ラビとサクラ
正式な異動の日。
いつもより少し早く会社に行った。
「それでは、お世話になりました。向こうの部署に行っても頑張ります」
課長に頭を下げ、ダンボールに自分の荷物入れ席を移動した。
「またお昼一緒に食べようね〜」
そう笑顔で手を振り、慣れ親しんだデスクを離れ、周囲の人に簡単に挨拶をした。
ワンフロアの一番奥にある商品課までヨタヨタと歩きながら、
荷物をヨイショ!と持ち直した。
「持ってあげるよ」そう言った人物は顔を見る前にヒョイとダンボールを持った。
「今日からだね。あらためてよろしくね」
向田さんがそう言って前を向きデスクまで荷物を運んでくれた。
「ありがとうございます。すいません・・・あの、これからよろしくお願いします」
頭を深く下げ挨拶とお礼を言った。
(いーの!いーの!)とニコヤカに向田さんは自分の席に消えていった。
「デレ〜としちゃって。あんなののどこがいいんだか?」
声のするほうを見ると健吾が向田さんのほうを見て言っていた。
「別にデレ〜となんかしてないよ。ただ紳士だな〜ってさ。
やっぱり格好いいよな〜 向田さんて」
そう言いながらダンボールの中のモノを自分のデスクに出した。
「あ。これ、お前の名刺な」そういって健吾がドサッと名刺の束を置いた。
「えぇ?こんなに?なにこれ400枚くらいない?」
1ケース100枚は入ってそうなケースを4つ見て驚いた。
「それでもすぐに無くなるよ。一回メーカーに合うのに何枚いると思って
んだよ?担当以外にも世話になる人はいるんだからさ。
多く知ってもらえば、その分力になってくれる人はいるんだよ」
そう言って、忙しそうに書類を見ていた。
商品課だけの朝礼の時にみんなの前で挨拶をさせられたが、
みんなほとんどが電話や接客に追われ真剣には聞いていなかったようだった。
朝礼が終わると、すぐに健吾が
「じゃ、とりあえず挨拶まわりに行かないとな。できるだけ愛想良くな」
そう言って上着を着て、スタスタと出口のほうに歩き、黒板に
<松永> 外出 戻り3時
<吉本> 外出 戻り3時
と書いた。
「ほら。行くぞ!戻ったらすぐに来週の分の導入書の作成だからな」
「あ・・はい・・」
慌ててバックを持って名刺の箱を1つ中に入れ、健吾の後を追った。
3時少し前に会社に戻り、それから健吾に教わりながら書類を作り、
定時をつげる社内放送が流れても、商品課は誰も席を立たずに黙々と仕事をしていた。
7時を過ぎた頃、一人二人・・・と退社する人がでてきた。
(このままでいけば、あと一時間でなんとか目途が立ちそうだな)
そう思いながら、帰る人に小さく手を振りまた書類に目をむけた。
目の前のデスクに座っている健吾はたまにチラチラとこっちを見ていたが、
そのまま話をすることも無く、黙っていた。
8時少しを過ぎた頃。
「終わった〜」とシャープを置き、首をコキコキ回した。
「終わった?どら?見せてみな」
偉そうに言う健吾に書類を渡すと「ふ〜ん」と言いながら全部チェックし、
「最初なのに間違ってないじゃん。お疲れ」
そう言って書類を机にポンと置いた。
「じゃあ、今日ももう急ぎの仕事は無いね?帰ろうかな」
「あぁ。だって俺の分もやってくれたしな。もう無いよ」
と言ってズルそうな顔をして笑った。
「ちょっと・・・・わからないと思って全部押し付けたの?ひど〜い・・・」
「その分、遅れていた仕事はかなり片付いたよ。こっちのもそのうち
まゆにもやってもらうから。じゃあ、お疲れ。気をつけて帰れよ」
そう言ってまた自分の席に戻った。
「まだ帰らないの?仕事残ってるの?」
「まぁ、やろうと思えばいくらでも。そんなに急いで帰ることもないしな」
「手伝う?」
「いや。いいよ。早く帰って彼氏に電話でもしてやれば?」
「そっか。じゃあお先にー」
「あぁ。お疲れー」
馴れない仕事と午後から延々とデスクに座っていたのとで、家に帰るとドッと疲れた。
その日はお風呂にも入らずいつの間にか眠ってしまった。
次の朝、化粧も落とさず寝たので寝起きは無残なものだった。
時計を見るとギリギリで、慌ててシャワーに入り急いで支度をして、会社に出かけた。
その日は一日、再来週の売り出しに出す商品の
写真撮影の為、いろいろなメーカーからサンプルを借り
延々と撮影に付き合って一日が終わった。
ハードインテリア、ソフトインテリア、アパレル、洋雑貨、和雑貨、
アジアン雑貨、その他キッチン用品や浴室用品にいたるまで
すべての担当が集まり撮影に参加していた。
「雑貨だと種類が多くて大変だね・・・」
大きな箱を持って歩く担当の人を見ながら、順番がくるのを待ち健吾に言った。
「まーな。でももうすぐ俺達のとこも新商品が入ってきたら、
あの倍くらいは種類が増えるな。あぁ・・・考えただけで嫌だ・・・」
そう言いながら遠い目をしていた。
昨日より少しだけ早めに終わり、各自撮影現場から直接帰った。
家に着き<帰ったら教えて。電話したいから>とカオルにメールを送った。
ちょうど仕事の合間だったのかすぐに返事が送られてきた。
<今日は11時には大丈夫。じゃ、その頃な>
時計を見るとまだ9時だった。
昨日ゆっくりお風呂に入れなかった分、時間をかけのんびりとお風呂に入った。
「あ〜〜〜。疲れた・・・。思っていたよりもハードかもぉ・・・」
大きな独り言を言いながら、湯船で体を伸ばして凝った肩を揉み解した。
お風呂から上がりTVを見ていると、ラビから週末のことで電話がきた。
仕事が変わるので、もしかしたら迎えに行くのがちょっと遅くなるかも・・・
と、事前にメールをいれてあったので、ラビ達は気を使ってJRを使って
うちの近くまで来てくれると言ってくれた。
「ごめんね。ちょっとまだ早退とかできそうもないんだ・・・」
「ううん。全然気にしないで!何時くらいに着けばいい?」
「そうだなぁ・・・仕事は8時くらいまでかな?でも途中でちょっと抜けることくらいは
できそうだから、家まで送ってまた仕事に戻れはいいし。それくらいはさせてよ。時間は気にしないで」
「うーん。でも・・・・いろいろ見たいとこもあるし、8時頃に行く!
駅に着いたら電話するね。仕事中でも電話大丈夫?」
「うん。平気。じゃ金曜の夜ね!気をつけてね!」
「おっけー!じゃーねー」
ラビからの電話を切り、時間も11時少し前だったので、そのまま続けてカオルに電話をした。
「もしもし?今、大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。どう?仕事キツイ?」
「うーん。いままでと全然違うからね。馴れるまではいろいろと・・・」
「そっかぁ。なんか愚痴ある?聞いてやるよ?」
そう言われて考えたけど、まだ愚痴は出てこなかった。
「ううん。だってまだ二日だもん。まだ無いかな?カオルは?あるなら聞いてあげるよ?」
「そうだなぁ・・・・ サッカーの試合であれ以来ゴールできないことかな」
簡単に仕事内容の話や、今日したことを話た。
「出張って、独りで来るの?俺ん家泊まる?」
「あー。独りじゃないの。ペアの人がいるから・・・・」
「ペアってどんな人?男?女?」
そう聞かれて、一瞬なんて答えようか迷った。
けど、あえて嘘をつくほうが怪しいと思い、正直に言った。
「男の人。でも昔からの知り合いっていうか・・・同期の人で。
でもカオルのこと言ってあるから、東京に行った時は仕事が終われば自由にしていいって」
「そっか。その人ってイイ男?」
「イイ男か・・・・うーん・・・・」
昔は健吾より素敵な人なんかいないと思っていた。
それくらい健吾のことが大好きだったのに、
今は毎日顔を合わせてもなんとも思わなかった。
「考えるってことは、結構いい男なんだ?」
「ん〜〜〜〜。どうだろ?カオルよりもちょっと落ちるかな?」
「うわ。微妙〜・・・ 答えるまでのこの間が・・・」
そう言って二人で笑った。
「そういやさ、ヒデに例の件聞いたよ」
「で、、、なんて言ってた?ヒデ?」
「「ラビのことはいいとは思うけど、俺のことは好きじゃねーだろな」ってさ。
もぅ〜危なく俺、言いそうだったけど、知らないふりするの大変だった」
「そうなんだー!じゃあウマくいくかもね?週末ラビが着たら言っておくね」
「週末行くんだ?」
「うん。伝えておく」
「ウマくいったら、正月4人で温泉でも行こうか?今から予約すれば大丈夫だろ」
「うん!そうだね」
「よし、じゃあ今からどこか探しておくよ。正月は忙しいな」
「忙しいって・・・温泉くらいでしょ?」
「うちの実家も行かなきゃならないじゃん!」
「えぇー!!そうなの?」
驚いて思わず立ち上がった。
「それもあって、先にまゆの親に挨拶したんじゃん。絶対うちの親なら
「あちらの親御さんに挨拶したのか!」って言いそうだしさ」
まだ先の話なのにドキドキしてお腹に冷たいモノが流れた。
「あたしどうしたらいいの?なに着ていけばいい?どうしよう・・・」
「別にそんなに緊張することないよ。ただ・・・・・」
「ただ・・・・・?」
「正月だから、兄ちゃんとか妹とかいるかもしれないな。でもまぁ、大丈夫だよ」
「超アウェイじゃない!!」
「大丈夫だって。お年玉もらえるかもよ?」
そう冗談を言うカオルとは対照的にどんどんと気持ちが沈んでいった。
「今になって・・・この前のカオルの気持ちがわかる・・・・」
「だろ?今回はカレー作るのやめとくよ」
そう言ってカオルは笑っていたが、とてもじゃないけど笑えなかった。
「じゃ、そろそろ寝ないと明日また起きれないぞ。もう寝ようか」
「こんな話されたらどっちみち眠れないよ・・・・」
「大丈夫だって。一度逢ってしまえばあとが楽だろ?じゃ、また電話するからちゃんと寝ろよ。あんまり無理して仕事すんなよ?じゃーな」
そう言って電話は切れた。
ベットに入っても、お正月のことばかり考えてなかなか眠れなかった。
いろいろ頭の中でまだ見ぬカオルの両親を思い浮かべ、シュミレーションをしてみた。
(やっぱダメだこりゃ・・・)
ため息をつきながら目を瞑った・・・・
ラビ達が来る日。
朝から延々と電話や打ち合わせで時間が目まぐるしく過ぎていった。
夕方の6時くらいになり、
「今日はどれくらいかかるかな?この後、なにか急ぎの仕事ある?」
それとなく健吾に聞いた。
「うーん。今日はもう無いかな〜?なに、なんか用事あるの?」
「うん。ちょっと・・・東京から友達が来るの。だから早く帰れるかなーって」
<東京>と聞いて健吾は、一瞬黙り「ん〜・・・」と考え、
「そうなんだ。あー・・・これいいかな?」
そう言ってこの前の写真が入った袋を出した。
「一品につき写真2点選んでくれる?終わったら俺に言って」
そう言ってデスクを離れていった。
(もう無いって言ったくせに・・・・・)
渋々袋を開封すると、ものすごい量の写真があった。
目眩がしそうだった・・・・
それでも仕方無いと思い、できるだけ早く終わらせようと必死で写真を分けた。
「それ今日じゃなくてもいいんじゃないの?せっかくの週末に〜」
声のする方を見ると向田さんが珈琲を飲みながら覗いていた。
「でも・・・松永さんに言われたので・・」
危なく「ですよねぇー!酷いですよねー!」と文句を言いたくなったのを押さえた。
そこにちょうど健吾が戻ってきた。
「なぁ、マツ・・・これ今日じゃなくてもいいんじゃね?無理に残業させなくてもさー
まゆちゃんだってたまには早く帰りたいだろうし・・・ ねー?」
向田さんに「まゆちゃん」と言われて、ちょっと嬉しくなった。
けど、その言葉で向田さんに言いつけたと思われたのではないかと、チラッと健吾の顔を見た。
「早めにチェックしたほうがいいだろ?それに異動の前に言ったじゃん。
「仕事で遅くなるから彼氏大丈夫か?」って。それでOKしたのはお前なんだし。
ま・・・彼氏が大事なら無理にしなくていいよ」
そう言って椅子を強くひいて座った。
「なんだよ?彼氏に逢いにいくのを邪魔してんの?お前かっこわるぅ〜」
そう言って笑う向田さんに「早く仕事に戻ったほうがいいですよ!」と強い口調で言い、
自分はPCの画面に向かった。
ちょうどそこに電話がきた。
画面を見たらラビからだった。
「もしもし?ラビ?ごめん、ちょっと遅くなるかも・・・サクラもいるんでしょ?」
「あ。そうなんだー じゃあどっかで時間潰すよ。大丈夫」
「ごめんね。終わったら真っ直ぐご飯食べにいこ!ラビにもヒデのことで
良い報告あるし、今どこにいるの?」
そう話ていたら、健吾がヒョコと顔を出して
「彼氏じゃないの?」と聞いた。
「ちょっと待ってね・・・」
電話口を押さえて、
「誰も彼氏なんて言ってません。女友達が二人、今日うちに泊まるんです!」
そう言ってイッー!とした顔をして電話に戻ろうとすると、
「あ〜・・もう帰っていいぞ・・・今日じゃなくていいんだ。それ・・・」
バツの悪そうな顔をして健吾が言った。
「もしもし・・ラビ?もう帰っていいってさ。今から会社出るね」
そうして場所を書きとめ、電話を切った。
その様子を後ろで見ていた向田さんは健吾を見ながらニヤニヤし
「健吾君・・かっこ悪すぎて見てれられんなぁ・・・・・」と言いながら席に戻っていった。
「じゃ。お先に失礼します。松永主任!!!」
そう言ってわざとオーバーに頭を下げて会社を後にした。
(もぅ!なによあと態度!あったまきた!)ブツブツと文句を言いながら、
ラビ達の所に急いで車を飛ばした。
駅前の喫茶店でラビとサクラは待っていた。
「ごめんねー 遅くなっちゃって」
「ううん。言ってた時間より早かったし、なんでもないよー」
そう言って久しぶりに逢うラビとサクラに挨拶をした。
それから3人で近くのイタリアレストランに行き、ご飯を食べた。
9時過ぎに家に着き、その後時間も忘れて3人でいつまでもお喋りに没頭した。
「そうそう。ラビ!ヒデのことなんだけどね・・・」
カオルがヒデに聞いたことを伝えると、ラビは顔を真っ赤にして「どうしよぅー!」と喜んでいた。
それを見てサクラと二人で冷やかして笑い、いつヒデに言うの?と
急かしてラビの反応を見てまた笑った。
ピンポーン!
突然インターホンが鳴り「誰だろ?」と玄関に向かった。
「マサだったりして・・・」と言うラビに「それはない!」と笑いながらドアの
小窓を見ると、そこに健吾がいた。
「あ・・・・・」
「誰?誰?」と後ろをついてきたラビに聞かれたが、うまく言えなくて
「会社の人・・・・」と言ってドアを開けた。
ドアを開けるとさっきと同じバツの悪そうな顔をした健吾が
「さっきはごめん。あのこれ、、、みんなで食べて。あのまま月曜になったら
気まずいかな〜って・・・・今、外に向田さんもいるんだ。で、その、、、
ケーキでも買っていけばって言われて。コレ・・・・」
箱を受け取り、ドアの隙間から外を見ると向田さんが手を振っていた。
向田さんにニコヤカに笑顔で手を振りながら頭を下げ、健吾には
「別に・・・いいけど。ありがと」とブスッとした顔をした。
後ろからラビが顔を出し健吾に向かって「こんばんわー」と挨拶をした。
「あ。どーも」と健吾もラビに挨拶をし、それを聞いたサクラが後ろから顔を出した。
「どーぞ!よかったらあがってくださーい」とサクラが健吾に言うと、
「いや、これ置きにきただけなんで、もう帰りますから」と言った。
「いいじゃないですかー!どーぞどーぞ!」と言うサクラにちょっと困った顔をして
「車の中にも人がいるんで・・・また今度」と健吾はやんわりと断った。
「じゃあ車の中の人もどーぞ!せっかくこっちに遊びにきたのに、
女ばかりってのもねー」そう言ってラビに同意を求めるとラビも
「そうそう!リオの同僚なんでしょ?いいじゃない!ね?リオ?」
健吾の前で<リオ>と呼ばれ、さすがに焦った。
「あ、、じゃあちょっと先輩に言ってみます」
みんなであたしを無視して話が進み、健吾は向田さんを呼びにいった。
ドアを閉めてラビとサクラに
「あたしを<リオ>って呼ばないで!お願い!まゆって呼んで!
会社の人にはチャットの友達って言ってないの!」と手を合わせて頼んだ。
「あ。そっか。わかった!でもあの人、見た目かっこいいね?
ちょっとカオルにどことなく似てない?ねー?サクラ?」
「うん。私もそう思った。体型とか目の感じとかねー」
「もしかして・・・・リオ狙ってる?」
「だから<まゆ>で!お願い!それに狙ってないし!」
そう言ってる間に、玄関が開き健吾と向田さんが顔を出した。
「どーも。こんばんはー まゆちゃんさっきぶり〜」と
ニコニコと向田さんが声をかけてきた。
「あ。どーぞ。あまり綺麗じゃないですけど、あがってください」
そう言って健吾と向田さんを家の中に通した。
「東京からわざわざ遊びに着たんだ?遠かったでしょ?」
向田さんがラビ達に話かけていた。
それをキッチンでお茶を入れながら聞いていた。
「あの・・・なんか手伝う?」健吾が後ろからきてキッチンに並んだ。
「ううん。いいよ。ケーキありがと。座ってて」
さすがにもう怒った顔はできずにそう言った。
みんなでお茶を飲みながら話をしているうちに健吾がラビに、
「そういや・・・さっきまゆのこと<リオ>って言ってなかった?お前源氏名なんかあるの?」
そう言いながら不思議そうな顔をしてこっちを見た。
ラビが慌てて
「え?私さっきからまゆって呼んでたよ?健吾さんの聞き間違いだよ」と言ってくれた。
「そうだっけ?なんとなくそう聞こえたんだけどなぁ・・・・」
腑に落ちない顔をしながら健吾は首をかしげていた。
(さすがに<まゆ>と<りお>は聞き間違わないよなぁ・・・)と思ったが
それ以上はなにも言わなかった。
向田さんがベットの近くに座り、キョロキョロと部屋の中を見ていた。
向田さんの肩越しにカオルと二人で写った写真たてが
目に飛び込み慌てて、それを伏せようとすばやく動いた。
けど、そんな急な動きがかえって目立ち、先に写真たてを手に取られた。
「へぇ〜 これがまゆちゃんの彼氏なんだ?ふ〜ん。なかなかイイ男じゃない」
そう言って笑う向田さんにヘラヘラと頼りない笑顔で返すしかなかった。
「見せて。写真」と健吾が向田さんに手を出した。
「あ。いや、、、いいよ見なくて!」
「いいじゃん。見たって?」と健吾に言われ、それ以上なにも言えずに
写真を見る健吾を横目で見ていた。
「なんかさ・・・・」
みんなが話を止め健吾を見た。
「俺に似てない?この人?」と言うと、みんな一斉に
「だよね?そう思った」「俺もー」「だから私が言ったでしょ?」
その場にいるみんなに次々に言われた。
「そうかな?似てるって思ったこと無かったけど・・・」
「でも性格は似てそうもないかもねー。 カオルってポヤ〜ンと
してるイメージだしね」とラビが笑った。
「へぇ・・・そうなんだ?ラビちゃんもカオルって人と仲いいんだ?」
そう健吾がラビに向かって聞いた。
「うーん。私はリ・・まゆが着た時だけ遊びにいく程度だけどね。
でも仲いいんですよ〜。この二人」
ラビはニヤニヤしながらこっちを見た。
「そうなんだ。へぇ〜」そう言いながら健吾は写真を見ていた。
「そんなに仲いいなら諦めたら?健吾く〜ん」と向田さんが健吾に言うと
「そんなんじゃないですよ」と言いクッションの上にポンと写真たてを置いた。
「昔、お前等付き合ってたろ?」いきなり向田さんが言った。
ビックリして向田さんを見ると健吾も驚いて見ていた。
「えぇー!そうなのー!」とサクラがこっちを見た。
「なんだ。知ってたんすか・・・」と健吾が言うと向田さんが、
「やっぱりな〜 何度か二人で歩いているの見たことあるんだ。
でも隠してるのかと思って言わなかったんだ」
「ま、昔のことですけどね〜」
そう言って健吾はお茶を飲みながらケーキを食べていた。
なんとなくラビとサクラの視線が気になったが、そっちを見ないでどことなく目線を外した。
「まゆちゃん彼と結婚するの?」向田さんが更に話を突っ込んできた。
(この人・・・優しい顔して結構言うなぁ・・・・)
「あ。いや、まだそこまでは・・・・ 」
「ふーん。そうなんだ。でも遠距離って寂しくない?」
「うーん。まぁ、、、そんな時もあるけど、でも・・・」
「その分逢った時が嬉しいんだって!この前二人で言ってたよ?」
ラビが話しに割り込んで答えた。
「そうなんだ。じゃあ東京に出張の度にこれから逢える訳だ。いいねぇ〜
辛い出張の間に大好きな彼に逢えるってのは」
(もうこの話は終わってくれよ・・・・)
そう向田さんに言われ、作り笑顔で「はぁ・・・・」と返事をした。
「でもまたマツに意地悪されるかもよ〜」そう言いながら健吾をチラリと見た。
「別に意地悪なんかしないよ。逢いたきゃ勝手に逢えばいいし。
ただ仕事に支障が無ければ俺は別に問題無いっすよ」
そう言って煙草を吸った。
場の空気がちょっと重くなったのを感じて、サクラが向田さんに
「彼女いないんですか?」「どんな子が好き?」とかヤンワリとした話題を振った。
なにげに向田さんの彼女の有無とタイプの所は耳を大きくして聞いていた。
(よし。彼女はいないか・・・タイプは「別に無いかな」って・・微妙〜)
そして健吾にも同じ質問をした。
「今はいないよ。毎日バカみたいに仕事ばっかだし〜」
そう言って健吾も笑いながらラビやサクラと話をしていた。
1時間ほどして、
「じゃ、そろそろ帰ろうか?お邪魔しました」
そう言って向田さんと健吾は帰っていった。
ドアが閉まると・・・・
「元彼と一緒に仕事してるんだ?それって・・・どうなの?」
サクラがニヤけて聞いた。
「別に?なにもないよ?昔のことだし」
「へぇ〜 このことカオルは知ってるの?」
「うっ・・・・ さすがに言えなかった・・・・」
「うん。言わないほうがいいと思う。余計な心配かけないほうがいいよ。
だって、あの健吾って人まだちょっと未練ありそうだし・・・」
ラビがそう言いながら、ちょっと心配そうな顔をした。
「大丈夫だってば。もうなんとも思ってないから。
それに、カオルこの前来た時、うちの実家に挨拶に行ってくれたの。
あたしもお正月にカオルの実家行くし。そっちのほうが心配だから」
「えぇー!そうなの?そんなとこまで進んでたんだー」
それからスッカリ話は健吾のことからカオルの話になった。
その後、ラビの話やサクラの彼氏の話・・・・
延々と朝までそんなことで笑って話をしていた。
ようやく眠りについたのは朝の5時をまわっていた。
土曜日も起きたのは夕方近くで、みんな化粧もせず近くの日帰り温泉に
行き、帰りにスッピンのままラーメンと食べ、またその日の夜は
いつまでもおしゃべりをして一日が終わった。
日曜日。
ラビとサクラはあと2日ほど休みがあるので、稚内や富良野といった
観光名所に行く為に、二人を駅まで送った。
一緒に行きたい所だったけれど、今は仕事が休めそうもないので
「次は絶対一緒に行こうね!」と約束して見送った。
「じゃあ、まゆ!東京に来た時は連絡してね」
すっかり<まゆ>と呼ぶのに馴れた二人は元気に列車に乗って行った。
家に帰り、部屋の掃除をしながらカオルの写った写真を見て、
(健吾に似てるかなぁ・・・・全然似てないのに・・・)
そう呟きながら、また掃除を続けた。
なにげなく目に入った空のケーキの箱を見て、
(あたしの好きだったケーキ・・・まだ覚えてくれていたんだな)と思った。
健吾とは良い友達になりたかったのに、なぜかなれないような気がした。
いまさら好きとか、そんな気持ちにはなれないよな・・・・
そう思いながらケーキの箱を小さくたたみゴミ箱に捨てた。