episode103〜その果てから〜
初連載の続きです。なんとか毎日投稿出来てます。ゆるく読んでいただければと思います。
どのくらい眠っていたであろうか。
外は薄暗い。
朝が来たのか、夜が来たのかもわからない。
その日カヌアは、左腕の痛みで目が覚めた。
しかし自身の身体の痛みよりも、深い悲しみと心の闇に襲われていた。
そしてその痛々しい身体を、無理矢理起こした。
(…苦しい)
カヌアは実際には、丸二日ほど眠っていたことになる。
横のテーブルには、レグのハミと小さな銀のプレートが置いてあった。
そのプレートにはこう書かれていた。
‘レグ・トゥバンの丘に眠る‘
カヌアはその文字を見て、絶望の底に落とされた。
そしてその場から飛び出し、ある場所へと向かった。
数時間後、カヌアの様子を見に来たウィルが、驚いたのは言うまでもないだろう。
ベッドはもぬけの殻だった。
その横に置いてあったはずの、ハミとプレートも共になくなっていた。
しかし、消えたカヌアの場所を探すのは容易であった。
カヌアはトゥバン丘へと来ていた。
自身の足で…走って。
いつもここに一緒に来るはずの彼がいない。
そう…レグは…目の前の土の中にいたからだ。
カヌアはその場に崩れ落ち、泣く。
泣き喚いた。
この後どんなに声が枯れようとも、出なくなろうとも…関係ない。
今はその絶望と断腸の思いで、胸が引きちぎられそうだった。
その果てから帰ってこれるのかもわからないほどの、絶望感に満ちていた。
「レグ…レグ…ごめんね…ごめん……助けてあげられなかった…痛かったよね」
カヌアは嗟嘆で、心が張り裂けそうだった。
辺りは真っ暗になっていた。
カヌアの心のように暗く、闇の中と化していた。
すると、そんなカヌアの姿を、先程から見ていたウィルがゆっくりと近づく。
その背中にゆっくりと上着をかけた。
カヌアはバッと振り向き驚いた。
「っ!なぜここに…」
そしてウィルの手首の傷が目に入った。
「その傷…私が…私がやったんですよね!?全部見えてましたっ!私のせいで…レグもっ!」
カヌアが叫んで言う。
その失望と悲しみで、震える身体を抱きしめるウィル。
「ダメです!!私に近づいたら、また傷つけちゃうっ!だからっ…」
拒もうとするカヌアを、更に力強く抱きしめるウィル。
「どんなに傷つけられたっていい!俺もっ…同じなんだ。こんな状態になるまで…何もしてあげられなかった…それに、大丈夫だ…俺の側に入れば…おそらく大丈夫なんだ…いや、そのはずだった」
「何が!?何が大丈夫なんですか!?」
カヌアはその腕を抵抗し続けながら言う。
「わかったんだ!あいつが何故カヌアの前に現れるのか!俺たちの繋がりも…ちゃんと説明もできる!」
そうウィルが力を込めて言うと、カヌアは少し顔を歪ませて黙った。
「信じられないかもしれないが…俺たちは昔繋がっていた…ようなんだ。今もそうだと思う。俺も納得するのに時間がかかった…いや、まだしてないのかもしれない。あの花模様のアザの男は‘スラー‘という太陽の象徴の化身だ。カヌアは月の象徴の化身、‘ラジェット‘…それらはそれぞれ左右の眼に現れるという。そして、両方の眼を持つ天空の神ハルスの化身が…俺のようなんだ」
ウィルもまだ信じきれていないその真実を、自身が調べ上げた精一杯の知識を言うことしかできなかった。
その結果、カヌアは混乱に混乱を重ねてしまった。
「え?ラ、ラジェ?ト…?何ですか!?ウィル様が何を言ってるのか全然わかりません!今はっ!そんなのどうでもいいんです!!あの男が何者でもいい!私がどうなったっていい…良かったのに…どうしてっ!どうしてこんなことにっ!レグは…レグはもう…戻って来ない…乗ることも触れることさえもできない…何で…レグ…レ…グは…何であんなことにならなきゃいけなかったんですか!?…レグ…レグ!レグッ!!うわぁぁぁあ!わぁぁあん!!」
カヌアはウィルの胸を力いっぱい叩きながら、泣いた。
雨が降り始め、そして強くなった。
その雨と共に涙が流れる。
更に泣き崩れるカヌア。
それをずっと優しく抱きしめるウィル。
どんなに泣いたところでレグはもう走れない。
戻ってこない。
それはカヌアだって分かり切っている。
しかし今はこの悲しみと怒りで…こうすることでしか表すことができなかった。
今、時がどこを示しているのかもわからない。
それくらいカヌアは泣いていた。
そして…そのまま泣き疲れて、ウィルの胸で眠ってしまった。
一時的だったその激しい雨は、既に上がり始めていた。
ウィルはカヌアを抱き上げ、丘の上にいた愛馬達の元へと近づいた。
「ご主人は任せろ…ついてこれるな?」
そうウィルが言うと、彼女は頷くように声を漏らした。
「よし、いい子だ」
ウィルがヴェガにそう言うと、カヌアを抱えたまま、アルにまたがり王宮へと走らせた。
王宮へ戻ると、ウィルとカヌアに驚いたカブラ達が駆け寄ってきた。
しかしウィルは何も言わずにカヌアを部屋へと運び、使用人のリリィを呼ぶようにと命令した後、一人で自室へと戻った。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
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