最高の瞬間
拳と拳が交差する。見る人が見れば不健康だと思うような白腕を創造の力でドーピングしてぶつける天宮、半世紀生きた経験はそのままに肉体年齢が全盛期かつ極限の状態のシルド。互いに未だ相手を崩せない現状に焦りと苛立ちを感じていた。
「ハッ!」
(いける、躱せるっ!)
シルドの右腕を頬に沿って受け流すと天宮はがら空きの顔面に銃を突きつけてその刹那トリガーを引いた。
薬莢が弾け、空気が爆ぜる音とほぼ同時に弾丸は硬いものにぶつかりキュルキュルと音を立て静止した。
シルドは白い歯見せてにやりと笑む。弾丸はその歯によって止まっていた。
「バカ硬ぇかよ!」
「それが完璧だ若造!」
言葉を交わしシルドは弾丸を吐き捨てると伸びている右手を捻り、掌を開いた。爪と地面が平行になる。
言葉は無く真横に振り切られる。手刀。文字道理に刃となり天宮の髪を一、二センチ舞わせた。
だがーー
「これも読まれたか……生徒として見ていた頃はここまでとは思わなかったよ」
「そう言ってくれるとクロノス冥利に尽きる!」
大胆に脚も腰も曲げて一メートル以下の超低姿勢で天宮は構えていた。再びシルドの腕が向きを変え垂直の手刀が放たれるよりも前に天宮の手が伸びる。
その色は先程の白ではなく、眩む様な万華鏡。絶対の名を冠する確殺の武装。
天宮は内心安堵した。この状況、ほぼ勝ちが確定している。先程までガードや回避をフルで使う肉弾戦をしていたがこれは触れればおしまい。故にガードは封じられる。
そして回避ができるタイミングでも距離でもない。一般人にはーー
完璧である神の肉体はその基準に当てはまらない。シルドの掘り出された岩の様に逞しい脚が上に上がりつま先が天宮の腕に突き刺さる。ちょうど絶対物質を纏っていない部分に。
「甘かったな天宮。だが、落ち込むな、お前は強い」
無慈悲な目が天宮を刺した。腕はそのまま蹴り上げられ上へ、そして勢い良く脚を振り下ろすと体を捻り左拳を溜める。左手のガードは……まず間に合わない。
そしてーー
シルドの左手は硬く、硬く握りこまれて音を超える速度で天宮の顔面に突き刺さった。
衝撃で骨格ごと逝ったその部位は原型を留めなかった。その苦痛で完璧だった男の顔が歪む。
「そろそろ瑠新とかが来ると思ったけどまさかのーー」
「私が間に合わなきゃライムがアウトだったし今回の作戦ガバ過ぎない?」
幼女、と言っても若干差し支え無さそうな少女が悪態を突いた。天宮はこれは滑稽だと言うようにニヤけが止まらない。
「ソルマ、ソルマ・レイゼートと言ったか……何をした?」
ゴギリ、と圧壊した左手を泥を丸める様に形を整えて打撃が出来るように戻しながらシルドはソルマに問う。
どんな兵器を用いても傷一つつかなかった自分の肉体は少女の力で無様に破壊された。しかもソルマは学園出身でないどころかクロノスシステムに参加して半年経たずの超初心者だ。それは歴戦の猛者が対戦相手に尋ねるほどのイレギュラーだろう。
ソルマは当たり前の様に応える。それが世の常識であるとでも言うような自信を持って。
「守護神。どんな敵対反応からも回数制限付きで守りきる、私の神技。硬いものに柔らかい物をぶつけたらぶつけた方が壊れるのと同じ理論だよね」
膠着を崩し、ピンチをチャンスに変えたのは新世代最高の逸材かつ天才でも過去に名を轟かせた英雄でもない。それは一人の少女がそこにいたという現実だった。
「俺の仲間、最高ですよね。こんなヤツらと一緒にクロノス活動出来て俺は最高に楽しいっす、シルド先生」
シルドの脳裏に浮かぶのはただただ絶対的な権威、能力、才能で隣の少女以外寄せ付けず必要とすらしなかった冷めた目の少年の姿。
「若者の成長にはいつも驚かされる。いい顔になったな天宮、そして素晴らしい力だソルマ・レイゼート。さあ、第二ラウンドといこうか!」




