エピローグ その先に見えた未来
桜色の季節がやって来た。
そして、2年目の学園生活が始まった。
マンモス校であるこの水菓子学園でも、1年毎にクラス替えがある。今日はそれが発表される日だ。講堂で新しい理事長の話を聞いた後、クラスが張り出された掲示板を見て、俺はドドメ色の心でがくりと項垂れていた。
「あー、落ち込む……」
「蒼くん、そんなに沈まないで下さい」
「結と同じクラスがよかった」
「私も、蒼くんと一緒がよかったです」
そう言って落ち込む俺の腕を、結がぎゅっと抱きしめた。顔をスリスリとさすり、こちらを上目遣いでじーーっと見ている。
亜麻色の長髪がふわりと揺れ、彼女の美貌を引き立たせていた。通りすがりの生徒の視線を感じる。
「できるだけ、一緒に帰りましょうね?」
「もちろん」
「蒼くん、他の女子に惚れてはだめですよ?」
「結も、男子に惚れちゃだめだぞ?」
「もちろんです。私は蒼くんの事しか見て――」
「――ねぇお二人さん、よそでやってくれないかなー?」
「うおっ!!」
背後からの声に、思わず跳ねあがった。
「あ、茜さん! ……と持田さん!」
「俺はオマケで呼ばれても嬉しいですよ雛白さん!」
持田もいた。
葛西さんと持田は、相変わらず悪巧みをしながら仲良く遊んでいるらしい。この二人がどこまでの仲になったのかは聞かされてはいない。だけど、二人は触れ合う距離で並んでいた。それに最近はもう下の名を呼び捨てで呼び合う仲。
俺と結は、二人が言うまで待とうと決めた。
だが聞かなくとも分かる、というやつだ。
「しかし喜べよ蒼、俺達は奇跡的にまた同じクラスだぞ」
「仕方ないな、一応喜ぶよ」
「可愛い奴め、ツンデレか?」
「ずっとツンだよ」
こんな軽口を、葛西さんと結はニコニコと笑いながら見ていた。
「ところで蒼、持田家の情報網によると、今年は雛白さんに負けずとも劣らない程の別嬪さんが入学してきたんだぞ。しかも、なんと現役のアイドルだ」
「別嬪さんて言い方がまた渋いな。何だ、早速ファンクラブでも作ったのか?」
「バカ蒼! 俺はそんな事はしない。けど茜とパパラッチしてきた」
「お前の蛮行に葛西さんを巻き込むなよ」
口ではそう注意するが、実際は葛西さんも楽しんでいるのだ。パパラッチという行為自体はどうかと思うけど。
「これを見ろ。荒れ果てた台地に彗星の如く現れた、今テレビで話題沸騰中の現役アイドルグループ『トリンスハイツ』のセンター、時雨七海ちゃんの生写真だ!」
持田が取り出した写真には、ボブヘアーの爽やかな女子が映っていた。スラリと長い脚に、守りたくなるような整った甘い横顔だ。というか本当にパパラッチか。
しかしこの人、どこかで見たような……。
「アイドルでテレビに出ているなんて、勉強の方は大丈夫なのか?」
「相変わらず真面目だな蒼。だが聞いて驚け、何と彼女は特待生で入学している」
「へぇ、それは凄い」
俺が言うのも何だが、相当大変だっただろう。
そうして写真をまじまじと見ていると、隣の結がむぅっとしているのに気が付いた。その表情が可愛くて、思わず頭を撫でてしまう。
「大丈夫、結が一番好きだよ」
「うぅ……もう、えへへ……幸せです」
「はーい望月君、そこまでね。そろそろ人増えて来たし、教室戻ろうか?」
「もはや所かまわずだな、蒼」
葛西さん達にそう止められて、俺達は動き出そうとした。
その時だった。
「――――兄さん、やっと会えた」
人混みの中から、懐かしい声が聞こえた。
聞き覚えのある、兄さんという呼び方。俺を呼んだのかどうかは分からないが、声の主の方に振り向いた。
多くの人に囲まれながら、その女性が現れた。
「――兄さん!」
現役アイドル、時雨七海。
その本名は、柳七海。
アイドルで義理の妹のような人物が、俺の胸に飛び込んできた。
――
「まさか、七海ちゃんが特待生で来るとはな。しかもアイドルだったなんて」
「これも兄さんのノートのお陰ですよ」
「(これ、雛白さんよりキャラ濃くねぇか?)」
「(しー! 結が固まってるじゃないの!)」
「蒼くん……そちらはどなたですか?」
「柳七海ちゃん。ほら、クリスマス前に電話で一緒に話をした、俺が預けられていた親戚家の一人娘だよ」
「……兄さん、電話で一緒にってどういう事ですか。こちらの女性は誰ですか?」
「雛白結、俺の彼女だ。将来を誓っている」
そこで、空気がピキッと凍り付いた。
「(やべぇな、これが噂の修羅場というやつだぞ。パパラッチの血が騒ぐ)」
「(美少女同士のバトルだよ! ど、動画とってアップしなきゃ!)」
キーンコーンカーンコーン
「予鈴だ……俺、急ぐわ」
「あっ、ちょっと蒼くん!!」
「兄さん!!」
人生とは、後半の方が面白い。
後半どころか今でも十分に面白いのに、後ろから二人の家族が迫って来る。
窓の外から、桜の花弁と共に強い風が吹き込んだ。
『蒼お兄ちゃんは、変わらないね』
『蒼ちゃん、今日は大丈夫なのかしら?』
――――懐かしい声が聴こえた気がした。
後ろを振り返る。
通り過ぎた場所を、桜の花弁が美しく舞い踊っていた。
-終-
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。
ここまで導いて下さった読者の皆様には感謝しかございません。
少し落ち着いたら、彼らの未来を番外編として書く予定です。
最後に、作品を通しての☆評価や感想など教えて頂けると嬉しいです。




