45 二人はただ面白い物が見たいだけ
「――橋影一派を、社会的にやっちまおうぜ」
「何だよそのやばい考えは」
案の定、ろくでもない提案だった。
だが、葛西さんはワクワクした表情で話の続きを待っている。やっぱりこの二人、感性が似ている気がする。
持田は更に一枚の写真を取り出した。
「これは雛白結ファンサロンの六原委員長が、趣味でやってる女装のコスプレ写真だ」
「またすごい特ダネだな……」
「うそ!? 見せて見せて!」
めっちゃ食いつくじゃん葛西さん。
写真には、女子高生姿でカツラを被り、内股の上目遣いでカメラを見ている六原委員長が映っていた。どことなく結を意識しているのか、亜麻色の長髪が風になびいている。
「やべっ、つい秘密をばらしちまった!」
「いいよいいよ持田君! 望月君と結の為だもの、もっとバラそうよ!」
「てへ! 葛西さんは仕方ないにゃぁ」
「仲良しか」
そして持田は次々と六原委員長の写真を取り出してきた。あの真面目な委員長が、女子の体操着を着たり、どギツいスクール水着姿で仰向けになっている姿のものもある。これは頭を抱えたくなる。
「うひょひょひょ!」
「ふひひ、凄いすごい!」
「……それで持田。一応聞くが、その写真と橋影一派をやっちまうってのはどう繋がるんだ?」
「分かるだろ? ミニスカートの六原委員長をけしかけて、ご自慢の色仕掛けでケツを触らせるんだよ」
「却下だ! 最悪だ、誰が喜ぶんだよそれ」
「委員長は喜ぶぞ、ドMだからな」
また聞きたくない情報だった。
しかし、葛西さんは更に嬉しそうにしている。もう話が進まなくなってきた。
「まぁ聞けよ蒼。雛白さんには今、デートの申し込みが殺到している。さっきの葛西さんの話にもあった通り、橋影悟君は他に気になる女性がいるらしい。それで焦った取り巻きが、雛白さんとの繋がりが薄くなる前に彼女を生徒会に取り込むか、デートして規制事実を作っちまおうって押し掛けてんだよ。奴ら断ってもまたやって来るんだぜ、ゾンビ映画みてぇだよ」
最後の一言のせいで、ゾンビ相手に丁寧に断る結の姿が目に浮かんだ。
「だから蒼を邪魔したいってわけだ」
「それならもう、結の家に行って告白するよ。それで手を繋いで通学する」
「何だよOKをもらう前提かよ! まぁでもそうなるわな。おかげで学園の雛白さんはてんてこ舞いだぞ。そこで俺は考えた」
そして今度は地図を取り出した。
水菓子学園の案内地図だ。
改めて見ると広大な学園だな。
「俺達ファンサロンのメンバーで、雛白さんが一週間後のクリスマスイブに学園のこの広場で告白を待ってるという噂を広めるんだ。その日に運命の人を待っている、ってな。お前の情報は流さずに、あくまでも運命の人だ。これが近衛家の秘密の伝統とでも付ければいい、どうせ噂だしな」
指差したその場所は、学園の図書館から近くにある少し広めの庭だ。確か、ベンチがいくつかある芝生だった気がする。
「そこにコスプレさせた六原委員長を立たせる」
「待て持田、そんな事をしたら六原委員長が非難を浴びるじゃないか」
「安心しろ、奴は同意の上だ。これ以上、自分の性癖を隠して生きていくのは苦痛だそうだ。仲間を見つける事ができる最高のカミングアウトの機会だと言って喜んでいたぞ」
六原委員長……。
何といえばいいのか分からないが、とりあえずお礼は言っておかないとな。
「きっと真面目に生きて来た反動だろうな。いつも教壇に立って俺達に指示している時に、奴は俺のケツを触ってくれと思っていたんだ」
「お前は委員長に恨みでもあんのかよ」
相変わらず台無しだ。
「奴の為に、先着100名様限定のクリスマスイブ告白ショーを仕立て上げてやるぜ」
「卵の特売みたいだな」
「人間って単純だからな、先着って言葉に弱いんだよ。そして、まるで雛白結のようにお淑やかに佇む六原委員長を目掛けて、忍者ゾンビ一派がわらわらと告白しに来るわけだ――ぐふふっ……さぞかし笑いが止まらんだろう、特に俺が」
「やっぱりお前が見たいだけだろ!」
「私も見たい!」
俺も見たいよ。
「大体、六原委員長と結ではガタイが違い過ぎるだろう?」
「遠近法と着ぶくれで誤魔化すつもりだぜ」
「着ぶくれで背は伸びないぞ」
「じゃあ上半身を地面に埋めるか」
「イブに埋められるとか雛白家の伝統怖すぎる。というか埋めるなら下半身だろ、委員長を殺す気か」
気付けばコントのような流れになる。
どうしてもツッコミたくなるのは何故だ。
そんな中、葛西さんは楽しそうに持田を眺めていた。
やっぱりもしかして……。
「まぁこっちはこっちで何とかするからよ。だから蒼、お前の方はお前が頑張れ。修羅場を楽しみにしているぜ」
「縁起でも無い事を……」
「という訳でだ、どうか俺たちに笑いのチャンスを分けてくれ!」
「望月君、結のためだよ!」
そんな二人は、満面の笑みだ。
俺はただ情報を聞きたかっただけなのに、どうしてこうなった。
でも、持田なりに考えてくれたのだ。
計画は怪しい気がするが。
「……俺は結の幸せが一番だ。そのためには、皆に迷惑を掛ける事になるかもしれない」
「むしろ楽しみでしかないぜ!」
「そうか。ありがとう持田、頼むよ」
「ヒャッホウ!」
嬉しそうだ。
「女子にもこっそり広めなきゃ、へへ!」
「BGMは『天国と地獄』だな、シチュエーションにピッタリだ」
まぁ学園での結の騒動は二人に任せよう、どのみち俺は来年まで通う事ができないのだ。
残りは、葛西さんからの情報。
「もう一つ、葛西さんから知りたい事があるんだけど」
「近衛家についてかな?」
「そう」
結の元の家、近衛家はどう考えているのか。どこかの優秀な男が結の結婚相手になってくれる事を願っているのであれば、俺は対象外だろう。公園野郎が彼女の身分と釣り合うとは思えない。
そして、結は自分の母親や家族が好きだ。そんな家庭を壊してまで駆け落ちなんてするつもりもなかった。……まだ告白もしてないけど。
「ごめんね望月君。私はね、あの家が大変だなぁ~ってレベルしか知らないんだよ。うちの両親からは政界と財界と海外に力のある家だとしか聞いてなかったからね」
「すごいな、ドラマの世界みたいだ」
「っていうかさ、望月君は結の家に行ってるんでしょ。雛白家の人に聞いたら?」
――あ。
そうだ、葉月さんだ。
忘れてた、あの人は重要人物だった。
「待て蒼、お前どこまでヤってんだ?」
「何も進んでないよ。いたって健全だ。持田と違ってファーストキスもまだだぞ」
「うぐああああやめろお……!!」
トラウマを呼び起こしてしまった。
こいつはもう、売店で買い物出来ないんじゃないか。
「ありがとう葛西さん、聞いてみるよ」
「うん、いいよいいよ!」
よし、後で葉月さんに電話してみよう。
目的が定まった所で、時計の針は6時を示していた。そろそろお開きの時間だ。ここは学園から徒歩圏内にある喫茶店とはいえ、二人とも電車通学なのだ。
ふと、流れで暴露してもいい気がした。
「――いい機会だから、二人に言っておく事がある。俺、実は精神病持ちでさ。しょっちゅうリアルな幻覚が見えるんだよ。イマジナリーフレンドと呼ばれる、心の中にいる友人みたいなものだ」
『蒼お兄ちゃん、大丈夫なの?』
いつの間にか、隣に澪が座っていた。
いいよ、何も怖くなくなったんだ。
それに俺も六原委員長を見習わないと。
「蒼すげぇなそれ、自慰が捗るじゃねぇか」
「最初にそう発想するのが持田らしいな」
「へぇ~! それって何、今もいるの?」
「ここにいる」
俺は隣の席を指差した。
澪はいつものウサギの着ぐるみ姿で、二人にやっほーと手を振っている。
『見られないって言うのは、寂しいね』
俺は見えるよ。
『ありがと、蒼お兄ちゃん!』
「見えねーよ。んで、それがどうしたんだ?」
「いや、一応言っておこうと思ってな。そんなに大した事じゃないんだ」
持田は興味がなさそうだ。
――そんなに大した事じゃない、か。
自分の口からふと出た言葉だが、妙にストンと落ちて来た。
「とりあえず、これから雛白家の長に電話してみるよ。また動きがあったら葛西さんに連絡する」
「分かったよ、頑張ってね望月君!」
「蒼、俺にも連絡してくれよ」
「お前は葛西さんから聞いてくれ」
「い、意地悪ですぅ……!」
持田が急に裏声になった。
また結のモノマネだ。
何でこんなに似てるんだよ……。
だが、これは打算でもあった。
どうせなら、この機会に葛西さんと持田がくっついて欲しい。今日の二人を見るに、案外お互いに好意を抱いているんじゃないかと感じたのだ。
『蒼お兄ちゃんも狡いよねぇー!』
俺だって、面白い事が好きだ。
二人がくっついたら、悪くないだろう?
そんな事を考えながら、帰路についた。




