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プロローグ

 思わずピクニックにでも行きたくなってしまいそうなほど地上には太陽から透き通った黄金のしずくが降り注いでおり、体を包むような心地よい風が吹いている。こんな良い天気のなか某所では、老若男女が机をはさんで一つの懸案事項について話し合っていた。


 性別も身長も異なってはいたが、よく見ると共通の特徴をひとつだけ垣間見ることができる。何を隠そう……全員が全員、耳が一般的な『人間』より長くとがっていた。エレニア国では、一般的に『エルフ』と呼ばれる種族である。


 あえてもう一つの共通の特徴をあげるとするならば、全員が非常に困った顔をしていることだ。それほどに話し合っている内容が重大なのだろう。


 時を溯るほど10分前、現在の状況は一人の老人の手によって作り出された。




       〇●〇





「皆の集、よく集まってくれた。今日、集まってもらったのはほかでもない、村が始まって以来の緊急事態が起こったのだ」


 どうやらこの話し合いでのリーダーのようだ。既に顔の表情は曇っており、眉間にはしわが寄っている。事態の深刻さを物語っていた。


 ただ事でない雰囲気を察した全員は、息をのんでリーダーの方をじっと見つめている。しばらくしてリーダーは口を開き、ためらいを見せながらもひと言ひと言を絞り出すようにつぶやいた。


「“あれ”が無くなりかけておる」


 この言葉を聞いた瞬間、その場にいるエルフたちから表情が消えた。どうやら“あれ”とだけ言っているにもかかわらず、残らず理解できているようだ。そしてこの状況が1分続き、2分続き……ついには10分が経過してしまった。


「冗談とか数え間違えではないのですか?」


 ようやく一人が口を開いた。聞いたことはあくまで確認ではあったが、そうであってほしいと言わんばかりの表情をしていた。おそらくこの場にいるエルフ全員が同じことを望んでいるに違いない。


「そうであればどれほど良かったことか……」


 予想はしていたが期待はしていなかった言葉が返ってくる。あらかじめ予想されていたとはいえ、いざ現実を突きつけられるとさらに落ち込んでしまうのは当然の反応といえるだろう。


「何か“あれ”に代用出来るものはなかったかしら?もしくは、“あれ”を私たちで作る方法は?無いの?」


 12,3歳位のかわいらしい女の子が全員に質問するような形で問いかける。外見からは想像もつかないほどの冷静さだった。


「残念ながら期待に添えるような返事を返してあげることができそうもない。この村のありとあらゆる文献を調べてはみたが、代用品や作り方なんかは何も書かれていなかった」


「では、人間たちの国には無いのですか?」


「可能性がないわけではない。文献によれば、“あれ”はもともと人間がこの村に持ってきたものらしいのでな」


 この言葉は絶望という淵に落とされていた者たちに可能性という一筋の光を与えた。すぐにでも手掛かりを探しに人間の国へ行きそうな者もいれば、すでにドアノブに手をかけているものまで現れている。


「だが、われらがこの村を離れるわけにはいかないし男たちを行かせるわけにもいかない。村の安全に関わるからな」


冷静になって考えてみるとまさにその通りである。外へ出ようとしていた者は顔を真っ赤にして、苦笑いを浮かべながら席に戻る。


「では必然的に女性が行くことになりますね。外の世界は物騒ですし、腕の立つ者はいましたか?」


 すると全員がぶつぶつと名前を呟きながら、条件に当てはまる者を考え始めた。そして、ほぼ同じタイミングで全員が一人の名前へと行きついた。


 実を言えば、あらかじめ予想はされていた事態ではあった。エルフという種族自体が争いを好まないため男性が戦いや狩りなどを一手に引き受けている現状があり、必然と言えば必然であった。


「マーラは……どうだろうか?」


 この言葉に全員が納得といった表情。それもそのはず、早くから父親を亡くしていた彼女は父親の代わりをするために戦いのすべを学んでおり大人顔負けの腕前、エルフの専売特許である精霊魔法もかなりのものなのだ。


 だがこんなにあっさりと終わるほどもちろん甘くはい。この程度のことならばそもそも話し合う必要はないのだから…。


「それなのだ、私が一番悩んでいるところは。マーラならばこの役目にうってつけだろう。しかし、まだ成人しておらん。一度でも森を抜けてしまえば二度と帰っては来られまい。行ったとしても意味がないのだ」


 エルフの里は森に囲まれており、エルフだと森に認められた者のみが入ることができる。その条件が成人していることというわけだ。エルフの成人は特に決められた年齢があるわけではなく突然、自分で理解するものらしい。


「だれか、マーラが帰ってこられる方法を知らないか?」


 すると、とたんに顔が下を向く。そんな都合のいい話はそうそうないということであろう。これまでか…と全員が思い始めたころ、一人が突然喋り始めた。


「えーっと…うちのひいばぁちゃんから聞いた話なのですが…………………」


 言っている本人いたって真面目だったが、想像以上に突拍子もない話だった。


「その話は本当なのか?」


「確証はありませんが…」


 酒場でさえ聞くことができないような与太話。非常時でなければ取り合ってさえくれないだろう。だがしかし――――――


「この話を信じるほかはないようだな。マーラには酷な話かもしれないが仕方がない、村を救うためだ。だれか、すぐにマーラを呼んでくれ。」


――――――今はその非常時だった。


 この瞬間、本人の全く関与しないところで人間の国へ旅に出ることが決まってしまった。マーラ、18歳の時のことである。


初めて書いた小説なので、意見・感想などを頂けると参考になります。もしよければ書き込んでいってください。

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