北海道オフ
次の日、朝の5時に起きた。
こんな早く起きて帰りの車で居眠りを起こさないかと、
心配ではあったが、そんなことを言ってる場合ではない。
急いで着替え、支度をするとまだ時間は5時50分だった。
そのまま車を飛ばし、札幌に着いたのは8時前だった
考えてみればこんな早い時間に高速が渋滞する訳がない。
が、街中に入るとかなりのラッシュで
ヤスのホテルに着くまでに軽く1時間かかった。
思っていた通りの時間になり、ホテルの前で電話をした。
「着いたよ」今になってちょっと緊張してきた。
「ふぁ〜。寝てた。部屋にあがってきて」
寝ぼけた声でヤスが電話に出た。
「えー。待ってるから用意して降りてきてよ」
「だってかなり時間かかるし、それに俺、
別に用事ないからお前が帰った後また寝るし」
どう考えても急いで用意をするようには思えない気だるさだった。
仕方ないので、ホテルの駐車場に車を停めフロントで
ヤスの部屋番号を聞きエレベーターに乗った。
ヤスにどう思われてもいいとは言ったが、やはりちょっとは不安だった。
でも所詮「不細工なヤンキー」と思われているなら、
そんなに不安になる必要もないか!
そう自分を説得して、ヤスの部屋のドアのノックした。
中からは180cm以上のスラリとしたヤスが出てきた。
上から下までジロ〜と見た後にヤスは、
「うわぉ。なんかイメージと全然違った・・・ オネィ系だったとは!」
そう言って部屋に入れてくれた。
「なにそれ?てゆうか、部屋汚い・・・」
服は脱ぎっぱなしだし、部屋中に煙草の臭いが充満していた。
服を踏まないように部屋に入り、ソファーに座ろうとすると
「へぇ〜。リオ背でかいな。何センチ?」と人の頭の上に
手をかざして自分との背を比べた。
「え?165だけど?そんなにでかい?」
「うん。いままでの女のメンバーの中では一番だな」
「ふーん。ま、いいやどーも、不細工なヤンキーです。はじめまして」
「いや。まぁまぁってとこだな」
ニッコリと笑いながら、それでいてさほど褒めないとこがやっぱりヤスだと思った。
まぁまぁって。
お前は何様だ。
「あんまり自分のこと卑下するから、こりゃよっぽど酷いと思ったのに、
普通っていうか、どっちかと言えば色っぽいほうじゃん」
とりあえずは安心した。
目があった瞬間に部屋の戸でも閉められたらとか、
ちょっと考えなかった訳でも無かった。
そんなに酷い容姿だとは言わないが、
でもそれには過去にちょっとした出来事があり
それ以来、あたしは自分の容姿には自信が無いだけで、
人からすればきっと普通なんだろなとはなんとなく思っていた。
いきなりヤスは携帯を取り出し
カシャッ!と写メールであたしを撮影した。
「ちょっと!なにしてんの?」
「え?ちょっと頼まれて。へへ」
「誰に?ってゆうか削除してよ!どこに送る気なのよ!!」
「え?カオルに」
それがなにか?と言わんばかりの顔で言われた。
「はぁ?なにそれ?勝手にそんなことしないでよー」
その態度にちょっとムカついた。
「いいじゃん。やっぱカオルはタイプだったろ?」
完璧にタイプだと信じて疑わない風だった。
あたしはその問いに答えないでヤスの隣に行き、
携帯を奪って撮影された写真を見た。目が半目になっていた。
よかった・・・・事前に止めることができて。
どーせ送るならもっとあるだろ?半目はないだろ。半目は!
ボタンを押して削除した。
「あーぁ。俺カオルに送るって言っちゃったのになー」
残念そうに、でも申し訳無いなんて顔は一切無しでヤスが言った。
「なんでそんなにカオルがタイプって思うわけ?
違うかもしれないじゃない!」強気で言ってみた。
「いや。リオの好きな芸能人とかのタイプからして
カオルは間違い無いと思ったんだよなー
でさ、カオルにそのこと伝えて「絶対リオはお前に惚れてる!」
とか言ったらあいつスッカリノリ気でさ。
で、、、俺がホテルで先に逢うって言ったら携帯で写真送れって言われてさ」
きっと昨日の電話の後にでもわざわざカオルに電話したのだろう。
こっそり写真を要求するカオルにもちょっと腹がたった。
「で。相談って?」憮然とした顔で煙草に火をつけヤスに聞いた。
「いや、例の話なんだけどさ。だんだんキツイ展開になっててさ」
「どんな?」
「レナが俺の家に来るっていいだしてさ」
「まじで?」
「あぁ。家はバラしたくねーじゃん。
所詮人妻だぜ?遊ぶならいいけど普通来るか?福岡から」
「こない・・・かな?」
「だろ?あいつヤバいよ。絶対」
「うーん。どうしようねぇ」
「で、思いついたんだけどよ。
この札幌オフでなにげに俺とリオが付き合ったことにしたら
うまく回避できんじゃないかと思ってよ」
「えー。あたしー?それは嫌」
「どーせ嘘なんだからいいじゃん」
「だってあたし小芝居できないもん。
部屋でもそんな風なニュアンスとかしなきゃならないんでしょ?
それは無理。絶対無理」
「いや、きっとそうなったらアイツはこないと思ってるんだけど」
「あまい。あまいよ君」
「やっぱそうか?」
「ん。ヤスが駄目ならきっとカオルに行くね。
次のターゲットはカオルだよ」
「まじかよ〜」
「うん。カオルのこともかっこいいって言ってたもん。
ヤスが被害にあうのはいいけど個人的にカオルは可哀想」
「なんだよソレ!」
それは冗談としても、そんなことでレナはおとなしくはならないだろう。
彼女の頭の中では誰かしらに「好き」と言ってほしい気持ちで
いっぱいだから次々と犠牲者はでてくる。
いっそのこと誰かが直接本人に言わないと、
これはレナがチャットをしている間はずーと続くだろう。
「ここは部屋主なんだからヤスが言えば?」
「うーん。俺か〜」
「それかみんなの前でレナに言うか」
「それも俺の役目?」
「うん。だって今のターゲットはヤスだし」
「はぁ・・・・」
元気の無い声でそう答えるとヤスは放心状態のような顔をして
煙草に火をつけた。
その後もヤンヤと議論したが、結局はヤスが直接レナに
俺はそんな気は無い!今後部屋でのそんな行為は禁止!
嫌なら自分で部屋を出せ!!ただし相思相愛ならよし!
と、いうこと決まった。
ちょっと可哀想な気もするが、
彼女の妄想に付き合わされるのはほとほと疲れたようで、
ここらで開放されたいとのことだった。
時間はまだ10時すぎだったので、
ルームサービスで軽く朝食をオゴってもらい
今日のオフ会の話などをし、12時ちょっと前に部屋をでた。
初めて文字の人に実際会った訳だが、会話に困ることもなく
普通の友人に久しぶりに会ったくらいの気持ちしか無かった。
こんなもんなんだ・・・ちょっと意外だったな。
一緒にロビーまで降りていき、
「じゃあ、あたしミライと約束してるから、また夜にね」
「おお。分った。悪かったな朝早くに」
「ううん。どんだけイケメンなのか見たかったしねー」
「お!会って印象変わった?」
「いーや、思ってた通りにグータラな人だった」
「なんだそれ・・・・」
タイプうんぬんよりも、ヤスとはいい友達になれる気がした。
だいたい初めて逢う人の泊まっているホテルに気軽に行くのも
普通ではありえない。
ましてやいきなり部屋に行くなんて身の危険を
感じてもおかしくない行動だが
なんとなくヤスの人柄からして絶対安心だと思っていた。
その通りになにひとつ怪しい雰囲気にもならず
昔からの知り合いのように会話もスムーズに進み、
「そんじゃ。またあとで」みたいな流れで別れた。
ヤスの泊まるホテルに車を停め、ミライとの待ち合わせ場所に向かった。
まるまる一日停めるとなると駐車場の料金がかなりかかるだろ?
ということでヤスがホテルの人にうまく話しをしてくれた。
1時少し前になり、待ち合わせ場所で座っていると後ろから
「あの・・・リオ?」と声をかけられた。
振り返って見ると、とても可愛い女の人がこっちを見ていた。
「もしかしてミライ?」
「そう!わー!リオだー!はじめましてー」
全然太ってねーじゃん!やっぱ女の
「私太ってるのは」は嘘だなと実感した。
太ってるどころか、きっと部屋で一番可愛いかもしれない。
ここでもやはり昔からの友人に会ったような感覚で普通に会話は弾み
そのまま食事をして買い物に行った。
「何時に着いた?」
「ん。7時。ここに来る前にヤスに会ったから」
「えー?なんで?」
「ほら。例のレナの件でさ。相談されたから」
「へぇ〜〜〜〜〜〜 そんな長い時間?ふっふっふ」
「絶対ありえない。ヤスはタイプじゃないから」
「そうなの?ヤスかっこいいのに〜」
「んー。あたしってイケメン苦手だから」
「そうなんだー。もったいなーい」
もったいないとかの以前に、お互いタイプじゃないんだってば。
あっちこっちを見てまわり、時間はすっかり夕方になっていた。
そろそろ指定の場所に向かったほうがいいねということになり二人で
みんなとの待ち合わせ場所に行った。
わかりやすいようにファーストフード店での待ち合わせだったが、
朝に見ているのでヤスの姿ですぐにどの集まりがそうなのか分かった。
「おまたせー」二人で並んで挨拶をした。
「お。リオと、、、ミライ?」ヤスがミライを見て言った。
明らかに目の輝きが違う。あたしの時とはえらい違いだ。
「そっか!そっか!よーし札幌オフは気合が入ってきたぞぉー!」
無駄に大きな声を出し、ヤスのテンションが上がった。
ヤスの他に二人男の人がいた。
「あ。こんばんは〜 はじめましてリオです。
いつもお世話になってまぁーす」
一応、可愛いふりして挨拶を。あまり可愛くなかったが。
「あ。どもども。ハヤです。こっちはタツヤ」愛想良く、ハヤが
笑顔で挨拶をした。
「どーも」と人見知りな感じのタツヤも頭を下げた。
「あと一人・・・ガオがまだなんだね」空いている椅子を見て
ミライが言った。
「そうだねぇ・・・・もう少し待ってみようか」
そう言ってあたし達も席についた。
そのままガオ待ちで5人でコーヒーを飲み雑談をした。
なんとなく、札幌オフの面子はレベルが高い。かな〜り高い!
いままでの福岡オフや関東オフと違って、
モデルっぽい男の子が多いのに驚き。
ミライが耳打ちしてきて
「ちょっと・・・・ハヤもタツヤもかっこいいね。
もっとこうなんていうの、、ヲタクっぽいかと」
「だよねぇ・・・・ネットとする男の人ってそんなのが
多いと思ってたけど北は違うのかな?」
「こりゃ、、、またレナが騒ぐね」
「まったくだね」
そう言いながら二人で笑った。
いくら待ってもガオがこないのでヤスが電話した所、
仕事が長引き遅れてくるようだった。
「んじゃ、みんなで先に行ってるから終わったら
居酒屋にまっすぐなー」
そう言って、ヤスがガオとの電話を終え、
みんなは目的の場所に向かって出発した。
5月だというのに札幌の夜は寒く、
凍えそうな寒さの中なんとか居酒屋に着いた。
ガオを待つにしても、いったい何時にくるのか分からないので先に軽く
乾杯をしどんどんと食事をすすめ、その場は盛り上がっていった。
タツヤもハヤも今風なかっこいい子だった。
話をするととても面白くミライが不思議そうに、
「ねぇねぇ。なんでタツヤもハヤもそんなにかっこいいのに、
ネットとかしてんの?」
と二人に聞いていた。
そんなこと言ったら、世の中のネットしている男性陣を
敵に回す勢いな質問だなと思った・・・・・
「えー?そうかな。でも俺の友達なんか、
俺なんかよりもっといい男ばっかだぜ」
ハヤがなんで?という顔をして言った。
「そうそう。俺なんか全然モテないしネトゲとかばっかやってる」
少し馴れてきたタツヤも当たり前な顔をして言った。
そう言われれば、うちの部屋の男の子達は
みんなPCにはあまり詳しくない人が多く、
大体がネトゲをやりたいが為にPCを買った人が多かったみたいだし。
ネトゲだけでは無いのであろうが、
そこはあまり聞かないでおいてあげよう。
みんなゲームの延長みたいな感覚でPCを始めた人が多いから
思ったよりも普通っぽい人が多いのかもしれない。
ゲームをしない男の子のほうが今では珍しいほうだし。
ここのメンバーならばヤスも普通に見えるくらいのレベルだった。
「でさ。ヤス最近はどうよ?まだ攻撃されてんの?」
タツヤが興味深げに聞いてきた。
「あぁ・・でも一応さ、はっきり言おうと思ってさ。
さすがに迷惑の域も越えてきたしさ」
ヤスがまいったよという顔をしながら言った。
「大変だよな〜」ハヤとタツヤが大笑いした。
ミライと二人でクスクス笑いながら、
「呑気なこと言ってる場合じゃないかもよ〜」と話の間に入っていった。
「ハヤもタツヤもヤスに負けないくらいかっこいいし、
ヤスが駄目ならどっちかに矛先が向く可能性は十分ありだと思うよ〜〜」
そう言うと二人で顔を見合わせて「どーぞ。お任せします」
「いえいえそちらに」などと譲り合いをしていた。
きっとケイタ事件が明るみにでなければ、
レナもそれほど敬遠されることもなかったのに。
実際あの日、レナに噛み付いたメンバーがここにいる訳で。
今だにレナはあの日、「お前はどーなんだよ!」
と言われたことを根にもっている。
あれ以来、ハヤ、タツヤ、ガオの北海道メンバーの男性陣には挨拶も
かなり微妙な感じだし。
でももしこれで、このイケメンメンバーをみて態度がコロリと
変わったらきっとあたしはレナを尊敬するかもしれない。
「あんた・・・すごいね」と違う意味で・・・
間がいいところにガオが来た。
仕事疲れでできたクマが目の下にがっちりとつき、挨拶もそこそこに
「あ〜〜〜〜〜。疲れた〜〜〜」と座りこみ、普通の顔をして飲み始めた。
男性陣はそれなりに個人的に連絡をとっているようで、
初めて会ったにもかかわらず話題がスイスイと流れ、
普通の友達のように盛り上がっていた。
オフ会ってこんな感じなんだ・・・・・
もっと緊張してみんな無口でとか思ったけど、
なんか会社の忘年会のような感じだった。
滅多に会わない部署の人と合同で飲む時のようなノリがあった。
居酒屋でお腹いっぱい食べ、二次会と称し次は
カラオケに行くことになった。
男性陣はかなり飲みまくっていたので、
どんな歌が入ろうともテンションが高く静かな歌でも踊りだし、
4人全員が尾崎豊が好きだといい
延々と尾崎メドレーを聞かされるはめになった。
ミライとちょっとひき気味にビールを飲みながら観察をしていた。
しばらくしてみんなバイクを盗んで走りすぎたのか
グッタリと大人しくなった頃に
あたしとミライはマイクを占領して二人で歌っていた。
そのうちタツヤの酔いが醒めてきたのか、こっちのグループに入り
そこからは3人でマイクをまわし順番に「自分の18番を歌おう!」みたいなノリになった。
それから1時間後、寝ていた人達も少しずつ動きだし、
酔いも醒めた人がチラホラと出てきてそろそろおひらきの空気が漂った。
最後まで寝ていたヤスを起こし、
カラオケ屋を後にして解散をしようとしたら
「せっかくだからラーメン食おう!」ということになり、
あんなに食べたにもかかわらずまたラーメンを食べ、
ついでにラーメン屋のオジさんに全員の記念写真をお願いして
無事に札幌オフは終わった。
みんなそれぞれ「またねー」と挨拶をかわし、
ヤスとミライの三人でホテルまでタクシーで移動し、私の車に
ミライを乗せてヤスにお別れを言い車を発進した。。
「結構楽しかったね」とても楽しそうにミライが言った。
「ねー。またリオが札幌きた時にこっちのメンバーだけでも
いいから集まろうか?」
「いいねー。一回会ってしまえば、もう怖いもんないもんねー」
そうしてミライを家に送り、あたしはまた長い時間をかけ自宅に帰った。
時間は夜中の3時を過ぎていた。
今度こんな飲み会があるならば、ミライの家に泊めてもらおう。
毎回3時はきつすぎる。
化粧を落とすのも適当に、眠りに負けそのままベットに入った。
そういえば他の地方のメンバーに電話するの忘れてたなぁ・・・
ま、いっか。
3回目にもなれば、そんなに盛り上がるテンションでもないしね。
今日の報告は明日の夜にでもすればいいや。
眠くて頭の中の思考回路がまわらない・・・・
たぶんベットに入って3分かからずに眠りについた。
そんな感じで北海道オフは終わった。