プロローグ〜蘇る〜
初投稿になります。
小説を書くのも初めてです。
お心広く読んでいただければと。
よろしくお願いします。
その時、男の頭が濡れた。
カヌアが、頭から水をぶっかけたのだ。
顔を伏せながら言うカヌア。
「… ぇだよ」
「あん? 何しやがる!?」
「お前だよ… お前が一番迷惑な、ん、だ、よ!!」
そう、指を強く男に突き出しながら言った。
周りが静まり返る。
王子達も唖然としていた。
しかしカヌアはもう止められなかった。
何故… こうなった。
五年前のあの日…
その時から、カヌアの人生が一変したのだ。
〜五年前〜
(あれ? ドレス? 木... ? おおお落ちっ… !)
ドスン!!
少女は、木の上から盛大に落ちた。
すると、突然過去の映像が甦る。
目の前が真っ白く光り…
「え? 死… んだ… ??」
そう、彼女の前世の記憶が突然蘇ったのだ。
何もかも嫌になったあの時… 私はある事を望んだ。
色んなことを押し付けられて、押し潰されて、心が荒んだ…
それで、空っぽになった、心が…
そう、胸を押さえる。
(そうか、あの日私は… トラックに轢かれて死んだのか… )
変わりたい、やり直したい、分かりたい… そう願った。
そう願った、願っ…
(ちがーーっう! そうじゃないっ! そうゆう事じゃない!! 死にたいとか! そういう事じゃなかったのに… え? 死んだ? 私… 本当に死ん… )
彼女は、緑色に揺れる葉の隙間から空を見た。
(…… ん? でも生きてるな? でも何だか身体は小さい気が… それに何かの… 感触もあるし… ?)
彼女は木から落ち、芝生の上にいたとそう思った。
(いや!! 芝生じゃない! 人だ!!)
「痛っってぇ… 」
運悪く彼女の下敷きになっていたのは、艶のある黒髪の少年であった。
「ごぉごごごごめんなさい!! いーーったかったですよね!?」
驚いた彼女は横に退きながら座り、少年の髪の毛に付いていた葉っぱを払った。
少年はとても綺麗な装いで、左目の下に涙ぼくろがある。
そして、右肩にいる怒ってる小さな綿毛も払った。
(ん? あれ? 払えない? なんで??)
そう思いながらも、払い続ける。
それに対し、その綿毛はもっと怒り始めた。
(ナニコレ??)
「おい!! 痛てぇよ!」
少年は怒る。
横に同じで綿毛も怒る。
「ごめんなさいぃぃぃ!」
(めっちゃ怒ってるー!)
彼女がそう思っていると、遠くの方から誰かが駆け寄ってきた。
「カヌア! 一体どこに行っ… !!!?」
この状況を見て途端に顔色が変わったその男性は、頭を地面にこれでもかってくらい押し付けながら正座をし始めた。
「ウィルテンダー殿下!! もも申し訳ございません! 娘がとんでもない失礼を!」
男性と一緒に来た女性は、彼女を少年から即座に離し、頭を下げさせている。
恐らくこの世界での彼女の父と母なのであろう。
こちらの世界での今までの記憶も微かにある。
彼女はカヌアと呼ばれていた。
(え。殿下? でんか? デンカ?? 殿下って王族? え!? 王子様って事??)
その状況を読み込んだカヌアの顔は、途端に青白くなり、血の気が引いた。
(やべぇ… とんでもねぇことしちまった… あぁ、え? 死刑とかになるのかな? 鞭打ち? 一家差し押さえ? 崩壊? この国のルールがわからない… でもやばい事は確か… ん? 父の肩に…
見えるなぁ… あの王子様の肩にもいたような綿毛が、父と母の肩にもいる。しかもなんか、怯えてる? 何だろ? 殿下の綿毛ちゃんは怒ってるし… )
カヌアがそう思っている中、殿下は立ち上がった。
こちらを睨みつけてるのか、様子を窺っているのかわからない。
そして、口を開いた。
「まぁよい… お前、怪我は?」
と殿下が言うが、右肩の綿毛ちゃんは罰が悪そうな顔をしたままだ。
左肩からひょっこり顔を出した綿毛ちゃんは、今度はものすごく心配してるような顔をしてこちらを見ていた。
(… ん!? 何だ!? 左肩から大量に心配した綿毛が出てきたぞ!! なんだ、おい! 妖精? … にしては、それぞれ主の表情に似てるなぁ… はっ!!)
カヌアはそう思いながら、返事をした。
「だっ大丈夫です!! 大変失礼致しました!」
腰が折れるのではないかというくらいの、精一杯のお辞儀をして謝った。
ウィルは少し安堵したような表情を浮かばせながら、頷いた。
「ならよい。家でちゃんと診てもらえ」
「はいっ! 寛大なお心痛み入ります!!」
父が恐れながら言う。
両親は深い一礼をした後、娘を猫を連れ帰るかのように、足早に馬車へと戻った。
すると城の方から、剣を持った青年が走って来る。
ウィルの側近、カブラディアである。
カブラはニヤニヤと笑いを堪えるのを、隠すこともなく言う。
「ウィル様、助けに行ったはずなのに、なぜわざわざ彼女の下敷きなんかにおなりに?」
「うるっさい!」
ウィルは顔が真っ赤になりながら、城へと踵を返した。
ここまで読んでいただき、誠に有難うございます。
何かお気づきの点があればコメントの方よろしくお願いします。