50 サンタクロースを見る前に② モール
早めの昼食を終えてやって来たのは、大型ショッピングモール。
揺りかごから墓場まで何でも揃う……かどうかは分からないが、この規模で揃わないものはないというぐらいに大きな施設だ。
そして俺達は既に迷子。
フロアマップを見ながら現在位置を確認する。
「昔は無かったよな、ここ」
「出来たのは、確か2年前ですね」
俺も結も、ここに来るのは初めてだ。
そして今日はクリスマスイブ。
平日とはいえ、人は多い。
広い吹き抜けらしきエリアには、屋内にも関わらず豪華に装飾されたクリスマスツリーが綺麗に彩られていた。エスカレーターに乗りながら眺める。
「綺麗ですね」
「お金掛かってるなぁ」
「もう、情緒が無いですよ?」
悪い癖だ。全部、お金に換算してしまう。
「貧乏性なんだ、治さないとな」
「蒼くんはそのままでいいですよ?」
そういうと、結がぐっと体を近づけて来た。
眼鏡越しに、俺を上目遣いで覗く。
また悪戯な表情だ。
「こうして会話するのが楽しいんですよ?」
「……俺、弱いんだよ。その結の顔に」
「ふふ。この顔でよかったです」
俺も結も気分が盛り上がると周りが見えなくなるフシがある。そして今日は監督者がいないから、俺がしっかりしないと。
「俺がしっかしないと……にへっ」
「蒼くん、顔が絆されてますよ?」
「結が可愛いから」
「うぅ……!」
あっという間に、結がたじたじになる。
悪戯な表情が消え去り、慌てた様子で体をもじもじとし始めた。
「も、もう駄目ですよ」
「いやほんと、駄目だなこれは」
ただエスカレーターに乗ってツリーを眺めただけで、こんなやり取りになってしまう。人が多くあまり目立たないのが逆に良かった。
「さて、どこか見たいお店はある?」
「んー……蒼くんはありますか?」
「そうだな」
個人的に欲しいものは冷蔵庫ぐらいだったが、今となってはそれも必要ない。さっきのシュークリーム屋も感じたが、俺はスーパー以外で買い物をするという機会がほとんど無い。
でも、今日はここでどうしても買いたい物があった。
「実は3つある」
「おぉ、伺いましょう」
「順番に行こう。まず、葉月さん、修一君、小春ちゃんにお礼のプレゼントを買いたいんだ」
今までお世話になったお礼と、これからお世話になる事に対する気持ち。彼らは何が好みかを知らないから、結に尋ねようと思っていた。
「あまり気負いされないような、ささやかな物がいいんだけど」
「私達はもう家族のようなものですから、そんなに気を遣わなくてもいいんですよ?」
「やらないと気が済まなくて」
そう告げると、結が考えた素振りをした。
「分かりました。では、あちらの雑貨屋へ行きましょうか」
「お願いしたいで候」
「ふふ、よきにはからえ」
使い方が若干違うのが、また可愛いな。
やって来たのは、便利グッズが多く並ぶ雑貨屋だ。アイデア商品やパーティーグッズも多く、特にクリスマス商材のコーナーは人がごった返している。
「葉月さんは調理器具、修一はサッカー関係、小春は手錠ですね」
「小春ちゃんだけおかしくない?」
「前々から欲しがっていたんですよ」
どんな幼稚園児だ。
そして二人で商品を選んでいった。
最終的に、葉月さんにはチタンのピーラー、修一君には屋内でも使えるリフティングボール、小春ちゃんにはおもちゃの手錠を購入した。
「やりたい事2もこのお店で済みそう」
「何でしょうか?」
「持田と葛西さんに、ペアグッズを渡したい。俺と結の二人からのクリスマスプレゼントという事にして」
「ふふ、それはいい考えですね」
あの二人がくっつくようなものがいい。
それで引っ付いて離れないような……。
「超強力な磁石の首輪とか無いかな?」
「本当にくっついちゃいますね」
「露骨すぎるか?」
「そうですね……茜さんも持田さんも、お互い趣味に共通点がありますから。例のアレに関係する事でいいんじゃないでしょうか?」
「そうか、例のアレだな」
あの二人はネットでポエムを投稿している。その事については、少なくとも持田は知らないだろう。二人の仲が深まる切っ掛けになるような物がいい。
そんなわけで、上下巻の短い詩集と疲れ目を休めるアイマスクを買ってみた。青と赤の色違いでお揃いの物だ。
「これで任務完了かな」
すると、結がおずおずとこちらを向いた。
何かを言いたげだ。
「あ、蒼くん」
「どうした?」
「私も――蒼くんとお揃いの物が欲しいです」
上目遣いで、そう告げてきた。
「それ、俺のやりたい事3だ」
結も、俺と同じ事を考えていた。
彼女が見る見るうちに笑顔に変わっていく。
「ふふ、嬉しいです」
「ごめん、先に言わせちゃったな」
「そんなのいいですよ。蒼くん」
体を軽く寄せてきた。
今日は、とことん甘えてくる。
左手で結の右手を捕まえた。
お互い、その手にぎゅっと力を入れる。
そして、周囲を見渡した。
「何が良いかな?」
「軽くて壊れにくくて、小さくて身に着ける物がいいです」
お、なぞなぞか?
ボケるなら手錠、ロマンなら指輪。
でも本命は……。
「キーホルダー」
「正解は、ぬいぐるみでしたー」
!!?
「あっ……ちがぃ……」
聞いてしまった。
それは多分、普通に欲しい物だろう。
身に着けて持ち運ぶものじゃない。
「ぬ、ぬいぐるみのキーホルダーだ!」
「うぅ……正解です……」
フォローしたものが正解になった。そして、顔を隠そうとする結の右手をぐっと捕まえて、先程の店に再び戻った。本日3度目の来店である。
「実はキーホルダーがいいって決めてたんだ。新しい鍵を貰ったけど何もつけていなかったし」
「そ、そうなんですね……あれ、もしかして答えを言わせようとしましたね?」
「結との意見の一致が嬉しくてな」
「もう、そういうとこありますよね蒼くん」
「嫌いになった?」
「いえ、す……蒼くん!!」
流石に意地悪だったか。
結は顔を赤くして目を逸らした。でも、その手は離すまいと強く握っていた。俺がぎゅっと握ると、こちらに向き直した。
怒っているような、照れているような。
「……私は、我慢しているんですよ?」
「待たせてごめん。あと少しだけだから」
「はい。手は離さないで下さいね」
そう言葉にすると、優しく微笑んだ。
お互いに分かっているのだ。
そして、小物が並ぶ棚で商品を選ぶ。
結がおそろいの物を選んでいる。
一点をじーっと見つめていた。
「……これにしようか」
結が見ていたのは、小さな熊のぬいぐるみが付いたキーホルダー。青と赤のマフラーを巻いたものだ。
「で、でも蒼くん、いいんですか?」
「うん。結が好きなのがいいから」
「……ふふ、ありがとうございます!」
結は早速購入したキーホルダーに鍵を付け、嬉しそうに眺めて鞄に戻した。
「これだけで、来たかいがありました」
「もっと早く買えばよかったな」
「ふふ、これから少しずつ買い足していきませんか?」
「いいな、それ採用」
そうして話しながら時計を見た。
時刻は3時過ぎ。
「今日の夕飯は、本当に結の家でいいの?」
「えぇ。もう仕込んでありますよ」
最初はディナーを予約しようと探したが、クリスマスの影響かどこも一杯だった。仕方なく結にそれを告げたところ、葉月さんが俺の歓迎会も兼ねた夕食を準備すると言ってくれた。杏奈さんが全額払ってくれるのよと、後から裏情報を教えてくれた。
本当に感謝しかない。
ああ見えて葉月さんと杏奈さんは仲が良いのだ。杏奈さん曰く、年齢も近くてわざわざ同じ大学を選んだ程らしい。葉月さん本人は否定していたが、俺からみると辛辣なのは愛情の裏返しのようだった。
「これからどうしますか?」
「……一旦戻って、公園に行かないか?」
「ふふ、私も提案しようと思っていました」
「あれ、もしかして答えを言わせようとした?」
「蒼くんとの意見の一致が嬉しいんですよ」
結は、してやったりの表情だった。
やっぱり、お互いに分かっているのだ。




