episode105〜三者を示すもの〜
初連載の続きです。なんとか毎日投稿出来てます。ゆるく読んでいただければと思います。
その禁書を開く。
この世界 この三者に有り
この国に不随するモノ すべてはこの三者に有り
その光 放つのも消すのも この三者次第
左目に宿し光 翠緑を示す
その根源はラジェット
回復 完全 修復
右目に宿し光 橙を示す
その根源はスラー
直観 認識 創造
その二つの光はハルスから産まれ ハルスへと戻る
その忠誠は永遠と受け継がれる
分離と調和
静止と循環
完全と回転
月と太陽
知能は戦いのはじまり それは左に宿う
始まりもなければ終わりもない それは右に宿う
空を飛ぶモノ 精神 心 魂
地を這うモノ 全てを見通す知恵
草木に実るモノ 精神 覚醒 魂
それぞれの象徴を持つ
ないものはなく あるものはある
三者は無造作に選ばれる
選ばし者
それぞれが近し場所に 近し人へと移り住む
それらの名は次々へと変わる
三者が集い揃う時それは起こる
善きも悪くもそのモノ次第なり
ある時は多幸となり
そしてある時は残酷へとなりうる
有りとあらゆるものが手に入る力
望めば叶い 望まなければ無となる
「えぇと、あの…どなたか解説を…」
カヌアの頭の中は、ちんぷんかんぷんであった。
「つまり、ここに書かれている三者が、この世の全てを担っているってことだと考えられるな。三者はそれぞれの特徴があるようだ。翠緑に輝く左眼を持つラジェット。橙に輝く右眼を持つスラー。そしてその二つの眼を持つ、天空の神ハルスだ。左右の眼はこのハルスから分かれ、産まれたみたいだな…」
「それが…アザの男を含めた私達…?」
カヌアはウィルを見ながら言う。
ウィルは重く頷き、更に話を続ける。
「この三者は時代によって入れ替わるみたいだな。死んだら入れ替わるのか、突然入れ替わるのかはわからないが…そしてその三者はそれぞれの役割を持っているみたいだ。そして、この三者は近くに存在するらしい。この全者が揃うことにより…この世界を良い方にも悪い方にも為せる…という事だな。その存在自体がとても危うい」
その話を聞いていたカヌアが、驚いて言った。
「えっ!?てことは、もしそのアザの男が悪人だったら…」
「まぁ、俺たちがまず善人であるうちは大丈夫なんじゃないか?三者の全員が悪人にならない限りは…」
ウィルも半信半疑でしかなかったが、安心させるために言葉を選んだ。
しかし、鋭い思考と正直な心が言葉を突いた。
「いや、そうとも限りませんよ?殿下。この部分なのですが、‘創造‘と記してあります。このスラー、つまりアザの男は闇の心さえも創り出すことが、できるのではないでしょうか?そうなると…」
そう言うのは、カヌアの兄フーリだ。
「確かに…その可能性は否めないな」
ウィルが唸る。
そして、カブラへと指示を出す。
「早急にこのアザの男を探し出す必要があるな。最優先事項だカブラ」
「御意。早急に手配いたします」
「それにしてもウィル様から?私達が分かれた?そんなことって…」
カヌアは未だ、その文書が頭の中でとっ散らかっていた。
「分かれたと言っても精神的にという意味だと思うが。それに今でさえ、カヌアの考えてることもわからなければ…フラフィーだって視え…」
ウィルは急に言葉を止め、考えに耽った。
(ん?フラフィー?なんだ?)
フーリはその優秀な頭に、ハテナが浮かんでいた。
(待てよ?以前カヌアはアザの男のフラフィーが視えないと言っていたな…三人同士のフラフィーが視えない…。それは必要がないから?繋がっているから?となると…その三者はここに記されているように心をも…全てを見通すために三者以外の人間の感情が視える…そのためのフラフィーなのか?)
そう思うウィルは、暫し黙り込んだ。
(しかし、俺達は感情がわかるわけでも、繋がってるようにも感じたことがない…むしろ全然わからないから困っていることもあるぐらいだ…とりあえずカヌア以外の前でフラフィーの話は少し控えるべきか…)
悶々と考えてるウィルが、ずっと黙り込んでしまっているので、カヌアもそれを邪魔しないように、ウィルをじっと見つめながら待っていた。
すると今度はカヌアが、ハッとした顔でウィルを見た。
いや、ウィルの瞳を見た。
「少しよろしいでしょうか?以前に、ウィル様の瞳を見て、私はこの瞳を知っている…と感じた事がありました…その瞳は緑とオレンジの二重の輪で…輝いていました。あれは何だったのかとずっと心に引っかかっていたのですが。こういうことだったんですね。やはり本当にウィル様は‘ハルス‘…?今一度…失礼しますっ!」
ウィルの顔を両手で、グッと挟んで鼻がつくんでないかと言うくらい近づいて瞳を見た。
それを見たフーリが驚いて、目を見開いていた。
「カ、カヌアッ!殿下に向かってそのような…」
しかしそう言うフーリをカブラが制した。
ウィルにとっては至福の時間だ。
止めるのが正解であった。
この通り、ウィルは赤面しながらも嬉しそうにしている。
(やはり何かの条件がないとその眼は発動しないのか…)
ウィルから手を離しながらカヌアは残念がった。
そしてウィルは、違う意味で残念がっていた。
「後の記されていることは、俺でも理解できないところがある。例えば、この対のように記されている部分だ。どちらを示しているのか、何に対してなのかがわからない。あとはここだな…この‘空を飛ぶモノ‘のところからの三つだな。恐らく生き物か何かのようだが…」
(頭がパンクしそうだ…)
カヌアは甘い物が食べたくてしょうがなかった。
そんな様子を見てウィルは言った。
「とりあえず、後のことはまた調査しているうちに何かわかるかもしれないし、思い出すかもしれない。今日はこの辺にして、外で茶菓子でも食べて休憩しよう。そうだな、チョコレートでも…」
「チョコレートッ!行きましょう!ウィル様!」
カヌアはそう言うと、ウィルの腕を引いて禁書書庫室の扉を開いた。
カヌアの考えていることは、わからないとウィル本人は思っているようだが、十分把握している方ではないか。
そしてウィルは幸甚な表情で、少し後ろを向いてカブラに口の動きのみで伝えた。
‘あとは頼む‘
(ごゆっくり…)
カブラは主人の幸せを一番に考えている。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
突っ走って書いているので、何かお気づきの点があればコメントの方よろしくお願いします。
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