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第三話 遅刻は厳禁

そんなこんなでしばらくの間会話が続いていた。

6年も会っていないと殊のほか話すことが多くて、会話が弾んだからだ。

ぼくとしても退屈に感じることは一切なく、むしろとても充実した時間になっている。


「こんなに姐さんとしゃべったのは久しぶりですよ」


「うちも久しぶりで楽しかったわ!こんなに成長したリックを見ることもできたさかい。

“男子三日会わざれば刮目して見よ”ってやつやね」


“男子三日会わざれば刮目して見よ”というのは、東方で使われる格言のこと。

男の子は三日も会わないでいると驚くほど成長しているものだという意味らしい。

もともと姐さんは東方に住んでいたので、こう言ったこともよく知っているのである。


「3日ではなく6年ですからね。いやでも成長しますよ。師匠に弟子入りして修行をしてましたし」


姐さんに会いに来られなくなるほど内容が濃くて、最初の1年間は家に着くなり泥のように眠る毎日を送っていた。

そのおかげで今では基礎体力も昔とは比べ物にならないほどついたし、精神面でも同様のことが言える。


「せやったんかい?そりゃあ成長するわな。どのくらいの時間やっとるん?」


「えっーと…そうですね、だいたい朝から夕方までくらいです」


本当は夜までやり続けたいそうなのだが、ぼくとしても薬の勉強もしなければならないので夕方までで勘弁してもらっている。


将来、店を継がねばならないので疎かにできないのだ。

父さんはリズリィに後を継いでほしかったらしいのだけど、薬に関しては全く才能がないため早々とその野望は潰えてしまった。

どのくらい才能がないかと言えば、


『金輪際、リズリィに薬を作らせるな。いいか?これはお願いではない…命令だ』


と、父さんに言わせたほど。

その時の父さんは死を宣告された様な顔をしていた。

父さんの頭の中で、“リズリィ+薬作り=混ぜるな危険”という計算式が飛び交っていたのだろう。うーん…わが妹ながら恐ろしい。


「てことは、今日は休みっちゅうことやな。会いに来てくれたんやし」


「…………へっ?」


今日の修行がないとは一言も言っていないと思うけれど…なんでそんなことを言ってるんだろう?んー…わからない。


「いえ、今日も普通どおりありますよ」


「ふぅ〜ん。せやったんかい。こんな時間まで話してるからウチはてっきりそうやとばかり思ってたわ!」


(……んっ?こんな時間?)


まだそんなに経ってはいないと思ってたんだけど…。

そんなにまずい時間になっているのだろうか?


「ちなみに今は何時ですか?」


「せやな…リックと話し始めてから1時間てとこやな」


その言葉を聞いたとたんに体中の穴という穴から冷汗が噴き出してきた。

まさか1時間も話し込んでいたとは…完璧に遅刻だ。


(今のうちにいいわけでも考えておくべきだろうか?いや、生半可ないいわけでは火に油を注ぐ結果にしかならない。こうなったら心からの土下座をする方向に持って行った方が…)


僕の頭の中ではどちらにするべきかの葛藤が行われていた。

それが行動として表れているかのように、僕の両手は土いじりをしたりその辺の雑草を引き抜いたりしていた。

すでに大人と言っても差支えない年齢の男性がとるであろう行動とは明らかにかけ離れている。そんなことはとうの昔にわかってはいる、が止められない。

それは勿論、結論が出ていないから。


…こんな状況であっても誰にも声をかけられていないことがせめてもの救いだろう。

もっとも、声をかけるのを躊躇するほどの奇行に見えていたのであれば話は別だが。


「16年か…。短かったな〜ぼくの人生」


師匠が阿修羅のごとく怒っている姿が目に浮かぶ。

きっと今頃は、どんな罰にしようかと考えているに違いない。

あの人は晩御飯に何を作るかを決めるような感じで、僕に課する修行内容を決めているのだ。


「遊びに行くなら山と海、どちらがいい?」


思い起こせば、この師匠の何気ない言葉がそもそもの始まりであった。

当時は本当に遊びに連れて行ってくれるのかと思っていたので、何も疑うことなく山を選んだ。次の日、目が覚めると山の中腹で目隠しをされた状態で放置されていた。

何が何だか分からなかったけれどとりあえず目隠しを取ってしまおうと思い、おもむろに手をかけたが…取れなかった。

その時に昨日聞かれたことが何を意味しているのかに気が付いたのだ。


「サラッと言ってるわりに、なんやえらく深刻なことを言っとるな」


「どうすればいいですかね?」


こうなったら姐さんに知恵を拝借するしかない。いつものようにすばらしい方法を考えてくれるはずだ。これでやっと一安心でき――――


「そんなもんあらへん!」


――ないことはわかってましたよ、ええ。人生そんなに甘くないってことですよね。

まぁ…これで覚悟は固まりました。あとは砕け散るのみ!


「それじゃあ、姐さん。お話できて楽しかったです。それでは」


謝辞もほどほどにしつつ、師匠のところに向かう。いまさら走って行っても間に合わないことはわかっていたが、一分一秒でも早く着こうと思い、走っていく選択肢をとることにする。





まず、深い深呼吸をして体全体の余分な力を抜き、それから足にマナを集中させる。

昔ならこの動作をするのに2,3分はかかっていたが、今ではコンマ数秒もかからずに行うことができる。

一見かなり地味で単純そうな動作ではあるのだが、これができる人とそうでない人とでは雲泥の差がでてくるらしい。

実際にできない人を見たことがないので何とも言えないところではあるが…。


(この分だと、10分かからずに着くかな。)


いつもより飛ばしている分、10分ほど早い目算をはじき出す。

もちろん、普段は見かけないような珍しい植物を見つけてしまう、あるいは何者かに襲われるなんてことが一切なければという仮定条件のもとではあるのだが…。

まぁ、そんなことは今までにそこまでなかったから大丈夫なはず。


(いや…この際、何か食材でも取って行って師匠のご機嫌をとる方法も悪くない。自然豊かなところだから探せばいくらでも見つけられるし。)


そんなことを考えていると、


「おーい。久しぶりだな!」


僕の右手側にある山の中から、男性特有の低い声で呼び止められる。

呼ばれた方を見てみると、村にただの一軒しかない宿屋を営んでいるおやじさんの姿が見えた。

木で編んだかごを背中にかるっているのを見ると、どうやら山菜を摘んでいたらしい。

おそらく宿屋に泊まった旅人に新鮮な山菜料理を作るための食材を採ってきたのだろう。


「お久しぶりです。珍しく宿屋の方にお客さんですか?」


いつもお客さんがいないのが当たり前のように返事をすると、おやじさんは「珍しくは余計だ!」と笑いながら僕の方へと近づいてきた。


「で、その珍しいお客さんはどんな人ですか?」


この村は観光客が来るような名所はない。

どんなモノ好きがやってきたのか気になったが、先ほどのことを思い出し予想がついた。

おそらくは僕に道を尋ねてきた人のことだろう。


「そのお客さんは女性なんだが、これがまたえらく美人なひとでなぁ…。もう10年…いや20年わしが若ければその場で口説いていたかもしれん」


実際、あの人であればそう思われるのも仕方がない。

あの容姿で迫られたら男であれば二つ返事で結婚してしまうことは容易に想像がつく。


「そんな美人が何しにここへ来たんですかね?」


うちの薬屋は他の店で扱っていない薬を置いているわけではない。

せいぜい傷薬か毒消しくらいなものだ。


「そう言えば何しに来たか言ってなかったな。まっ、美人に悪いやつはいないさ。おれの経験だけどな」


「そんなもんですか?」


「そんなもんさ。じゃあ、そろそろ行かせてもらうぞ。あんまり遅いとカミさんに怒られちまう」


笑いながら話し終わりまた山の方へと分け入っていった。

どこの家でもカカア天下なのは変わらないらしい。


「…って、ぼくも早く行かないといけないんだった」


ぼくはそのことに気づいてからすぐにまた走って行った。

無論すでに間に合わない時間であることには気付いていたが。


去年までに一話あげるつもりでしたが、バイトが忙しくて手がつけられませんでした。申し訳ありません。

なお、1月はテストで忙しいため書けるかは未定となっております。

駄文ではありますが、今年度もよろしくお願いします。


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