episode102〜絶望の淵で〜
初連載の続きです。なんとか毎日投稿出来てます。ゆるく読んでいただければと思います。
どのくらい走ったであろうか…
もう辺りは暗くなり始めていた。
カヌアは今、自分がケーフ山脈のどこにいるのかを把握していなかった。
しかしレグの走り去った方向はわかる。
カヌアはレグを追いかけ、ひたすら走った。
今もまだレグの馬体には、矢が刺さったままだ。
カヌアは一刻も早くレグを見つけ、怪我の手当てをしなければという一心で走っていた。
(レグ…どこ…?)
すると、カヌアに狙いをつける矢が放たれた。
その矢はカヌアの服をかすめた。
カヌアは一切気にすることなく足を進めた。
しかし、その矢は止まることなく何度も放たれる。
(うざったいな…下手くそ)
カヌアは若干鬱陶しく思い始めたが、とにかく走り続けた。
既に山の中は暗闇と化していた。
そして、ついに矢ではない物が飛んできた。
それは、カヌアの左肩をかすめた。
危うく血が出る深さまでの傷になるところだった。
しかしカヌアがその身のこなしが、そうさせなかった。
「チッ…」
カヌアはイラつき過ぎて舌打ちをしたが、見向きもせずに走った。
その時だ、カヌアを狙う者とは別の方向から、矢が飛んできたのだ。
そしてそいつを射抜いた。
鈍い音と共に、呻き声が聞こえた。
「え?誰?」
カヌアはその足を一瞬止めようとしたが、聞き覚えのある声がカヌアを促した。
「行ってっ!!カヌアさんッ!!大丈夫!任せて!!」
その声を信じて、カヌアはレグを追う足を更に進めた。
(今の声って…)
そして、カヌアを狙う者達が射抜かれたような声と音が、後ろの方で次々と聞こえた。
すると、少し先の方にレグらしき姿が見えた。
「いたっ!レグッ!」
そうカヌアが声をかけた…その瞬間…レグが悲鳴も上げずに倒れた。
「…レグ…?え?」
レグの目の前には、黒い服を纏った男達三、四人ほどが、レグを囲んでいた。
カヌアはレグに駆け寄る。
数箇所切られたようで、その傷からは真っ赤な血が流れていた。
「え…レ…グ?レグ!?レグ!?血が…何でこんなことに…やだ!嫌だ嫌だ!やだよ!!レグッ!」
カヌアは必死にレグに言葉を掛ける。
しかしレグは、傷だらけのその身体を起こそうとしていた。
「レグ…無理しないで…」
カヌアはそう言うと、その男達を刺すような目つきで睨みつけた。
「お前ら一体何してくれてんだ…何が目的だ」
カヌアがそう男達に言うが、何も反応せず剣を向けている。
「何であろうと絶対に許さないっ!絶対にだ」
カヌアが自身の剣を抜いた。
それと共に、その男達もカヌアに剣を向ける。
一斉にカヌアに襲いかかるが、それをするりと身を交わした。
しかし、奴らもそれなりにかなりの人を斬ってきたのであろうか、カヌアの剣もかわされていく。
更にカヌアはここまで走りっぱなしで、体力をかなり消耗していた。
それに加えら辺りも真っ暗であったため、視界が悪かった。
(まずいな…この人数か…レグを庇いながらだとうまく動けな…)
そうカヌアが思っていると次から次へと剣が突いてくる。
カヌアの剣が遠くへと飛ばされた。
そして、鈍い音が自分から聞こえた。
ザンッ…
その音と共に、カヌアの左腕から血が滴る。
「痛っ…」
(ヤバいな…レグだけでも逃げてくれないかな…走れるかな…)
と思いカヌアが立ちあがろうとした次の瞬間、すぐ後ろから剣がカヌアの首元を狙って横から振りおろされた。
(まずいっ!!)
カヌアは息をのんだ。
しかし、カヌアの痛みは先程つけられた左腕のみだった。
そして大きなものが床に倒れたような鈍い音と共に、カヌアは衝撃の光景を目の当たりにした。
レグが先ほどよりも大量の血を流し、横たわっているのだ。
レグが痛々しい身体を奮い起こし、カヌアを庇ったのだ。
カヌアは声も出なかった。
声よりも先に怒りが込み上げてきたのだ。
ここからはカヌアの意識はなかった。
その身体は別の何かになり、左側の眼が煌々と緑色に光っていた。
そして、その身体が一瞬にして、その場にいた全員を捉えていた。
既に虫の息だ。
その男達から剣を奪い、カヌアは佇んだまま微動だにしない。
しかし、更に男達の仲間であろう奴らが集まってきた。
騒ぎに気が付き、こちらに向かっていたウィルが、追いついてその場に駆けつけた。
そして、カヌアの身体はその男達に剣を向けて捉えようとした。
が、その瞬間、カヌアの剣を何者かが止めたのだ。
その真正面で剣を受け止めていたのは、花模様のアザの男だった。
カヌアの身体から言葉が出る。
「スラー、マタ、オマエカ…クドイゾ」
誰の言葉かもわからないソレに、アザの男は応える。
「あの方の…ハルス様のお側にいれば問題ないと思ったのに…チッ、扉が開いたせいか…」
そしてその隙を見て狙いに来た男達を、今度はアザの男が一瞬にして峰打ちで気絶させた。
(何だ?何が起こっている?カヌアの左眼が…また緑色になっている…あの男は一体…)
そう思いウィルは叫んだ。
「カヌアッ!」
カヌアの異様な姿に気が付いたウィルが駆け寄った。
しかし、カヌアのその身体には、既に彼女自身の意識はなかった。
そのため、殺気もないウィルに向かって、その剣を振りおろしたのだ。
「クッ…」
ウィルが声を漏らす。
手首からは血が滴っていた。
するとアザの男はカヌアに何やら言うと、その身体を気絶させた。
アザの男は立ち去ろうとしたが、一瞬立ち止まり背を向けたまま何やら呟いた。
「ラジェットを…よろしくお願いします」
そしてその場を後にしたアザの男を見ながら、ウィルは言った。
「ラジェット?一体何なんだ…何が起こっている…」
ウィルに抱えられたカヌアは、涙を浮かべながら目を瞑っていた。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
突っ走って書いているので、何かお気づきの点があればコメントの方よろしくお願いします。
大変恐縮ですが、評価を頂けると幸いです。