銀の蕾が花開く時
不定期更新予定です。とりあえずは完結はさせます。
何故、どうして。そんな事ばかりが雪村省吾の、僕の頭を駆け巡る。
大量のポップアップが立ち上がったPCのモニターに、混乱したままの目が、耳が、釘付けになってしまう。
こんな事はあるはずないのに、現実に目の前に起きている事に、声が出ない。
呆然としたまま、どれだけ時間が経ったかも分からない。だが、スピーカーから流れてきた、明るい太陽のような声が僕を現実離れした現実へと呼び戻した。
「初めまして、ママ!!」
バーチャルユーチューバー、VTuber。今のオタクなら漏れなく、或いは動画サイトを見る人ならばオタクで無かろうと聞いたことぐらいはあるかもしれない程には社会に溢れた存在。
彼、或いは彼女らはイラストや3Dモデルを肉体として仮想空間に存在するキャラクターである。
勿論、未来に夢見たAIの存在ではなく、中に人がいて演じている。だがそうであったとしても彼ら、彼女らの持つキャラクター性に惚れこむ人間は多いだろう。
かくいう僕もその一人であり、今だって大人気のバトロワゲーの配信をなんとなしに見ながら、ちょっとした作業をしていた。
「うーん……実際に動かすと少し違う感じが……」
僕は趣味で絵を描いていた。流行りの絵や自分の大好きを詰め込んだ絵を偶に描いてはSNSにあげる程度だ。
そんな僕だが、最近は一つの目的を持って一枚の絵を描き上げた。
VTuberのイラストを担当すること。いわゆる『ママ』と呼ばれる存在になりたい一心で描きあげたそれは、自分の中で間違いなく渾身の一作となっていた。
仮で付けた名前は「雪村 銀花」
銀の長髪に、青い目。ラフさを感じる五分丈のゆったりした白いシャツ、半脱ぎの黒ジャケットにデニム地のショーパン。靴はごつめで暖色を入れた。誰が何と言おうと僕にとっては傑作だった。
しかし、絵だけではVTuberとは生まれない。
まず一つ、絵を動くようにしてVtuberの表情や動きを伝えられるようにすること。僕がここひと月以上苦心しているのがこれだ。
無論、有償で人に頼むという手もあるが……出来れば完成まで自分の力で作りたいという素人ながらの気持ちがあった。
そしてもう一つ。肝心の『中の人』がいなければならないという事だ。
僕が描いているのは女の子のキャラクターであり、当然女の子の『中の人』が必要になるのだが、特に顔の広くない人見知りの僕にとってそんな事を頼める相手もいないのが現実だった。
「こんな感じかなあ……」
作業の結果、動くようになったキャラクターを見て、とりあえずの納得を自分にさせる。
「うん、とりあえず形にはなったし、寝るか」
しがないフリーターの僕は、明日だってバイトがある。
編集していたデータを保存してながら見をしていたライブ配信を閉じ、PCの電源を落とす。
「いい加減、中の人探さなきゃ、だな……」
僕はそんなことを考えながら、のそのその布団に入りそのまま眠りに落ちた……。