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第5話 魔法を覚えたい!

 ということで、無事にアリアは俺の妹となり、俺はアリアの兄となった。

 前回のような破滅を迎えないために、今からいろいろ手を打っておく必要はある。


 けれど、しばらくはアリアとのんびり時間を使っても問題ないはずだ。

 前回、俺はアリアにほとんど何もしてあげられなかった。


 だから、今回はアリアを幸せにするために、自分の力を使うつもりだ。


(でも……何をすればいいんだろう?)


 アリアが何を望んでいるのか、俺にはわからない。第一、前回の人生のアリアが、俺をなぜ好きだったのか、わかっていない。


 今回の人生でも、アリアが俺のことを好きになってくれるとは限らないわけだ。


 前回の人生では、俺は恋愛沙汰とはあまり縁がなかった。


 王女アシュリン・アルバという美しい婚約者はいたけれど、完全に政略による婚約だった。


 アシュリンとは親しかったけれど、あくまで学園での友人という感じで、異性として意識したことは互いにない。


 それ以外の異性との関わりは、俺は薄かった……。


 俺は世界最強の賢者の称号を手に入れた。天才魔術師であることは間違いない。軍を率いて、大軍を打ち破った英雄だ。


 でも、目の前の幼い女の子にどう接すれば良いのかは、わからなかった。


 なら聞いてみるしかない。

 アリアを連れて屋敷を案内する途中、廊下で俺は足を止めた。


 そして、アリアを振り返る。アリアはきょとんとした様子で首をかしげ、銀色の髪が軽く揺れた。


 仕草一つだけでも可愛いなあ……。


 見とれかけて、俺は慌てて気を引き締める。


「アリアさ、僕たちに、何か要望はない?」


「ようぼう……?」


「えっと、こうしてほしいとか、欲しい物があるとか、やってみたいことがあるとか。そういうのがあれば、可能な限り叶えるよ」


 俺はゆっくりと言った。アリアが望むことがあれば実現させてあげたい。


 でも、アリアはふるふると首を横に振った。

 

「わ、わたしなんかに気を使わないでください!」


「遠慮しないでよ。僕が兄らしいことをしてみたいだけだから」


「そ、そうなんですか……?」


「そうそう」


 俺は柔らかく微笑んだ。アリアは青い宝石のような瞳で、じっと俺を見つめる。


 そして、小さくつぶやいた。


「ま、魔法を教えてほしいです……」


「そんなことでいいの?」


「はい。わたし、魔法を教わったことがなくて……。兄さんは魔法の天才なんですよね?」


「一応、そう呼ばれているけれど」


 俺が最強の賢者と呼ばれるのは、だいぶ先の話ではある。けれど、12歳時点でも俺は神童扱いだった。


「なら、わたしも魔法を使えるようになりたいなって。昔から憧れだったんです」


 アリアは貴族の生まれで、本人が希望すれば、魔法を習うことは普通ならできたはずだ。だけど、アリアが魔法を未習得なのは、きっとこれまで冷遇されていたからだろう。


 両親が病死して以後、アリアは分家をたらい回しにされていたらしい。


「きっと兄さんなら、上手に教えてくれそうですし……」


 控えめだけれど、期待するように、アリアは上目遣いで俺を見つめた。

 たしかに、魔法を使うことは、俺の大の得意とするところだ。


 ただ、上手く教えられるかどうか……。


 前回の人生で、他人に魔法を教えたことがないでない。けれど、それは中級以上の魔術の習得者に、より上位の魔法を教えたという経験だった。


 アリアのようなまったくの初心者を教えたことは、実は無い。

 迷っていると、アリアが悲しそうに目を伏せた。


「やっぱりダメ、ですか?」


 そんな寂しそうな表情をされたら、断ることはできない。

 俺が言い出したことでもある。


 俺は微笑んだ。


「ダメなわけないよ。そんなことで良ければ、お安い御用だ」


 ぱっとアリアが顔を輝かせる。


「あ、ありがとうございます!」


 そんなに楽しみにしてくれるなら、期待に応えたくもなる。


「早速、簡単な魔法を使ってみよう」


 俺とアリアは屋敷の中庭に出た。緑の芝生が広がる、単純だけれど、気分の良い庭だ。

 いまはまだ朝で、太陽が眩しくない程度に、俺たちを照らしている。


 俺もアリアも手ぶらだ。

 アリアは不思議そうな顔をする。


「魔法の杖とかはいらないんですか?」


「杖は、魔術の増幅器だから、単純な魔法を使うだけならいらないんだよ」


 まずはアリアに使ってもらうのは、簡単な魔法からだ。千里の道も一歩から。

 最初の壁は、魔力を操ることだった。


 その鍵となるのが、エーテルだ。


 この世界は、火、水、土、風の基本元素に加えて、エーテルという第五元素が存在する。

 エーテルは物の最も純粋なあり方で、星空の向こう、天上の世界を満たしているという。


「そのエーテルは、わずかだけれど、人間の体のなかに流れている」


「わたしにも、ですか?」


「僕にも、アリアにも、他の人たちにも、ね。量や性質に差はあるけれど、誰しも血と同じように、エーテルが体を流れている。魂の構成要素だなんていう哲学者もいるね」


「エーテルが魔法の源になるんでしょうか」


「そのとおり。厳密にはエーテルを利用して、世界の基本元素に働きかけることになるんだけどね」


 理屈はいろいろあるのだけれど、百聞は一見にしかずという言葉もある。

 まずは俺が試しに手本を見せる。

 

 俺がそう言うと、アリアはこくりとうなずいた。


「水よ。凍りの性質を示せ」


 俺が短くつぶやくとともに、その場に水の流れが湧き出し、そして、それは絶妙な感じで凍って……一つの形を作り出す。


 白い大きな雪玉が、上下に二つ。俺はその場に落ちている木の枝や木の実を拾って、その雪玉に埋め込んだ。

 いい感じに顔が出来上がる


 アリアがぱあっと顔を明るくする。


「ゆ、雪だるまですね!」


「慣れてくるとこういうこともできたりする。遊びにすぎないけれどね」


「でも、すごいです!」


「きっとアリアもすぐにできるようになるよ」


 アリアは「はい!」と元気よくうなずくと、雪だるまの頭を軽く撫でる。

 そして、「冷たい……」と嬉しそうにつぶやいた。

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