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20 じーーっと見られる視線の変化



「最近、雛白さんが妙に浮ついている」

「急にどうしたんだ持田」

「蒼、お前は気付かないのか? じーっとこっちを見ているあの視線の変化に」


 そう言われて結の方を見る。


 こちらをじーっと見ながら、いつも通り周りの女子達と会話しているように見える。すこし恥じらっているような感じはあるが。


「気付かないな」

「……これだから雛白さん素人は困る」

「持田は玄人なのかよ」

「そうだよ」


 そう言うと持田はおもむろにシャツのボタンを外し、インナーを見せだした。そこには、結の笑顔の写真が大きく引き伸ばしてプリントされていた。


「このインナーシャツは雛白結ファンサロンで俺が販売している物だ」

「待て、突っ込みどころが多い」

「シャツはそれぞれに俺のポエムが書いてある」

「最悪じゃないか、数え役満だぞお前」


 結を見ると、驚愕の目をしていた。

 どの辺りから知らないんだろう、気の毒に。


「規約は厳しいが最高の秘密結社だぞ。蒼も入会しろよ。お前からは素質を感じる」

「やめろ、俺を巻き添えにするな!」

「正直に言えよ、気になってるんだろう? 今時いないぞ、あれだけの要素を持ち合わせた典型的な美少女は」


 改めて結を眺める。

 その佇まいに、欠点などは何も無い。


「……まぁ可愛いとは思うが」

「具体的に。俺が審査する」

「入会させる気かよ。たまに冗談で意地悪を言ったり悪戯な表情するだろ、まずあれが可愛い。それにふとした時に出る笑顔もやばい。照れて恥ずかしがっている表情も可愛いな」

「お前……いきなりの幹部候補だわ」

「でも重要なのは内面の方だ」

「内面?」

「何て言うか、雛白さんは人として好きだ。あれだけ可愛い容姿でも全然驕らないし、性格も良くて努力家で勉強も出来る。もし俺が同じ立場だったとしても多分あんな風に振舞えるとは思えない。それに何よりも、誰に対しても謙虚で優しい所を俺は尊敬してる」

「すげぇよ蒼、ダブル役満だ」


 そこまで言って気が付いた。


 結は目を丸くして、こちらを見ながら口をぱくぱくとしている。顔も紅潮していた。その周りの女子も、ニヤニヤと嬉しそうに俺の話を聞いている。


「……おい持田、図ったな。次はお前の番だ」

「まずサロンの規約を説明しますね」

「展開が早いな」

「①雛白さんに触れない ②サロンでは紳士的に」

「普通のファンクラブみたいだ」

「③会話は全て裏声でする ④笑うときは必ず白目をむく」

「お前らは雛白さんをどうしたいんだ」

「博愛の精神で見守る事をこのポエムに誓ってる。彼女の幸せを陰ながら願うんだ」

「そのポエムを雛白さんに伝えてこいよ。でもちゃんと規約は守れよ」

「任せろ」


 持田は立ち上がって雛白さんの元へと向かった。そして白目をむいて笑い、裏声で呟き出した。


「カワイイ ヤサシイ ハズカシイ……」


 そうやって持田は暫くサロンを出禁になった。



 そしてその日の放課後から、文化祭の準備が始まった。


 文化祭の準備に携わるのはクラスの約半数だった。そのうち運動部は通常の部活があるため、基本的には参加ができない。そのため、必然的に帰宅部のメンバーが中心となる。そして帰宅部は俺を含んで8名いた。


 正直そこまでして出し物をやらなくてもいいのでは、とは思っていた。帰宅部が少なすぎて辞退しているクラスもあるからだ。それに何よりも、早く帰宅したいから帰宅部なのに。


 帰宅部8人で机を向い合わせて話す。


「大変だよねー、クレープカフェって。そいえば望月くんはカフェでバイトしたことあんの?」

「いや、俺はコンビニだけ」

「そっかぁ」


 俺に気軽に話しかけてきたのは、葛西 茜(かさい あかね)さん。ショートボブの中性的な美人で、一見すると運動部に見える。結の友達で、いつも結の周りにいる女子の一人だ。そしてその結はというと、今日は生徒会の方でお手伝いだそうだ。相変わらず忙しそうにしている。


「とりあえず、必要そうな物を書き出してみた。今日はこれに足りない部分を追加するのと、できれば誰が準備するかも決めていきたい。予算も限られているから、物は極力クラスで持ち合ってやろう」


 俺は皆にリストを手渡した。


「それから、役割も早めに決めておこう。といっても接客と厨房しかないから、得意な方をやってもらう形になると思う。それに合わせてシフトを調整する感じかな。あと先生や生徒会への申請は俺が準備する」


 そこまで話して、ようやく皆の顔を見た。俺がばばっと話し続けたせいか、何を言っているんだこあつといった表情になっている。


「あー。ごめん、先走ったな」

「……望月くん、凄いね」

「こういうのあまり慣れてなくて、勝手が分からないんだよ」

「そうじゃなくて」


 分からないから作って来ただけだ。

 だが正直、その理由は……。


「……本音を言うと、何とかバイトの時間を確保したいんだ。俺、生活費を稼がないと厳しくて。でも手を抜くつもりは無いし、出来るだけ皆で楽しみたいとも思ってる。矛盾はしてるんだけど」


 結が俺に与えてくれたように、俺も皆に何かを与えたい。少しずつ、自分を変えたかった。


「ふふ、こりゃあ確かに良い男だわ。結にほっとかれない訳だね」

「良い男じゃないので勘弁して下さい。それに、これは俺が勝手に進めていただけだし」

「じゃあ早速望月くんのリストの方から進めちゃおっか。時間も限られてるしね!」


『でも蒼お兄ちゃん、家財を売ればお金を稼げるんじゃなかったの?』


 いつの間にか隣に澪がいた。


 家財は結局、運送費と相殺されるらしい。リサイクルショップの人が見に来てくれた時にそう告げられた。万に届くのは仏壇ぐらいだったが、当然これを売るつもりは無い。



 葛西さんは場を仕切るのが上手く、そのおかげでトントンと話は進んでいった。初日にしては決定事項も多くあり、後半に楽ができそうな段取りとなっていった。


「そういえば望月くん、今日のお昼休みに持田くんと結に対する愛を熱弁していたみたいだけど」

「待ってくれ、あれは持田が……」

「結、あの後凄く喜んでたよ。ありがとね。あんな風に中身を褒めてくれたのが嬉しかったんだって。私も聞いててちょっと感動したんだ」


 思わず目を伏せた。

 やめて、恥ずかしい。

 掘り起こさずに忘れてください。


「……どういたしまして。持田にもそう伝えておくよ」

「持田くんは犯罪者みたいだよね!」

「それも伝えておくよ」

「よろしく!」


 知らぬ間に、持田は追い詰められていた。


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