表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/59

50 サンタクロースを見る前に② モール


 早めの昼食を終えてやって来たのは、大型ショッピングモール。



 揺りかごから墓場まで何でも揃う……かどうかは分からないが、この規模で揃わないものはないというぐらいに大きな施設だ。


 そして俺達は既に迷子。

 フロアマップを見ながら現在位置を確認する。



「昔は無かったよな、ここ」

「出来たのは、確か2年前ですね」


 俺も結も、ここに来るのは初めてだ。

 そして今日はクリスマスイブ。

 平日とはいえ、人は多い。



 広い吹き抜けらしきエリアには、屋内にも関わらず豪華に装飾されたクリスマスツリーが綺麗に彩られていた。エスカレーターに乗りながら眺める。


「綺麗ですね」

「お金掛かってるなぁ」

「もう、情緒が無いですよ?」


 悪い癖だ。全部、お金に換算してしまう。



「貧乏性なんだ、治さないとな」

「蒼くんはそのままでいいですよ?」


 そういうと、結がぐっと体を近づけて来た。

 眼鏡越しに、俺を上目遣いで覗く。


 また悪戯な表情だ。


「こうして会話するのが楽しいんですよ?」

「……俺、弱いんだよ。その結の顔に」

「ふふ。この顔でよかったです」



 俺も結も気分が盛り上がると周りが見えなくなるフシがある。そして今日は監督者がいないから、俺がしっかりしないと。


「俺がしっかしないと……にへっ」

「蒼くん、顔が絆されてますよ?」

「結が可愛いから」

「うぅ……!」


 あっという間に、結がたじたじになる。

 悪戯な表情が消え去り、慌てた様子で体をもじもじとし始めた。


「も、もう駄目ですよ」

「いやほんと、駄目だなこれは」


 ただエスカレーターに乗ってツリーを眺めただけで、こんなやり取りになってしまう。人が多くあまり目立たないのが逆に良かった。



「さて、どこか見たいお店はある?」

「んー……蒼くんはありますか?」

「そうだな」



 個人的に欲しいものは冷蔵庫ぐらいだったが、今となってはそれも必要ない。さっきのシュークリーム屋も感じたが、俺はスーパー以外で買い物をするという機会がほとんど無い。


 でも、今日はここでどうしても買いたい物があった。



「実は3つある」

「おぉ、伺いましょう」

「順番に行こう。まず、葉月さん、修一君、小春ちゃんにお礼のプレゼントを買いたいんだ」


 今までお世話になったお礼と、これからお世話になる事に対する気持ち。彼らは何が好みかを知らないから、結に尋ねようと思っていた。


「あまり気負いされないような、ささやかな物がいいんだけど」

「私達はもう家族のようなものですから、そんなに気を遣わなくてもいいんですよ?」

「やらないと気が済まなくて」


 そう告げると、結が考えた素振りをした。


「分かりました。では、あちらの雑貨屋へ行きましょうか」

「お願いしたいで候」

「ふふ、よきにはからえ」


 使い方が若干違うのが、また可愛いな。



 やって来たのは、便利グッズが多く並ぶ雑貨屋だ。アイデア商品やパーティーグッズも多く、特にクリスマス商材のコーナーは人がごった返している。



「葉月さんは調理器具、修一はサッカー関係、小春は手錠ですね」

「小春ちゃんだけおかしくない?」

「前々から欲しがっていたんですよ」


 どんな幼稚園児だ。



 そして二人で商品を選んでいった。


 最終的に、葉月さんにはチタンのピーラー、修一君には屋内でも使えるリフティングボール、小春ちゃんにはおもちゃの手錠を購入した。


「やりたい事2もこのお店で済みそう」

「何でしょうか?」

「持田と葛西さんに、ペアグッズを渡したい。俺と結の二人からのクリスマスプレゼントという事にして」

「ふふ、それはいい考えですね」


 あの二人がくっつくようなものがいい。

 それで引っ付いて離れないような……。


「超強力な磁石の首輪とか無いかな?」

「本当にくっついちゃいますね」

「露骨すぎるか?」

「そうですね……茜さんも持田さんも、お互い趣味に共通点がありますから。例のアレに関係する事でいいんじゃないでしょうか?」

「そうか、例のアレだな」


 あの二人はネットでポエムを投稿している。その事については、少なくとも持田は知らないだろう。二人の仲が深まる切っ掛けになるような物がいい。


 そんなわけで、上下巻の短い詩集と疲れ目を休めるアイマスクを買ってみた。青と赤の色違いでお揃いの物だ。


「これで任務完了かな」



 すると、結がおずおずとこちらを向いた。

 何かを言いたげだ。



「あ、蒼くん」

「どうした?」


「私も――蒼くんとお揃いの物が欲しいです」


 上目遣いで、そう告げてきた。



「それ、俺のやりたい事3だ」


 結も、俺と同じ事を考えていた。

 彼女が見る見るうちに笑顔に変わっていく。



「ふふ、嬉しいです」

「ごめん、先に言わせちゃったな」

「そんなのいいですよ。蒼くん」


 体を軽く寄せてきた。

 今日は、とことん甘えてくる。


 左手で結の右手を捕まえた。

 お互い、その手にぎゅっと力を入れる。


 そして、周囲を見渡した。



「何が良いかな?」

「軽くて壊れにくくて、小さくて身に着ける物がいいです」


 お、なぞなぞか?



 ボケるなら手錠、ロマンなら指輪。

 でも本命は……。


「キーホルダー」

「正解は、ぬいぐるみでしたー」


 !!?


「あっ……ちがぃ……」



 聞いてしまった。


 それは多分、普通に欲しい物だろう。

 身に着けて持ち運ぶものじゃない。



「ぬ、ぬいぐるみのキーホルダーだ!」

「うぅ……正解です……」


 フォローしたものが正解になった。そして、顔を隠そうとする結の右手をぐっと捕まえて、先程の店に再び戻った。本日3度目の来店である。



「実はキーホルダーがいいって決めてたんだ。新しい鍵を貰ったけど何もつけていなかったし」

「そ、そうなんですね……あれ、もしかして答えを言わせようとしましたね?」

「結との意見の一致が嬉しくてな」

「もう、そういうとこありますよね蒼くん」

「嫌いになった?」

「いえ、す……蒼くん!!」


 流石に意地悪だったか。


 結は顔を赤くして目を逸らした。でも、その手は離すまいと強く握っていた。俺がぎゅっと握ると、こちらに向き直した。


 怒っているような、照れているような。


「……私は、我慢しているんですよ?」

「待たせてごめん。あと少しだけだから」

「はい。手は離さないで下さいね」


 そう言葉にすると、優しく微笑んだ。



 お互いに分かっているのだ。

 そして、小物が並ぶ棚で商品を選ぶ。


 結がおそろいの物を選んでいる。

 一点をじーっと見つめていた。


「……これにしようか」


 結が見ていたのは、小さな熊のぬいぐるみが付いたキーホルダー。青と赤のマフラーを巻いたものだ。


「で、でも蒼くん、いいんですか?」

「うん。結が好きなのがいいから」

「……ふふ、ありがとうございます!」


 結は早速購入したキーホルダーに鍵を付け、嬉しそうに眺めて鞄に戻した。


「これだけで、来たかいがありました」

「もっと早く買えばよかったな」

「ふふ、これから少しずつ買い足していきませんか?」

「いいな、それ採用」



 そうして話しながら時計を見た。

 時刻は3時過ぎ。


「今日の夕飯は、本当に結の家でいいの?」

「えぇ。もう仕込んでありますよ」


 最初はディナーを予約しようと探したが、クリスマスの影響かどこも一杯だった。仕方なく結にそれを告げたところ、葉月さんが俺の歓迎会も兼ねた夕食を準備すると言ってくれた。杏奈さんが全額払ってくれるのよと、後から裏情報を教えてくれた。


 本当に感謝しかない。


 ああ見えて葉月さんと杏奈さんは仲が良いのだ。杏奈さん曰く、年齢も近くてわざわざ同じ大学を選んだ程らしい。葉月さん本人は否定していたが、俺からみると辛辣なのは愛情の裏返しのようだった。



「これからどうしますか?」

「……一旦戻って、公園に行かないか?」

「ふふ、私も提案しようと思っていました」

「あれ、もしかして答えを言わせようとした?」

「蒼くんとの意見の一致が嬉しいんですよ」



 結は、してやったりの表情だった。


 やっぱり、お互いに分かっているのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ