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嫌われ勇者  作者: お茶大好きなお茶目さん
5/10

帰りたい




「うむ。それはだな…」


「僕を元の世界に帰してもらうよ」


丁度いいタイミングで謁見の間に辿り着けたみたい。


王座から見て、正面。

姫様の背後にある扉から入ると同時に声を発したら、凄く丁度いいタイミングだった。


驚愕に目を見開く王様と宰相。

姫様は、僕の声に反応して振り返ったみたいだけど、『誰?』とでも言いたげな表情だ。


姫様も僕の事を忘れちゃったのかな?

だったら、酷いな。


僕を召喚して、色々と調べ、使い物にならないって分かった瞬間に牢に閉じ込め、挙げ句の果てには麻袋に入れて、墓場に捨てた癖に。


それが、どれだけ悲しかったか。

どれだけ苦しかったか。

どれだけ泣き叫んだか。

どれだけ痛かったか。

どれだけ辛かったか。

どれだけ死にたいって思ったか。


憎い。

とても憎い。


けれど、今になってはどうでもいい。


「僕を忘れたの?カルーラ姫」


そう言って、僕はフードを取って、顔を露わにする。


すると、姫様は口に手を当てた。

王様と宰相は醜い物を見るような表情を浮かべて「うっ」と呻いた。


「ケ、ケイイチ…」


姫様が死人を見たような顔をしてるけど、僕は憶えててくれた事が嬉しくて笑った。


「ハハッ、憶えてくれてたんだ。嬉しいな」


僕が笑うと、王様は目を背け、宰相は吐いた。

酷い反応だと思う反面、仕方ないとも思う。


なにせ、僕は魔王と死闘を繰り広げたんだ。

それまでも幾度も死闘を繰り返した。


だから、多少の傷はある。


だけど、僕の顔の怪我は少し特殊だ。


拷問を受けたんだ。

それも、人間に、ね。


酷いよね?残酷だよね?

この世界で一番残酷なのは誰って聞かれたら、僕は迷いなく人間って答えれる自信があるよ。


けれど、確認しようにも鏡がなかった。


別に、この世界に鏡がないわけじゃない。凄く高価な物で簡単には手に入らないだけだ。


だから、僕は全てが終わった後に、魔王を倒した後に、とても久し振りに水面に浮かぶ自分の顔を見た。


そして、吐いた。


これまでグロテスクな光景なども見てきて、かなり慣れていた筈なのに、自分の顔を見て吐くなんて、どうかしてると思う。


けれど、仕方ない。


「そ、その顔は…」


「知ってる癖に。僕を拷問したのは君達でしょ?」


泣き叫んで助けを求める僕を他所に、笑顔で僕の顔を焼き、斬り刻み、溶かしたのは、姫様だ。


「で、でも、あの時はそこまで酷くなかったっ!そ、それに、あの時既に貴方は死んでた筈っ!」


「死んだ?僕は生きてたよ?」


「嘘っ!嘘よ!!有り得ないっ!」


姫様は一体何と勘違いしてるんだろう?


僕は確かに生きてた。

その証拠に、僕はこの場に立っている。


ただ、あの時は、身動き一つ出来ない程に衰退してた。

いつ死んでもおかしくないほどにね。


けれど、食べ物はあったんだ。


牢にあったトイレ用の桶に生えてた苔とか、牢の壁を突き破って生えてた雑草とか、時折通り掛かるネズミとか。


恥とか、病気になるとか、そんな事、全て捨てて、それらを食べて僕は生き長らえた。


あっ、成る程。


僕が動かなくなったから、死んだと勘違いしたんだね。

だから、僕を袋に入れて墓場に捨てたんだね。


「き、貴様は…貴様は一体なんなんだ!?」


グロッキーだった王様が復活したみたい。

けれど、僕の顔を見る度に吐きそうになっている。


僕は、王様の問いには応えない。

いや、その問いに応えるべき答えがないんだ。


だから、僕は姫様に話し掛ける。


「魔王はもう居ないよ。だから、姫様。僕を元の世界に返してくれないかな?」


「………」


どうして黙るのかな?


あっ、そっか。


僕にしてきた行為を悔いてるんだね。

だから、視線を落として、悲しそうにしているんだね。


……そんな事、今更どうでもいいよ。

今すぐに僕は帰りたいんだ。


帰せよ。早く。


「ヒッ」


少し殺気が漏れたみたい。


姫様が小さな悲鳴を上げて尻餅を着くと同時に、宰相が気絶して階段から落ちてる。

王様なんて、王座の裏に隠れて縮こまってしまったし。


ごめんね。そんなつもりはなかったんだ。


少し、姫様の行動が遅いから苛立っただけだよ。


「早く帰して欲しいな。それだけが僕の望みだからね。僕を召喚したんだから、できるよね?」


早くして欲しい。

少し不安になるじゃないか。


「ぇ…ぃ…」


「…ん?」


ハッキリと聞き取れなかった。

もう少し大きい声で言ってくれないと、分からないじゃないか。


「で…ぃ…。…できないの…私…召喚しかできな……ヒィィッ!?」


ナニ、ソレ?


フザケルのもタイガイにシロよ?


コロスよ?


ミナゴロシにスるヨ?


「ごめん…なさい…。ごめんなさい…。ごめ…んなさ…い。ヒック…ごめん…なさ…い。ごめ…んな…さい。ごめ…ヒック…なさい。ごめんなさ…うぅ…ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!…うわぁあぁぁぁん!」


…………。


あーあ、泣いちゃった。


これじゃあ話にならないね。


でも、安心して良いよ。

僕は、もう殺しはしないって決めてるんだもん。


さっきは少し虚を突かれて精神が不安定になったけど、もう大丈夫。


フードを被り直して、姫様の元へと向かう。


どうしてか、姫様は僕から逃げようと泣きながら後退りする。けれど、僕は歩いてるから、床に尻を擦り付けて後退る姫様よりは確実に早いよ。


「カルーラ姫」


姫様の前に辿り着いた僕は、彼女の胸倉を掴んで持ち上げながら話し掛ける。


「生きていたいでしょ?」


僕が問うと、姫様は首がもげるんじゃないかって程に首を縦に激しく振った。


なら、わかるよね?


「僕を元の世界に帰して」


「ご、ごめんなさい…」


いやぁ、謝られても困るんだよね。


「できるでしょ?」


「ごめん…なさ…い…」


謝ってばかりじゃないか。

そんなんじゃ姫様は名乗れないよ?


取り敢えず、軽く復讐しとこうか。



ーーー



なんだよ。

なんななんだよアイツは…。


俺は勇者だ。

選ばれし勇者なんだ。


だけど、アイツと戦えと言われれば、俺は即座に勇者を辞退する。


単なる興味本位から、僅かばかり開いたままの謁見の間に繋がる扉からコッソリと中を覗いたんだ。

そして、見てしまった。


アイツだ。アイツが居たんだ。


俺は、アイツの発するオーラに只々恐怖する事しかできねぇ。


訳が分からねぇ。

そもそも、アイツが人間なのかすら怪しく思える。


少し距離があって何をしているのかサッパリ分からねぇが、カルーラを片手で軽々と持ち上げているのは分かる。

その奥には、階段から落ちて気絶してる宰相と、階段上にある王座の裏で頭を抱えてガクガクと震えてる王がいやがる。


けれど、どうしてそうなったのか俺には分からねぇ。

なにせ、今来たばかりだ。


「ぐっ!ギィァッ!だ、だずげでっ!」


カルーラが悲鳴に似た声を上げてる。

けれど、俺の足は王同様にガクガクと震えて全く動こうとしねぇ。


分からねぇ。


全く分からねぇ。


ただ一つ、分かることと言えば、カルーラはアイツに何かされてる。

アイツが腕を動かす毎に、カルーラは悲鳴をあげて助けを求める。


なのに、カルーラの父親である王は動かねぇ。


俺も動けねぇ。


ただ、心の底からアイツが怖く思える。

アイツを見ていると、俺の心の中全てを恐怖に支配されるような、そんな感覚に陥る。


だけど、目が離せねぇ。

いや、違うな。


目を離した瞬間に一瞬で殺されそうで、怖くて仕方ないんだ。だから、離せねぇ。

まるで、『最後まで見ろ。さもないと殺す』とでも言っているかのように感じる。


俺は殺されない為にも、最後まで見続ける。


何をされているのかなど、サッパリ分からねぇが、身体の震えが止まるまで見続けた。


アイツがカルーラから手を離した瞬間、俺の体の震えはピタリと止んだ。


何事もなかったかのように体は動く。それに、アイツから目を離すこともできるようになった。


しかし、俺は気になって仕方なかった。


アイツが手を離すと同時に床に落ちたカルーラの事が気になって仕方なかったんだ。


手足は明後日の方向を向き、無残な姿だった。

顔は父親である王の方へと向けられている為、表情は伺えない。


でも、余りにも酷すぎる。


さすがにやり過ぎだろ。と言いたくなる。

けれど、そんな事を言えば、アイツに殺されるかもしれない。それが怖くて堪らなく、俺は一歩を踏み出せない。


アイツが立ち去るのを今か今かと待つしかできない。


でも、アイツは動かない。

床に力なく倒れてるカルーラに何かを話している。


何を話しているのか、耳を澄ましても聞き取れない。


薄っすらと聴こえてくるのは、


「ごめんなさい…ごめんなさい…」


と、謝罪を口にし続けるカルーラの掠れた声だけだ。


一体、何があったんだろうか。

そんな事、俺には分からない。


でも、一つ分かった事がある。


アイツは危険だ。

もし敵対などしようものなら、俺なんて一瞬で消し飛ばされてもおかしくない。


それ程までの力量差がある。と、俺の勘が言っている気がする。


カルーラも王も宰相も、アイツに敵対する奴は皆バカだ。

そうとしか思えない。


金輪際、何があっても関わりたくない人物だ。

そう思うしか俺には出来なかった。



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