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12 ついに二人が見つかった?


 体育祭が近づいた9月の終わり。



 秋が少しだけ顔を覗かせて、公園も過ごしやすい気温となる。


 自重しなければならなくなった公園の番人こと俺は、早起きして自主的に公園の掃除を始めていた。遠まわしにいい人アピールをするのと同時に、ここに居させてくださいといった意思表示も兼ねている。幼稚園児が嫌そうに見ているから、まだ効果は出ていない……もしかして幼稚園に俺の顔が張り出されていないよな?



『そもそも蒼お兄ちゃんがここに居るのがNGなんじゃない?』

「俺の居場所を奪わないでくれよ」


 ふと口から出た言葉に、幼稚園児が一斉に振り向く。

 怪訝な顔で子供達が見ている。


「さ、さぁ皆行きますよー!」


 引率の大人が何も聞こえなかったかのように、慌てて誘導を始めた。


 何ってこった。

 これじゃ本当に不審者じゃないか。




 そして、その日の体育の時間。

 体育祭に向けて、競技ごとにクラスが分かれた。


 俺は出場するリレーの練習である。あらゆる面倒から逃げる事で鍛えられたこの走力を買われて、俺はなんとアンカーに抜擢された。


「ワタシハ アンドロイド モチダ デス」

「突然どうした、ついに壊れたか持田」

「蒼、お前もしかして見てないのか? 昨日のズダーウォーズだよ」

「見たけど、G-3POはもっと流暢に喋ってたじゃないか」

「喋りはいいんだよ! 話題性だよ話題性。雛白さんも見てたなら、間違いなく食いつくだろ?」

「見てるかどうかは分からないぞ。というかそれ本当にG-3POかよ」

「モチダ レンシュウ シタノ ガンバッタノ!」


 持田のリレーの番がやってきた。


「おいアンドロイド持田、雛白さんがお前を見てるぞ」

「ホントウカ! ドウシヨウ?」

「ちゃんと走るのか、G-3POで走るのかはお前が決めろ!」


 そして、持田にバトンが渡された。


「ボク ロボット マガレナイ!」


 そうやって持田のせいで俺のクラスは先生に怒られた。




 放課後、時間の空いた俺は学園の図書館にやって来た。


 ここに来たのは初めてだ。特に用事があったわけでもなく、単なる息抜きである。今日はたまたまバイトが無いのだ。


 マンモス校というだけに、この図書館も大きかった。そして名門がゆえの豪華さというか、建築にはかなりお金がかかっていそうだ。無駄に高い天井に、無駄に豪華なテーブルと椅子。本棚も内装に合わせてあって特注っぽい。こうして建物を見た時に値踏みする所から入る点で、心の貧乏っぷりを実感する。


『大きい割に、人はあまりいないわねぇ』


 放課後だし試験期間中でもないからな。


 図書館は朝の10時から19時頃まで開いているようだ。学習ブースもパーティションで分割されている。バイトが無い日は、ここで勉強して帰った方が家よりも集中できるかもしれないな。


 それに、もともと読書は好きだった。これといって好きなジャンルは無いが、何だか文字を見ていると落ち着くのだ。


 今月のオススメコーナーには、秋の紅葉特集と謳っていくつかの本が並んでいた。美術本や紅葉の名所、旅行本。旅行なんて、いつ行けるようになるんだろう。


 そのうちの一冊を手に取り、パラパラとめくる。紅葉の日光東照宮ねぇ……。



 湯葉料理のページに興奮していた所でふと目を上げると、亜麻色の髪の美少女が本を読んでいる姿が視界に映った。



 吹き抜けの大きなガラス窓沿いに並んだテーブルの一席に座り、大きな本を両手で持ってこちらをじーーっと見ている。その首には図書委員証がぶら下がっていた。俺が顔を上げるとスっと本に顔を隠し、気付かれまいとしている。


 そんな結にばれないように、死角へと隠れる。

 そして、彼女の背後から声を掛けた。


「こんにちは、雛白さん」

「ひぃっ!! こ、こんにちは蒼……望月さん」


『今、ひぃって言ったね』


 言ったな……俺を心配しているんじゃなくて、実はマークしているだけなんじゃないか?


 危険な人物は手元に置いておいて管理したいとか。いやもしかして、俺自身が殺人事件に関するトラウマの対象になっているのかもしれない。


『あり得るよね。蒼お兄ちゃんもそんなニュースを見ると思い出すもの』


 澪は腕を組んで、うんうんと頷いている。


「図書委員なのに読書してもいいのか?」

「え……あぁ、これはですね」


 結が手にしていたのは、図書管理台帳らしい。アナログなファイルに綴られたそれは、データベースが普及する前に使用されていた物だそうだ。今は入ってくる本は全てパソコンで管理されているが、昔はこうして毎回手書きで管理していた。



「整合性が合わない部分を処理しているんです。これも図書委員の役目なんで、サボっているわけではありませんよ?」

「大変そうだな、手伝おうか?」

「いえ、お気遣いありがとうございます。それよりも、望月さんこそ珍しいですね。今日はアルバイトは無いのですか?」

「休みなんだ。でもあの公園には行き辛くてな、居場所を探してフラフラとしている」

「ふふ、そういえば小春が言っていましたよ。望月さんが掃除して良い人自慢をしてるーって」

「……さすがは小春ちゃん、完璧に見抜いてる」


 そのうち撃ち抜かれるな。

 でも良かった、結は怒っている訳ではないみたいだ。


「……あ、あの、望月さん。もし良かったら、この後一緒に帰りませんか?」

「俺はもちろんいいけど……俺と帰っている姿を誰かに見られると、雛白さんに変な噂が立つかもしれないぞ?」

「……私は、気にしません。望月さんさえよければですが」


 そう言って、結は上目で真っ直ぐ俺を見た。

 そこまで言われて断れるわけが無い。


「それに、私がこうして遅く帰るのも自衛の意味も含んでいるのです」

「自衛?」

「満員電車を避けています」


 ……あぁ、そういう事か。

 結ほどの美人となると大変なのだ。


「分かった、守るよ」

「お、お願いします!」


 不謹慎だが、俺が彼女のために出来る事があって少しだけ嬉しい。何せ迷惑をかけてばかりなのだ。


 結は立ち上がり、パタパタと荷物を片付け始めた。



――



 学園から俺たちの住まいの最寄り駅までは電車で2駅だ。ここ水菓子は名門とはいえ、俺達のように電車通学の生徒は多い。


 そして結の言う通り、通勤と帰宅時間は満員電車になる。そのため、結は登校時間もずらしているそうだ。


 雑談をしながら電車を降りた。


 分かっていた事だが、結の美しさは多くの人から注目を浴びていた。彼らはまず彼女を見て驚いてから、一緒に歩いている俺を見て、もう一度彼女を見る。きっと彼らの頭の中では、誰だこの変な男はとなっているだろう。俺はド貧乏な公園の番人だ。


「――ふふ、それで修一の困ってる顔が面白くて――」


 結はいつも楽しそうに話す。それを見ているだけで不思議と心が温まる、まるで陽だまりのような人だ。


 それに、喋っていない時の空気も俺は好きだ。無言の空間でも居心地がいいというのは、彼女から出る優しい雰囲気の成せる技だろう。俺の荒んだ心が浄化される気がする。



 帰り道にあるいつもの公園に差し掛かり、俺は無意識に足を止めた。ベンチに首を向けて誰も座っていない事を確認する。家族はいない事は分かっているが、これはもう習慣みたいなものだ。


「……蒼くん」

「あぁ、ごめん。帰ろうか」


 結は、歩き出した俺を真っ直ぐ見た。


「やっぱり、私も蒼くんの家の片付けを手伝います」

「いや、悪いからいいよ。今は少しずつ何とか整理し始めて……」

「義理のご姉妹と一緒にですか?」




 ――――え?




 ……気付かれた?


 いつだ?


 何で姉妹だと知っている?


 全身の体温が低くなる。

 一瞬にして、背中からぶわっと汗が出た。



『結は鋭いね、蒼お兄ちゃん』


 結はじっと返事を待っている。


 ここから誤魔化しが効くのか?

 いや、結なら信頼できる。けれど、病気の事を伝えるのは不安だ。



 考えがまとまらないまま、言葉をひねり出した。


「そうだ、けど」

「……! やはり、そうなんですね」


 結は悲しげに首を落とした。



 終わった。


 結から叔父さん達の影を感じて、ふらりと体がぐらつく。気付かれないように電柱に左手を置いて体を支えた。早く帰りたい。何なら今すぐにこの公園で横になりたい。


 そして、結が意を決したかのような表情で口を開いた。



「それでも構いません。蒼くん、私も皆さんと一緒にお手伝いさせて下さい」


 ……その台詞は予想外だった。


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