41 尊敬する人の人生に対する見解
やって来たのはいつものコンビニ。
この時間帯は普段から店員しかいない。
これだけ見るとやっていけるのかが不安になるが、日中の売上が凄いのだ。
「チッ……いらっしゃいまッセェ!」
「グエン君、いま舌打ちしただろ?」
「このオレンジジュースは腐ってますヨォ」
「そんなもの売るなよ。店長はいるか?」
グエン君の本性は真っ黒だった。
特に、俺に対してだけ妙に厳しい。
そしてコンビニに行けば必ずと言っていい程、出勤している。かつての俺の居場所は、すっかり彼に挿げ替えられていた。
「店長に何の用ですカァ? へへ、もう店長は僕が手を付けましたヨォ?」
「悪い冗談はよしてくれよ……」
「おや、こんばんは望月君と雛白君……と小さなお嬢さん」
店のバックから店長が顔を覗かせた。
「こんばんは、店長さん」
「こんばんは、てんちょー!」
結も小春ちゃんも、いつの間にか店長とは顔なじみになっていた。
「店長、そろそろバイトに戻ろうと思うんですが、年末年始のシフトって空いていますか?」
「だめだね、全然空いてないよ」
「店長……」
「ブフー! ありがとうございましッタァ!」
グエン君はいい性格してるな。
「店長、グエン君のシフトを半分にできませんか?」
「Tu veux coucher avec moi?」
「ぐ……グエンさんっ!!」
「結、何って言ったの?」
「言えません!」
結の頬が赤い。それだけで予想できる。
何故か背筋がゾクっとした。
「ところで、望月君は雛白君の家でお世話になっているんだよね?」
「お世話と言いますか……はい。でも、このままだと駄目になると思うんです。何度も夕食を頂いてるにも関わらず、俺は大した手伝いも何もしていません」
実際、結の家のバイトなんてやることが無いのだ。一般住宅4軒分の広さはあるが、庭や廊下が多いので複雑ではなく、掃除も簡単だ。そもそもバイト代なんて貰うつもりも無いとはいえ、ご飯を頂くだけの存在になるのも嫌だった。
そして学年が上がる時に現金が必要だ。残り数少ない、売れそうな家財を売ってしまう時が来たのかもしれない。
「だそうだよ、雛白君?」
「あんな入院姿を見せられて、無理をさせられるわけがありません。蒼くん、この際うちで駄目になってもいいんですよ?」
「駄目になるのは駄目だろう。一度駄目になると、ずっと駄目になりそうなんだ」
「そんなに全力で駄目になるのではなく、上手に駄目になりましょう。蒼くんは駄目になる為にダメージを駄目にする定めなんですよ」
「もう何が駄目なのか……結、楽しんでる?」
俺は訳が分からなくなってきたが、結は優し気に笑っていた。
「蒼くんと話すのはいつも楽しいですよ」
「俺も、結となら何を話していても楽しい」
「――嬉しいです、ふふ……」
結は嬉しそうに右肩を俺の左肩に寄せてきた。体を俺に預けて、もにょもにょと揺れている。こんなやり取りを毎日できるのなら、結や葉月さん達に甘えたくなってしまう。
「てんちょー、私はこれを毎日見せられるの」
「それは撃ち殺したくなるねぇ」
「こ、小春……!」
結が冷静になり、俺から離れた。
「……でもね望月君、運命ってこういう事なんだと思うよ。君がどんな選択をしようとも、気が付いたら同じ結果に辿り着いている。不思議な事に、川の流れには誰も逆らえないようになっているんだ」
「てんちょー……」
何だか格好良い台詞に、小春ちゃんも惚れたようだ。
「ご家族はね、ずっと見守ってくれている」
「……店長、俺はこれからどうすればいいんでしょうか」
「好きに生きなさい。とある記事で見たんだけどね、人生とは後半の方が面白くなるようにできているらしい。だから望月君、君がこれからどの道を進もうとも、最後にはきっと幸せになれるさ」
――人生とは後半の方が面白い、か。
「素敵な言葉ですね、店長さん」
「俺は何度も惚れそうになってるよ」
「へへ、もう店長は僕が手を付けましたヨォ?」
台無しだよグエン君。
「ところで、小春ちゃんは毎晩夕食の時に俺が居るのは嫌?」
「ぜったいに嫌!!」
「小春、オレンジジュースはあげません」
「おじさん大好き!!」
小春ちゃんは正直だった。
――
「今日も良い事だらけでした」
家に帰り、家族に報告する。
こうして家族に祈る時、自分の歩いてきた道をふと振り返る事がある。
たかだが十数年の大した事の無い人生だ。まだ学生だし、仕事の辛さも社会の厳しさも何も知らない。だけど、自分とは自分以外のものから出来ているんだと、俺は思い返すたびに感じていた。
今日も、そんな一日だった。
最近は帰りも遅く、家に帰っても寝るだけの日もあった。俺が結にどれだけ依存しているのか、そして彼女がなぜ病気を治そうとしてくれるのか、この状況を理解はしてるつもりだ。
しかし近衛家の事情、それを知らないと一歩を踏み出せないと思っていた。俺が絡む事で、葉月さんにも結にも負担がかかっているのだと。
けど、もう止めだ。
そんな男らしくない考えは止めだ。
店長はあんな風に言っていたけど、俺は運命に身を委ねるよりも、自分で前に進みたい。
グエン君の行動力を見習うべきだ。
欲しいものは自分で手に入れる。
問題も、全部俺が解決すべきだったのだ。
「――決めた」
『ついにやるんだね、蒼お兄ちゃん。私にも仕事があるんだね?』
さすがは脳内妹。
「澪、協力してくれるか。日時はクリスマス、ターゲットは雛白結だ。これは人生でたった一度きりの重要な任務だぞ」
『報酬は?』
「俺の幸せ」
『失敗したらどうなるの?』
「ファンサロンに入会する」
これは独り言にしては痛すぎるな。
『任せて、ターゲットは既に陥落したも同然だよ!』
「行動するのは俺だけどな。さて……」
仕送りの件は七海に言伝を頼んだ、彼女の言う事が本当ならば叔父さんからの催促は来ないだろう。
そのおかげか、俺は解放された気分でいた。何せ、あとは自分の生活費さえ稼げればいいのだ。ついに幸運がやって来たかと浮かれていたんだろう。
だが、やはり幸運と不運は表裏一体。
翌日、いつもと同じ流れが起きた。
誤字脱字報告、大変助かります。
ブックマーク、☆評価もとても励みになります
本当にありがとうございます。




