表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/59

36 じーーっと見る人がほんの少しクールになる

本日2話目です。ご注意ください。


 11月のある日。



「うぅ……今日はまた一段と寒いな」

『蒼ちゃん、さすがにコート買ったら?』



 そんな風に気を遣ってくれる志乃さんは夏と同じ格好をしている。アイドルは季節が関係なくて過酷そうだ。



 公園の木々もすっかり寂しくなってしまった。日を追うごとに寒さが増し、季節に上手く順応しないと風邪を引いてしまいそうだ。


 しかし落ち葉が無くなったおかげで、朝の掃除も大分楽になった。これぐらいの掃除なら志乃さんでもできるんじゃないか?


『できたらいいのにねぇ。見ているだけじゃ暇よ』


 こうして志乃さんと話しながらゴミ拾いをしていたが、いつの間にか幼稚園児の登園時刻になっていたようだ。道路の脇から修一君が俺の方を見ていた。


「おはよう、修一君」

「ねぇおじさん、今度はお姉ちゃんに何したの?」

「結に? いや……また何かあったのか?」

「……チッ」


 そして修一君は去って行った。



 ……この流れ、前もあったな。

 嫌な予感がする。




 やはり、朝っぱらから持田が興奮していた。


「おい蒼! おいおい蒼蒼!!」

「またかよ持田、今度は何なんだ」

「そんな事言って、お前も実は楽しんでるだろ! あのクールにデレた生物は何だ!?」


 あながち否定できない。

 そして持田は結の方を横目で見た。

 


 ――そこに、ツーサイドアップの美少女がいた。



『あらあら~あれは私かしら!?』

「結~! これも可愛い~!!」


 これはデジャヴだ。

 いや分かる、何が起きているのかはよく理解できるんだ。


「ぐおおお可愛いいい!」

「もうお前は何でもいいんじゃないか」

「馬鹿言え、今の雛白さんはそこらのアイドルを上回ってる!」


 制服姿のツーサイドアップ。もともとの髪色が綺麗な上に、更に艶やかに輝いていた。首を振るとふわりと舞いそうで、キラッとポーズを取ればまさにアイドルだ。志乃さんはそんな彼女の隣に立ち、とても愛らしそうにその様子を見ている。


『可愛いわねぇ! 娘ができたみたい!』


 高校生の娘がいるアイドルとは、志乃さんの年齢設定を大幅に変えなきゃだめだな。6歳ぐらいで生んだことになっちゃうじゃん。


『蒼ちゃん冗談よ、冗談が通じない男はだめねぇ~』



――



 そして、その日の昼休み。


 何となく前と同じ流れにしなきゃいけない気がして、俺は売店でシュークリームを購入した。皆が期待しながら教室で俺の帰りを待っていた。何なんだろうこの連帯感は。


「んっふ……ふぅ。……はぁ……んっふ」

「そこまで再現しなくてもいいだろ持田」

「蒼のバカ! 俺はリアリティを求めるんだよ」

「ほら持田、お前の分のシュークリーム」



「あ、ありがとう――お兄ちゃん」



 ゾっとした。


 ホラーみたいな、不気味なモノマネだ。

 若干似てるのが余計に腹立たしい。

 俺は200円もかけて何をしているんだろう。


 しかし、そんな俺達の様子を結はいつも通りじーーっと見ていた。いや、見ているというよりもムムムと睨んでいるようだ。少しだけ頬が赤く見えるのは、やはり恥ずかしがっているんだろう。


「ちょっと行ってくる」

「もぐもぐ……おう」


 売店で買った200円のシュークリームを持ち、深呼吸をして結の方へと近づく。


 結の前に立った。

 皆が俺と結を見ている。



 そこで少し冷静になった。


 俺は一体、何をしているんだろう。


 結は何も喋らない。

 これはツンデレか、クーデレかどっちだ?


「――な、何か用?……ですか?」


 結はクールになりきろうとしていた。

 がしかし、戸惑ったようだ。


 ……今の結は俺のために行動を起こしてくれている。それなのに、こうして見世物のようになるのはどうなんだろうと思った。



 俺は思い切って結の手を取り、教室を出ることにした。


「えっ、あっ……!」

「ごめん、ちょっとだけ付き合ってくれ」

「あ、おい蒼!?」



 結がすっと立ち上がり、手を繋いだまま俺に付いて来る。

 静かにクラスメイトの注目を浴びる。



 背中に汗をかいてきた。

 大胆な事をしているのは分かる。

 だが、やっぱり自分が許せなかった。


 教室を出て、そのまま図書館へと向かう。


 昼休みで人通りが多い廊下に差し掛かって、手を放そうとした。だが、結の方からギュッと手を握り返してきた。


「――い、嫌です」


 恥じらいながら上目遣いでそう告げる結に、思わず心臓が跳ねた。本当にどこかのアイドルと手を繋いでいるみたいだ。


 しかもその表情は、デレッデレにデレていた。めちゃくちゃ可愛い。えへへと笑いながら、今にもすり寄ってきそうだ。


「こ、こっちだ。行こう」


 衆目を集めつつ、図書館の近くの芝生へと辿り着いた。学内よりも人は少ないが、それでもこちらを見ている生徒は多かった。


 立ち止まって結の方に振り返り、話しかける。


「ふぅ。これも葉月さんから聞いたのか?」

「は……はい、アイドルはこうだって……こうあるべきなんだって」


 葉月さんのニヤっとした顔が目に浮かぶ。あの人は結を大事に育てると言いつつも、かなり楽しんでいる気がする。


 結は泣きそうな表情でじーっと俺を見ていた。

 餌を欲しがるポメラニアンみたいだ。


「……結。結の気持ちは凄く嬉しいんだ。だけど、俺は結を葉月さんのオモチャにしたくないんだ」

「は、葉月さんの?」

「葉月さんは……というか俺やクラスメイトも、結が可愛いと思っている。可愛い子が可愛い事をしたら、凄く可愛いんだよ。皆それを見たいと思っているんだ」

「かっ……か……」


 口があわあわとしだした。


「それを結だけが知らないのは、俺は嫌だと思ったんだ」


 お兄ちゃん事件の時は、あまりの衝撃で受け入れてしまった。だがそれが続くのはやり過ぎだと感じたのだ。考えすぎかもしれないが、俺はいじめられていた過去を思い出してしまった。


「蒼くん……」

「澪も志乃さんも幻覚だ。だけど、恩人だ。それと結とは比べる事なんて出来ない」


 結は少し落ち着いてきたようだ。

 再び、ぎゅっと手を握ってきた。


「――じゃあ蒼くんの前だけではどうですか?」

「え?」


 ……まだ何か勘違いしているんじゃないか。

 葉月さんに騙されている感が残っている。


 だが……。


「――どちらかといえば、俺はお兄ちゃん呼びの方が好き」

『はぁ!? ちょっと蒼ちゃん!!?』

「うおっ!!」

「あ、蒼くん!?」


 志乃さんのこんな大きな声、初めて聞いた。

 以外に低い声で怒りを感じる。


「ごめん、志乃さんが嫉妬してる。凄い大きな声で怒られた」

「……」

「あー、まぁとにかく。教室ではそれはやめよう。皆びっくりするから」

「だ、駄目よ蒼ちゃん! 私が蒼ちゃんの前でアイドルになるのは、蒼ちゃんの――!」



 結が言葉に詰まった。


 デレはハードルが高いらしい。

 見る見るうちに赤く染まっていく。

 頭からポンッと音を立てた湯気が見える。


 結は繋いでいた手を離し、両手を顔に持っていった。


「んんんぅうう……」

「……ほら大丈夫、シュークリームあげるよ」



 恥ずかしがっている結の頭の上に、ちょこんとシュークリームを置いてみた。

 バランスよく乗り、結が固まって面白い。


「……もう」


 結は顔を隠したままそう言った。


「教室へ戻ろうか、変態が何してるか心配だ」

「ふふ……はい」


 そして教室へ戻った瞬間、案の定、持田が俺と結のモノマネを一人でやっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ