本当の気持ち
月曜日、新しい携帯をデスクに置いたのを見て健吾が
「お?携帯変えたの?」と聞いてきた。
「うん。電源切ったままだと仕事にも支障があるでしょ?」
そう言ってそのままペンを走らせた。
「ふ〜ん・・・・最新だ・・・ 番号変わってないんだろ?」
ペンを置き、携帯を手にとり
「赤外線受信して」そう言って健吾に向けた。
「う・・・うん」そう言ってお互いのデスクの間で携帯の番号とアドレスの交換をした。
「これ、、、その、、、教えないの?」
カオルにという意味はすぐにわかった。
黙って健吾を見て頷いた。
「そっか。じゃあ俺も言わないほうがいいよな・・・
昼飯オゴれよ。俺の演技のギャラは高いからな」
そう言って(なに食おうかな〜)とわざと高いものを口にして笑った。
朝のうちに何件かの得意先にパソコンからメールで新しい番号を送った。
前の携帯は電源を入れること無く家に置いてあるままだった。
電源を入れるとなにかメッセージが入ってそうで怖いのに、解約しきれない自分がいた。
もうカオルとの線は途切れてしまったのだと自分に言い聞かせていても、
心の底で本当にそうなることが怖かった。
自分でしている行動と考えが一致していないのは分かっていたが、
解除してしまうと、最後の繋がりが本当に無くなってしまうことが
嫌でいつまでも部屋の中にポツンと電源が切れた携帯が置いてあった。
そのまま電源の入れない状態で一ヶ月が過ぎた・・・
「来月の東京なんだけどさ・・・・」健吾がちょっと気を使ったように言った。
「どうかした?」
「いや・・・俺、カオルに会うけどお前どうする?」
「あたしはいいよ。健吾行っておいで?別に気を使わなくていいから」
そう言って仕事を続けた。
内心、スケジュール表を見てあれ以来の東京出張の文字にちょっとだけ胸が痛くなった。
本当は会いたい気持ちでいっぱいだった。
そのスケジュールを見て向田さんも
「この日・・・どうするの?」と一緒にいる時になにげなく聞かれた。
「ホテルにいますよ?」
「そっか。気をつけていっておいで」それだけ言って、後はなにもその話には触れなかった。
あの日以降、週末とたまに早く終わった日はいつも隣には向田さんがいた。
まだ少しだけ敬語が抜け切れていなかったが、だんだんと慣れてきてはいた。
格好をつけてクールなフリをしていたと言う向田さんだが、
やっぱり普段は大人の男という感じがするくらいスマートな受け答えだった。
週末のたびにどこかしら二人で出かけていると、自然と会社の人に
見られることが多くなり、その噂はすぐに健吾の耳にも入ったようだった。
あたしには、
「おい。マジで付き合ってるの?ねー?」と聞くくせに
向田さんにはなんとなく聞けないようだった。
「さあね?」と笑ってハッキリしないあたしに、
「教えてくれてもよくね?」とブツブツ文句を言っていた。
会社ではちょっと席が離れてるのもあり、会話をすることは
ほとんど無く、付き合ってることを社内では確認できないような感じだった。
何事も無かったように毎日が過ぎた。
仕事も忙しい中、遣り甲斐があり向田さんともとてもうまくいっていた。
その頃にはあたしの中のカオルは少し消えかかっていた。
けど、それは嫌いになったと言うのじゃなく、
もう会えない人・・・そんな感じがした。
4月になり、雪が全部解けかかるほど暖かい日。
東京の出張の日がきた。
出張の前日、遅くまで残業をしていたのに珍しく仕事帰りの向田さんが来た。
「明日、何時?」
「えーと。7時に健吾の車で出る予定です」
「そっか。じゃあバッタリ逢うと気まずいから、もう少ししたら帰ろうかな」
そう言いながらTVを見ていた。
「直樹さんがいいなら、別にあたしはいいですよ?泊まっていっても」
<向田さん>から<直樹さん>に呼び方が少しだけ変わっていた。
でもまだ<さん>を取ることはできず、敬語も下手な外人のようにたどたどしかった。
「じゃあ泊まろうかな?」
「うん」
その夜、なにか言いたげな向田さんに、
「さっきから変な顔してどうしたんですか?」と聞くと、
「いや?別に?」と笑っていた。
その顔が東京の出張のことを聞きたがっていた。
いつもなら残業がある時はこんな風に家に突然訪ねてきたりしないのに、
きっと心配させているんだろうなと感じた。
「あたし信用無いんですね〜」
「いや?ただちょっとまゆちゃんは流されやすいからな〜て」
「そんなこと無いですよ。なら明日健吾に監視してって
言えばいいじゃないですか」
「そんな格好悪いことできないって〜」
そう言って苦笑いした。
「心配しなくてもちゃんとホテルに居ますよ」
笑顔で言うあたしの顔をチラッと見て、向田さんは少し考えたような顔をした。
「まゆちゃんさ・・・。本当はカレのこと忘れられないんじゃない?」
「えっ・・・どうして?」
「時々、すごく淋しそうな顔するからね。俺じゃ役不足?」
「そんなこと!向田さんの勝手な想像ですよ。全然そんなこと無いです」
「そっか・・・。じゃあその言葉信じるよ」
一瞬、ドキッとした。
何かの拍子に今でもフッ・・・とカオルを思い出す。
(こんな時、カオルなら・・・)
向田さんの仕草を見て、何度となくカオルを思い浮かべてしまう瞬間を
向田さんはきっと感じていたんだ。
「信じるよ」
その言葉の重みを感じながら、頭の中のカオルを少しずつ消そうと決心した。
もうこの人を悲しませちゃいけない。
あんなに苦しかった毎日から救い出してくれたのはこの人だから・・・
何も聞かずに受け入れてくれたこの人とこれからのことを考えよう。
こんなあたしを好きになってくれたんだから。
「大丈夫です。戻りは3日後ですから、その日直樹さんの家で待ってます。
掃除しておきますか?」
「うーん・・・ まかせるよ。そんなに汚れてないと思うけど。
じゃ、ご飯よろしくね。楽しみにして帰るよ」
「はい!わかりました」
やっと少しだけ安心した顔になった向田さんを見て微笑んだ。
次の日、健吾が車で迎えにきた。
いつもは車から携帯で「着いたから出てきて」と電話が入るのに、その日は違った。
「ちょ、トイレ貸して!行くの忘れた!」
トイレに入っている健吾に
「まだ少し時間あるけど・・・珈琲でも飲む?」と聞くと、
「うん。頼むよ」と声が返ってきた。
トイレは玄関の横にあり、リビングまでには別にドアがあった。
だから部屋の中はそこからは見えなかった。
まだTシャツ姿でリビングにいる向田さんは「いいの?」と聞いた。
「いいですよ?直樹さんが気まずいなら、このまま見つかる前に
すぐ行きますけど。どうします?」そう言ってニヤッと笑うと、
「マツ・・・どんなリアクションするのかちょっと楽しみ」と言って笑った。
「いやぁ・・・ヤバかった。この歳で漏らすのはちょっとな・・・」
そう言って健吾がドアを開け部屋に入ってきた。
「おはよ!マツ!」
向田さんが健吾に言うとそのまま固まって向田さんを見ていた。
「う、、うっそぉー!あの噂って本当だったんだ・・・・ て、うわー」
「口・・・開いてるよ。はい。珈琲」
甘そうな珈琲を手渡した。
「マジでぇ〜?いつから?えー うっそぉ〜 これドッキリ?」
何度もそう言いながら家を出るまで健吾は二人の顔を見ながら言っていた。
「じゃ、行って来ます。鍵よろしくね」そう言って向田さんに手を振ると
「あぁ。気をつけてね。マツ、よろしくな」と健吾に言った。
「あ・・はい。じゃ、って・・この部屋で向田さんに送られると
すっげぇ違和感あるなぁ・・・ まぁ、いいや。じゃ、行ってきま〜す」
そう言って二人で車に乗り込んだ。
車で走り出してから、健吾が
「朝からありえないものを見てしまった気がする・・・・・」と呟いていた。
「そう?だって知りたがってたじゃない。謎が解けてよかったね」
「謎って・・・ まぁ、謎だったけどさ。俺は無いと思ってたんだよなぁ〜
いつから?最近?やっぱ火の無いとこに煙はたたないんだなぁ〜」
きっと健吾の口からカオルに伝わると思った。
それが知れたら、携帯を解約しよう。
ズルいようだが、
「あんな軽い女、別れて正解だった」とカオルに思ってほしかった。
二度と思い出すことが無いくらい嫌いになってほしかった。
もう涙が出ることは無いが、
それでも思い出の品を捨てきれない自分がいた。
きっと心のどこかでまだカオルが好きでいてくれてるんじゃないかと思う自分がいた。
こんなに裏切っておきながら・・・
もう終わったことなのに・・・・
東京に着くと空港の周りには桜が咲いていた。
一足先に春なんだと感じた。
「来年は一緒に花見しような!」初めて逢った時にカオルが言った言葉がフッと頭に浮んだ。
東京にいる・・・
そう思うだけで気持ちが暗くなった。
仕事の打ち合わせをして、夕方少し前にホテルに入った。
一番最初に泊まったホテルだった。
たしかカオルの会社の近くだな・・・そう思いながらチェックインした。
部屋で荷物の整理をしていると健吾が部屋にきた。
「なぁ・・・本当に会わなくていいのか?まぁ・・もう向田さんがいるなら
会ってもどうかと思うけどよぉ・・・ 会いたくないのか?」
「いいよ。行っておいで。あたしは後から適当にそこら辺でご飯食べるし。
あんた達と食事しても話わからないもん。サッカー馬鹿の話なんか。
気にしないで行ってきて。また帰ってきてから抱きつきに来ないでよ!」
そう言って笑って送り出した。
本当は少しだけでも顔を見たいと思う自分もいた・・・・
「そっか、じゃ・・・ 明日8時な」そう言って健吾は部屋を出て行った。
時計を見ると6時半だった。
なんとなくまだお腹は減っていなく、一人でボ〜と部屋にいるのが寂しくて
普段着に着替え、ホテルの外を歩いてみた。
(この辺がカオルの会社の近くなんだなぁ・・・)
なんとなく懐かしいような気持ちになった。
少し暗くなってきたオフィス街は人もまばらだったが、
一度しか見たことのないカオルの会社は記憶には無かった。
見た時は暗かったし、それもレストランからの角度でどんなビルなのかも
やはり記憶には無かった。
それを見つけた所でどうにもならないよな・・・そう思いながら歩いた。
角を曲がり、そこに見えた風景にどことなく見たことがあるような気持ちになった。
一度だけ一緒に行ったレストランがそこにあった。
入り口の前まで歩き、なんとなく中を見ると窓際の席に見覚えのある人がいた。
目が合いそれが祐子さんだと気づいた。
ちょっと動揺しながらも会釈をして、そのまま通り過ぎようとしたが、
祐子さんは手招きをして(こっち!こっち!)と口がパクパクしていた。
そのまま無視する訳にもいかず、中に入っていった。
「ちょっとまゆちゃん!どうなってるの!」
「あ・・・えーと。出張でこの先のホテルに泊まってるんです。で、、、
食事でもと思って、ちょっと歩いていたら、祐子さんがいて・・・」
「いや、そんなこと聞いてないわよ!矢吹君のことよ!」
「あー・・・ その・・・ ダメになっちゃいました〜」
祐子さんはまだこれから残業があるから、ここで食事をしていたと言った。
どーせ一緒の席に座るならと、あたしもついでに食事をすることにした。
「矢吹くん・・・・ 暗いわよ?ここ最近」
「そうなんですか・・・」その言葉にこっちも暗くなった。
「なにがあったのか私には教えてくれる?彼の上司としてじゃなくて、
まゆちゃんの友達として。その、ちょっと歳は離れてるけど・・・
私ね、まゆちゃんとは気が合うと思ってたの。私だけかな?」
「いいえ。あたしも思ってました。祐子さんのこと大好きです。
でも、たぶんもう逢うこと無いなって思ってました。今日は会えてよかったです」
「望月が矢吹君の肩ばっかり持つのよ・・・でも私なんだか納得いかなくてね。
矢吹君がどこまで望月に、この話をしたのか知らないけど、
結構へこんでる時に二人で飲みにいって、なにかしら聞いたっぽいんだけど・・・
もうダメなの?お似合いだと思ったんだけどな〜」
「もし・・・この話を聞いても、祐子さんはカオルに対して
変に問い詰めたり、なにか言ったりしないですか?」
「そんな風に見える?」ちょっと怒ったフリをして言った。
「いえ。そうは思いません。けど、カオルが責められたりするのは・・・
あたし未だに悪いのは自分だと思ってます。だから・・・」
「いいわよ。約束する。望月にも矢吹君にも絶対言わない。
言ったら望月と結婚する!」
「じゃあ安心だ。祐子さんは簡単に結婚する人じゃないもん」
そう言って二人で笑った。
そして今までのことを祐子さんに話した。
祐子さんは話の腰を折る事無く最後まで黙って聞いてくれた。
話が終わり祐子さんが口を開いた。
「私はまゆちゃんの気持ちわかるよ。結婚したら好きとか一緒にいたい
なんて気持ちはたかだか2年よ。それからは我慢の連続なんだから。
そんな姑を先に見ちゃって、ショック受けてるとこに女の話じゃねぇ・・
北海道から東京になんて、それだけでもすごい決心いるのに、
意地悪ばーさんと同居じゃね、、そりゃ答えも出ないわよ。
遠距離だけの問題じゃないわよ?それ近くにいても問題よ」
「まぁ・・・そうなんですけど。カオルはそれが当たり前って思ってるし、
でもハッキリとそれが不満って言えなかった自分も悪いんですよ。
仕事も面白くなってきて、あんまり気にかけてあげられなかったし」
「そんなの私なんかいつものことよ?」
「でも、このほうがよかったんです。カオルも彼女できれば
あたしのことなんかすぐ忘れますよ。今日はなんとなく懐かしいな・・て
そんな気持ちで歩いていたんです。裏切っておいて馬鹿みたいですね」
「急ぎすぎたのね・・・矢吹君。まぁ・・まだ若いから仕方無いか?」
そう言って祐子さんが笑った。
「カオルなら素敵な彼女できますよ。優しいし、素敵な人だし」
「まゆちゃん・・・しばらく矢吹君のこと忘れられないわね。
そんな言い方してるようじゃ」
「そんなこと無いですよ。今は彼氏のことちゃんと考えてます」
そう答えたが、きっとそれは本当のことだと思った。
向田さんのことは好きだけど・・・
きっとカオルとは別の気持ちで好きなんじゃないかと思う・・
どう言えばいいかわからないけど・・・
「そう。なら安心した。その彼氏ってイイ男?何年も憧れてたくらいなら、
写真とか無いの?最近イイ男なんて拝んでないわ・・・私」
そう言われて一緒に撮った写真を見せた。
ヒュ〜と口笛を吹き、隣のテーブルの人に睨まれ「すいませ〜ん」と
言いながら謝っていた。
「これは憧れるかもねぇ〜。この人いくつ?30前後ってとこね。
まゆちゃんてスッキリした顔が好きなのね」
「37歳です。ちょっと歳は離れてるけど、その分優しいですよ」
そう言って笑った。
「うっそ!望月と3つ違い?いやだ〜 そんなの〜」
そんな祐子さんを見て笑うと、祐子さんも大笑いしていた。
「いいじゃない。男と女なんか縁なのよ。日本だけで何人の人間がいると思う?
外国も足したらすごい数よ?その中で付き合える人数なんか
死ぬまでにちょっとじゃない。それも歳とるとメッキリとその縁が減るし。
好きって抱いてくれるだけ幸せよ?その中で一人を選ぶなんて
海の中に落とした指輪を探すくらいの可能性じゃない!」
「あたし祐子さんのその訳のわからないとこ好きですよ。
自分を曲げないとことか。見習います」
「私を見習うとこの彼氏も逃がすことになるわよ?」
そう言ってケラケラ笑った。
時計を見るともう8時を過ぎていた。
「祐子さん、これから残業ですよね?すいません。長々と話ちゃって」
「う〜ん。じゃあ仕事しようかな〜 まゆちゃんたまにこっち来るの?」
「はい。月に1回くらいかな?今回は2ヶ月ぶりだけど」
「じゃ、また来た時、一緒にご飯食べない?矢吹君には内緒にするからどう?」
「いいですよ。いつもあたしのパートナーがカオルに逢ってるから、暇だと思うし。
じゃあ携帯の番号とアドレス教えておきます」
「じゃ、これ私のね」そう言ってお互い番号を交換した。
外に出て、祐子さんは「じゃ、また近いうちに食事しようね」と言った。
「はい。今日はありがとうございました。カオルのこと、全部話したの
祐子さんくらいです。ちょっと気持ちが軽くなりました」
「本当なら矢吹君と上手くいってほしかったけど、仕方無いわね。
でも、新しい女友達ができたと思って、これからもよろしくね!」
そう言って手を振って会社に入っていった。
なんとなく、あの話で壊れてしまったカオルとのことを
「わかるわよ」と言ってくれた祐子さんに感謝した。
ホテルに帰り、TVを見ながらボ〜としていると、
9時を過ぎた頃、向田さんから電話がきた。
「まだ仕事ですか?」
「うん。もうちょっとね。まゆちゃんがいない間に終わらせておくよ」
「あんまり無理しないでくださいね」
「あぁ。マツは一緒?」
「いいえ、遊びに行きました。あたしは信用無いからイイ子にしてホテルにいます」
「別に疑ってかけた訳じゃないんだ、なにしてるかなってさ」
「いいんです。心配してくれるうちが華だから」
「じゃ、帰ってくるの待ってるから。おやすみ」
「あの・・・直樹さん」
「ん?」
「ごめんね・・・。心配かけて。でも大丈夫だから。直樹さんを裏切ることしないから・・」
少しだけ間が空いた後、優しい声が聞こえた。
「ん。俺を裏切ると怖いよ〜。なんてね。早く逢いたいよ・・まゆ」
初めて名前を呼び捨てにされ、少しだけ顔が赤くなった。
「じゃ、おやすみなさい」
「あぁ。じゃあね。おやすみ」
祐子さんの言葉と、向田さんの声で気持ちが楽になった。
帰ったら祐子さんのことを向田さんに話そう。
祐子さんになら、いつか向田さんを紹介したいと思った。
10時を過ぎた頃、なにもすることが無いし、こんな時じゃないと
早く眠れないと思い、早々にベットに入った。
目を瞑り数分で眠りについた・・・
コンコンッ・・・
ノックの音で目が覚め携帯を見ると、夜中の1時だった。
また健吾が酔っ払って部屋に来たのかと思い、ドアの前で
「健吾でしょ?開けないよ!早く自分の部屋に戻って寝なさい!
ったく・・・明日酒臭かったらマスクしてもらうからね!」
そう言ってベットに戻ろうとした。
「まゆ?あの・・・俺だけど。カオル・・・」
その声に体が固まりしばらくその場に黙って立っていた。
カオルも何も言わずにその場にいると感じた。
静かにドアを開けるとカオルが立っていた。
お互い顔を見ながら黙っていた。
気まずさと久しぶりに顔を合わせたことで、どうしていいかわからなかった。
けど・・・久しぶりに見たカオルに気持ちが大きく揺らぐのが分かった。
「あの・・・ちょっとだけ。5分でいいんだ。話できるかな?」
その顔を見て、断ることはできなかった。
「うん。わかった。ちょっと待って」
一度ドアを閉め、ドキドキしたまま部屋を簡単に片付けた。
ドアを開け、
「入って・・・」というと、
「ごめんな。こんな遅くに・・・」そう言ってカオルは部屋に入った。
頭の中は真っ白になっていた・・・・・