第8話 学園生活
アリアがはじめて公爵家の屋敷にやってきてから、二年が経った。
平和すぎるほどに平和な日々を、俺とアリアは送っている。
貴族の子弟の慣例に習い、13歳の秋と冬からは、王都スクーンの学園にアリアと通っている。
学園の授業があるのは一年の半分だけで、春と夏はこれまでどおり屋敷で暮らし、領地で貴族としての素養を身につけることになる。
この生活そのものは前回の人生と同じだ。
けれど、違うことが一つある。学園は全寮制なのだけれど、今回の俺とアリアは同じ部屋を使っているのだ。
理由は兄妹だから。
兄妹といっても血はつながっていないし、同い年の異性だし、「いいんだろうか?」と俺も思わなくもない。
けれど、それはアリアの強い希望だったので、俺も反対しなかったし、学園も受け入れてしまった。
さすがは公爵家。王国の七大貴族だけあって、権力があるし、無理が通る。
そういうわけで、俺は毎朝アリアに起こされていた。
「クリス兄さん……そろそろ起きてください!」
「あ、あと五分だけ……」
「そう言っていつまでも起きないじゃないですか!?」
アリアに睨まれて、俺は仕方なく寝ぼけ眼をこすって起きた。
結局、俺がとった破滅回避の策は、単純なものだった。
平凡な人間のフリをして、何の野心も見せずに無難に過ごすこと。
優秀すぎて、王太子マルカムに憎まれることもない。必然的に、アリアを巻き添えに破滅することもないわけだ。
この計画はおおよそ上手く行っていた。
ただし、たった一つだけ問題なことがある。
それは、アリアが俺に懐きすぎていることだった。メイドのフィリスに言わせれば、「アリア様はクリス様にべったり、ですよね」と。
アリアは、王太子マルカムの婚約者だ。それなのに、マルカムよりも、同い年の俺に好意的なのは、誰の目から見ても明らかだった。
それが異性としてかどうかまではともかく、婚約者のマルカムとしては面白くないだろう。
もし俺がマルカムに憎まれることがあるとすれば、アリアとの距離感が原因となるだろう。
だからといって、自分を慕ってくれるアリアを突き放したりもできない。
アリアは頬を膨らませて言う。
「クリス兄さんは……本当はすごい人なのに、どうして平凡なフリをしているんですか?」
「俺は本当に平凡なんだよ」
「嘘つき」
アリアは顔を赤くして、ジト目で俺を睨んだ。