前夜 Ⅱ
「おーい瑠新起きてる?」
「寝てるよー」
いかにも寝起きっぽい声が返ってきた。聞いてるだけでも眠いという事が感じ取れるので寝させてあげたいが平日の寝坊は仕事に響く。しょうがないので部屋に入ることにした。
「なら入るよ。そろそろ来いって、御鈴鹿とか心配してんだからっーー」
ドアを開けた瞬間にバランスが崩れていくのを感じた。これはアレだ、熱中症で倒れる直前みたいなやばい倒れ方するやつだ。病気じゃないといいな。
「まだまだ甘いなあ、来夢おはよー!」
いたずらっぽい明るい声で朝を告げる高沢の声が聞こえた。天宮は床に倒れた筈がいつの間にかほんのりいい匂いがするベッドの上にうつ伏せになっていた。
「ワームホールで足元掬った訳ね、起きてたならもっと早く来いよ。腹減らないの?」
「減らないよ?だってもう食べてるもん。私が起きたのが五時くらいでその時ササッと作って食べたからさっ。ん〜でも三時間前だとちょっとお腹空いてきたかも」
『食材が消えてるぞ!?』というリゼルの焦りの声が遠くから聞こえるが聞こえなかった事にして身体を起こした。
「あーあ、せっかくの二度寝だったのに。今度から来夢の部屋に隠れて寝るから」
「マジで困るからやめて……」
「それで?次の相手と管轄する時空は決まった?」
「ああ、その事なら今言おうと思ってた。全員に伝えたいからリビングまで飛ばして」
「分かった!」
若干の浮遊感を覚えてリビングに着地する。見慣れたメンバー四人は待ちくたびれた顔をしていた。
「おい、天宮!うちに野菜泥棒が出た。早く被害届をーー」
リゼルの真剣そうな声に高沢はきょとんとしてから少し経って言った。
「それ私が朝ごはん作ったからだよ?」
「はぁ?」
これ以上は長くなりそうなので天宮がこれ以降は制止して場を収めた。マイペースな高沢とリゼルでは会話が成立する可能性が限りなく低い。
「ままま、落ち着けって。次の仕事のリーク入ったから聞けって。そこでボドゲやってる三人も来て欲しい」
御鈴鹿がソファから背を反らして顔を向けると一言。
「はぁ、だる。ソルマちゃん、ゼノン君お開きだってさ」
興醒めといった様にぶつくさ言いながら残りメンバーも集まった。これでチーム全員が会話に参戦したことになる。
「なんだよリークって、俺たちが四人で二人、お前と高沢で残りを狩ることを目標にする作戦で良くね?」
ゼノンに同調するようにソルマも応える。
「そうそう、実際それで春シーズンの活動は全戦全勝。そもそもキミを含めた戦闘のスペシャリスト四人と初心者だけどかなり強力な私と御鈴鹿がいるこのチームじゃ負け筋が見えない」
確かにそうだ。結成以来、クロノス活動でこのチームは負けたことがない。テレビの特番で取り上げられることは少なく無く、高い勝率を買って自分の時空を守るために依頼をしてくる神も今では混み合う程多い。
だがそれも、相手チームに学園一桁クラスが居ない場合の話。
「こういうメールが来たんだけどさ」
天宮は自分の携帯端末の通信アプリを開いた。そこに映ったのはピースする男女二人と真ん中に巻き込まれた感満載の中年男性が一人。相手の名はーー素路咲。
「誰だこれ?高沢は知ってるか?」
ゼノンが総意を代弁するように尋ねた。高沢は苦い顔をして答えない。御鈴鹿が続きを促す。
「とりあえず、強敵ってことなんでしょ?」
「そう、今まで俺達が勝ててたのは相手が普通程度だったからだ。でも今回は違う、特にこの写真のうち二人はアー学の序列一桁、それでおっさんの方はかなり有名な講師だ。」
「いや待て天宮、俺も自分を過信するつもりは無いがお前は学園一位なんだろ?そこまで警戒する理由がーー」
「こっちの少女の方に俺は勝った事が無い。序列は平均だから他に勝ってるからな。そしてこっちのバカは知る限りでこの世代、俺の次に強い。おっさんも本職はクロノスだし経験なら俺より上だろうな」
天宮の神妙な顔から感じ取った皆が黙り込む。今までの活躍は虚構でこれからが本番と釘を刺されては誰だってこうなる。しかし、ただ一人天宮の真意を知る者がいた。彼女はこれまでの重い空気を第三宇宙速度で振り切って天宮に言葉を突き刺した。
「でもさ、来夢なんで笑ってるの?」
高沢の一言で天宮は顔を上げた。今までの無気力な脱力感はどこにも見られない。ただただそこにあるのは獲物を屠る強者の笑み。
「楽しみ以外何があんだよ瑠新。なあみんな、作戦立てね?」