一騎当千 Ⅰ
「その首っ、貰わせて戴きます!」
一人の少女が無数の触手に変貌させた両腕を天宮へと伸ばす。波打つ触手群の一部が床に触れて、数枚タイルが弾け飛んだ。人を殺しうるポテンシャルは十分秘めた攻撃である。
自らに向かう触手に対して天宮は一瞬ニヤリと嗤うとその一本を掴み取って跳躍した。
少女は空中の天宮を迎撃しようともう片腕の触手を乱雑に伸ばすも天宮はそれを手で滑るように、触手同士を絡ませるように、時には半身を捻るだけでするりと躱していく。
そして戦闘中の体感時間としては驚くべき速さで少女の至近距離まで躍り出た。
「それじゃまず一人目〜っと、お?」
「させるかよ!」
掌から現れた刀を少女に向ける天宮に対して、五指にエネルギーを込めた金髪の少年がその手を翳す。すると五色の光弾は捻れた軌道を描きながらも天宮に全弾着弾するように走る。ホーミング機能だ。
天宮がそちらに視線を一瞬向けたのを少女は見逃さなかった。このような戦闘に特化した名門校の生徒はソコを見逃すほど甘くない。
少女は既に天宮の後方にあった触手を解く手間を、長い触手を再び自分の下へ戻す手間を省く為にその神技を一度解除する。破れた肩口から生えたモノは触手の群れから細く白い腕に戻る。
天宮は都合よく至近距離、この状態で再度異形化させれば一瞬で天宮の首を刎ね飛ばす事ができるだろう。
ホーミング弾と触手の剛腕、二つの脅威に挟まれた天宮の行動は……依然として大胆かつ冷静。普段の天才っぷりだった。
無言で、首に向けていた刀を今にも変化しようと蠢く少女の腕を折り飛ばす勢いで投げつけた。痛烈な悲鳴と共に少女の左腕は鮮血と宙を舞う。
そして足でトンと床を鳴らす。するとそれだけで床から隔壁が顕現する。ちょうど少女と天宮、金髪の少年を分かつように現れたソレはがタイルの床を割り、植物のように伸びて天井に突き刺さった。
「まーー!?」
金髪の声は途中で遮られ壁の向こうからエネルギー弾が激突するくぐもった音が聞こえた。
「はい、オールクリア」
五色の光弾が壁を貫通しなかった事を確認すると天宮は痛みに顔を歪めつつある少女の顔を掴み隔壁に打ち付けた。少女の身体から力がスッと抜けてそのまま崩れ去る。
状況確認からここまでたった五秒弱、天宮には聞こえないだろうが別空間の観客席では盛大な感嘆と興奮が響いていた。
「あぶねー、もうちょいで死後の管轄大臣のエドン・ドラクスターに挨拶しに行く羽目になるトコだったわ」
三途の川から生還した様子の素路咲は起き上がると先の天宮を見ていたらしく的確に評価した。
「いやー、流石だな天宮……何もかもを作り出す力〈創造神〉、そして完璧な状況と空間の把握……いいね。それでこそ俺の最高の好敵手だよ」
そこに未だ怒りが収まらない様子の緋流がツッコミを入れる。
「ま、ライバルって言っても拝火側がいつも負けてたけどね、でしょ?」
「う、うるせぇ!卒業後のクロノスシステムでは勝つからいいんだよ!」
「二人とも五月蝿いなぁ、まだ来夢の敵は四人もいるってば。観戦に集中させてよ、ね?」
ジュースを奪われた時以上の殺意を内包した笑顔で緋流と素路咲に微笑みかける高沢を見て二人は無言で唾を飲みコクリと頷く。
高沢の言葉通りにモニターは隔壁で分割された空間の内天宮側にいたもう一人の対戦相手が天宮に襲い掛かる様を映していた。