学園二位
過去に栄華を誇った文明の産物、雲を割く電波塔の展望台。そこから彼は都市の崩壊を見た。まるで野球のように建物を投げる男、それを避けつつ宙を舞う少年、彼らが撒き散らす神威の産物。終焉のショー。
だがーー
「飽きたし俺も傍観者はここまでか……」
その光景すら少年には一時の暇つぶしにしかならない。
「天宮がここで勝ってもめんどいし負けても俺の格が下がる。上にいるってのは雁字搦めで楽じゃないねぇ。半端な二位じゃ胸も張れない」
それもそのはず。魔境と呼ばれるアードレグノマ国立学園の中でも鬼才かつ奇才、学園二位の素路咲拝火だからだ。
見る人が見ればひと目でわかる純白の髪と袖から覗くこの世の何よりも濃い深淵。
そしてーー
「気づいてるよ、ソコ。お前暗殺下手すぎ、天宮に後でちゃんと教わりな」
人を小馬鹿にした笑い混じりの口調。嫌味に笑うその顔に右拳が綺麗に入った。
その風圧で風化に耐えていた窓ガラスは全て吹き飛び窓枠がひしゃげる。その暴威の中でも素路咲は突っ立っている。
「えーと、誰だお前?」
更に一発、素路咲はノーガードにして無傷。
「ああ、リゼルだっけ?」
腰の辺りに鋭い蹴り。一般人なら腰から真っ二つ、耐え切ってもこのフロアから投げ出されるだろう。それを片手で添えてスっと突き放して返す。
「そろそろやめなって、ゼノン・ルージギア」
「チッ、覚えてたのかよ! でもその発言は効いてるって考えていいか?」
ゼノンのブーツの踵が上がる。取り敢えず威力で押す為の喧嘩パンチから体重を乗せた格闘のパンチへ。
その一歩を踏み込んだ瞬間に素路咲は制止の理由を答えた。それもまた、手遅れになった少年を雑に慈しむかの様に。
「俺じゃなくて足場が死ぬよ、そんな力でバカスカ打たれたらさ」
踏み込んだゼノンの足が沈み込む、連れられて拳は目標から大幅にズレて空を貫いた。
崩壊が始まる。
「それじゃあゼノン、ゲームしようぜ!」
不明な力によって砕けた塔の残骸が素路咲の手に集まりまるで小惑星の様に、そしてそれが落下する。雲の下で破壊の音色が鳴り響いた。
「こんな状況で何するつもりだ。落ちたら俺は生きてお前は死ぬ。お前が耐久出来るような神技じゃないのは天宮から聞いてんだよ!」
「まあ落ち着けよ、面白いゲームなんだから。ルールは簡単、落ちるタイミングに合わせて身体を使えよ。そうじゃないと重圧で動けない隙に俺が殺す」
なんだ、楽勝じゃないか。ゼノンは思った。下を向いて確認すればーー否、首が動くことは無い。目が素路咲から離れない。手で顔を掴んでも何をしても。
「なんか遊んでたら出来たんだよね、〈簒奪神〉の応用。目を奪うって慣用句を物理的にやっちゃってる感じか。あっち向いてホイ最強よこれ。ホラ、ホラ、ホラ」
素路咲の指差す方を勝手に向いてしまう。天宮の説明でこれが出来るとは言っていなかった。が……
『アイツは成長早すぎるから俺が言って無いのが出ても悪く思わないでくれ』
(遊んでたらで出来るやつじゃねぇぞこんなん!)
2人は雲を抜けて地上に向かう。地上は既に壊滅していて残骸の荒野と化していた。それを確認する術は片方しか持ち合わせていないが。
「さあ、クライマックスだ! カウントしてやるからミスるなよゼノン!」
上を指したままの指を見上げるゼノンはせめてもの抵抗として威勢よく答えた。
「舐めプで恥かくなよ? 天宮に馬鹿にされるぜ?」
「お前に心配されるようなことじゃねぇよ……んじゃ開始! 3!」
ゼノンが来るべき2秒後に備えていると足に嫌な感触が響きそれは全身に毒のように回った。
指が降ろされると同時にゼノンの首がストンと正面を向く。見える素路咲の顔は当たり前の様に爆笑……では無く真面目な表情だった。
「相手を信じすぎるな、自分を過信するな、情報を鵜呑みにするな、自分のペースを崩すな。アドバイスはこんくらい、悪くは無かったよ。特に出会い頭のは奪い甲斐があった。それじゃ、ようこそ。魑魅魍魎蠢くクロノスシステムの世界へ!」
ゼノンと逆に羽毛の様に降り立った素路咲の拳はゼノンの腹を貫いた。肉体強度を何十倍にも引き上げている彼の身体を。
力が抜けて自分の血に倒れ込むゼノンを素路咲は一瞥すると振り向きざまにこう伝えた。
「どうでもいい話だけど意識があったら覚えときな? 『高沢瑠新と天宮は上手くいっている。無駄に探ったり聞いたりしない方が身のためだ』」
つかつかと、瓦礫の山を勝者は進む。
● ● ●
ピクリと腕が動いた。ゲームオーバーになるだけの身体がまだ生きている。
血だらけの少年を向こうが見えそうな自身の穴をちぎった服で多い立ち上がった。
(数千倍まで土壇場で引きあげた回復能力で止血は済んだがこれじゃ数日が限界だな。天宮に会えば全快出来る、合流を急ぐしかねぇ)
フラフラの足を死力を尽くして動かして歩く。心の中には素路咲に一撃返すという対抗心とーー
最後の最後で彼が伝えたくだらない色恋沙汰への疑念を持って。




