことを口にした。
すると少し離れた所から、年老いた男性の声がした。
「これはこれは…こんな地中深くまで、ようこそおいでなさいました、ウィルテンダー殿下」
そう声を掛けられて、ウィルは反応した。
「ん?もしかして貴方はここの…」
「はい、左様でございます。ここの旧王都である地下街を治めております、タラゼドと申します」
長老はそう応えたために、カヌアはその言葉に非常に驚いた。
「旧王都…?えっ!?旧王都!?王都って昔は、地下にあったんですか!?」
その声に少しビクッとしながらも、タラゼドはカヌアの事を知っているかのように言う。
「ん?これはこれは、例の噂の娘さんですかな?」
(例の噂…?なんかまた変な噂とかやだよぉ…)
カヌアは自身の噂が嫌いだったために、少し警戒した。
「突然大きな声を出してしまい失礼致しました。初めまして、わたくし名をカヌアーリと申します」
「カヌアーリ殿、存じておりますよ。旧王都の事ですが、それは少し違いますかな…この街は地下にあったのではなく、元々地上にあった王都が地盤沈下のため、地下へと沈んだのです」
タラゼドがそう説明すると、今度はウィルが驚いたように反応して言った。
「都が沈んだ??そんな話初めて聞いたぞ?」
「左様でございますか?耳に入れたことはありませんかな?王宮の地下室の話を」
何だかこの国の深い話をし始めたと思い、カヌアはめり込むように話に入ってきた。
「ウィル様、心当たりあるんですか?」
「ん…確かに王宮に地下はある…しかし、扉らしき物があるだけで、そこには取手などが無…」
ウィルがそう言いかけると、顔は見えないがそこにいた全員が、ハッと息を吸った音は感じた。
「ウィル様!!その扉らしき壁は、先程と同じように…扉ではなく…ただの壁、なんじゃ…?」
カヌアがそう言うと、ウィルも同じ考えだったようで少し緊張したように言った。
「確かにその可能性は大いにあるな…他に入り口があるのかもしれない。戻ったら調べてみるとしよう」
それを聞いたカヌアは、更にのめり込むように声を出して言った。
「はい!私も一緒に行きたいです!」
「あぁ、もちろん構わない」
そう…ウィルはもちろん断らない。
暗闇の中見えない相手と話すのは、とても奇妙な事だった。
しかし、とりあえず重要な会話をしているので、カヌアは声のする方へと話しかけている。
(顔を見て会話するって大事だな…それにしてもウィル様の声がさっきからめっちゃ近くにある気が…)
とカヌアが思っていると、タラゼドが促すように言った。
「殿下とあろうお方に、立ち話をさせてしまいましたな。ここからは、わたくし共の自宅へとご案内致します。そこで話をお伺いしましょう」
そう言われ、足を進めようとした時、袖を掴んでいたはずのその人物が一瞬離れた。
そして今度は、カヌアの手をギュッと握ってきたのだ。
(ん?ノゥリア?…にしては少し大きくて、硬い…暗いから感覚がわからないな…でもこの匂いって…)
カヌアはそう思いながらも、暗闇の中をゆっくりと進んだ。
途中から通路のような場所に入るらしい。
壁らしき物が近くに感じる。
「ここから道が狭くなりますので、こちらを…」
そうタラゼドに言われて、何やら固いものを渡された。
「今お渡しした物を、眼鏡を装着するようにおかけになって下さい」
カヌア達は言われるがまま、その通りにした。
すると目の前の視界が、ハッキリと見えるようになった。
しかし、カヌアは思った。
(すごい。でもこれ…地下に来た時にすぐ渡してくれればよかったんじゃ…)
「そうですね…しかし、これは特殊なものゆえ、目がある程度暗闇になれませんと、目を悪くしてしまいます。…説明が遅くなり申し訳ございません」
返答するようにタラゼドが言った。
「えっ!?あ!いぇ…」
(こ、心読めるのか?このじいさん!?)
カヌアが驚くのも無理はない。
この地下に住んでいるものは視界が悪いので、音や感覚匂いなどが敏感になっているようだ。
おそらくカヌアの仕草や匂いなどを、読み取ったのか…はたまた本当に…
そして、目の前の扉が開かれる。
その場所を見てカヌアは一瞬、自分が眠ったのかとさえ感じた。
少し身体がよろめく。
それに気が付いたのは、ずっと手を繋いでいた人物だった。
「カヌア!?大丈夫か!?体調が良くないなら…」
「すいません…ちょっとクラっと…ん?え!?あ、ウィル様!?え!?もしかしてずっと手を繋いでいたのって…」
カヌアは驚いて言った。
「あぁ、真っ暗で足元が不安定だったからな…それにずっと俺の服を掴んでたから…てっきり怖いのかと」
(ノ、ノゥリアかと思ってた…だからウィル様の声がずっと近くにあったのか…確かに匂いが…)
そう思いながらも、カヌアはウィルにそのまま近づいた。
「あの、ウィル様…」
カヌアはウィルの耳元で、この場所が夢で見た場所と同じだった事を伝えた。
それを聞いたウィルが、ハッとしてカヌアを見た。
そして眼鏡越しに、その廊下らしき場所をもう一度見た。
「確かにあの夢と…俺が見たのも同じような場所だった。しかし、色が…青っぽいな…確かに、壁一面が青く見える。これは眼鏡のせいなのか?それとも本当に青いのか?」
その言葉を敏感に聞いていた長老が言った。
「気が付きましたかな?暗闇でわかりにくいのですが、ここは壁一面が青くなっております。そして、明かりを灯すと壁の色が…」
しかしそれを途中で遮り、思わずウィルが言った。
「赤く…赤くなる…のか?」
その言葉に長老は静かに頷いた。
まだ繋いでいたウィルの手から、汗が滲み出ているのがわかる。
それに気が付いたカヌアは、その手をギュッと優しく握る。
「ウィル様?大丈夫ですか?やはりここは、私達の見たあの夢の場所なんですね…本当に存在してたなんて…信じられない」
カヌアは気遣いながら小声で話す。
その声に長老はピクッと反応したが、言葉には出さなかった。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
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