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51 サンタクロースを見る前に③ 公園


 町の喧騒から離れ、地元へと戻って来た。


 日は傾き始めたが、まだ暖かい。

 こういう日を小春日和と言うのだろう。



 荷物を一旦家に置き、公園へと向かう。


 いつものベンチに向かうと、この辺でよく散歩しているお爺さんが座っていた。結も気付いたから、お爺さん幻覚ではないはずだ。


「少し歩こうか」

「はい」


 手を繋ぎ、歩調を結に合わせてゆっくりと散歩する。


 今日は気温が高いせいか、走り回っている子供達は薄手だ。彼らの親達はそれを横目で見ながら井戸端会議をしている。



「そういえば、小春ちゃん達は?」

「修一と一緒に家で遊んでいますよ。修一が最近ゲームをやり始めまして、二人とも昨日からずっとそればっかりです」

「へぇ、教育に悪いやつ?」

「はい。ゾンビを銃で倒すんです。生々しくて見ていられないんですよ」


 葉月さん、それはいかんでしょ。


「子供って無慈悲な所あるからな。敵を倒して爆笑しているのはある意味恐怖だ」

「ふふ、喜んでる姿だけを切り取ると可愛いんですけどね」



 そうして談笑しながら歩いていると、遊具の隅で子供が集まっているのが目に留まった。



 一人の男の子が怒鳴り声を上げている。

 その目の前には、座り込んだ女の子。


 女の子の周囲には、文具などが散乱していた。



 ――何やらよくない雰囲気だ。


『行くの、蒼お兄ちゃん?』


 あぁ、放っておけない。

 この公園の秩序を乱す者は、たとえいいとこの坊ちゃんであろうとも……。



 そう思った時だった。



「――何をしているんですか!?」



 結が大きな声を上げて、子供達の方に駆け寄って行った。子供達は驚いた表情で結に振り向いた。


 結はそのまま女の子の傍へと近付き、バラバラに広がった文具を拾い集めた。そして、声を上げた男の子の方へと向き直した。


「な、だ、誰だよ」

「誰でもいいです。何をしたんですか!」



 女の子を守るように結が立ちはだかった。



 不思議な既視感だ――。



 ここで結と出会った時ではない。

 もっと昔。

 俺への最初のいじめが始まった、あの時だ。



 ――――そうか、あの時の女の子はやっぱり……。




「お、俺は盗られた車を返してくれって言っただけで……」

「と……盗られた車?」


 結は女の子を見た。手に持っていたのは車のオモチャだ。確かクロQだったか、押さえながら引いて手を離すと前に進む機構のやつだ。


「それは、盗んだんですか?」


 女の子は黙って首を横に振った。


「貸してって言った」

「言ってねぇよ、置いといたのを盗ったんだろ!」

「言った!」

「言ってねぇ!」


 そうして言い合いが始まった。


 ……なるほど。

 子供の間で認識の齟齬があったようだ。



「二人とも、そこまでです!」


 結は制するようにそう発言し、女の子に目を合わせて優しく微笑みかけた。


「ちゃんとお返事は聞きましたか?」

「……忘れた」

「では、もう一度貸して下さいと言えますか?」


 女の子は目を合わせようとせず、顔だけ男の子に向けて口を開いた。


「貸して、下さい」

「…………分かったよ」


 男の子は渋々だった。

 けれども、優しい子のようだ。


「僕も、嫌な事があったからと言って乱暴はいけませんよ?」

「……ふん。はぁい」

「はい、良く出来ました」


 結は無理やり子供達の手を握手させた。お互いに顔を見ていないが、結に気圧されているようだ。むしろ男の子の方は少し照れているのか、微笑ましい光景だ。男の子は親達の方へとかけて行った。親は談笑に夢中で気が付いていなかったようだ。



 結は自分の仕事を終えたと感じたのか、足早に戻って来た。ずれた伊達眼鏡を元に戻し、パパッとスカートを叩いた。


「すみません蒼くん。つい我慢できなくて行ってしまいました」

「謝る事じゃないよ。結が行かなかったら俺が突撃してたし。それに、俺ならきっと威圧的に対処してただろうから、穏便に仲裁した結は凄いよ」

「いえ、かなり強引だったと思いますよ?」

「俺よりは良いさ」


 無意識に結の頭を撫でていた。

 撫でられた結は、にへっと笑いながら少しずつ体を寄せて来る。



 過去に俺がいじめの対象に削げ替えられた事は、今となってはどうでもいい。でも、小学校の配布物を届けに来てくれた子にちゃんとお礼を言えていなかった。それだけは心残りだった。



 この全てが、結で良かったと思う。



「蒼くん? どうしましたか?」


 じーっと結を見ていたのに違和感を感じたようだ。


「なんでもない。――ありがとう、結」

「? どういたしまして、でいいんでしょうか」

「いいよ、それで」


 撫でていた手を、結の手に絡める。

 そして、再び前を見て歩き出した。



 いつものベンチに座っていたお爺さんは、いつの間にかいなくなっていた。今のうちにササっと座る。まだ立ち去ったばかりなのか、座った瞬間にお爺さんのお尻の温もりを感じる。


「ふふ、もう蒼くんの指定席ですね」

「一応優先はしてるつもり」


 結も隣に腰かけた。



 そして俺は、手持ちの荷物からランタンが入った小道具を取り出した。


「それは何ですか?」

「雰囲気が出ないかなと思って」


 100均で買った物だ。

 スイッチを入れると、LEDが明るく輝く。


「趣はあるけど、これだとクリスマスというよりもキャンプだな」

「私は好きですよ、キャンプ」

「へぇ、行った事あるの?」

「ずーっと昔にですけどね。海の近くに祖母の家がありまして、家の傍にキャンプ場が隣接しているビーチがあるんです。そこでコテージを借りて、沈む夕日を眺めながらバーベキューをしました」


 結の言葉だけで、その光景が目に浮かぶ。


「それはロマンチックだな。その場で釣った魚をバーベキューできそう」

「蒼くんは、釣りができるんですか?」

「できないよ」

「ふふ」

「できないけど……大切な人は釣れました」

「……もう」


 結が、俺の肘に体重を掛けた。

 密着している部分から、彼女の温もりを感じる。



「――結、実は君に言いたい事があって」



「……はい」



 結はそのままの体制だ。

 だが、早くもぞもぞと足が動いている。


 照れ始めるのが早すぎて可愛い。



「今から少し痛くて寒い事をします」

「……?」


 鞄から3通の手紙を取り出した。


「想いを手紙に綴ってみたんだ」


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