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嫌われ勇者  作者: お茶大好きなお茶目さん
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帰還


早速だが、僕は勇者だ。


なぜ、勇者かと問われれば、簡単な話だ。

とある遺跡の奥深くに眠っていた《勇者の剣》を引き抜いたからに他ならない。


とは言っても、世界に何本も存在する内の一つで、勇者は僕一人だけと言うわけではない。


そして、それぞれの《勇者の剣》は色も形もバラバラだ。名前に”剣”って付いてるのに、ほとんどが剣じゃなかったりする。


それは兎も角、僕は、倒れ伏しても尚、僕に何かを言っている魔王へ無慈悲にトドメを刺す。


これで、僕はーー。



ーーー



僕を召喚した国。王国。


でもまあ、僕を召喚した事すら国は知らないだろう。王ですら知らないと思う。

知ってるのは、召喚の儀を失敗した姫様ぐらいだ。


僕はそこに帰った。


でもね、知ってるんだ。僕を迎えてくれる人なんて一人もいないって事を。


僕を呼び出した姫様は、僕を城から追い出して召喚の儀を無かったことにした。

僕の居場所なんてどこにもなかった。


どうして僕がそんな場所に帰らなければならないか。


そんなのは、とうの昔から決まってる。

魔王を倒した事を報告して、元の世界に返してもらう為だ。


元いた世界に帰れる保証はない。

そんな事、分かってる。


けれど、唯一の希望は姫様しか居ないんだ。


帰る方法を模索したけど、全く見つからなかった。だから、最後の手段として、魔王を倒し、姫様に、ついては国王に頼み込む。


それしか方法が思いつかない。


その為に、僕は歩いて王国の王都へと向かう。

徒歩の理由は、単に、馬車に乗りたくなかったから。


もし、馬車に乗ったとしても、お金だけ盗られて途中で降ろされるのは目に見えている。

酷い場合だと、攻撃されかねない。


だから僕は来た道を戻るかのように歩く。


極寒の凍土を、灼熱の砂漠を、永劫の森を、絶望の海を、迷いの樹海を、制裁の火山を、破滅の川を、厄災の谷を、至高の霊峰を、悲哀の森を、断絶の山を、憤怒の滝を、歓喜の草原を、希望の洞窟をーー。


そんな過酷な道を選んだ理由は、何があっても誰も通らない道だから。


無駄な殺生をしなくて済む。


もう、殺しはゴメンだ。


そんな僕の気持ちを汲むかのように、魔物達は僕に怯えて近付かない。

なにせ、僕は彼等の親玉を殺した存在だ。彼等とて、そんな存在に近付きたくない筈だ。


だから、僕も襲い掛かってくる魔物は別として、僕に背を向ける魔物を見かけても見て見ぬ振りをする。


それの方が、彼等にとっても都合が良い筈だ。

僕にとっても、ね。


希望の洞窟を通ると、王国の隣にある教国に抜ける事ができる。

それでも、僕は遠回りをする。


王国から離れてしまうけど、教国から帝国に。そして、東の最果てにある獣国へ。

そこから、”オオガマ”と呼ばれる大きな川を数日間泳いで王国の西にある多数の国が集う共和国に移動して、”深淵の遺跡”と呼ばれる古代遺跡に入る。


深淵の遺跡の中は迷路になっており、色々な仕掛けがあって、通れる道を模索しなければならない。

けれど、僕はここで一年も過ごした。


そんな僕だからこそ、この遺跡の全ては把握済みで、簡単にもう一つの出入り口へと向かえる。


王国の端っこにある”英雄の墓場”と呼ばれる墓地に。


遺跡の出入り口は、墓場の中の一つ。”ネセサリア”の名が彫られた墓石を動かすとある。

その隣に、底すら見えない穴があるけど、当初は塞がっていた。実は、僕が落ちた穴だったりする。


この世界に召喚されたばかりで何も知らない、教えられてない無知な僕が落とされた穴だ。


思えば、それが魔王を倒すと決意した全ての始まりなのかもしれない。


今になっては、どうでも良い事だけど。


もう着く。後少しで、僕は帰れる…。



〜〜〜



一年も掛けて、ようやく王都に辿り着いた。

だが、王都の様子が少しおかしい。


ワァーッワァーッと何やら騒がしいのだ。


何かお祭りでもしているのだろうか?

そう思いつつも、門番に顔を隠しながら門を潜って、僕は唖然とした。


あの冷たかった人達が、この僕を出迎えてくれたのだ。

そこら中の店舗には『魔王討伐記念』と書かれた看板が掛けてあり、あちこちで、『勇者様!』と謳われている。


それを見て、僕は感激と感動で涙した。


「邪魔だ。退け」


「…へ?」


ドンッと背後から何者かに押されて、転けてしまった。

よくある事だ。


でも、そんな事に気を取られてはいけない。

今は皆んなの期待に応えなけれ……ば?


「キャーー、勇者様ぁ!!」

「あっ!勇者様が私を見て笑ってくれた!」

「違うわよ!私よ!私に微笑み掛けてくれたのよ!」


「ああ、ありがたやありがたや」

「おばあちゃん。勇者様って神様なの?」

「それに近いものかねぇ〜」


「おうっ!勇者様さんよっ!良くやってくれたぜ!」

「俺達、冒険者揃って歓迎するぞ!」

「流石、勇者様だな!」


「兄ちゃん、兄ちゃん。僕ね、大きくなったら勇者様みたいになりたい!」

「俺もだ!俺も勇者になる!」

「じゃあ、一緒に勇者様になろうよ!」


彼等の声援が向けられている先は、僕じゃなかった。

僕を突き飛ばした、金髪の男だった。

その側には、僕には居ない仲間がいる。

正直、羨ましい。けれど、今はそれどころじゃない。


だって、僕が魔王を倒したんだもん。


なんで?


なんで僕が倒したのに、手柄を横取りされてるの?


僕が魔王を倒したんだよ?


元の世界に帰る為に頑張って倒したんだよ?


なんでなの?


なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでーーー。


「はぁ…」


もう良いや。

人間も、魔物も、何もかも全て、この手でコローー。


「キャッ」


誰かが僕にぶつかった。

だけど、僕は転けなかった。ぶつかった相手が転けた。


振り返ってみると、みすぼらしい女の子が、ぶつかった拍子に散らばってしまった硬貨を必死に掻き集めていた。


ふと、手が止まり、僕の爪先(つまさき)からゆっくりと視線が向けられる。

そして、僕の顔を見ると同時に、酷く怯えた。


僕の顔は、人に怯えられる程に凶悪じゃない筈だ。それどころか、他人に舐められるような軟弱な顔をしていると思う。


にも関わらず、彼女は僕に怯えた。

まるで、凶悪な魔物を目の前にしたかのような、そんな感じで。


「はぁ…」


なんだか、毒気が抜けた。

今までの気持ちはなんだったのかって、思ってしまった。


殺しは沢山だと、もうしないと誓った筈だったしね…。


だから、僕は彼女の小銭集めを手伝ってあげた。


集め終えた硬貨を彼女の手に握らせると、彼女は金髪の男の元へと僕から逃げるように駆けて行った。


どれだけ貧困でも、勇者には憧れるんだろう。


遠ざかって行く彼女の背を見て思った。

金髪の男の元に辿り着いた女の子は何やら会話し始めている。


それを横目に、この場を立ち去ろうと足を門へと向ける。


「金だぁ?良いぜ、くれてやるよ」


金髪の声と共に、ゴスッと何かを殴る音が背後から聞こえた。


なんだと思って、ゆっくりと振り返ってみると、金髪の男が地面に倒れている先程の女の子を蹴っていた。


なんて薄汚い世界なのだろう。


周りの人間は止めようとしない。それどころか、笑いながら(はや)し立てている。


それ以上続けると彼女が死んでしまう。なのに、金髪の男は止めようとしない。

より苛烈になる。


僕なら助けてあげられる。

だけど、助けてあげる義理はない。

今の今まで僕を助けてくれた人なんて、誰も居なかったから当然だ。


だが、僕が助けなければ彼女は死んでしまうだろう。

別に、人が何人死のうと僕には関係のない事。僕には害しか与えない人間なんて全滅しても良いぐらいだ。


でも…でもね。

今、彼女を助けなければ僕は周りの冷酷な人間と同類と言う事になってしまう。


それは嫌だ。


絶対に嫌だ。


だから、僕は彼女を助ける事にした。


「退けよ」


「退かない」


僕は、金髪の前に立って女の子への攻撃を阻んだ。


「おいっ!クソガキ!邪魔だ!」

「そうだぞ!勇者様の邪魔をするなっ!」


この世界の人間は腐ってる。

いっそ皆殺しにしてやりたい気持ちが胸の奥から湧いてくる。


けれど、もう殺しは懲り懲りなんだ。


『黙れ』


僕が一言吐けば、野次を飛ばしてくる邪魔な人間は黙り込んだ。


そう仕向けた。


僕が使ったのは、旅の途中で自力で得た”魔言”って言うスキル。


本来は、王様とかの発言力のある人達が扇動したりするのに使うスキルだけど、僕の場合は、僕よりも弱い魔物を寄せ付けない為に使っていた。


要するに、黙り込んだ人達は僕よりも圧倒的に弱い。


「勇者の俺様に楯突くなんて良い度胸だなぁ。おいっ」


一瞬だけ怯えを見せた金髪は側に居る仲間に呼び掛けると、ヒョロリとした男が僕の背後に回って短剣を首筋にーー。


「ガッ」


軽く殴ってやった。


見事な放物線を描いて野次馬達の中に墜落した。

力を極限まで弱めてるから死んではいないだろう。これで死んでいたら、余りにもひ弱すぎる。


「オラァ!」


余所見をしている隙だらけの僕に大柄な男が拳を振り翳してきた。

だから、僕は視線を戻してから、その拳を掴んで、


「ギャアァァァァァ!俺のっ!俺の手がぁぁ!!」


握り潰してやった。


まるで、豆腐でも潰すかのような感触だった。


「『絶望の嘆きを聴け。”ナイトメア”』


金髪の背後で魔法使いの女が詠唱していたから、僕はそれよりも素早い詠唱で眠らせてやった。オマケで巨漢の男も眠らせたし、悪夢も付けてやった。


残るは、


「お、お前なんだよっ!?」


明らかに怯えを晒す金髪だけだ。


「僕は…」


勇者だと言っていいのかな?

ついでとは言え、こんな奴らの為に死ぬ気戦った勇者だと…。


嫌だ。


心の底から嫌悪感が湧き上がる。


僕は人間等に何をされたかを未だに覚えている。

覚えているからこそ、人間等に歓迎されるのは御免だ。


さっきは不覚をとったけど、もう迷わない。


もう勘違いなんてしないし、希望すら持たない。


だって、僕は嫌われ者なんだもん。


「僕は通りすがりの正義の味方だよ」


そう言って、金髪の顔を軽く殴ってノックアウトしてやった。


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