Dear that guy
『それではこれで卒業式の全日程を終わります!搬送班は担架の準備を、卒業生はこっから頑張れ〜!』
元気な放送担当に従い、係の生徒によって敗北した代表者五人が担架で運ばれていく。
他の時空、もしくは先程まで天宮がいたような人工空間でのダメージはこちらに引き継がれることが無い。五人が倒れている理由は時空間移動のラグで脳が混乱をきたしているからだ。早ければ数分で目覚めるはずだ。
観戦席からの転送も始まり保護者や同級生の顔がちらほらと現れ始めた。おつかれ〜と手を振る知り合いもいれば、一礼をする老夫婦、徒党を組んで中指を立ててくる様な連中もいる。
「おう天宮!おつかれぃ!」
「ん、ああ。そこまで疲れて無いけどな」
「全く、ヒヤヒヤさせんなよなあ。お前負けんじゃねえかってビビってたぜ」
「まさか、お前は卒業後どうするんだ?」
「親の管轄の世界を管理するよ、俺の母さんがデカい時空保有してんの知ってんだろ?んでお前は?」
「俺はクロノスやるよ、瑠新とな。帰ったらメンバー募集始めるよ」
「美少女幼なじみとクロノスとかホント羨ましい奴だな!それにスカウトなら幾らでも来るってのに自分でチーム作るだぁ?贅沢め!俺の世界がピンチなったらお前のチームにでも頼むわ、んじゃ俺も用事あるからじゃあな」
「ああ、元気でな。あんま俺に頼ることになるような無茶な管理すんなよ?」
あたりまえだぜ〜、と去っていく級友を見ていると人の良さそうな少年三人の集団に袖を掴まれる。
「あのー、天宮さんですよね?写真一緒に撮ってもいっすか?」
「写真ぐらいなら暇だしいいよ」
しばらく仲の良かった同級生や後輩と話しているうちに結構時間が過ぎた。後輩の少女の告白を振って泣かれた時はめちゃくちゃ困った。そんなこんなしていると右前方のゲートから素路咲、高沢、緋流が歩いてくる。高沢は天宮に気が付くと二人に手を振ってこちらに全力で走ってくる。もう、それは怖い程全力で。
天宮は先の戦闘で速い何かが来たら避ける、という癖が出来てしまい、つい半身をズラしてしまう。
「なんで避けるの!」
「あ、ごめーー」
正気に返り、再び天宮は元の姿勢に戻る。それが悪かった。
「え?来夢!?今戻られると空間跳躍が狂うってば〜!」
「え、ちょま、えーーーー」
高沢の神技、〈空間神〉はワームホールや瞬間移動、果ては空間切断などかなり便利な能力だ。その分個人的な調整が必要だがそれは高沢のセンスで補っていた。
こうなってはそれも話が別だ。瞬間移動した高沢の膝がそのまま天宮の顔面にクリティカルヒットして、ずしゃー、と軽快な音を立てて天宮が床に転がった。五人の代表者相手に無双した天宮が、だ。
「痛い、顔が削られる……」
仰向けの天宮の顔に高沢が正座の体勢でちょこんと座ってしまっている。避けようとしても体重が何処に掛かり、天宮の顔に激痛が走る。ワームホールを使ってようやく天宮に自由が戻った。
「あ、天宮ぁ、ごめんククク、笑いがァハハハ、耐えらっれなィヒッヒッヒッヒッヒ!バカ宮!もう高沢に学園一位譲っちまえ!」
思いっきり指指しながら素路咲が笑い転げる。いつもは素路咲の腹を全力で蹴り転がしているだろう緋流も後ろを向いて口を覆っていた。
「いや〜素路咲〜そういう軽口は俺に勝ってから言えよ、な!」
天宮は一瞬で手の中に投げナイフを創ると素路咲に投げつけた。狙いは顔面。容赦は無い。
「いいねぇ、最後に一勝負やるか!簒奪する!」
ナイフの軌道が逸れて素路咲の左中指、人差し指の間に挟まれる。反撃に備えて天宮は右手でサイケデリックな光を握り込む。絶対物質、理不尽を具現化したような即死技だ。
今にも両者が激突しようとした瞬間、二人の動きはほぼ同時に止まった。
素路咲の首元には黒い小宇宙のような空間が生まれ、そこから伸びるボールペンが動脈に突き刺さるギリギリで止まっている。高沢は天宮の前で手を同じ黒いモヤに手を突っ込んでいる。ワームホールだ。
対して天宮には巨大な悪魔のものの様な鉤爪が首にあてがわれている。少し引けば人間の肌などすぐに裂いてしまいそうだ。その手を辿ると冷めた顔をした緋流がいた。
「お披露目戦で勝っちゃったからって調子に乗ってる?学園一位」
「来夢にナイフ向けるとか死にたいの?素路咲くん?」
死の一歩手前まで持っていかれた二人は顔を見合わせるとその神技を解いた。
素路咲は手に持っていたナイフを床に放ると言った。
「クロノスシステムでは負けない。いつかその座を簒奪してやるよ」
「当たり前だ、お前の最多連敗記録を創り出してやるからいつでも来い」
天宮の煽り返しに軽く笑うと素路咲は後ろを向いてそのまま去っていく。緋流もそれについて行くように小走りで雑踏へと消える。
「あの二人、いい感じじゃない?」
「そうか?素路咲がボコされすぎてイメージが湧かねぇけど。瑠新、家まで送れる?」
「うん、それじゃ帰ろっか。家行ったらチームの募集も掛けなきゃだからまだ忙しいね」
そう言うと二人は黒の中へと消えていった。会場には既に半分も人は残っていなかった。