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健吾とカオルが会った日

翌日、目を覚ましたのは目覚ましのアラームでは無く着信を知らせる音楽だった。


「もしもし・・・・・」


「あ。まだ寝てた?俺」


危なく「カオル?」と言う所だったが、声は健吾だった。


「うん・・・今なんじ?」目を瞑ったまま聞いた。


「6時ちょっと過ぎ」


「まだ早くない?でもまぁいいや、これから寝たら起きれないし・・・・」

そう言ってベットから体を起こした。

不意を突かれて起こされたので、今日話すのが気まずいと思っていたのに

すんなりと会話をすることができた。


「あのさ・・・ 俺昨日、自分で部屋に戻った?それとも連れてきてくれた?」


「え・・・それも憶えてないのぉ〜嘘でしょ〜!じゃあ・・・あたしの部屋でのことも?」

さすがにそれは憶えているだろうと思った。


「まゆの部屋?俺入ったの?」

開いた口が塞がらなかった・・・


「まぁいいや・・・ じゃあ7時半に迎えにいくね。じゃ、後で・・・」

そういって電話を切った。


記憶が無いほど泥酔してるとは思えなかったけれど、本人が覚えていないなら

それは仕方が無いか・・・

もしも本当に憶えてないなら、それはそれで怖いとも思った。



(健吾と飲むのは・・・もうやめよう・・・・)



時間になり部屋のドアをノックすると、

中からいつもと変わりの無い顔した健吾が顔を出した。


「もう用意できるから、入ってまってて〜」

「あ、、、いい!廊下で待ってるから!」



部屋の中に入るのは遠慮して外で待つことにした。

猿じゃあるまいし、あたしにだって学習能力くらいある。


朝食をとるのにレストランに行き、向かい合って食事をしながら、

チラチラと健吾の顔を見た。


「なに?」


「いや・・・本当に覚えてないのかなぁ・・・て」


「なにを?」


「いや。いい・・・」


そう言って珈琲を飲みながら視線を合わせないようにしてトーストを食べた。


「なんだよ?ハッキリ言えよ!朝から気分悪いなぁ・・・」


「気分悪いのはこっちだよ!」


「だからなんだって言ってるじゃん!」


「昨日、人の部屋に入ってきていきなり抱きついたの!

都合良く憶えてないようだけど!!」


ちょっと声のトーンが高かったのか、後ろのサラリーマンがチラリとこっちを見た。


「えっ!・・・・・」

周りの視線を気にしながらキョロキョロした後に、


「まじで・・・・ 俺、そのあとなにかした?」


(こいつ・・・本当に覚えてないんだ・・・)


「無理矢理エッチされた・・・」


「えぇぇー!」


いきなり立ち上がり健吾の珈琲がテーブルにこぼれた。

慌ててウェイトレスのお姉さんが「大丈夫ですか?」と走ってきた。


その慌てた顔を見ながら、涼しい顔をして自分の分の珈琲を飲んだ。

明らかに動揺している健吾を尻目に珈琲のおかわりをしながら、


「でも、すっごくよかった・・・」


小さくウインクをして言った。そして心の中で舌を出した。


「よかった・・・・て・・・・俺、本当に覚えてないんだってぇ〜 えぇ〜?」


情けない声を出し一生懸命思い出そうとしている姿を見て、

笑いを我慢しながら「もう時間だよ?」と席を立った。


難しい顔をして横を歩く健吾の耳元で小さく


「今夜もしちゃう?」更に追い討ちをかけた。

そのくらいの意地悪でも足りないくらいだと思った。


「あの、、まゆ、、ごめん。俺、覚えてなくて、、

昨日は彼氏のとこ行かなかったの?」


「行ったよ?でもちゃんと戻ってきたでしょ?」


「あぁ・・・ その・・彼氏にバレなかった?」


「なにが?」


「その、、俺と・・・した後で・・・」


「ばーか。健吾とそんなことする訳ないでしょ」


そう種明かししてサッサとロビーに歩いていった。


「お前・・・・その冗談はひどくないか?」

慌てたような安心したような顔をして早足で追いついてきた。


「でも。抱きつかれたのは本当!今度あんなことしたら酷いから!」

そう言って真面目な顔をした。


「そうなんだ・・・・ ごめん。悪かった」


「次なにかしたら、今の冗談を本社にFAXするからね」

そう言って待っていたメーカーさんに挨拶をして、車に乗り込んだ。


その日も一日、打ち合わせや商品のチェックでとても忙しかった。

いつになく健吾の口数がちょっとだけ少なかったが、

それも反省してるんだと思い、特に気にしなかった。


夕方に、打ち合わせが終わり担当の人が車をまわしてくれている間に健吾が


「今日も行くんだろ?彼氏のとこ?」と聞いてきた。


「いかないよ。週末までいかないかなって・・・」


「なんで?喧嘩でもしたの?」


「ううん。そんなことないよ」上手く説明ができなかった。


「俺に気つかってんの?」


「うーん。ちょっとつかってる。だって暇でしょ?健吾一人なら」


「そりゃそうだけど、でも彼氏だって一人だろ?」


「そうだよね・・・ 一人なんだよねぇ・・」

カオルが一人で食事をしている場面が頭に浮かんだ。


「呼べば?ホテルに?」


「壁にコップあてる気でしょ?イヤラシ〜」そう言って笑った。


「しねーよ!そんなこと!」バカじゃねーのという顔をして笑った。


「じゃあ!カオルも呼んで一緒にご飯食べようか?ならみんな一人じゃないし!」


「俺はいいよ・・・ 二人で食えば?」


「いいじゃん!カオルには元彼って言ってないんだし。

結構気が合うと思うんだけどな〜 サッカー大好きだし」

サッカーの話で食いついてきたのか、チラリとこっちを見た。


「その人・・・・・どこのファン?」


「さぁ?そこまでは知らな〜い。本人に聞けば?」


「まぁ、、あっちがいいなら俺はいいけど。まゆの好きにすれば?」

そう言って車に乗り込んだ。


車の中からカオルに電話をすると、仕事が終わったら行くよ!と

元気に電話切った。


「来るってさ。なに食べようか?」


「お前、、普通・・・元彼に今の彼氏紹介するか?ありえねーよな・・」と

呆れた顔をした。


「自分が良いって言ったんじゃない?それにあっちは知らないんだから内緒ね!」


「はいはい。わかりました」


ホテルの部屋の前で健吾と別れ、カオルが着たら迎えに行くね!と伝え

自分の部屋で少し眠った。

携帯の音で目を覚ますと、もう7時を過ぎていた。


「俺。いま下に着いたよ。部屋いったほうがいい?」


「うん。同僚の人にも伝えておくね」



化粧を軽く直してから健吾の部屋をノックした。

ちょうどそこにカオルがエレベーターから出てきた。


「よっ!いいの?会社の人嫌がらないかな」

カオルが話かけてきた時、ドアが開き健吾が出てきた。


「あ。どうも、お誘いいただいちゃってすいません。矢吹と言います」

笑顔で健吾に挨拶をするカオルに健吾も挨拶をした。


「あ、いや。こちらこそわざわざ来ていただいて、、松永です」


「じゃ、行こうか!どこがいい?カオルどこか知ってる?」

そう言いながらエレベーターの前に行くと、健吾の顔を見ながら

カオルがポツリと呟いた。


「なんか似てますね。俺と・・・顔が・・・」


「うん・・・この前写真見て俺もそう思った」


「あ。やっぱり?なんだろ、、もしかして親のどっちかが一緒とか・・・」


「それは無いでしょ・・・・それは・・・」


健吾が笑うとカオルも一緒になって笑っていた。

なんとなく二人は気が合うような感じがした。


居酒屋で食事がてらに飲むことになり、

最初から二人はペースをあげて飲んでいた。


サッカーの話で異常なくらい盛り上がり、こっちは話がサッパリわからず、

いい加減暇になってきた。

たまに違う話を振っても、すぐに話を戻されてまったく相手にしてくれないし・・・


「矢吹さん今日はホテルに泊まっちゃえば?会社近いんでしょ?」

健吾がいいだけ酔っ払いながら言っていた。


「えー。でも着替え無いからな〜 会社は近いですよ。歩いてきたし」


「じゃあ俺のYシャツとネクタイ貸すよ!まゆ、いまのうちどっかで下着買ってこいよ!」

調子に乗った健吾の言葉に内心(この野郎・・・)と思った。


「マジでいいんですか?ならそうしようかな〜 まゆいい?この先に店あるから。

10時までやってるんだよ」


カオルまで調子に乗って言い出した。

そのまま無視して座っていようかと思ったが、どーせ暇だし言われたまま

デパートにカオルの下着を買いにいった。


(なんだよ・・これ・・・ あたしだけのけ者じゃん・・・・)


お店で下着とYシャツ、靴下にネクタイを買ってまた居酒屋に戻った。

遠目から見ても昔からの知り合いのように二人は盛り上がっていた。



「ただいま〜。無難なネクタイにしたけど、文句言わないでね」


「お疲れさん。悪かったな。さんきゅ」とカオルは膨れたあたしの頭を撫でて言った。


それを見て健吾が笑顔で、

「仲いいんですね。でも矢吹さんみたいな人でよかったですよ」と言いだした。


なにか変なことでも言い出すんじゃないかと心配だったが、

健吾はそれ以上なにも言わなかった。


「たしか、友達の紹介って言ってましたよね?どっちの友達ですか?」

健吾の言葉に慌ててカオルを見ると、こっちなんかまるっきり見ないでカオルは



「え?友達?違いますよ。チャットで知り合ったの。インターネット」

とスルリと言った。


「えぇぇー!出会い系?」と健吾は驚いてあたしを見た。


「違いますよ〜 チャットとかしたことないですか?ネットはネットでも

 出会い系じゃないですよ。今は普通でしょ?それって・・・」とジョッキを飲み干した。


「そうなんだ・・・ でも相手の顔知らないんでしょ?それでよく会ったな〜

もしもすっげぇーの来たらどうしたの?」


「いやいや、会う前にちゃんとお互い確認してたし。それは問題無いですよ〜」

完全に酔っ払ってカオルが軽快に言った。


「へぇ・・・ 人から聞いたことはあったけど、まさか目の前の二人がねぇ・・」


「松永さんもしてみたら?最初は面白くてハマるよ〜

結構女の子もいるし、オフ会とかってのも面白いし。どうよ?今度」


「ふ〜ん・・・・ なるほどねぇ・・・」

そう言いながらこっちを見る健吾の視線が痛かった。


「でもまぁ、、お互い良かったならいいかもしれないな。俺はちょっと

無理だけど・・・」


「俺だって最初はそう思ってやってましたよ。でも一年以上もほとんど毎日

字で会ってるとだんだんと、打ち解けてきますよ。

損得無い関係なんて、今の普通の生活じゃそう無いでしょ?」


「まぁ・・そうかもねぇ。相手の仕事とか年齢とか顔とかって・・・

やっぱり見てから打ち解けるもんだしねぇ・・・」


「そうそう。それが一切無くて、男か女かも無しですよ?

別に気も使わなくていいし、慣れてしまえば居心地いいですよ。

顔も名前も知らない分、性格重視で話すから気が合うヤツとか探しやすいし。

合わなきゃ話さなくていいし。」


「そんなもんなんだぁ・・・ 俺も帰ったらちょっとやってみようかな?」

否定的だった健吾もカオルの熱弁に心打たれたのか、そんなことを言い出した。

あの部屋に健吾は入ってくるのは勘弁と思ったが、なにも言えずに黙っていた。


その後、まだカオルの「俺のチャット論」は続き、健吾はそれを真剣に聞いていた。

横でちょっと飽きてきたあたしは、アイスクリームを食べながら

なんとなくカオルの話を聞いていた。


居酒屋を出て3人でホテルに向かい、あたしの部屋でまた二人は

ビールを飲みながら延々と語っていた。


「あの・・・お風呂入りたんだけど・・・」

二人の話の切れ目を狙ってそろそろ飲み会が終わらないかと言ってみたが、


「あ。どーぞ。覗かないからごゆっくり〜」と二人に言われ「あっそ」と

シャワールームに行った。


(なんだかなぁ・・・)そう思いながらシャワーを浴び部屋に出ると、

まだ延々と話をしていて、あたしが出たことにも気がついてない様子だった。


しばらく二人の話を聞いていたが、だんだんと眠くなり椅子に座ったまま

ウトウトしていた。

部屋が静かになったのを感じたのは夜中の2時過ぎだった。


二人掛けのソファーに目をやるとそこに二人の姿は無く、

慌てて部屋を見渡すとベットに二人とも倒れるように眠っていた。


二人ともスーツのままで眠っているのを見て、健吾は替えの

スーツがあるとして、カオルは無いのを思い出し、

仕方無くベルトを外してなんとかパンツを引っ張り脱がせ、それを

ハンガーにかけてから、テーブルにあった健吾の鍵を持って隣の部屋に行った。


(カオルを健吾に取られちゃったな・・・・)


ベットに入るとすぐに眠気が襲ってきて知らない間に眠っていた。


6時半に目覚ましで起きて、隣の部屋に行ってみると、

まだ二人は気持ち良さそうに眠っていた。

ルームサービスで簡単な朝食を頼み、顔を洗って化粧をした。


音に目が覚めたのか、しばらくするとモゾモゾと二人とも起きだし、一つのベットに

眠っていたことに気まずい顔をしていた。

パンツが脱げているのに気がついたカオルが驚いて健吾を見た。


「いや、なにもしてない!本当に!」と言う健吾を見て、

呆れた顔をして、「シワになるからあたしが脱がせたの!」と言うと

ホッをした顔をした。


朝食をとり、支度をするのに健吾が部屋に戻っていった。


「昨日どこで寝たの?」ネクタイを締めながらカオルが聞いてきた。


「隣の部屋。寝れる訳無いじゃない・・・さすがにそこには」


「だよなぁ〜・・・」と言って笑った。


着替えをすませ、TVの時計を見ながら


「そろそろ行くね。また時間あったら電話して」と額にキスをしてカオルが部屋を出た。


健吾の部屋の前でノックをして中を覗きながら、

「じゃ、行きますねー また飲みましょうね」と挨拶していた。


「今日はそちらの家に行かせますから。仕事終わったら迎えに来てください」


「あ。わかりました。じゃ、また夜にでも・・・」


カオルをロビーまで送り部屋に戻った。

まだ時間があったのでTVを見て時間を潰し、健吾が迎えにきて部屋を出た。


「ちょっと出会いはビックリしたけど、いいヤツじゃん。」

そう言いながらエレベーターに乗った。


「出会い系じゃないからね。言っておくけど!」


「違いがあんまり分らないけど、、、まぁ一応そーゆーことにしとくよ」

そうニヤつきながら健吾が言った。


なんとなく弱みを掴まれた気分のまま仕事に向った。

立場は昨日とは逆転した一日だった・・・


その日の夜、カオルに迎えにきてもらいカオルの家に行った。

ホテルを出る時、ロビーまで健吾が下りてきて

「じゃ、明日の朝までに帰してくれれば問題無いですから」

そう言って見送られた。


「いい人じゃん。あの人。また一緒に飲むチャンスあるよな?

そん時は教えてよ。フラムとアーセナルの話できる人ってそういないしさ」


カオルは健吾が気に入ったようだった。


「うん。そう伝えておくね。本当は今日もあたしじゃなくて、健吾と一緒に

食事したかったんじゃない?」


「あー。食事してからでもよかったかー!残念!」


「じゃあ戻る?たぶん暇だと思うよ?」

なんとなくつまらない顔をして言った。


「嘘だよ。昨日つまらなかったろ?ふくれてたもんなぁ〜」


「そんなことないよ。でも男同士でも盛り上がってるのに、

邪魔しちゃ悪いかなってさ」


「そんなとこ良い子だって松永さん言ってたよ。

「アイツはちゃんと彼氏のこと考えて絶対彼氏の顔潰すことしない子だ」

ってさ。褒めてたよ」


「ふーん。そうなんだ・・・」


「まゆさ・・・ あの人と付き合ってたろ?」


いきなり言われてビックリしてカオルの顔を見た。

そんなに早い動きをした時点でもうバレバレだと思った。


「やっぱな〜 あの人のまゆに対しての言い方でそう思ったし、

なんたって俺達似てるもんな、顔が・・・」

そう言って笑った。


「いや、顔は関係無い。あー・・・ やっぱり会わないほうがよかった?」


「いーや。嬉しかったよ。昔の彼氏に紹介してくれるってことは

もう関係無いってことだろ?

なんとなくあの人、まだまゆのこと好きっぽいけど。

少なくともまゆはなんとも思ってないって思ったし。

俺に嘘つくの嫌だったんでしょ?元彼と仕事してるって」


「うーん・・・ そんな訳じゃないんだけど・・」


もっと嫌な顔をされると思った。

けど、それを知っても健吾と仲良くしてくれるカオルがちょっと大人に感じた。


「彼が2年付き合った人?」


「もういいじゃない。元彼の話なんか」


これ以上聞かれると、なにかしらボロが出そうで話を切った。



「話したくないなら聞かないけど・・・ 

隠すとまだ好きなのかなって誤解しちゃうかもな〜俺」

そう言ってこっちをチラッと見て笑った。


「・・・・ そう。あの人が2年間付き合った人。あとは?なにか聞きたい?」

開き直ってそう言った。


「後かぁ・・・・ そうだなぁ。なんで別れたの?」


「んー。それはあたしも謎なとこがあるんだけど、たぶんあっちが仕事忙しくて、

それでなんとなく連絡とらなくなったからかなぁ?転勤しちゃったしね」


「じゃあまゆはまだ好きだったんだ?彼が連絡してくれたら付き合ってた?」


「どうかなぁ・・・ わかんないな。そればっかりは」


「そっか。まぁ、終わったことだもんな。考えてもわかんないよな」

そう言って黙って運転をした。






「明日の朝帰る?それとも夜中にする?」冷蔵庫にビールを入れながらカオルが聞いた。


「カオルのいいほうでいいよ。仕事に間に合えば問題無いし」


「そっか。じゃあ明日一緒に出ようか?」そう言ってビールを開けて飲んだ。


「うん。わかった」


「たまにはゆっくりしていきなよ」


「うん。そうしようかな・・・」


「二階でゆっくり話でもしようか?疲れてるだろ?」


そう言ってビールを片手に二階にあがっていった。

二階にあがりベットに座りながら、仕事の話をしていると、


「で。続きなんだけどさ・・・」ビールの缶をベットの下に置いてカオルが聞いてきた。


「あいつ上手だった?」


「え?なにが?」


「俺より上手だった?」そう言ってキスをしてきた。


「もう忘れちゃったよ・・ そんなこと」


「本当にぃ〜?ちょっとは憶えてんじゃないの〜?」そう言って笑った・・・

ように見えたけど目が笑ってなかった。


「目・・・ちょっと怖いんだけど・・ やっぱ知らないほうがよかった?」


「いーや。それはいいけど。なんか頭くる・・・・」そう言って胸に顔を埋めて言った。


「あたしのこの前の怒った気持ちが少しはわかる?」


「すっごいわかる・・・ 悔しいけどどーにもならない感じが・・・」


そのまま黙って胸に顔を埋めるカオルの頭を撫でていた。

健吾との2年間は後悔はしていない。

それなりに嫌なこともあったけれど、楽しかったことも沢山あったし。


「カオルは・・・あたしが誰とも付き合わない綺麗な体で出会ったほうがよかった?」


「そんなことないよ・・・ いろんな経験したから今のまゆがいると思ってる」


「ありがと・・・ あたしもカオルのことそう思ってる。ちょっといままでの彼女に

ヤキモチ妬くこともあるけど、でも今一緒にいれるのは自分だけだと思ってる」


「ん・・・・ たぶんあの人と付き合っていた時よりもまゆの体は変わってると思うし。

それもすっごくイヤラしく・・・」


撫でていた頭をグーで思い切り叩いた。


「もぅ!せっかくいいこと言ってるのにぃ!なんでそうなの?」


「だって本当のことじゃん?次会った時にその話でもしようかな?」

そう言ってまた胸に顔を埋め笑った。


「そんなこと言えないくせに」そう言って二人で笑った。


「きっと今頃、松永さん眠れてないよな・・・・」

カオルが静かに言った。


「どうして?」


「好きな女が違う男に抱かれてると思ったら眠れる訳ないじゃん」


「そんなことないよ。だって今朝、迎えにこいって言ったの健吾じゃない」


「そう言わないと格好つかないだろ?」


少しだけ健吾のことを考えた。

でも今頃そんなこと言われても、どうすることもできない。


「そんなこと無いと思うけどなぁ・・」

カオルは顔を埋めたまま、

「どっちでもいいよ。なんとなく俺はそう感じただけ。今日はこのまま寝ていい?」

そう言って目を瞑った。

子供のように眠るカオルを愛しく思いながら一緒に目を瞑った。




金曜の朝、健吾は空港に向う為に荷物を準備していた。

あたしは月曜の時点でチケットの日にちを変更していたので、

荷造りを手伝いながら、戻ってからの仕事の打ち合わせをした。


「いつ戻る?」


「たぶん日曜の夕方かな?戻ったら連絡するね」


「あー。そうだな、今日一度会社に行くから、なにかあったら俺から連絡するよ」


「うん。わかった」


「ま、精々仲良くしてくれよ。後、またこっちに出張の時、

矢吹さんさえよかったら、また飲もうって伝えて。バレないようにするからさ」

そう言ってトランクを閉めた。


「もうバレてたよ・・・ この前家に行った時言われたもん・・・」


「嘘!なんで?俺なにも言ってないよ?」


「健吾の口ぶりでそう思ったってさ」


「そうなんだ・・・ 怒ってたりした?」


「ううん。ちょっとへこんでたけど、大丈夫みたい。あたしも気が楽になったし」


「そっか。まぁ、俺もどんなヤツと付き合ってるのかなって思ってたし、

会えてよかったよ。じゃ、行くかな!」


一緒にチェックアウトをして、健吾は空港に向った。

あたしはタクシーでカオルの家に行き、合鍵で部屋に入りカオルが帰るのを待った。


時間はまだ昼を過ぎたばかりだった。

洗濯や掃除を終え、夕飯を作りカオルの帰ってくるまで少し眠った。

7時すぎに帰ったカオルと一緒に食事をして、ゆったりと二人の時間を楽しんだ。


「そういやさ。俺、今週一回も部屋に顔だしてないなぁ・・・」

そう言われて、自分も2週間近くチャット部屋を放りっぱなしにしていたことを思い出した。


電源を入れているカオルの隣に座りながら久しぶりの画面を見ると、

いつものメンバーがいた。


そして見たことも無いお初の姿も・・・


「まゆ・・・・これ・・・松永さんじゃ・・・」


そう言われて見たメンバーの中に

「kengo」という名前があった。


「嘘・・・でしょ?・・・・「俺にはありえない」とか言ってたよ?」


みんなが挨拶をする中、二人でケンゴという文字に釘づけになった。




<ラビ> 「まゆいるんでしょ?>カオル」


<カオル> 「あぁ。いるよ。あさって帰るけどな」


<ラビ> 「まゆの会社の健吾さんだってkengoって>まゆ」



「わぁ!!やっぱりそうじゃん!まゆ、松永さんだ!これ!」


「カオル部屋の名前言ったの?」


「あぁ・・だって聞かれたし、けど酔ってるから忘れてると思ってた・・・」


「なんで言うかなぁ〜 もぅ!!」


「だって、、、まさか本当に来るとはなぁ〜 でもまぁいいじゃん!」


なにがいいんだか・・・

そう思いながら画面を見ていた。

みんな初めてということと、あたしの会社の人だということで、

健吾を中心にワイワイと楽しく話しが進んでいた。


カオルも一緒になりながらこの前のサッカー話の続きをして楽しんでいた。

なんとなく複雑な気持ちのままそれを見ていた。


ラビやサクラはこの前会ったこともあり、向田さんの話にまでなっていた。


<ケンゴ> 「昔から向田さんのこと好きだったんだよ、まゆ>ラビ・サクラ」


<ラビ> 「あ〜なんかわかるぅ〜 まゆ、すっごい緊張してたもん」


<サクラ> 「そうそう。いつもと違ったよね〜。すっごい見てたし(笑)」


<ケンゴ> 「でしょ?会社でもそうだよ。向田さんには優しいの」



「・・・・・・・ 向田って誰?」

画面の文字を見てカオルがこっちを見ないでいった。


「あ・・・会社の先輩。ただそれだけ。本当にそれだけ!」


「へぇ・・・・」


「ちょっと、替わって!」そう言ってキーボードを奪うように場所を変わった。



<カオル> 「ちょっとそんなこと言わなくていいよ!ばっかじゃないの!ケンゴ!」


<ケンゴ> 「ほらな?俺にはこうだから、まいるよな」


打てば打つほど立場が悪くなるような気がした。



「ちょっと・・・名前そのままだと俺が言ったみたいじゃん」


「あ・・でも、あたしだってわかったみたい・・・」


「まぁ、、いきなり「ばっかじゃない」は誰かってわかるよな、、、確かに」

そう言って笑いを押し殺していた。


「もぅ・・・いいや・・・ どーぞ」

そう言っておとなしく席を譲った。


その後もみんなは遅くまで楽しく話をしていた。

あたしは画面を見ないで、TVを見ていた。

これ以上見ると、なんだかもっと悪いものを見てしまいそうだった。


時折カオルは声を出して笑うほど、夢中になりながらチャットを楽しんでいた。


結構な時間が経ち、そろそろ眠くなってきた頃・・・



「ねぇ・・・・ 今って誰残ってるの?」


「うーん・・・聞かないほうがいいかも・・・」


慌てて画面を見ようとすると、画面の前に立ちはだかって


「いや。見ないほうがいい!大丈夫!まゆのことは言ってないから!」

と画面を見せないように体で隠した。


「いいから!見せてよ!」そう言ってカオルを退けようとしても、

「ダメ!ダメ!」とその場から動かなかった。


体の隙間からチラリと画面を見ると、ヤスとヒデとケンゴがいた。

並んだ文字には延々と下ネタで埋まっていた。


「もう見ちゃったよ・・・隙間から・・・・」


「でもさすがに松永さんいるからまゆのことは言ってないってば」


「ふ〜ん・・ じゃあ誰の話?」


「それは、、、ちょっと、、、、」


口ごもるカオルを座らせ、膝の上に座って過去ログを上に戻し見ると、

話の内容はどうやらラビのことだった。


「あんた達・・・・最低だね・・・・」


「でも松永さん、すっかり打ち解けてるよ?超楽しんでる」


「ん・・・ そうらしいね」


「これってさ・・・いつか健吾が元彼ってみんなにバレちゃうんじゃない?」

さすがにそれはちょっと勘弁だと思った。

昔のことをカオルに知られるのはちょっとな・・・・と思った。


「んー。でもいいじゃん?俺がいいなら問題無いんじゃない?」


「全然問題あるから!! 嫌だよ、そんなことバレたら健吾も調子に乗って

 いろいろ言うじゃない?」


「なに?言われたら困ることあんの?」


「なにって・・・ こんな下ネタの中で、昔のことバラされるのって嫌だよ」


「あぁ〜 そーゆーことね。それは無いんじゃない?俺がバラすことはあっても?」


それもどうなんだよ・・・・


「まぁまぁ。大丈夫だって。自分からそんなこと言わないって」

そう気軽に言って、また画面に向っていた。


「あたしもぅ寝ようっと・・・ じゃーね」


「俺も、もうちょっとしたら寝るから〜 おやすみ〜」


階段をあがる途中でカオルは、


「松永さんが、向田さんて人と二人で出かけたらすぐ教えてくれるって〜〜」

とあたしに向って言っていた。


その声に何も答えずに布団の中に入った。


(くっそ・・・ 変なスパイが仲間になっちゃった・・・ 一度くらい向田さんと

 食事くらい行きたかったのに・・・・)


そう思いながら、眠った。




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