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関東オフ

ヤスの「レナストーカ疑惑」は相変わらず続いているようだった。

だんだんレナがいない時のチャットの部屋では、

ヤスがみんなに愚痴をこぼすくらいにヤスを追い詰めていた。

中には笑うものもいたが、大半はレナに対して非難の目で見ていた。


その半分は女性なんだが・・・

非難なんだか、ヤキモチなんだが微妙だが、

そこはそれ以上に追求はしなかった。


その週の週末、ヤスは東京に仕事で行くことになり

関東オフが開かれることになった。

福岡オフの後に部屋に新入りで入ってきた「マサ」

もギリギリ参加することになり、

総勢11人の関東オフの話は多いに盛り上がっていた。


オフ会当日。

チャットルームは淋しいくらいに人が少なかった。

やはり11人もいないとなると、スカスカした状態だ。

レナは相変わらず、ヤスの話で一人で盛り上がり、

テンションが上がりすぎたのか、

あんなに騒いでいたケイタのことを話はじめた。



<レナ>「うち、この前までケイタのこと好きやってんけど写真見たら

     猿みたいやってん。驚いたわー やっぱヤスが一番やねー」



この文字を見てから、部屋の雰囲気がガラリと変わった。

チャットに参加している、男性陣が一斉にレナに対して文句を言い出した。

言われても仕方ないなとは思うが、てゆうか出すなよ。そんなこと。



<マック> 「レナ、それは言いすぎだろ」


<ケイ> 「だよな。お前だってそんなに容姿に自信あんのかよ?」


<ハヤ> 「写真見る限りじゃな〜 人のこと言える身分じゃねーぞ?」


<タツヤ> 「そうそう。ヤスのことだってしつこくね?」


<レナ> 「なんやねん!あんたらだって人のこと言える容姿なんか?」


<マック> 「そうじゃないかもしれないけどいない人の悪口はやめろよ」


<ガオ> 「たしかにな」



打つ手も止まり、どうしようと思いながらも、

ただただ画面を見ることしかできなかった。

他の女性陣は誰もかばうこともせず、画面を見ているようだった。


きっと「ざまーみろ」くらい思いながら見ているのかもしれない。

たしかに言いすぎだとは思うけど、こんな風に吊るし上げもちょっとなと。

このままただ画面を見ているだけって訳にはいかないので、



<リオ> 「まぁまぁ。レナも言いすぎ。男性陣もそのくらいでいいでしょ?

     はい。この話はこれで終わり。空気悪くなりすぎ」



うわー。あたし頑張った!偉い!

よくこの淀んだ空気の中に入っていった!

すると、いきなりレナから電話がきた。


かなり出るのを躊躇したが、無視はできない。

たった今、PCの前にいることがバレている以上、出ない訳にはいかない。




「もしもし」恐る恐る電話に出た。


「ちょっと!なんやねん!こいつらー!腹たつわー」

相当腹がたったのかレナの声はいつもより大きかった。


「いや、やっぱさ人の容姿の悪口はマズいよ。いくら猿でもさー」

宥めるように言ってはみたが、全然効果は無かった。


「だって猿は猿やで?今日の写真見たらリオだって納得するわ!絶対!」


「納得しようがしまいが、いいの。ヤスがイケメンてだけで

 男性陣が凹んでる空気がわからないの?駄目だって、そんなこと言ったら」


「そんなん知るか!うちは不細工嫌いやねん!」興奮したように

レナはそう言い放つとブツブツと画面を見ながらまだ文句を

言いたいだけ言っていた。



お前はどうなんだと。

お世辞でもお前も綺麗ではないんだぞと。

だから言われているんだぞと。


さすがにそれはレナに言えなかった。

なんとかレナをなだめ、空気の悪いチャットルームに戻った。

ちょうどマックに関東オフから電話がきていて、

少しだけ場が盛り上がっていたが、

自分の容姿のことを言われたレナはそそくさと落ちていった。

きっとヤスがいないからもあるだろうけど。


その後、みんなに電話が来たが、

いまひとつさっきのことがあり前ほど盛り上がらなかった。


あたしの所に電話が来た時、ちょうどヤスに電話を変わり、

少しだけさっきのことを伝えた。

「飲み会終わったら電話する」とヤスが言ったのを周りが聞きつけ、

違う意味で大騒ぎになっていたが、

面倒臭いのでそれ以上は説明をしないで電話を切った。


その後、チャットルームでは

レナの態度について男性陣が意見をしていた。

みんなレナの写真を見て、それほどの美人ではないのに文句が多すぎるとか

あいつ結婚してるのにどうかしてる!など好き勝手に言っていた。


中には女性メンバーも同意している人もいたが、

なんとなくその話に入る気分では無く、適当に話を交わし先に落ちた。


やはり前とはなにかが変わってきた。

いっそのことオフ会なんかしないほうが、

みんなの均整がとれていたんじゃないだろうか?

あたしは文字以上のことはなにも期待していなかったし、

それ以上の関係を求めることはリアルな付き合いになると思った。


リアルで人に言葉を伝えコメントをもらうのであれば、

わざわざネットなんかしなくても

そこらの友達で十分事が足りるのではないか?


実際会うということは、良いことでもアリ悪いことでもアル。

写真というのも、それはそれで問題を起こすものなんだと思った。



その日の1時を過ぎた頃、ヤスから電話がきた。

チャット部屋の話をそこそこに。

今日の飲み会ではケイタがレナとの恋の行方を語り、

写真交換をしてからの自分の気持ちをみんなに面白おかしく話たそうだ。

みんなワイワイと盛り上がり、その話を聞き好き勝手に意見を交わし、

たいそう楽しいオフ会だったとのことだった。

けど、確実にみんなの頭の中にレナという問題人物が

インプットされたと思う。


これでレナが美人であったらならば、またこの話も変わってくるであろう。

けど、そうじゃなかった為に笑いの話のネタにされて、

場を盛り上げるのに役に立ったらしい。

なんだか、イジメのような気がしてきた。

あたしは心から素直にその話を聞いても笑えなかった。

確かに、あたしが見たレナの写真は、想像していたより遥かに違った。

けど、それを笑いのネタにする気にはなれない。


今ひとつノレていないあたしを感じたヤスに、

「レナが可哀想とか思ってる?」

と聞かれた。可哀想とはちょっと違うが、

でも人の悪口はあまり好きではない。良い子ぶる訳では無いが

昔から人の悪口をみんなで言い合うというのは好きではなかった。

特に自分がそれほど嫌っていない人物であればなおさらだ。


確かに腹は立ったが、嫌いまではいかない。

そうヤスに伝えると、そうだよな・・・みたいなことを返してきた。


そんなに思ってもいなさそだったが、

なんとなくそれ以上は会話が続かなくなっていた。

話の最後にヤスはポツリと


「リオ、一重好きって言ってたよな?

 HPに写真アップするまで3日くらい 

 かかるけどカオル・・・・たぶんタイプだと思うぞ」


そう言って電話は終わった。


なんだかどうでもいいと感じた。

カオルったって東京在住だし。遠距離なんてできないから。

とかいいながら、ちょっとだけ楽しみにしてたりもした。

一重って言ってもいろいろあるんだけどなぁ・・・

そんなことを思いながらも、なにげに写真のアップが楽しみだった。


ちょっとだけ元気が出てきたので、そのままの状態で寝ることにした。




そして、この後予定されている北海道オフが元で、

あたしのチャット生活に異変が起きるとは

この時点では思いもしなかった。



3日後、予定とおりにHPには関東オフの写真がアップされた。


なるほど・・・カオルはタイプの外見だった。

目が一重というか、目が細い人がタイプなので、なかなか素敵に見えた。

目が細い上に体の線まで細い。

あたしは弱々しいタイプが大好きなので、

きっと関東に住んでいたならば

個人的にカオルになんらかの行動をしたかもしれないな・・・

と、うっすらレナ感覚になった。


けど、その行動はなにもしないけど。

ま、目の保養程度の感覚で収めた。


ヒデは自分で言っていたように体が大きく、筋肉質だった。

筋肉を見せ付けるにいいだけ見せつけた服を着ていて、

ちょっと笑ってしまった。


「体で勝負って感じだなぁ・・・」


サクラはチャットで会話している雰囲気よりも派手に見えた。

たぶん気合を入れて化粧をしすぎたのかもしれない

けど、十分可愛いという範囲に入る感じだった。


ラビはとても背が小さく、それだけで可愛い感じがした。

どの写真にもピースをして、ニコニコしている。

ラビの名前とおりに前歯がヒョコと覗いて、子供っぽくて可愛い。


夫婦で参加したジィとバァ。ムゥとノンは思っていた感じの

落ち着いた人たちだった。

まだ歳は30歳だったが、やはり結婚してると思うだけで

落ち着いた雰囲気がする。


そして、いまいち馴染みが薄い「マサ」はイメージをするしないの前に

あたしは一度しか彼と話をしたことが無かったので、

軽くスルーした。


「ふーん。こんな感じの人ね。。

 でも部屋に入ってすぐにオフ会に参加なんて

 そうとうチャットに馴れてる人なんだな」


それくらいの印象しか無かった。


その日の夜は、またみんなでワイワイとチャット部屋は賑わっていた。

残るは北海道オフの話でみんな盛り上がり、

あたしとミライの容姿についていろいろと憶測が飛び交っていた。


そんなに期待されると、どんどん行きたくなくなる。

レベルで言えば中の中だ!と何回言っても、「またまた〜〜」と

軽くかわされて、言葉に困ってきた。



<レナ> 「リオは関東オフの中にカッコいい〜って人いた?」



そう聞かれれば、いない訳でもない。

ダントツにカオルはタイプだが、そう言ってしまうと他の人たちに悪い気がして



<リオ> 「あ〜。でもみんな結構いいね」



と、無難なことを言っておいた。

すると余計なことを言う奴は必ずいるもので・・・



<ヤス> 「嘘言うなって。カオルのことタイプだろ?>リオ」



この言葉を見て、軽く動揺した。

この場合「違うって」と言えば、カオルに悪い。

「そうだね」と言えば、他の人に悪い気がする。



「(笑)」とだけだした。

なんとも好都合にとれる文字だ。

その後もヤスにいろいろ突っ込まれたが、

シレッと話を聞かないふりをして受け流した。


最後の北海道オフは2週間後の土曜の夜。すすきのということが決まった。

あたしの住んでいる場所からは車で3時間くらい。

その日は週末なので、朝早くに家を出てミライを迎えにいき

先に二人で買い物をしようということになった。

ミライとは歳も近いことと同じ地域ということで、

部屋の中でも仲良しのほうだった。


オフ会の前日。

ミライから電話がきた。


「明日だね。なんかドキドキするねー」

嬉しそうにミライが言った。


「そうだねー。なんか関東の女性陣が可愛いから

 変に期待されると困るよね」あたしは正直な気持ちを言った。


「だよねー。私なんか全然太ってるし、いやだな〜。

 リオ私のこと見てデブだと思ってもいきなりシカトとかしないでねー」


「そんな訳ないじゃん!」


そんな明日のことをダラダラと話、時間と場所を決めて電話を切った。


ミライ・・・・そんなに太ってるんだ。


頭の中にレナが浮かんだが、たとえどんな容姿であっても

友達でいれる自信があった。ミライはいつも控えめで良い子だったし。

なんとなく、普段の友達作りもちょっとは見た目で決めている所が

あったかもしれない。

個人的にはあまりにも太っている人は意思が弱いイメージがあるのと、

暗いイメージがあり勝手に太った人を避けていたかもしれない。

自分ももう大人だし、そんな理由でせっかくの友達を

失うことはしないでおこう。


まだ見ていないミライを恐ろしく太った人と勝手に想像しながら

自分にそう言い聞かせていた。


明日は、朝早く家を出る予定だったので、

その日のチャットは参加しなかった。

前日だから参加するべきかもしれないが、

なんとなくそんな気持ちにはなれなかった。


時間が近づくにつれ自分の容姿を仲間に見られるのが

不安になっているのもあった。

たいしたことでは無いと思いつつも、

今までとみんなの対応が変わったらと小心者の自分がでて、

足踏みをしてしまう。


夜も11時をまわったくらいにヤスから電話があった。


「なんで今日はチャットしないの?」


「いや、明日オフ会の前にミライと先に会って買い物する

 予定だから早いんだよね」


「そうなんだ?何時?」


「えーと。1時くらいかな?で、昼食べて買い物して・・・・って予定」


「何時にこっちに着く?」


「12時前後?」


「もっと早くこいよ。先に俺に会えないか?」


「えー。いいよ。だってそんなことしたら朝の

 6時とかにでないと駄目じゃん」


「いいじゃん。そうしてくれよ。相談あるし」

ちょっと弱い声を出してヤスが縋るように言った。



きっと相談とはレナのことだろうけど・・・

まぁみんなの前では言えないだろうし、

あたしはオフ会が終わったらその足で帰る訳で。


仕方無いので、朝の6時には家を出て、先にヤスに会うことになった。


「前もって言っておくけど。あたしは全然綺麗じゃないからね。

 期待しないでよ」そう念を押した。


「最初から全然してないから・・・・」

トーンを上げもせず、下げもせずヤスが言った。


「だよね・・・・」


「俺の中では生意気なヤンキーにしか思ってないから大丈夫」

いくらなんでもそこにいかれるとは憤慨だ。


「ヤンキーって」


「なんとなくそんなイメージ。

 それも綺麗なヤンキーじゃなく不細工なヤンキーね」

と笑いながら言われた。悔しいけど反撃できない。


「不細工ってハッキリ言う?普通?」


「そう思ったほうが、ちょっとでも良かったら儲けもんかなと」


「あっそ・・・じゃ着いたら電話するから」


「おっけー。明日な。

 夜中は携帯の電源切ってるから朝の7時以降なら繋がるから」


「切ってるんだ・・・」


「俺もさすがに寝たいからな。あいつ夜中でもガンガンだから」


「わかった。じゃね」


そういって電話を切った。

不細工なヤンキーって。

そこまでではないと思ってはいるが、

こればかりは好みだからそう思われても仕方ないか。

別にヤスにどう思われてもいいや。


時計を見ると0時すぎていた。

全然眠くないが無理をして布団をかぶった。


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