表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/59

41 尊敬する人の人生に対する見解


 やって来たのはいつものコンビニ。

 この時間帯は普段から店員しかいない。


 これだけ見るとやっていけるのかが不安になるが、日中の売上が凄いのだ。



「チッ……いらっしゃいまッセェ!」

「グエン君、いま舌打ちしただろ?」

「このオレンジジュースは腐ってますヨォ」

「そんなもの売るなよ。店長はいるか?」


 グエン君の本性は真っ黒だった。

 特に、俺に対してだけ妙に厳しい。


 そしてコンビニに行けば必ずと言っていい程、出勤している。かつての俺の居場所は、すっかり彼に挿げ替えられていた。


「店長に何の用ですカァ? へへ、もう店長は僕が手を付けましたヨォ?」

「悪い冗談はよしてくれよ……」

「おや、こんばんは望月君と雛白君……と小さなお嬢さん」


 店のバックから店長が顔を覗かせた。


「こんばんは、店長さん」

「こんばんは、てんちょー!」


 結も小春ちゃんも、いつの間にか店長とは顔なじみになっていた。


「店長、そろそろバイトに戻ろうと思うんですが、年末年始のシフトって空いていますか?」

「だめだね、全然空いてないよ」

「店長……」

「ブフー! ありがとうございましッタァ!」


 グエン君はいい性格してるな。


「店長、グエン君のシフトを半分にできませんか?」

「Tu veux coucher avec moi?」

「ぐ……グエンさんっ!!」

「結、何って言ったの?」

「言えません!」


 結の頬が赤い。それだけで予想できる。

 何故か背筋がゾクっとした。



「ところで、望月君は雛白君の家でお世話になっているんだよね?」

「お世話と言いますか……はい。でも、このままだと駄目になると思うんです。何度も夕食を頂いてるにも関わらず、俺は大した手伝いも何もしていません」


 実際、結の家のバイトなんてやることが無いのだ。一般住宅4軒分の広さはあるが、庭や廊下が多いので複雑ではなく、掃除も簡単だ。そもそもバイト代なんて貰うつもりも無いとはいえ、ご飯を頂くだけの存在になるのも嫌だった。


 そして学年が上がる時に現金が必要だ。残り数少ない、売れそうな家財を売ってしまう時が来たのかもしれない。


「だそうだよ、雛白君?」

「あんな入院姿を見せられて、無理をさせられるわけがありません。蒼くん、この際うちで駄目になってもいいんですよ?」

「駄目になるのは駄目だろう。一度駄目になると、ずっと駄目になりそうなんだ」

「そんなに全力で駄目になるのではなく、上手に駄目になりましょう。蒼くんは駄目になる為にダメージを駄目にする定めなんですよ」

「もう何が駄目なのか……結、楽しんでる?」


 俺は訳が分からなくなってきたが、結は優し気に笑っていた。


「蒼くんと話すのはいつも楽しいですよ」

「俺も、結となら何を話していても楽しい」

「――嬉しいです、ふふ……」


 結は嬉しそうに右肩を俺の左肩に寄せてきた。体を俺に預けて、もにょもにょと揺れている。こんなやり取りを毎日できるのなら、結や葉月さん達に甘えたくなってしまう。


「てんちょー、私はこれを毎日見せられるの」

「それは撃ち殺したくなるねぇ」

「こ、小春……!」


 結が冷静になり、俺から離れた。



「……でもね望月君、運命ってこういう事なんだと思うよ。君がどんな選択をしようとも、気が付いたら同じ結果に辿り着いている。不思議な事に、川の流れには誰も逆らえないようになっているんだ」

「てんちょー……」


 何だか格好良い台詞に、小春ちゃんも惚れたようだ。


「ご家族はね、ずっと見守ってくれている」

「……店長、俺はこれからどうすればいいんでしょうか」

「好きに生きなさい。とある記事で見たんだけどね、人生とは後半の方が面白くなるようにできているらしい。だから望月君、君がこれからどの道を進もうとも、最後にはきっと幸せになれるさ」



 ――人生とは後半の方が面白い、か。



「素敵な言葉ですね、店長さん」

「俺は何度も惚れそうになってるよ」

「へへ、もう店長は僕が手を付けましたヨォ?」


 台無しだよグエン君。



「ところで、小春ちゃんは毎晩夕食の時に俺が居るのは嫌?」

「ぜったいに嫌!!」

「小春、オレンジジュースはあげません」

「おじさん大好き!!」


 小春ちゃんは正直だった。



――



「今日も良い事だらけでした」


 家に帰り、家族に報告する。



 こうして家族に祈る時、自分の歩いてきた道をふと振り返る事がある。


 たかだが十数年の大した事の無い人生だ。まだ学生だし、仕事の辛さも社会の厳しさも何も知らない。だけど、自分とは自分以外のものから出来ているんだと、俺は思い返すたびに感じていた。



 今日も、そんな一日だった。



 最近は帰りも遅く、家に帰っても寝るだけの日もあった。俺が結にどれだけ依存しているのか、そして彼女がなぜ病気を治そうとしてくれるのか、この状況を理解はしてるつもりだ。


 しかし近衛家の事情、それを知らないと一歩を踏み出せないと思っていた。俺が絡む事で、葉月さんにも結にも負担がかかっているのだと。



 けど、もう止めだ。

 そんな男らしくない考えは止めだ。



 店長はあんな風に言っていたけど、俺は運命に身を委ねるよりも、自分で前に進みたい。

 グエン君の行動力を見習うべきだ。


 欲しいものは自分で手に入れる。

 問題も、全部俺が解決すべきだったのだ。



「――決めた」

『ついにやるんだね、蒼お兄ちゃん。私にも仕事があるんだね?』



 さすがは脳内妹。


「澪、協力してくれるか。日時はクリスマス、ターゲットは雛白結だ。これは人生でたった一度きりの重要な任務だぞ」

『報酬は?』

「俺の幸せ」

『失敗したらどうなるの?』

「ファンサロンに入会する」


 これは独り言にしては痛すぎるな。


『任せて、ターゲットは既に陥落したも同然だよ!』

「行動するのは俺だけどな。さて……」


 仕送りの件は七海に言伝を頼んだ、彼女の言う事が本当ならば叔父さんからの催促は来ないだろう。


 そのおかげか、俺は解放された気分でいた。何せ、あとは自分の生活費さえ稼げればいいのだ。ついに幸運がやって来たかと浮かれていたんだろう。



 だが、やはり幸運と不運は表裏一体。


 翌日、いつもと同じ流れが起きた。



誤字脱字報告、大変助かります。


ブックマーク、☆評価もとても励みになります

本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ