残された家族 (2)
私の親族は、残された家族のことを心配していました。
その人には、妻も子供もいました。
心配した内容は、主に経済的なことです。
巣鴨プリズンにぶち込まれて贅沢できるのは、本人だけで、家族はひもじい思いをしなければならないのです。
それに、父の話によると、戦犯になると、全財産を没収されるのだそうです。
何故、戦犯は財産が没収されるのか、理解出来ませんが、どこかに消えたのでしょう。
虎の威を借りた日本人が、アメリカ無双をしていた時代でしたからね。
さらに悪いことに、その人は家長だったそうです。
家長とは、一家の全財産を持っている人です。親の全財産も、もうすでに、相続しているのです。
それが全て失われたのです。
その人の血縁者が、その人の家族を支えることが、
事実上不可能
になりました。
支えられるのは、奥さん側の人間だけです。
実は、この奥さんが、あらすじで紹介した、
東京裁判は復讐裁判
的な内容を言っちゃた人です。
この人は、はっきり言って、キチ○イです。
まともな人間じゃないです。
大胆過ぎます。GHQもさぞ、困ったことでしょう。
ある時、父に、
「お金がなかったのだから、奥さんが働けばよかったのでは?」
と、聞いてみたところ、
「お嬢さま育ちなんだから、仕事なんかできるわけないだろ」
と、呆れられてしまいました。
問題発言をした状況ですが、
戦犯家族に対して、説明会というか、親睦会みたいな会が、とある大講堂で開かれたのです。(これだけでも、戦犯というのは、特別な扱いだったことがわかります)
戦犯だけで数千人いますからね。その家族となると。よく、集めましたよね。
その会で、質疑応答に近いことがあり、そこで、
堂々と手を挙げ、
持論を展開した、
のだそうです。もちろん内容は、
東京裁判は復讐裁判
です。
完全にoutです。
GHQ、ナメ過ぎです。
不特定多数に目撃されています。ていうか、目撃者多過ぎです。
公的な立場の人も、当然、出席しています。
さて、ここで問題です。
この後、この奥さんは、どうなったでしょうか?
お考え下さい。
ヒントは、当たり前の結果です。だから、超難問です。
答えは、
社交界の花形になった
です。
この暴挙を目撃していた人は、戦犯の関係者なのです。
心の中では、皆、同じことを思っていたのです。もちろん、口に出す、なんてクレイジーな真似はしませんが。
言いたくても言えないことを平気で言ってる馬鹿を見て、
皆さん、胸のすくような思いだったのです。
そして、その場には、日本の上流階級の奥様方が、集まっていたのです。
その御婦人方が、一発でこの奥さんのことを気に入ってくださり、御自宅にご招待してくださるようになったのです。
それが流行し、何軒ものお宅に。
巣鴨プリズンにぶち込まれたおかげで、この夫婦は、普段では
とてもお目にかかれない方々
と、お知り合いに成れたのです。
もちろん、全く、罰せられていません。
不利な扱いになったのか?
そこは微妙です。後で書きますが、判断が難しいところです。
実は、この奥さん、もう一回やらかしてくれているのです。GHQも、さぞかし悩んだことでしょう。
話を元に戻します。
この奥さんは、
お金もないし、
頼る相手も実家しかない、
のに、実家に帰らず、東京で暮らしていました。
この当時の東京は、空襲の影響もありますが、食糧に恵まれていないので、生活は苦しいです。
お金がかかります。
実家で暮らす方が、遥かに楽です。
それでも東京にいたのは、
理由1
犯罪者の家族なので、田舎では、暮らし辛かったのです。実家にいては世間体が悪いので、東京が、よかったのです。
理由2
夫が巣鴨プリズンにぶち込まれているので、面会に行くのに、東京が、便利だったのです。
理由3
この理由3、何だと思います?
問題発言のような超難問ではありません。
理由1、2と同じように、常識的な答えです。
でも、この常識を知らなそうな人が、結構いるんですよ。物語と現実の区別が出来ない人が。
戦争に負けると悲惨なことになります。
占領軍が迫害を始め、理不尽な統治を行うようになります。
この文章の間違いがわからない人がいるんですよ。
では、次話は、
理由3
の話。