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即効な二人

その日の11時すぎ、いつものようにPCの電源を

オンにしていつものチャットルームにアクセスした。


いつもとは違う空気を感じることも無く、

あたしは普通に挨拶をした。


<リオ> 「こんばんわー」

<サクラ> 「こんばんは。りお」

<ヤス> 「ばんわ」

<ヒデ> 「よぅ」


あれ?メンバーを見たらレナもケイタもいるのに、挨拶は無かった。

もしかしたら、あたしが余計なメールをしたのが気に入らないのかなぁ。

あんまり雰囲気が重かったら、先に落ちてしまおうかな〜


そんなことを考えていたら、ヒデから電話がきた。


「間が悪いとこに入ってきたね〜」とちょっと嬉しそうにヒデが言った。


「え?なんで?なにかあったの?」

「レナとケイタが別れ話の最中なんだよ〜。これが!ぐふふふ」

もうかすかに笑っているような声で、、、

いや、笑ってるな・・・こりゃ。


うっそ!展開早くね?

さっきまであんなに離婚だ!旅行だ!って言ってたのに。


「なんで?どうしてそんな話になったの?」

「なんかさ、ケイタが部屋に入ってくるなりレナに画像を送るとか

 言い出してさ、お互い送りっこしたらしいんだけどさ、、、

 それから、、、ちょっと間が空いて別れ話になった」


ほらほらほら。だから言ったじゃない。

てゆうか、、、そんなの二人でやればいいのに、

この冷えた空気とどうしたらいいんだろね。


「へぇ〜。やっぱ持田ではなかったんだねぇ・・・」

「持田ねぇ・・・」


画面上ではお互いに相手が傷つかない程度のジャブが繰り広げられ、

周りの人は硬直状態。

あたしはといえば、そのままヒデとなんとなくその場を

ヤリ過ごす会話をしていた。


「どうすんだろね。この空気。

 いっそ今日はみんな部屋から出たほうがよくない?」

「だよねぇ。このまま見ててもどうしようもないもんね」


ヒデが画面に

「今日はみんな解散しようぜ。レナとケイタは話し合えばいいし」


と出したがレナが


「いいからみんな気にしないで話してて」

と出してきた。


「気にするなって無理だよね」

と電話でヒデとひとしきり笑い、落ちるに落ちられない状態が

続き、そのまま30分が過ぎた。


「ねぇ。ヒデはさ、どう思う?こんなの」

「俺?俺はやっぱ会ってからじゃないとなー」

「だよね?だよね?あたし変じゃないよね?」

「普通でしょ?だって文字だけだよ?いや声を聞いてしまうと

「あぁ。やっぱ実在だな」とは思うけどさ、まぁ、、、

 話して波長が合えばあとは写真とか見て、、、あーそれでも

 結構イケるっちゃーイケるかもなぁ」

「んーまぁ。声聞いて画像も見てって言えばね。

 それが本物の画像ならね」


そう言って二人で大笑いした。

よかった。あたしは普通らしい。

でも、この場をどうやったら抜けられるんだろう。

このまま、あたし達は何時間こんな嘘っぽい猿芝居を

見ていなければならないんだろう。

お互い「写真見たらやっぱ無理だった」って素直に言えばいいのに。


やれ

「やっぱり家族を捨てられない私を許して」とか

「いいんだ。それはレナが優しいからさ」とか


全然捨てる気満々だったじゃん!


お互いの盛り上がりぶりを聞いてしまったあたしには、

とんだ猿芝居がおかしくて仕方なかった。


「そろそろ、あたし寝るかな」

「俺も寝る。じゃなー」


そういってヒデとの電話を切り、画面に


「ごめん。明日仕事早いんでもう落ちるね。ゆっくり話し合って」

そう出して、レナとケイタの反応を見ないうちに速攻落ちた。

引きとめられても困るし。


しばらくネットサーフィンをし、

1時間を過ぎた頃になんとなくチャットを覗いてみた。

覗くといっても部屋に入らずに表面上で何人の人が

その部屋にいるかが見れるので

まだ二人はいるのかと思い、確認した。


すると人数は4人になっていた。

でも誰がいるのかは分らない。

さっきあんなこと言ってこともあり、

いまさら入れないのでその日はそのまま電源を落とした。


ベットの中で、二人のことを考えた。


きっと想像上で好みのタイプの相手が自分を好きだと

言ってる映像を彼達は毎日思い浮かべ、どんどん気持ちが高鳴り

歯止めがきかなくなったんだろなぁ・・・

でも、いきなり現実を突きつけられて、あんな話になったのかな。

けど、性格重視とか言っておきながらいきなり別れ話に

発展するほどお互いの容姿がマズかったんだろか?

子供も旦那も放るくらいの勢いだったのに、いきなりそれかよ!


今後、またこんな気まずい雰囲気になるくらいなら、

最初からみんなで画像交換とかするべきかもな。

レナも今後こんなことにはならないだろう。

それはそれでよかったな。


次の日、メールを受信するとケイタとレナからメールがきていた。

先にレナのメールを開いてみた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


― まいったわー −


昨日はごめんなぁ。

いやーまいった。ケイタのことちょっと夢見すぎてたわ(笑)

ケイタの写真見たら、猿やってん!

ちょっと猿は勘弁やわ。まだうちの旦那のほうがマシやった(笑)


いろいろごめんなー。もう真面目に主婦するわ。

んじゃ、また夜になー 


レナ                           


・・・・・・・・・・・・・・・・・


失笑である。それも限りなく薄い失笑。

次にケイタのメールを見た



・・・・・・・・・・・・・・・・・


― やっぱ持田がいい ―


リオの言うとおり、画像交換したんだけどさ、

やっぱ見ないと駄目だな。

俺、無理かもしれないと思ってさ。

そしたらあっちもそうだったみたい。

性格重視とか言ってたけど、突然目が見えた患者の気分になってさ。


やっぱ見た目とかって大事かもな。

いやー。アドバイス聞いててよかったよ。

さんきゅ。

レナとはこれからはいい友達でいけると思うからさ。

心配かけて悪かったな。

じゃ、またチャットで〜


ケイタ


・・・・・・・・・・・・・・・・・





二人が二人ともアウトだったようで・・・

レナの「(笑)」マークがなんとも脱力感をあらわしていた。

ケイタの「目の見えた患者」ってのも実際どうかと思うけど。

そして、こんな最後を飾った二人に対してあんなに

慌ててた自分もどうかと思う。


きっと、他にもいっぱいネットで相手に

夢を見て毎日ワクワクしている人がいると思うが、

やはりワクワクする前に相手がどんな感じかだけは

チェックしてから他人に言うべきだとつくづく思った。


たしかに文字だけでも、優しくされれば悪い気はしない。

「好きだ」と言われればそれこそ嬉しい気分にもなるだろう。

が、その時は少し冷静になって自分の理想の

タイプ像を今一度思い返してみる時間も必要だと思う。


文字で優しく、リアルで優しく、

画像を見ても完璧タイプで声も素敵なら

もうしぶん無いが、そんなにウマくはいかないのが人生だったりする訳で。


そんな苦い思いをしながらも毎日ネットをしてる人は

どのくらいいるんだろう。


そんなことを考えながら、薄い笑いを浮かべメールボックスを閉じた。


さてと。

なにもなかった顔をして、今日もチャットルームにいってみようかな。


そうして部屋の文字をWクリックして、

何事も無かった顔をして入室した。

今後、このことは封印しておこう。

お互いがNGだったことは言うまい。

どっちにも「さぁ?どうだったんだろね?」ってことにして。

自分はタイプじゃなくても、相手にはタイプであってほしいものだしね。


でもケイタは猿という情報はあたしの中に深くインプットされた。


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