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54 夢見心地の生活へ



 12月26日。

 持田と葛西さんが家にやって来た。



「おめでとう糞野郎」

「あ、ありがとうございます持田さん……」


「ちちち違うんです雛白さん! 今のは蒼に向かって言ったんです!!」

「私の蒼くんが糞野郎なんですか?」

「よぉしいいぞ結、その調子だ」


 イブにあった出来事を、まず最初に二人に報告したかった……と思ったら、葛西さんには既に結から一昨日のうちに電話で知らせていたようだ。持田も葛西さんから電話連絡を受けていたらしい。


「おめでとう結~! 長かったねー!」

「ありがとうございます、茜さん!」


 美少女同士が手を繋いで喜んでいる。



「あれを見て尊いと思ったか、蒼?」

「……思っちまった」

「そうだよな。お前はこっち側の人間のはずだったのにおかしいな」

「感謝しているよ持田。それで、六原委員長の方はどうだったんだ?」

「それがよぉ――」



 クリスマスイブ当日。

 俺が結とショッピングモールにいた時間だ。



 六原委員長は計画通り、学園の庭で一人静かに佇んでいたそうだ。そしてそこに橋影一派がやって来る……と思いきや、現れたのはなんと同じ趣味を持つ先輩方のサロンだった。



 そのまま六原委員長はさも当然であるかのようにサロンに入会し、周囲にいた持田達は呆気に取られてしまった。



「何かよ、当の橋影兄弟は部活と生徒会でいつも通り登校していたのに、その日は橋影一派が誰一人として学園に来ていなかったんだと。ちゃんちゃらおかしいぜ」


 なるほど。恐らく、杏奈さんが水面下で動いてくれた結果だろう。


「六原委員長の仲間が見つかって、全て丸く収まったって事か」

「俺達は拍子抜けだったけどな。まぁその分、蒼の方が上手くいってよかったぜ」

「……ほんと、助かったよ。ありがとな」

「気にするな。お、見てみろよ蒼。葛西さんがお前の彼女に餌付けしてんぞ」


 持田に言われて結の方を見ると、葛西さんにエクレアをあーんされていた。ソファに座りながら、結はもぐもぐと行儀よく食べている。



 すると、持田が小声で話し出した。


「……俺さ、何だか葛西さんからシンパシーを感じるんだよな」


 んん、ついにきたか!?


「よし、詳しく」

「趣向が似てるというか、性癖が近いというか」

「葛西さんは良識人でお前は変態だろ?」

「葛西さんも変態だよ」

「失礼過ぎる」


 だが良い傾向だ。


「たまにポエミングするんだよな、あの人」

「ポエミング?」

「蒼知らないのか? 体全体で森羅万象を感じて吟じるんだよ」

「それはまた何というか……先鋭的だな」

「今オブラートに包んだけど、実際にその現場を目の当たりにするとただの変人だぞ」


 持田に変人と言われるとは気の毒だ。


「でも、お前はそこも好きなんだろう?」


「………………………………さぁな」


 うおおおぉ、持田が照れている。

 売店のおばちゃんの反応とは全く違う。


「告ってみようぜ、持田ならいける!」

「なんだ蒼、彼女が出来たからって急に余裕ぶってるじゃねぇか」

「お前を応援してるんだよ、ほら」


 持田にクリスマスプレゼントを渡した。


「結と二人で選んだ、お前と葛西さんへのお礼だ」

「蒼くん……シュキ」

「分かったから、葛西さんと開けてこい」


 持田はプレゼントを持って立ち上がり、二人の元へと向かっていった。


「お、モチモチどうしたのそれ?」


 モチモチ……?


「親分、幸せな二人から俺と親分へのクリスマスプレゼントだそうですぜ」

「おおおぉ、結いいの!?」

「はい。といっても、立案者は望月君ですが」

「二人には本当に世話になったからな」

「ありがと~!!」


 葛西さんと持田はガッサガッサと袋を開けた。二人が中身を開いている間に、結が俺の傍にやって来る。


「結、何個食べたの?」

「言いませんよ」

「なるほどですねぇ」

「……もう。でも、お寿司が入るか不安です」


 結構食べたようだ。


 そして持田と葛西さんは、お揃いのアイマスクを装備してVRMMOごっこをし始めた。こうやって二人が遊んでいる様子を見ると、確かに葛西さんも変人である。


 小声で結に話しかけた。


「……持田はポエムで告白すると思う」

「ポエムでですか? そうなると、茜さんはポエムで返事をするんですか?」

「そうだな。もしかすると、Web上でかもな」

「ふふ、それはロマンチックですね」


 Web小説か。


「持田、そういえば俺の恋愛小説書いてるんだったな。結末はどうしたんだ?」

「えぇ!?」


 そういえば、結は初耳か。

 持田がアイマスクを外してこちらに振り向いた。


「ん? あぁ、最終話の告白のオチが悪くてブックマークがかなり剥がれたぞ。最終的に70で落ち着いた。これも全部六原委員長のせいだ」

「70人に読まれたのならいいじゃないか」

「――凄いじゃんモチモチ、私の詩なんて10人止まりだよ?」

「…………え、葛西しゃんも投稿してるの?」

「うん」


 持田の目の色が変わった。


 ピンク色だ。

 完全に恋に落ちている。


 持田は再びアイマスクを装着し、照れを隠すかのように吟じ始めた。

 不気味な光景だ。



 そんな中、小春ちゃんがジュースを取りに部屋にやってきた。


 犯罪者と警察が遭遇する。


「う、うわああああぁあ何この人気持ち悪い! 逮捕、逮捕!!」

「なな、何だこれ手錠か!? おい蒼誰だよ、何にも見えねぇよ!」

「結の姪っ子だよ」

「マジか、ご褒美だったわ」


 持田は安定している。


「モチモチは馬鹿だねぇ」

「お、葛西さんは小春ちゃんに嫉妬?」

「……へぇ、望月君もそういう事言うんだ」


 やばい、今のは失言だった。


「ごめん、持田の事になるとつい理性が」



 その時、玄関のチャイムが鳴った。


「望月くーん、これ持って貰えるー!?」

「はぁい、今行きますよ葉月さん!」


 玄関から葉月さんの声が聞こえた。客人がいるという事で、今日の夕飯は豪華なお寿司を注文してくれた。荷物を持つのは俺の役目だ。寿司と共に宅配された荷物を運ぼうと近づく。


「助かるわ、望月君」

「もう下の名前でいいですって」

「だって、嫉妬されるのも面倒なのよねぇ」



 そう言って葉月さんが手をパタパタしながらリビングへと去って行った。入れ違いで結が玄関にやって来る。結は話を聞いていたのか、少し頬が膨れていた。


「蒼くん、手伝いますよ」

「ありがとう、結」



 そして、荷物を持とうとした時だ。

 結がパフっと俺の胸元に飛び込んできた。


「……茜さん達、イチャイチャしてましたね」

「そうだな。誰かがイチャついてるのを目の当たりにすると、何だかゾワゾワするよな」


 結は多分、甘えたいのだ。

 甘えたモードの彼女の頭を優しく撫でる。


 そして、ぎゅうっと強く抱きしめた。


「へうぅ…………蒼くぅん」


 それだけで一瞬にしてとろけてしまった結が、上目遣いでこちらを見た。美少女の艶っぽい表情に、心臓がどきりと跳ね上がる。



 トロンとした結に顔を近づける。

 そして唇を、唇で封じた。


 結も目を閉じて、重なった唇を恥ずかしそうに押し付け、そしてゆっくりと離れた。



「……ん……はぁ。えへへ……」

「幸せだ」

「私も、幸せです」


 ほんの数秒だけだが、たまらなく愛しい。

 再び結をぎゅっと抱きしめて……。



「――二人とも、仲が良いのは分かったから早く運んでくれるかしら?」

「うわっ、葉月さん! すぐに!」

「ああああわわ……!」



――



 こんな感じで、俺は雛白家に少しずつ馴染んでいた。家事手伝いに勉強、それに結や葉月さん達との関係。昔と比べて、俺の生活は随分と変わったものだ。



 食生活も改善して体調も良いし、ここ数日は幻覚も見ない。年明けには病院へ行って、医者からアルバイトの許可を貰うつもりだ。


 昔に比べれば、まるで夢を見ているようだ。


 大分前向きになったと思わないか、澪?





 ……澪?




 …………志乃さん?


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