episode106〜再びケーフ山脈へ〜
初連載の続きです。なんとか毎日投稿出来てます。ゆるく読んでいただければと思います。
つい先程、禁書書庫室で衝撃的な真実を知ったカヌア。
そうとは思えないほどの雰囲気で、カヌア達は庭で茶を楽しんでいた。
(うまっ!チョコうんまっ!)
カヌアは脳に思う存分、糖を入れていた。
そんなカヌアを幸せそうに見つめながら、ウィルは言う。
「少しは気分転換になったか?」
カヌアは少し恥ずかしそうにしながら、その手を止めた。
「はひ…すいません…つい美味しくて…それにしてもまだ信じられません。自分が…その左眼の持ち主のラジェットだなんて。でも真実に近づいたことは確かですよね。ただ、それを知ったことによって、少し自分が怖くなりました」
カヌアは少し不安な表情で言う。
「そうか…俺もこの本当なのかもわからない事実に、困惑しているのは確かだ。カヌア…俺がもし本当にハルスだったとしたら…怖いか?」
(ん?ウィル様が怖い?)
「えっ!?全然!全くもって怖くないです!だってウィル様はウィル様ですもの!」
カヌアは本心をそのまま言った。
すると安心した顔でウィルが笑う。
「ふふ、そうか。それを聞いて安心した。カヌア、俺も同じなんだ。俺にとってもカヌアはカヌアだ。だからそう自分を怖がる必要もないし、またラジェットに意識を持っていかれたとしても、俺が必ずカヌアに戻す。信じてくれるな?」
「はい…ありがとうございます」
カヌアは嬉しくて泣きそうになったが、そこはグッと堪えた。
そしてウィルは、また話を戻すように言った。
「先程の禁書の内容だが、俺にもわからないことが多々ある」
「確かに理解不能すぎますよね。私なんてウィル様の解説がなければ、一生わからないままだったかと…」
カヌアはまたチョコレートをひと口食べた。
そしてウィルの話を真剣に聞く。
そのためのチョコでもある。
「‘知能は戦いのはじまり‘…これが一番引っかかる、というか重要視しなければならないと感じている。この三人が、特に行動を起こさなければ大丈夫だとは思うんだが…」
「そうですね。私も怖い言葉に感じました。これが本当に現実に起こったとしたらと、考えるだけで恐ろしい……戦争って醜いですものね…あと、少し気になったのは、‘空を飛ぶモノ‘。これはおそらく鳥とか虫とか羽があるモノですよね?そして‘地を這うモノ‘。これに関しては、一番最初に頭に浮かんだのが蛇です。トゥバンの丘にもクロノスの塔にもあった蛇のような模様。でもその蛇が‘すべてを見通す知恵‘?ゔーん…」
カヌアは頭がまたおかしくなりそうだったので、追いチョコをした。
「兎にも角にも、まずはその‘スラー‘であろう花模様のアザの男を探すしかないな。あいつはカヌアの事をラジェットと呼び、そして俺のハルスという名を知っていた。他にも何か知ってる事がありそうだからな」
ウィルが神妙にそう言うと、カヌアは唸りながらも頷いた。
「アザの男…本当何者なんでしょう…?それにしても…ウィル様の半分か…私の半分は、ウィル様で出来てるんですね!一心同体みたいな?でも一度も繋がってるって感じた事はない気がするんですよねぇ…」
カヌアは天を仰ぎながらそう言うと、ウィルは嬉しいんやら悲しいんやらの複雑な顔をした。
そんなウィルには全く気が付かず、カヌアは話を続けた。
「それと、私達これから行かなきゃいけない所がありますよね!」
カヌアはウィルに向き直って言う。
「もう一度ケーフ山脈の、あの扉のとこへと行かなくてはなりません!あの扉を調べて地下への道を…」
「でもあそこは…」
ウィルは心配そうに言いかける。
しかしその様子にカヌアは心配かけまいと、そして自身にも言いかけるような言葉で伝えた。
「レグのこと…ですよね?ふふふ、心配してくれてるんですね。ありがとうございます。思い出しますよ、何度も…何度も何度も…何度でも。だって、忘れられない…忘れちゃダメじゃないですか。大切なレグのこと…大切だからこそです…それにあそこには、絶対に何かある…扉の先に私達が探してるものが絶対に…」
「そう…だな。そうカヌアが思っているんなら、俺ももっと支えに…」
とウィルが何やら言おうとしたが、カヌアはふと思い口を出した。
「ん?あれ?それともあの扉の中へと、もう進みました?」
「いや、まだ中には入っていない…というかあの扉を未だに開けられないんだ…一体どうやったら開くのかも、全く検討すらついていない状態だ」
「そうですか…前回は暗い中だったので、今度は明るい状態でもう一度見たいんです」
カヌアはそう自分の意思を伝えると、ウィルは優しく笑って承諾してくれた。
「そうか、では明日の朝、再び出発しよう」
そして翌朝、カヌア達はワイムとカブラ、それに加え少人数の護衛をお供につけて、ケーフ山脈へと再び向かった。
前回の族に狙われた件を考慮してのことだ。
なので、今回はロキはお留守番である。
今度は道もわかっているので、一時間半程でその扉のある所へと到着した。
やはり北に位置する山脈だけあって寒い。
カヌアは上着をしっかりと着込んで、その場にいた。
そして、そこには前回見たのと同様に、扉らしき板の近くには黄色の鉱石が散りばめられていた。
ウィルはその石を見て言った。
「そういえば、この鉱石をサルミニア国に調べてもらおうと思い、既に送っているんだ。早馬を送っているからそろそろ着く頃だとは思うんだが…」
(さっすが!仕事が早い!鉱石を調べるならサルミニアが一番適しているしね)
そうカヌアは思い、その石を再び持ち上げて眺めて言った。
「確かに、気になりますね。ロキのペンダント以外では見たことない気が…」
カヌアは元々宝石などに興味がないので、あまり当てにならない。
そう自分でもわかっているので、ウィルに促すように目線を送って聞いた。
「確かに…それ以外では初めて見るな…磨くとあのペンダントのように美しくなるんだろうな」
「やはり…それにしてもどうやったらこの扉開くんですかね?」
カヌアは引いたり押したり、ありとあらゆる方向にスライドしたりもしてみた。
しかし、一向に開く気配がない。
困り果てた一行に突然、上の方から声が聞こえた。
「それでは開きませんよ?」
(え?天の声?)
その声は木の上から聞こえた。
すると木から、その人物が飛び降りてきたのだ。
「ノゥリアッ!?」
カヌアは驚き抱きつきながら言った。
「お久しぶりです!カヌアさんっ!」
そう言ったのは、カヌア達が地下の情報を得るためにずっと探していたノゥリアであった。
その赤い髪と眼鏡は、いつものお決まりの可愛らしいノゥリアであった。
「ずっと探してたんだよ!?会えて嬉しいっ!」
カヌアがそう言うと、ノゥリアは悟ったように言った。
「はい…実は知ってたんですけど、最近この辺りで悪そうな人達がウロウロしてて、中々外に出歩けなかったんです…すいません…でも無事で良かったです!あの時カヌアさん、たくさんの族に追われてましたよね?」
先日山に入った時の状況を話し始めたノゥリア。
カヌア達は続けて、あの日の事を思い出しながら話をした。
「え!?じゃあやっぱり、この間ここで弓を放って助けてくれたのって…」
「そうです。私があの時カヌアさんを追いかけていた、悪い人達をこの弓で射抜きました」
そう、あの時に助けてくれたのは、ノゥリアであったのだ。
「やっぱり!ノゥリアの声だと思ったんだよね!あの時は助けてくれてありがとう!それにしてもあんな真っ暗の中、弓をよく正確に射れたね!あれ全部命中してたでしょ?」
「私、暗いところで暮らしてるから、得意なんですよね」
そしてカヌアはずっと聞きたかったことを、ノゥリアに聞いた。
「ノゥリア、そのことなんだけど、もしかして地下とかで暮らしてたりする?前にそういう話をしたような気がして…それでずっと探してたんだよね」
「はい、その通りですよ。その地下には私達の家があって…あそこから入るんです。他にも一応入り口はあるんですけどね…今はちょっと…ゴタゴタしてて。それにおじいちゃんがあまり外の人には知られたくないみたいで…」
「そうなんだ…私達、その地下に行きたいんだけど…入ってもいいのかな?」
「あ、はい!カヌアさん達のことは、おじいちゃんから了承を得てます!」
ノゥリアはそう言うと、横のフラフィーと共にニコッと笑った。
(おじいちゃん?私達が来ること知ってたのかな?それになんかノゥリア感じ変わった?何だろ?前より強く感じるような…それにフラフィーの表情が逞しいよ)
カヌアはノゥリアと話していて、以前と比べてオドオドとした感じは無くなっているように感じた。
「ありがとう!その入口なんだけど、この扉、開け方がわからなくて…」
カヌアがその扉らしき板に手をかけようとした。
「あ、さっきも言いましたけど、それでは開かないんですよ…というかそこは開かないんです。それ扉じゃないですから。入り口は…あっちです」
ノゥリアはその扉らしき板ではない木の方へと、指差した。
(((えっ!?そっち!?)))
その場にいた全員がそう思った。
「だってそれはただの板ですから…あそこが入り口です」
扉だと思っていた板は、本当にただの板であった。
(そりゃどう足掻いたって開かないわけだ…)
皆が驚いてる中、ノゥリアはその指差した方へと向かって、土や葉っぱをはらった。
そこはその辺の木と、変わらない普通の木の根元だった。
「ここから入れますよ」
ノゥリアがそう言うと、その根元にあった扉、というよりは穴に近い所にヒョイッと足を入れ、そのまま身体を滑らして中へと入って行ってしまった。
(え?何か、御伽話でこういう風に木の根元から入っていくやつあったな…)
皆が次は誰行く?という感じで周りを見ていた。
しかし、そこはウィルの従者ワイムが名乗り出た。
さすがにこの国の殿下を、危険かもしれない場所なんかに先に行かせるわけに行かない。
ましてやそのお方が、我を顧みずに守ろうとしているカヌアなんかに行かせるわけが…
「じゃっ!下でお待ちしてますねっ!」
カヌアはワイムの名乗りを無視して、先にその身を木の根元の穴へと放り込んだ。
行動を読めないのは、何もウィルだけではなかった。
全員同じだ。
中は暗くて滑り台のようになっていた。
(真っ暗で何にも見えないけど、滑り心地は最高だよ?でもこれ、着地の時尻もちついたらめっちゃ痛いとかないよね?)
そう思いながらも、カヌアは身を委ねて自然の滑り台を堪能していた。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
突っ走って書いているので、何かお気づきの点があればコメントの方よろしくお願いします。
大変恐縮ですが、評価を頂けると今後の励みになります。