表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/59

52 見少女と見える男


 夕焼けに沈む静かな公園。

 周囲には、俺と結しかいない。


 木々が北風で擦れる音が聴こえる。

 少しだけ冷えてきたようだ。


 安っぽいランタンを膝の上に置いた。



 手紙は全部で3通。

 2通は俺の直筆で、1通は杏奈さんからのものだ。



「えー。ではまず始めに、俺の家族から」

『緊張するわねぇ、蒼ちゃん』


 澪と志乃さんが、目の前に現れた。

 そうだな、事前に書いているとはいえ緊張する。


「家族?」

「澪と、志乃さん」


 2つ折りの手紙を開いて、読み上げる。



『結へ。これから蒼お兄ちゃんの事について色々な癖とかを……』


 スッと手紙を閉じた。


「……やっぱり、これは10年後ぐらいにしよう」

「気になります、今読んでください!」


 書いたのは俺だから、内容は分かってるんだけどな。



『結へ。

 これから蒼お兄ちゃんの事について、色々な癖とかを教えよう……と思ったけど、書いてくれないので止める。

 お兄ちゃんはシスコンだよ。

 たまにお兄ちゃんと呼ぶと、喜ぶから!

 お兄ちゃんは多分これからも一人で泣くと思う。泣き虫だからね。でも、結がいれば大丈夫。どうか、結は結らしく妹してあげて下さい。じゃあね! 望月澪』


 澪らしいサッパリとした内容だ。

 続きはあるが、一度手紙を折りたたむ。



 しかし、顔が熱い。

 『お兄ちゃんはシスコンだよ』と自分の事を書いた手紙を、自分が読み上げている。


「……ふふ。大丈夫、お兄ちゃん?」

「大丈夫じゃない。背中に汗をかいてきた」


 この手紙は、深層心理の妹の独り言を具現化したものだ。どうせなら俺にしか出来ない告白を、と考えてみた結果だった。今の所、どこにもロマンチックな要素は無い。



 結は俺の持っている手紙を開いた。


「まだ続きがありますよ?」

「下半分は志乃さんだな」

「ほう、私が読んでもいいですか?」


 メガネがきらりと光り、髪も揺れた。

 この悪戯な感じが愛らしい。


 結の言う通り、自分で読むよりもダメージが少なそうだ。


「お願いしようかな」

「ふふ、任せてください」


 結に手紙を渡した。



『結ちゃん。

 私は望月志乃と言います。

 始めまして。

 蒼ちゃんを通して、いつもあなたを見ていました。

 いつかお礼を言いたかったの。

 蒼ちゃんを助けてくれて本当にありがとう。

 いずれ私のような幻覚は消えると、お医者様は仰っています。その時に、蒼ちゃんの隣にいるのがあなたであってほしい。どうか、傍で笑ってあげてください。あなたは蒼ちゃんにとってのアイドルなんだからね? 望月志乃』



「うわあああ、これ拷問だわ……」


 これが俺の深層心理。

 晒し刑、心の中の晒し刑だ。


 それに対して、結はニコニコだった。


「『あなたは蒼ちゃんにとってのアイドルなんだからね?』この手紙は神棚にでも飾っておきましょう」

「やめて俺が死ぬ。もうHPが無い」

「ふふ、ヒールしましょうか?」


 隣に座っていた結が、更に寄りかかってきた。俺を抱き枕のようにぎゅうっと抱き締め、体のほとんどの部分がくっ付いている。


「――澪さん、志乃さん。本当にありがとうございます」

『どういたしまして、結ちゃん』

『蒼お兄ちゃんは一旦貸すだけだからね!』



 すると、目の前に二人が現れた。


 二人はどこか儚げで、体からは薄っすらと夕日が透けて見えていた。表情は分からないが、笑っている気がした。



 少し気分が落ち着いてきた。

 2つ目の手紙を取り出す。


 これは、俺の言葉が綴られたものだ。結がその様子に気付いて俺から離れようとしたが、両腕で強く抱き締めて捕らえた。


「へうぅ……」


 抱き締められると、結はヘロヘロになる。


「次は俺から結への言葉」


 抱き締める力を弱めて、結を起こした。


 今にも泣きそうな顔で、頬を赤らめていた。それでも結は、いつものようにじーーっとこちらを見つめている。ずっと変わらないな。



 この手紙に書いてある文章はたった3行。

 読む必要もなく、覚えている。



「結。いつもありがとう」



「ずっと、好きでした」



「付き合って下さい」






「――――――はい!」





――



 結が再び体を寄せてきた。俺の腰に手を回し、彼女の耳が俺の胸に当たる。まるで心臓の音を聞かれているような格好だ。



「私もずっと好きでした」

「待たせてごめん」

「いえ、待ったかいがありました。ふふ」


 顔を胸に埋めたまま、結はつぶやいた。

 亜麻色の髪から良い匂いが漂ってくる。


 結を安心させるように、背中を撫でた。



「『人は不快な記憶を忘れることによって防衛する』」

「え?」

「偉大なるフロイト先生がそう仰っていた。『幸福になる方法は、自分で実験してみなければ分からない』だったっけな、そうも言っていた」


 フロイト先生の言葉が理解できる。俺はどこかで分かっていたんだと思う。たとえどんな結果になろうとも、自分から進んで変わるのが大切だという事を。


 結が不思議そうに俺を見た。


「これでようやく、前に進めた気がするんだ」

「……これからは一緒ですよ、蒼くん?」

「もちろん。お願いするよ」

「ふふ、お願いされましたよ」



 結の顔が、俺の顔の方にゆっくりと近づいてくる。


 お互い、数センチの距離。



「――今度は、夢じゃありませんから」


 唇が、静かに重なった。

 結は目を瞑り、俺の首に手を回す。



 それはほんの数秒。

 だが、とても長い数秒。

 甘く、優しかった。



 いつまでもしていたいと思ったが、結はそっと唇を離した。夕日が亜麻色の髪を照らし出す。まるで絵のように綺麗で、息を呑んだ。



「――愛してる」



 すると、ボッっと音が鳴ったかのように、結の顔があわわと慌てだした。

 俺も熱い。お互いに言い慣れていないし、聞きなれない言葉だ。


 ……だめだ、可愛すぎる。

 抱きしめたこの手を離したくない。



 ――そう考えていた時だった。



「(見なさい小春、ああしてお互いの幸せを確かめ合うのよ)」

「(妙ですねぇ)」

「(あそこからどうするの?)」


 何かが聞こえた。結には聞こえていないようだが、俺には聞こえた。そして見えるぞ……木陰からニヤニヤとこちらを覗いている葉月さん達の姿が。


 急に冷静になってきた。


「……結、葉月さんたちに見られてる」

「ええああぁっ蒼くんっ!?」

「葉月さんに告白する時は絶対に呼べと言われて、さっきメールをいれていたんだ。これが指令その2だよ」


 結はガバっと離れ、頬に両手をあてた。

 一瞬だけ普段の顔に戻ったと思いきや、再びえへへと笑い始めた。


「……嬉しくて、元に戻りません」

「可愛いからそのままでいいよ」

「うぅ、蒼くん……好き、好きです――」


 結が、甘い声で再び抱き着いてきた。

 胸にすりすりと顔を擦りつけている。



「(……もう無理、見ていられない。お母さん、突入の準備を)」

「(待ちなさい小春、もう少し泳がせましょう)」

「おじさん、もういいかな?」

「し、修一!!」


 さすが修一君。


「ありがとう修一君。空気読んでくれて」

「おじさんは読めないからね。まったく、見ている方が恥ずかしかったよ。まさかシスコンだったなんて」

「最悪だ、そこから見てたのか……」

「動画もそこからよ?」

「鬼ですか葉月さん!」

「どど動画を撮ったんですか!?」


 流石に驚いた。


「ごめんねぇ結さん、あなたのお母さんがどうしても見たいからって」

「お、お母さんが?」

「あ、そうだ、結のお母さんからも手紙を預かっていたんだった」


 興奮して忘れていた。

 すみません、杏奈さん。


 取り出した手紙を、結に渡す。葉月さん達も気になるようで、覗き込んできた。



 結が緊張した面持ちで読み上げる。


『結、好きな人が出来たようね。葉月が喜んでいたわ。彼女から聞いたんだけど、その人って小学校の頃に好きだった人……わああぁ!!』


 結が勢いよく手紙を閉じた。



「何で言っちゃうんですか葉月さん!?」

「……今日はいい天気ね、望月君」

「そうですね葉月さん。小春日和ですよ」

「小春日和!!」

「ううぅぅう……!」



 結は恥ずかしそうに目を逸らし再び俺の方をじーーっと見た。


 そんな彼女の背後では、澪と志乃さんが優しく微笑んで佇んでいた。



ようやくゴールしました!

おめでとうぅ(*´∀`*)ノ。+゜*。


物語はもう少しだけ続きます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ